2015年5月2日土曜日

戦争加担を約束した戦後最悪の従米外交 (五十嵐仁氏)

 元大原社会問題研究所長(法政大学教授)の五十嵐仁氏が、ブログで、今回の日米首脳会談を「戦後最悪の米外交」と酷評しました。
 怒りのブログです。
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日米同盟の強化による戦争加担を約束した戦後最悪の従米外交
五十嵐仁の転成仁語 2015年5月1日
 これでも日本は独立国だと言えるのでしょうか。訪米した安倍首相は日米首脳会談で日米同盟の強化を約束し、戦争加担の従米外交を展開したのですから……。
 4月28日はサンフランシスコ講和条約の発効によって1952年に「主権」を回復して国際社会に復帰した日です。それから63年後の4月28日は、2年前に政府主催で初めて「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」を開催した安倍首相によって、再びアメリカに「主権」を売り渡した日として記憶されることになるかもしれません。
 
 この前日の27日、日米の外務・防衛閣僚会議(2プラス2)によって日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定が合意されています。首脳会談翌日の29日には上下両院合同会議で安倍首相は歴代首相として初めて演説しました。
 ガイドラインでは、新たに「アジア太平洋とこれを越えた地域」での「集団的自衛権の行使」が加えられました。これによって全地球規模で自衛隊が派兵されることになります。
 本来であれば、「日本と極東の平和と安全」を目的としている日米安保条約を改定しなければ、このような変更はできないはずです。それを事務レベルの協議で合意して首脳会談で認め合ったわけですから、事実上の安保改定がなされたことになります。
 
 また、安倍首相は安保法制についても、法案がまだ国会に提出されていないのに「今夏成立」を約束しました。これも国会軽視であるとの批判を招いていますが、それにとどまらない重要な意味が含まれています。
 安保法制による集団的自衛権の行使容認は、憲法が許容する範囲を超えているからです。そのような重大な内容を含む法改定の成立を、外交交渉によって勝手に約束することは「主権」の放棄であり、立憲主義の否定にほかなりません。
 国会審議による検討や合意がなされる前に米政府に事実上の改憲を約束したことになります。まさに従属国以外の何物でもない異常な対応だと言うべきでしょう。
 
 今回の訪米にあたって、オバマ米大統領は最大限の歓迎の姿勢を示しました。それは、安倍首相が予想した以上であり、この歓待ぶりに安倍首相は舞い上がってしまったようです。
 オバマ大統領の歓待は当然でしょう。現時点で望んでいる全てのものを、安倍首相が差し出すことを約束したのですから……。
 自分の跡目を狙っているのではないかと疑いをかけていた子分が、その疑いを晴らすために進んで恭順の意を示し、あるだけのものをすべて差し出そうとしているのですから、「愛いやつじゃ」と悦に入って歓迎するのは当たり前です。これによって、国際社会での孤立を回避し、国内で弱まっていた基盤の回復にも役立つでしょうから……。
 
 このところ、米国は「同盟国」との関係が悪化しており、オバマ大統領は孤立しつつありました。最大の同盟国である英国は、米国の反対を無視して中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加し、G7のフランス、ドイツ、イタリアもこれに続いています。
 米国内の政治家に大きな影響力のあるイスラエルは、オバマ大統領が進めているイランの核兵器開発問題での合意に強く反対し、共和党の一部もこれに同調しました。ドイツやフランスはウクライナ問題でも米国と立場を異にしています。
 このように、国際社会で影響力を弱めつつあったオバマ大統領にとって、今回の安倍首相の訪米と日米同盟強化の約束は「干天の慈雨」であり、格好の「助け舟」でした。大歓迎するのも当たり前なのです。
 
 具体的には、集団的自衛権の行使容認などの「戦争立法」によって地球規模で自衛隊と米軍との共同作戦を可能にすること、TPPの協議促進によって日本市場を米国に開放して差し出すこと、沖縄の世論を無視して辺野古新基地を建設し米軍に提供することを、安倍首相は約束しました。どれも、オバマ大統領にとっては涙が出るほど嬉しいことだったにちがいありません。
 しかし、別の面から言えば、国際社会で凋落し影響力を弱めつつある米国との同盟強化という時代遅れの路線を、日本は選択したことになります。それは、日本にとってプラスになるのでしょうか。
 「戦争立法」によって自衛隊が米軍の後方支援を行うようになれば、敵国は敵対的行為として自衛隊員を攻撃し、過激派によるテロが海外の日本人や企業に向かい、場合によっては日本国内でのテロを誘発する危険性が生まれます。TPPのISD条項によって日本の主権が侵されることは明らかであり、企業による利益確保が、国民の生命や健康、労働者保護、地域振興などより優先される社会を生み出すことになるでしょう。
 
 ここでも、日本の国家としての「主権」が侵され、日本人の命と暮らしが危機にさらされることになります。安倍首相によって、日本と日本人がアメリカに売り渡されたと言って良いのではないでしょうか。
 安倍首相が右翼的な民族主義者だというのは、真っ赤な嘘だったようです。日本と日本人を外国に売り渡すよう人物は、そもそも民族主義者であろうはずがないのですから……。
 
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