2015年5月29日金曜日

戦争法案 海外での戦闘の危険性明らかに

 安倍首相は20日の党首討論やそれに先立つ会見等で、今国会に上程された戦争法案について、「一般に海外派兵は認められていない。他国の領域で戦闘行為を目的に武力行使を行うことはない」と明言しました。しかしそんなことは勿論法案には書かれていません
 
 特定秘密保護法の時も安倍首相は法案が成立した後のテレビ会見で、「国民の皆さんを処罰するようなことは絶対にありません(要旨)」と発言していましたが、法律のどこにもそんなことは書かれていませんでした。
 首相は法案を出す内閣の最高責任者なのですが、法律のあり方自体を良く理解していないとしか思えません。
 
 衆院平和安全法制特別委員会27日、安全保障関連法案実質審議に入りましたが、「海外で戦うことはない」という首相の説明は次々と崩れました。
 
 近隣国の領海で米艦が攻撃された際に日本が反撃する可能性を否定しませんでした。
 敵基地攻撃が許されないわけではないと明言しました。
 中東・ホルムズ海峡での戦時の機雷掃海について、他国領域での武力行使が例外的に認められるとしました。
 また自衛隊が戦争法案にもとづいて「戦闘地域」で米軍への「後方支援」を行えば、結果として戦闘を行うことになるという指摘に明確に反論できませんでした。
 首相は盛んに「自己保存型武器使用」を強調しますが、「自己保存のための武器使用戦闘ではない」という国際認識などはありません。
 
 国民の目をゴマカシてなんとか国会を通してしまおうとする安部首相の態度は許されません。
 
 しんぶん赤旗の「戦争法案の危険性 浮きぼりに・・・」の記事と、朝日新聞の社説「安保法制国会 リスクを語らぬ不誠実」を紹介します。
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「後方支援」は武力行使と一体 戦争法案の危険性 浮きぼりに
首相、自衛隊への攻撃 武器使用認める
しんぶん赤旗 2015年5月28日
衆院特別委 志位委員長が追及
 「自衛隊が現実に攻撃され、『殺し、殺される』危険が決定的に高まることは明らかだ」―。日本共産党の志位和夫委員長は27日の衆院安保法制特別委員会の総括質疑で、自衛隊が戦争法案にもとづいて「戦闘地域」で米軍への「後方支援」を行えば、結果として戦闘を行うことになると迫りました。安倍晋三首相は質問に正面から答えず、憲法9条が禁じた「武力の行使」に発展していく危険性が鮮明になりました。 
 
 戦争法案は、自衛隊の活動地域を「戦闘地域」にまで広げ、これまでできなかった弾薬の提供や武器の輸送も可能にします。
 首相は、自衛隊活動の実施区域について「戦闘行為がないと見込まれる場所」を指定すると弁明しましたが、志位氏は「そんなことは法案には一言も書いていない」と批判。法案では「(自衛隊が活動している場所で)戦闘行為が行われるに至った場合」を想定して対応方針を明記しているとして、「自衛隊が攻撃される可能性を想定しているということだ」とただしました。
 
 首相は「(攻撃される)可能性が100%ないと申し上げたことはない」と述べ、攻撃される可能性を認めました。さらに、首相は「(攻撃を受けた場合は)自己保存型の武器の使用になる」と、武器使用の可能性にも言及しました。
 また、防衛省は、志位氏の追及に、陸上自衛隊がイラク・サマワに持っていった武器には拳銃、小銃、機関銃にとどまらず、12・7ミリ重機関銃、110ミリ個人携帯対戦車弾、84ミリ無反動砲といった重火器まで含まれていたことを初めて明らかにしました。志位氏は「『戦闘地域』での『後方支援』となれば、さらに強力な武器を持っていき、必要な場合は反撃する。これが戦闘でなくて何なのか」と迫りました。
 
