5年ごとに開催される核拡散防止条約(NPT)再検討会議は全会一致制をとっていますが、イスラエルの核保有を念頭に置いて、それを禁止しようとする中東地域の非核化構想について、米国が反対し英国とカナダがそれに同調したため、最終文書を採択できないまま閉幕しました。
当初文案にあった、各国首脳らに広島・長崎への訪問を要請する記述が中国の反対で削除され、代わりに「核兵器の影響を受けた人々や地域との交流を通して経験を直接的に共有するよう促す」と、かなり内容の薄まったものに修正されたものの合意される見込みだったのですが、それも無に帰しました。
またこの5年間に集められ国連本部に届けられた核兵器禁止条約を求める署名633万筆も、結局無視された形となりました。
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NPT会議決裂 中東非核化で米英加反対
東京新聞 2015年5月23日
【ニューヨーク=北島忠輔】国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)の再検討会議は二十二日、四週間の議論をまとめた最終文書を採択できないまま閉幕した。焦点だった「核兵器の非人道性」をめぐる記述ではほぼ合意に達したが、中東地域の非核化構想について米国、英国、カナダが反対。最終的に中東問題が全体の合意を妨げた。
中東の非核化は、事実上の核保有国とされるイスラエルを念頭にアラブ諸国が要求。最終文書案には、中東の非核化に向け、すべての関係国が参加する会議を来年三月までに開催するよう国連事務総長に委ねると明記されていた。
これに対し、採決前の討論で米国代表は、会議の開催に期限が切られたことなどを問題視し、反対を表明。NPT未加盟のイスラエルの出席をめぐる対立を解消できなかった。
会議は序盤から非保有国が核兵器の非人道性を切り口に核廃絶を要求。「多くの国が期限を区切った核軍縮を求めている」と、廃絶に向けた具体的なスケジュールや核兵器禁止条約などの法的枠組みの必要性を訴え、段階的な核削減を主張する核保有国と対立した。
最終文書案では、核保有国の反対で核兵器禁止条約の記述が削られた一方、核兵器の法規制などを検討する作業部会を国連総会に設置するよう勧告するなど「各国が合意できる内容」(外交筋)にまで文言調整が進んでいた。交渉決裂でこれらは宙に浮く形となり、オバマ米大統領が唱えた「核なき世界」は遠のきそうだ。
最終文書案の作成過程では、各国首脳らに広島・長崎への訪問を要請する記述が中国の反対で削除され、「核兵器の影響を受けた人々や地域との交流を通して経験を直接的に共有するよう促す」と修正。歴史問題をめぐる日中の対立の根深さも浮き彫りになった。
この日の会合は予定より二時間以上ずれ込み、現地時間の二十二日午後五時二十分に開会。米国などが文書採択に反対した後、イランの要請でいったん中断し、午後七時に再開された。
署名5年で633万人 被爆者落胆 NPT会議「なぜ決裂」
東京新聞 2015年5月23日
米ニューヨークで開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、最終文書を採択できずに決裂した。「何とか合意してほしい」と議論を見守っていた被爆者らの願いはかなわず、被爆地では二十三日、失望が広がった。
原爆投下時に母親のおなかにいた「胎内被爆者」の松浦秀人さん(69)=松山市=は四月下旬に現地入りし、国連本部の原爆展などで核兵器の非人道性を証言した。
最終文書案で指導者への被爆地訪問要請などの文言が削除されたことに落胆。ただ「薄められた内容でも、非人道性を前提に核廃絶を進めるとの方向性を確認する意味は大きい」と考えていただけに「決裂してしまったら、次回の会議までの五年間が目標もなく流れてしまう」と危ぶんだ。
学生「代表団」として会議を傍聴し、議論の模様などを現地からフェイスブックで発信してきた長崎大医学部三年の西田千紗(ちさ)さん(20)は「残念。中東非核地帯構想や被爆地訪問など、全て核保有国の反対で決まらなかったように見える」と話した。「市民が声を上げ、若者が交流を続けることが重要だと感じた」と活動を振り返った。
核兵器禁止条約を求める署名を国連本部に届けた被爆者の佐久間邦彦さん(70)=広島市=は「なんで決裂したのか」と困惑。前回の会議から五年間で約六百三十三万の署名を集め「その声が無視されたようだ」と肩を落とした。