2015年5月12日火曜日

気鋭の学者白井聡氏が首相を酷評、日本は再び悲劇に向かうと

 日刊ゲンダイが、『永続敗戦論』(太田出版)などの著書で注目されている気鋭の政治学者・白井聡氏をインタビューしました。同氏は2月に出した『日本戦後史論』(徳間書店)という内田樹氏との対談本でも、安倍首相のことをケチョンケチョンにけなしていますが、このインタビューでも全く同様で、舌鋒は緩みません。
 
 曰く
 安倍首相の訪米はカモがネギを背負ってやってきたもの。オバマ氏も軽蔑している。
 自衛隊を米軍の手駒に差し出す代わりに歴史観の方は大目に見て欲しい、という願いは認められなかった。
 首相のアジア諸国に対する歴史認識での高姿勢は、米国に対して物が言えないことの代償行為
 戦後を通じてこれほど知識層から嫌悪された首相はいない。周囲の政治家も、仕えている官僚も内心バカにしている
 
という具合です。
 そして
 
 そういう安倍自民党を勝たせてしまう日本人は奴隷的な国民奴隷、奴隷でない人をバカにする怒ったってしょうがないのにとせせら笑う。それがネット空間増幅されて最悪の状況になっている。
 ドイツと日本の最大の違いは、ドイツは2つの世界大戦で2度負けたが、日本は1度しか負けていないこと。日本は再度悲劇が起きなければダメなのかもしれない。
 
と述べています(「奴隷」という呼び方は『永続敗戦論』にも登場しています)。
 
 第二次大戦の戦後の反省の真摯さで世界から称賛?されたドイツは、その前の第一次世界大戦でも敗北して過酷な賠償金を課されました。
 そしてその敗戦を機に、20世紀の民主主義憲法の典型とされるワイマール憲法を制定したのですが、なぜかナチスという独裁政権の登場を許し再び第二次大戦に突き進んだのでした。
※ 2013年8月3日 ワイマール憲法下でなぜナチス独裁が実現したのか
 
 このまま放置すれば日本も「再度」の悲劇に向かい兼ねません。それだけは絶対に阻止しなければなりません。
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気鋭の学者・白井聡氏「首相は自衛隊の犠牲望んでいるのか」 
日刊ゲンダイ 2015年5月11日 
安倍首相の訪米は日本の完全な敗北
 日本の大メディアは安倍首相の訪米について、「日米新時代」と手放しだったが、冷徹な目で「米国の傀儡政権かと思わせる内容だった」と切り捨てたのが京都精華大専任講師の白井聡氏(37)。近著「偽りの戦後日本」(オランダ人ジャーナリスト、ウォルフレンとの対談=KADOKAWA)も話題だ。ドイツの哲学者ヘーゲルの「重要なことは2度経験しないと理解できない」という言葉を引用して、日本に警鐘を鳴らしている。日本は再び、敗戦という地獄を見なければ目覚めないのか
 
――安倍首相の訪米について称賛、礼賛報道が目立ちましたが、どう受け止めましたか?
  日米関係を希望の同盟と呼ぶ安倍首相の姿には呆れ果てました。文明の牽引役としての役割から滑り落ちた米国にどこまでもどんな犠牲を払ってもついていく。そういう表明だったからです。今度の訪米で米国内での安倍首相の評価が変わったとも思いません。カモがネギを背負ってノコノコやってきたから拍手してはやし立てただけです。
――演説で「痛切な反省」という文言は使いましたが、根本的に信用されていないということですか?
  安倍首相の歴史認識については、みんなが包囲網を築き、羽交い締めにしているような印象を受けます。70年談話の有識者懇のメンバーであり、安倍首相の事実上のブレーンである北岡伸一国際大学学長が「(70年談話で)安倍首相に侵略があったと言わせたい」という趣旨の発言をしました。今春来日したドイツのメルケル首相も過去の歴史に向き合うことの重要性を語った。本丸が米国ですよ。首相訪米前から、歴史について何を言うのか注目が集まった。まさか、余計なことは言わないよね、現実的な判断をするよね、という警告が米国内からも発せられていました。
――首相談話なのに周囲がハラハラし、内政干渉のようなことまでされてしまう。やはり、安倍さんは国際社会においては問題児である
 そう思います。安倍さんは歴史認識の危うさという点で、二度と上がらないくらい評価を下げている。オバマ大統領も内心、軽蔑している。ただし、それでは米国にとって安倍さんが歴代最悪の日本の首相かと言うと、違います。ある意味、米国にとってこれほど素晴らしい首相はいないわけです。歴代首相は米国の言いなりで金を出しましたが、安倍首相は自衛隊を地球の裏側まで差し出してくれる。安倍さんは当初、トレードオフのもくろみがあったのではないでしょうか。つまり、これだけ貢ぐから、歴史については自分たちの都合のいいように解釈させてくれと。ところが、米国はまかりならんと言ってきた。血は流せ、歴史認識も言う通りにしろと。70年談話でもめったなことは言えないでしょうね。
――そうなると、今度の訪米はどのように位置づけるのがいいのでしょうか?
  客観的には日本の完全なる敗北に終わった。それがはっきり見えてたと思います。自国にとって都合がいい歴史を語りたくても、米国の許容範囲内でしか語れないこともはっきりした。日本が歴史を修正しうる範囲は米国が決めるのだということ。そもそもアジア諸国に対する歴史認識での高姿勢は、米国に対して物が言えないことの代償行為です。「俺たちは本当は負けてなんかいない」と言いたいなら、ワシントンのど真ん中で、米国に向けてやればいい。「東京裁判なんぞくそくらえ」と言えばいい。できやしないということが露呈したわけです。
――だからこそ、完全なる敗北だと?
  もともと完全に負けていたのです。自民党なんてCIAがカネを入れてつくられた党ですから、親分に頭が上がるわけがない。だから、せめて歴史をネタにオナニーするくらい許してください、と安倍さんらは米国に哀願してきた。でも、それさえ許してもらえないってことです。そして、実質的部分では、新ガイドラインによって前代未聞の貢ぎ物をしたわけです。戦後レジームからの脱却と一応言っているのだから、少なくともみこしを担いでいる人々には、自立への野望、戦略があるのかと思いましたが、何もなかった。米国頼みの場当たり的対応だけで、それは、中国主導のインフラ投資銀行への対応でもハッキリしたと思います。 
 
