2015年5月4日月曜日

自民党改憲案に見る緊急事態条項の恐怖

 自民党は、緊急事態条項(国家緊急権)の創設を憲法改正の突破口にするという方針を固めつつあるようです。
 この条項については、これまでもいろいろなブログで度々危険性が指摘されてきましたので、見つかった範囲で紹介してきました。
 しかしマスメディアや政党はあたかも良いことであるかのようにして放置しているため、国民の側にはそれに対する警戒心はあまり見られません。
 
 3日付「Everyone says I love you !」ブログが、「自民党改憲草案に見る緊急事態条項=戒厳令の恐怖」(略称)と題する記事を載せました。
 草案の関係条文を紹介しながらそれを批判したもので、同条項の危険性がとてもよく分かります。原記事は長文(5300字ほど)なため事務局で6割ほどに圧縮しました。
 
 詳細は下記のURLで原記事にアクセスしてご覧ください。
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憲法記念日 安倍政権の「自由民主党 日本国憲法改正草案」に見る
  緊急事態条項=戒厳令の恐怖  (要  文)
Everyone says I love you ! 2015年05月03日
 産経新聞の世論調査で、憲法「改正」賛成者に何を改正すべきか問うと緊急事態条項の新設88・2%でトップ朝日新聞の世論調査でも憲法に新しい権利や条項を「加えるべき」と答えた人に「加えるべきもの」を複数回答で選んでもらったところ、「財政規律条項」67%「環境権」51%につづいて「緊急事態条項」40%でした。
 国民の権利を一時的に制限できるとしているのに、40%もの人が緊急事態条項を加えるべきだと言っているのですからあ然とするしかありません。
 
 自民党は2012年4月27日付で自由民主党憲法改正草案を発表し、安倍首相はその自民党改憲案にそって憲法を「改正」すると何度も宣言しています。
 これに対して、私は何度も自民党の「日本国憲法改正草案」批判を書いてきたのですが、中でもこの緊急事態宣言戦前の大日本帝国憲法で言う戒厳令で、法律もなしに国民の基本的人権を制限できる内閣の命令なので、この緊急事態条項が自民党改憲案の最も危険性が国民に分かりやすい部分だと思っていました。。
 ところが各政党の意見でも、緊急事態条項が一番反対が少ないという恐ろしい事態になっています

 安倍政権も、環境権創設と緊急事態条項などを憲法「改正」の第1段階、突破口にすると言っています。
 
憲法改正「2段構え」 自民党推進本部が再始動
 まず、自民党改憲案の緊急事態条項は98条でどういう場合が緊急事態宣言を出すかという要件(条件のこと)、99条が宣言が出た場合になにができるかという効果(なんと国民の人権をも制限できる)を規定しています
 
自民党草案 第98条
 第1項 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
 さて、「法律の定めるところにより」とあるように、自民党憲法の「緊急事態」の中身は明治憲法と同じく法律に委任しており、いくらでも拡大可能です。
 この改憲案の「解説によれば、「内乱等」にはテロも含むなっています。内乱は一国の体制がひっくり返るような規模を言いますが、テロは死者の出ない爆弾テロでもテロですから、これでは緊急事態の範囲が広すぎてめちゃくちゃです。新型インフルエンザ流行まで、国民の権利を制限する緊急事態宣言の対象になり得ます
 
 また、緊急事態宣言を出す「特に必要があると認めるとき」は、閣議で決するとされていますが、逆に言えば閣議にかけずに総理がいきなり緊急事態を宣言できる場合が多数あります
 自民党は「地震等による大規模な自然災害」を適用例に挙げています。しかし東日本大震災は福島原発事故が同時に起こり、2万人近くが亡くなった大災害ではありましたが、かの大震災でさえ、国民の自由と人権を制限できる緊急事態宣言は必要ではありませんでした。あの時は政府に権限がないから混乱したのではなく民主党が無定見だったからです。
 今の憲法や法体系でも十分内閣総理大臣の権限は強力です。それなのに、そのうえまだ国民の人権を停止するような緊急事態条項を設けようとしているのは、「戒厳令」と言う非常手段を使って国家権力にとって邪魔な国民の基本的人権を排除するためです。
 
自民党草案第98条第2項 
 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
 国会の承認は必要としながらも、事後承認も可能となっています(Q&AP31)。
 しかし、緊急事態宣言の承認は、あとでみるように衆議院の優越があります。つまり、いったん政権与党が宣言を出してしまうと、与党が衆議院で過半数を占めている限り必ず承認を得られるという仕組みであり、国会の承認は緊急事態宣言の歯止めになりえません
 
自民党草案第98条第3項
 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。
 また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
 この第3項は一旦なされた緊急事態宣言が解除される場合を規定していますが、その要件を(1)宣言の国会不承認 (2)国会の宣言解除決議 (3)内閣総理大臣の判断 のいずれかに限定してしまっています。
 まず、(1)は国会の承認が必要としたのだから当たり前の規定です。そして、緊急事態宣言をした当の首相が判断する(3)があてにならないことは当然です。
 最後に(2)については、一旦、国会が宣言を承認をした後に緊急事態宣言を解除する旨を決議する場合には、衆参両院の決議が必要となってしまっており、宣言承認よりも要件が加重されています。これでは緊急事態宣言を出すより、解除するほうが相当困難になっているわけで、合理性がなく大きな問題です。つまり、自民党改正草案の緊急事態宣言は出しやすく解除しにくいように作られています。
 
自民党草案第99条
 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
 戦前の天皇の緊急勅令そっくりの「内閣の緊急政令制度」を導入した非常に恐ろしい条文です(Q&AP31・解説)。緊急事態宣言を出した後は、内閣は法律に代わる緊急政令なるものをバンバン出せます
 この緊急政令は法律と同じ効力を持ちますが、どのように出すかは憲法に規定せず法律に委任されてしまっています。国防軍の組織や出動に関する法律や、国民の権利を制限する法制等も、すべて変更が可能になります。つまりこの緊急政令で、それまでの法律制度は容易に無意味化・無力化軍事戒厳令になり得るのです。
 さらに国会開会中の緊急政令も法制上可能になるとしています(「解説」)。
 
自民党草案第99条第3項
 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
 武力攻撃事態法や国民保護法では協力努力義務だった国民の義務が、遵守義務=必ず守らなければいけない義務へと強化されています
 
 これについて、自民党は「大きな人権(国民の生命、身体及び財産)のためには、小さな人権は制限されることがあり得る」(Q&AP33・解説)としていますが、大きな人権と小さな人権だなんて議論はこの世にありません。何を言っているのでしょうか
 そもそも、憲法は自由と人権を守るために、国家権力の濫用を防ぐためにあります(立憲主義)。大事な人権を小さな人権などと文字通り矮小化して、国家権力の濫用を促すこの自民党改憲案は近代立憲主義にもとる現代最悪の憲法案です。
 
自民党草案第99条第4項
 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
 緊急事態宣言の期間中は、不解散により衆議院議員の身分を保障し、緊急事態宣言の期間中は参議院議員の任期延長により身分を保障する可能性があります。緊急事態宣言を出すような内閣を選んだ議員の身分が任期を超えてずっと保証される危険性があります。
 
 そもそも、この自民党憲法改正草案は立憲主義を全く理解しない言語道断なものであり、国民の人権を保障するという観点がきわめて弱い国家主義的な、悪い意味で今の自民党らしい改憲案といえるでしょう。
 皆さん、こんな杜撰で恐ろしい規定のある改憲案に賛成ですか?