 首相は「武器の使用は、自己保存型だ」と繰り返すだけ。志位氏はさらに、外務省が提出した文書で「国際法上、自己保存のための自然権的権利というべき武器の使用という特別な概念や定義はない」と認めていることをあげ、「『自己保存のための武器使用だから戦闘ではない、武力の行使ではない』などという理屈は、国際社会では通用しない」と批判しました。
 
 志位氏は「戦場でまっさきに犠牲にされるのは未来ある若者だ。若者を戦場に送ることは絶対に認められない」と強調しました。
 
海外派兵自衛官 自殺者54人
 アフガニスタン、イラクの両戦争への派兵任務を経験し、帰国後に自殺した自衛官が2015年3月末時点で54人にのぼることが分かりました。防衛省が27日の衆院安保法制特別委員会で、日本共産党の志位和夫委員長への答弁で最新の数字を明らかにしました。
 内訳は、アフガニスタン戦争時のインド洋派兵経験者が25人(海上自衛隊)、イラク派兵経験者が29人(陸上自衛隊21人、航空自衛隊8人)。本紙が14年7月にこの問題を報じた際、同省はインド洋派兵自衛官の一部について「文書が残っておらず不明」としていましたが、この日も「統計の関係で04年度以降(の数字)だ」と断り、自殺者数がさらに増える可能性も残しました。
 国民平均と比べ約9~18倍(14年内閣府統計)、自衛官全体(13年度)でも約5~11倍の高い割合で、自殺者が出ている異常な実態が鮮明になりました。
 

図
 
(社説) 安保法制国会 リスクを語らぬ不誠実
朝日新聞 2015年5月28日
 新たな安全保障法制の整備によって、海外に派遣された自衛隊員の危険が増すのではないか――。野党側の追及に対して、政府側は「リスクの増大」を明言しようとしない。
 
 安保法制を審議する衆院の特別委員会がきのう始まったが、論議がかみ合わない。原因はもっぱら、安倍首相や中谷防衛相らの不明確な答弁にある
 法案がめざすところでは、自衛隊員の派遣先は世界規模となり、任務の幅も広がる。自衛隊の他国軍への後方支援はこれまで「非戦闘地域」に限られていたが、法案では「現に戦闘の行われていない地域」に広げている。派遣地域の治安を守るための巡回、検問など新たな任務も加わる。
 自衛隊員のリスクが高まるのは明らかであり、そのことを前提としなければ、およそ現実味に欠ける。このままでは論戦自体が成り立たない
 賛否いずれの立場をとるにせよ、特別委員会はそれを判断するために議論を尽くす場である。政府はその材料をきちんと提供しなければならない。
 
 リスク論争で焦点となっているのが、他国軍への弾薬の補給などの後方支援である。中谷氏は「安全が確保された所に補給基地があって支援するので、前線から離れている」と説明するが、具体的にどの程度の距離を想定しているのか。政府は一定の目安を示すべきだ。
 補給基地やそこに至るルートは、攻撃の対象となりえる。中谷氏は「戦闘現場は動く」とも説明しており、当然リスクはある。戦闘現場になりそうな場合は休止、中断し、武器を使って反撃しながらの支援継続はしないと説明するが、休止の判断は的確になされるか、それで本当に安全が確保されるのか。
 
 安倍首相はまた、法整備によって「日本の抑止力が高まり、国民のリスクが下がる」とも主張している。だが、抑止力が万能であるかのような説明は大いに疑問だ。
 たしかに日米安保の強化は全体的な抑止力につながるかもしれないが、それで国民のリスクが下がるかどうかは別問題だ。たとえば、テロリストに対して抑止力は意味をなさない。踏み込んだ後方支援で日本の立場が鮮明になればかえってテロの危険性が高まる恐れもある。
 
 その意味で、問題は自衛隊員にとどまらず、国民全体にかかわる。政権はその説明を避けたまま、海外の紛争への関与を強める大転換を図ろうとしている。リスクを語らぬ姿勢は不誠実と言わざるをえない。