再度悲劇を経験しなければダメかもしれない
――いずれにしても、これで新ガイドラインが合意され、自衛隊は極東の範囲を超えて、米軍の支援をすることになります。
  安倍さんは戦後の日本社会に根付いていた重要なコンセンサスを壊そうとしている。それは「戦争に強いことを誇りにはしない」というコンセンサスです。安倍さんは積極的平和主義を安全保障戦略の基本に据えて、演説でもここを強調しました。「積極的」とつける以上、これまでは消極的だったと言いたいのでしょう。消極的平和主義とはできるだけ戦争をしない、あるいは戦争から距離をおくことによって、自国を守るという考え方です。積極的とは敵を名指しし、武力を用いて攻撃し、自国への危険を排除する。いうまでもなく、これは米国の手法で、日本は今後、アメリカの使い走りをやるのだからアメリカのやり方に変更する。そのためには戦争に強い国にしなければいけないのです。
――それも国民的議論も経ずに勝手に決めてしまった。安倍さんの真意は何だとお考えですか?
  戦争をやってみたいんだと思います。自衛隊から犠牲者が出るのを待ち望んでいるとしか思えない。
――そうすれば国威が発揚する?
  というより、彼の自尊心が満たされるんでしょう。普通の軍隊を持っている国であるということを世界に周知させ、国際社会で胸を張る。「ボクちゃんは最高司令官なんだぞー」と言ってみたいのでしょう。
――しかし、世界を見回して、積極的平和主義による抑止力がうまくいっているとは思えませんね。
  まったく同感です。米国の対中東戦略が泥沼に落ち込んだことは火を見るよりも明らか。日本がそこに足を突っ込まなければいけない必然性はありません。安倍さんはそれによって、国際的な責任を果たすと言いますが、これは2次的な動機で詭弁です。本音は対米従属の強化であり、彼の自尊心のために自衛隊を出したいのです。
――白井さんは本の中で、知識層の9割が安倍政権のことをとんでもないと考えていると書かれていた。しかし、支持率は高いし、選挙をやれば勝ってしまう。これは何ですかね?
  戦後を通じてこれほど知識層から嫌悪された首相はいないのでは。戦後レジームからの脱却と言いながら、対米従属をエスカレートさせるのは支離滅裂だし、「私が最高権力者」発言でもわかるように近代政治の常識を超えるようなことを平気で言う。国会でイラクに大量破壊兵器がなかったことが問題になったときも「ないことを証明できなかったフセインが悪い」と言ったのが安倍さんです。何かが存在しないことは証明できない、ということすらわからないらしい。知識人が評価しないのは当然だし、安倍さんというみこしを担いでいる政治家も、仕えている官僚も内心、バカにしていると思います。でも、安倍さんよりも自分は賢いと思っている人たちが安倍さんに命令されているわけで、いうなれば、バカの奴隷にされている。この構造そのものがバカなんですね。
――安倍自民党を勝たせてしまう日本人はどうなのでしょうか。
  こんなに奴隷的な国民は世界中どこにもいないのでは。最近、つくづく、日本人にうんざりしています。隣人が気持ち悪い。端的なのが原発です。これだけの破局的事態を招いたのに原発を推進してきた勢力が何の反省もせずに、また動かそうとしている。それに対して、怒る人もいるけど、多くの人はしょうがないとあきらめてしまう。奴隷なんですよ。そして、奴隷の楽しみは、奴隷でない人、つまり怒っている人をバカにすることなんです。バカだなあ、怒ったってしょうがないのにとせせら笑う。そういう国民性をネット空間が増幅させて、最悪の状況になっている。大学教員だってそうですよ。公の場では本当に重要なことについては何も話さないようにするのが賢い振る舞いだと考える人が多い。かつて軍国支配層によって国民全体が奴隷化されましたが、それが基本的に今も続いているのです。
――白井さんが書かれた「永続敗戦論」ですね。つまり、あの敗戦を認めず、終戦という言葉に置き換え、戦争体制が否定されないまま、今日に至っている。そこがドイツと決定的に違う?
  ドイツと日本の最大の違いは、ドイツは2つの世界大戦で2度負けたが、日本は1度しか負けていないことです。日本は戦後、民主国家の道を歩んだとか言っているが、ワイマール憲法も民主主義的な憲法でした。その中でナチスが台頭したわけで、日本は長い戦間期を生きているような気がします。ドイツの哲学者ヘーゲルは「重要なことは2度経験しないと本当には理解できない」と言っています。不謹慎に聞こえるかもしれませんが、再度悲劇が起きなければダメなのかもしれません
 
▽しらい・さとし 1977年生まれ。早大政経卒、一橋大大学院で博士、文化学園大助教を経て京都精華大専任講師。「永続敗戦論-戦後日本の核心」で石橋湛山賞。