2020年12月1日火曜日

「政治考」 繰り返される恣意的人事

 菅首相による日本学術会議への人事介入は、「学問の自由」の重大な侵害であると同時に、人事権テコにして権集中をはかる立憲主破壊手法ですそれは安倍政権が一貫して行ってきたもので、その実務を担った菅義偉氏が最も得意としてきた手法です。

 安倍政権は13年8月、突然、小松一郎駐仏大使を内閣法制局長官に就けました。この異例の人事の下で翌14年7月、歴代政権が維持してきた憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する「閣議決定」を行い、それによって安保法制=戦争法の制定を強行しました
 14年には、中央省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局を発足させ各省庁が提案する幹部(事務次官、局長、部長)候補者の適格性審査を、内閣官房長官が行うこととしました。以後、当時官房長官だった菅氏が実質的な人事を担いました。これによって官僚は政権に逆らえなくなり忖度政治が横行するようになりました。
 最高裁判事の人事にも介入しました。それまでは職業裁判官枠の判事の後任については。最高裁が推薦した1人の候補を、そのまま内閣が任命することが慣例となっていましたが、安倍政権は慣例を破2人候補を出させるようにしました。内閣の裁量権を付与しようとするもので杉田和博官房副長官の発案といわれています。17年1月に「弁護士枠」の判事を、日弁連が最高裁に提出しリストにいない人物を任命し、反権力的な弁護士枠を実質的に削減しました。
 そして20年1月には、準司法官とて強い独立性が認められ検察官の幹部人事に介入し、政権寄りの黒川弘務東京高検検を最終的に検事総長に就けるべく、その定年延長を「内閣決定」しました。しかし内閣の意向で幹部検察官の定年を延長できる「検察庁法改悪案」は、検察内部からの批判世論と野党の反対で廃案となりました(仮に黒川氏が検事総長についていれば安倍氏の「桜」前夜祭問題に検察が手を付けることはなかった筈)。

 まさに「この世をばわが世とぞ思う‥‥ 」と謳った藤原道長を思わせるような専横ぶりです。それが他ならない「平成・令和」の世に行われたのでした。そして菅首相は、黒川氏問題を含めてそれらの全てに深く関与してきました。その汚れた手を、今度は学問の世界にも付けようとしている訳です。
 菅義偉氏こそが世界的・俯瞰的視野の最も欠けている人間です。
 しんぶん赤旗が「政治考」で伝えました。
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「政治考」 繰り返される恣意的人事
                       しんぶん赤旗 2020年11月30日
学術会議任命拒否

 大問題となっている日本学術会議への人事介入問題  菅義偉首相による任命拒否、「学問の自由」の重大な侵害であると同時に、人事権テコにして強権をふるい。この手法は安倍政権以来一貫して続けられてました2013年には、内閣法制局長官に首相の盟友抜てき。14年には内閣人事を創設して首相官邸が幹部僚の人事権を事実上独占しした。

権力の集中で
 集団的自衛権の行使は「憲上許されない」との立場を轜持してきた内閣法制局は「容認」に転じ、15年には安法制=戦争法が強行されました。森友・加計疑惑にられる政治の私物化では、官僚による「忖度」と国会に対する虚偽答弁、記録の隠蔽・改ざんが横行しました。20年の検察幹部人事への介入は、私物化疑惑で首相が刑事告発を受ける中で行われました。
内閣法制局や検察だけでなく、行政組織の全体において、権力の過度な集中が生じています。そのことは、基本的人権や民主主義をおぴやかすことにつながっているのです」
 東海大学の永山茂樹教授(憲法学)こう指摘します。「権力を集中る政治によって、さまざまな自由が非常に危うくなっていく」との警告です。
 新型コロナをきっかけに、政府のコロナ対応や「大阪都」構想なの批判をツイッターに上げている「shinoda」さんは、任命拒否問題について「首相が法を無視してやりたい放題というのは今回が初めてではありません。学問の自由、思想・信条の自由への侵害で、あかさまな攻撃である任命拒否を許せば、歯止めが利かない」と不安を語ります。
 会議問題で沸き上が批判自民党の伊吹文明衆院議長「学問の自由といえば、水戸黄門の印龍の下にひれ伏さなくてはいけないのか」(8日、派閥の会議)と発言。永山氏は「憲法を頂点とする法体系。分立や人権保障などを、内閣の判断でひっくり返す人の支配への逆行現象が表ています」と指摘します。

