アメリカ政府は、国内のメディアはいうまでもなく、ヨーロッパなどのメディアまでも実質的に支配下に収めて、アメリカの世界制覇に向けての統一的なプロパガンダを行わせています。
それにもかかわらずアメリカ自身が発達させたインターネット情報によって、絶えず謀略の真相が暴露されているのは皮肉なことです。真実は顕れるという摂理と見るべきです。
そうしたなかでアメリカは今度は国内の言論の統制を強めています。アメリカのラジオ“リバティー”は、国内の良心的な学者:ロシア研究者のスティーヴン・コーエンへの攻撃を始めたということです。政府になびかない人たちへの各個撃破を始めたわけです。
これを報じたPaul Craig Robertsの短い論文と併せて、久しぶりに櫻井ジャーナルの記事:「米国の侵略戦に加担する安保法制の先には破滅が待つ(要旨)」も紹介します。
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ラジオ“リバティー”は ファシスト・アメリカのラジオ・ゲシュタポ
と実態で呼ぶ頃合い
Paul Craig Roberts
マスコミに載らない海外記事 2015年5月12日
(原記事 2015年5月6日)
ラジオ“リバティー”は、ずっとプロパガンダ省だった。かつて、プロパガンダはソ連に向けられていた。現在それは、真実に忠実であることで知られ、尊敬されている著名なアメリカ人に向けられている。
ラジオ・リバティーの最近の標的は、ラジオ・リバティーよりも遥かに広く尊敬されているアメリカ人学者だ。ワシントンの取るに足りないプロパガンダ省における、あらゆる物事と同じで、傲慢さと自らが重要だという誤った考えから、われを忘れているのだ。
ラジオ・リバティーのカール・シュレックなる取るに足らない人物など誰も聞いたことがないが、その人物が、アメリカで最も著名な学者、スティーヴン・コーエンは、“プーチン擁護者”だと呼ばわったのだ。
スティーヴン・コーエン、プリンストン大学とニューヨーク大学でロシア研究の教授をつとめ、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ大統領顧問だった。コーエンは、ソ連政府にも尊敬されていた。その結果、ヨセフ・スターリンに殺された主要ボルシェビキで、レーニンのお気に入りの一人、ニコライ・ブハーリンの未亡人を名誉回復するようソ連を説得することができたのだ。ミハイル・ゴルバチョフもコーエンを信頼し、冷戦終結をもたらすのを助けてくれることに疑いをもっていなかった。
私と同様、コーエンも、学業上の評判が、政府プロパガンダ方針とは無関係に、真実を見分け、語ることに基づいていた時代の人間だ。そういう日々は過去のものとなった。
カール・シュレックの様な宣伝屋にとって、真実とは、何であれ、ワシントンの狙いに役立つものだ。シュレックは、真実が、ワシントンの狙いと別物であるのを理解することができないのだ。それゆえ、コーエンが真実を語ると、シュレックは、それにクレムリン プロパガンダ方針だというレッテルを貼るのだ。
誰も聞いたことがなく、再び聞くことなどないであろう、もう一人の取るに足りない人物、リン・リュバマースキーは、コーエンは“大量殺人者の代弁者”だと断言した。もし、取るに足りない人物が、プーチンのことを言っているのであれば、プーチンは一体誰を大量虐殺しただろう? 現代の大量殺人者は、ジョージ・W・ブッシュと、オバマであり、明らかにコーエンは彼らの代弁者ではない。
現在、余りに多くの学者の出世が、連邦と大企業の金次第になっており、誰かコーエンの専門分野の学者が、彼を擁護して立ち上がれるかどうか、この先を見ないと分からない。
ロシアとウクライナに対するコーエンの立場は私のものと同じだ。危機は、ワシントンが画策し、民主的な政権を打倒して、ワシントンに忠実な傀儡政権に置き換えたキエフでのクーデターで始まったのだ。ラジオ・リバティーによる公式プロパガンダでは、このクーデターは決して起きなかったことになっている。そうではなく、ロシアが侵略し併合したのだ。情報に通じた人々なら、決してこの浅ましいたわごとを信じるまい。ところが、このたわごとが、真実より優勢なのだ。
ワシントンの権力集団は、スティーヴン・コーエンを沈黙させようとしているが、彼は憤激し、ウソつきどもに向かって中指を立て、真実を語り続けてくれると思う。
日本の与党は米国の侵略戦に加担するための安保法案を整備するらしいが、その先には破滅が待つ
櫻井ジャーナル 2015年5月11日
アメリカの侵略戦争を支援するための法律を自民党と公明党は整備するようだが、将来的にはアメリカ軍に替わって侵略戦争を行うことを少なくともアメリカの支配層は想定しているはずだ。
勿論、こうした法案は官僚がすでに作成、アメリカ政府へも報告済みだろう。4月27日に外務大臣の岸田文雄と防衛大臣の中谷元はニューヨークでアメリカのジョン・ケリー国務長官やアシュトン・カーター国防長官と会談、新しい「日米防衛協力指針(ガイドライン)」を発表、29日には安倍晋三首相がアメリカ議会の上下両院合同会議で演説し、その中で「安全保障法制」と「TPP(環太平洋連携協定)」を強調したが、その延長線上に今回の法案はある。
現在のアメリカを動かしているのは1992年に作成された「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」。国防総省のシンクタンクONA(ネット評価室)で室長を務めてきたアンドリュー・マーシャルの戦略をベースにして、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官、I・ルイス・リビー、ザルメイ・ハリルザドといったネオコンが作成したDPG(国防計画指針)を指している。
マーシャルは冷戦時代にソ連脅威論を宣伝、核戦争計画の中心にいた。ソ連消滅後は中国脅威論を叫び始め、ジョージ・W・ブッシュ大統領もマーシャルの宣伝マンを務めていた。
DPGはアメリカを「唯一の超大国」と位置づけ、潜在的なライバル、つまり西ヨーロッパ、東アジア、旧ソ連圏、南西アジアを潰すという方針を示している。当然、日本も含まれるのだが、日本の支配層は「私益」を「国益」の上に置き、日本の自然とそこに住む人びとをアメリカの支配層へ売り飛ばそうとしている。
ウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官によると、このドクトリンが作成される前の年にウォルフォウィッツはシリア、イラン、イラクを殲滅すると話していたようだが、DPGをベースにしてネオコン系シンクタンクPNACは2000年に「米国防の再構築」という報告書を公表、その中では東アジアを重要視している。キエフでクーデターを指揮していたビクトリア・ヌランド国務次官補の結婚相手、ロバート・ケーガンも含まれている。
日本もウォルフォウィッツ・ドクトリンに合わせて動き始める。1994年に細川護煕政権の諮問機関「防衛問題懇談会」が作成した「日本の安全保障と防衛力のあり方」に国防大学のスタッフだったマイケル・グリーンとパトリック・クローニンが反発、1995年にジョセフ・ナイ国防次官補は「東アジア戦略報告」を発表する。そこから今回の安保法案までつながるわけだ。当然、この法案のベースはウォルフォウィッツ・ドクトリンで、アメリカ支配層の世界制覇が目的。TPPも同じ流れの中にある。
1999年にアメリカ/NATOは偽情報(拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』に内容が書かれている)を広めながらユーゴスラビアを先制攻撃、その際にスロボダン・ミロシェビッチの自宅や中国大使館も攻撃している。これ以降、アメリカ/NATOは東方への侵略を開始、ロシアに迫っていく。そうした攻撃的な政策にロシアが対応すると西側の政府やメディアは激しく攻撃してきた。アメリカが軍隊を東へ進めてロシアが近づいてくる責任はロシアにあるというのが、そうした人びとの主張。
ウォルフォウィッツ・ドクトリンを実行する上で好都合な出来事が起こったのは2001年9月11日のこと。ニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたのである。
ジョージ・W・ブッシュ政権は詳しく調査することなくアル・カイダが実行したと断定、アル・カイダ系武装集団を弾圧していたイラクを2003年に先制攻撃する。その口実に使われた「大量破壊兵器」の話が嘘だということは、開戦の前から指摘されていた。そうした情報をかき消すように「進軍ラッパ」を吹き続けていたのが政治家、「専門家」、記者、編集者といった類いの人びとだった。その結果、イラクは破壊され、多くの非戦闘員が殺された。支離滅裂な話だが、ともかくサダム・フセイン体制を倒すことに成功、ウォルフォウィッツのプランは前進した。
侵略されたイラクでは建造物が破壊され、多くの人びとが殺されている。西側は見えないところで殺された人は殺されていないことにしているようだが、医学雑誌ランセットに発表されたジョンズ・ホプキンズ大学とアル・ムスタンシリヤ大学の共同研究によると開戦から2006年7月までに約65万人が死亡、イギリスのORB(オピニオン・リサーチ・ビジネス)は、2007年夏までに約100万人が殺されたという推計している。この数字が最も現実に近そうだ。
2010年には「アラブの春」が始まり、翌年の初めにアメリカ/NATOはペルシャ湾岸の産油国やイスラエルと、リビアやシリアの体制転覆プロジェクトを始めた。リビアではNATOの空爆、アル・カイダ系のLIFGが地上軍というコンビで体制転覆に成功するのだが、シリアではまだ戦闘が続いている。そして昨年2月、アメリカ政府はネオ・ナチを使い、ウクライナでクーデターを成功させた。ウクライナはブレジンスキーがロシアを服従させるポイントだとしていた国だ。
この間、アメリカ政府は嘘をつき通しで、その嘘を西側のメディアは宣伝してきた。ドイツなどではネオコン/シオニストの狂気に気づいて軌道修正を図り、メディアも嘘の付き方が穏やかになった。ドイツの有力紙、フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の元編集者、ウド・ウルフコテが自著の中で、ドイツを含む多くの国のジャーナリストがCIAに買収され、例えば人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開していると告発した影響も小さくはないだろう。
かつて、日本の新聞は戦争を煽って東アジア侵略を後押し、中国で日本軍は1500万から2000万人を殺したと言われ、ドイツとの死闘で殺されたソ連人はそれより多く、2400万人に達すると推計されている。ドイツの死者数は550万人から690万人。それに対し、日本は250万人から300万人だという。中国やソ連に比べれば、犠牲者数がひと桁違う。日本のマスコミが歴史から学んだことは、負けても犠牲はこの程度で済むということなのかもしれないが、次の戦争は遥かに悲惨なことになるだろう。