的な国家
「任命拒否問題は、あらゆる分野政権に批判的な者を排除し、自分の都合のよい政治をすすめるための強権的な国家体制づくりという安倍政権以来続いているたくらみの重要な環です」
 う語るのは晴山一穂専修大学名誉教授(行政法です。官房長官としてそれらの人の中心にいたのが菅義偉首相です。政権の意向への“服従”を求める恣意的人事による内閣への権力集中は、近代以降の「法の支配」の原則から“人の支配”への歴史逆行です。
 そして今回の学術会議問題  「独裁」を強めようとする政権が、国民の人権に対する露骨な介入に踏み込んだです。

介入は他の機関にも

 実際、安倍政権は学術会議だけでなく独立性を求められる機関への人事を繰り返してきまし

法制局トップ
 安倍政権があからさまな人事で立憲主義を破壊し、強行したのが安保法制=戦争法です。
 安倍政権は2013年8月、法制局経験のない小松一郎駐仏大使(当時)を「内部昇格」の慣例を破り、内閣法制局長官に就けました。集団的自衛権行使容認を狙った、首相の私的諮問機関の有力メンバーだった小松氏を、慣例を無視して内閣法制局のトップに就けたのです。
 翌14年7月、安倍政権は歴代政権が維持してきた憲法解釈を百八十度変更し、集団的自衛権の行使を容認する「閣議決定」を強行しました。

幹部一元管理
 さらに14年、中央省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局を発足させます。同人事局では、各省庁が提案する幹部(事務次官、局長、部長)候補者の適格性審査を、内閣官房長官が行うこととなっています(国家公務員法61条)。当時、官房長官だった菅首相が主導し、実質的な人事を担いました
 官邸が人事権を掌握するもとで、官僚は政権に逆らえなくなり忖度(そんたく)政治の温床となっています。
 山一穂専修大学名誉教授は「内閣の意思に忠実に従うことが憲法の『全体の奉仕者』としての公務員のあり方ではありません。行政の専門家として、中立、公正の立場で国民にとて最良の行政とは何を追求し、政府に意見を述べ、実施することが、全体の奉仕者としての役割です」と主張します

最高裁判事も
 安倍政権は、法の番人と言われる最高裁判所の判事の人事にも介入しました。
 第2次安倍政権発足以降、退官する最高裁裁判官の後任人事の仕組みが変わりました。憲法79条は最高裁の長たる裁判官以外の裁判官は内閣が任命するとしていますが、司法権の独立(76条3項)の観点から職業裁判官枠の判事の後任については。最高裁が推薦した1人の候補を、そのまま内閣が任命することが慣例となっていました。ところが安倍政権は慣例を破2人候補を出させるようにしましたそう注文したのが杉田和博官房副長だったとされます。
 また安倍政権は、17年1月に「弁護士枠」の判事を、日本弁護士連合会が最高裁に提出しているリストにいない人物を任命。「実質的な弁護士枠の削減」と言われています。本弁護士連合会は戦争や秘密保護法、共謀罪に反対してきました。

検察幹部さえ
 安倍政権は、首相さえも起訴でき、準司法官とて強い独立性が認めら検察官の幹部人事に介入。20年1月検察官には国家公務員法の定年延長の規定は適用されない」という従来の解釈を強引に変更して黒川弘務東京高検検(当時)の定年延長を「内閣決定」し、内閣の意向で幹部検察官の定年を延長できる検察庁法改悪を強行しようとしまし
 検察庁法改悪案検察内部からの批判起き、世論と野党の反対で採決されず廃案と  なりました。
 安倍政権の下でさらにNHK幹部人事への介入も起こりました。

 学術会議への人事介入と学問の自由への侵害は、恐るべき権力集中の動きの延長線上に出てきたもので、国民の人権に直接介入する危険な動きです。「人事をてこに、学問までも権力のしもべとし、戦争する国づくりを進める危険な動きです。