国立感染症研究所所長が1日、同所のホームページに「新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について」とする記事を載せました。
それは北海道に疫学調査に出かけた同所の職員が、現地でPCR検査を抑制する発言をしたと国会で取り上げられ報じられたことに対して、それは事実誤認であり、緊急事態において、昼夜を問わず粉骨砕身で対応にあたっている本所の職員や関係者を不当に取り扱うのみならず、本所の役割について国民に誤解を与え、迅速な対応が求められる新型コロナウイルス感染症対策への悪影響を及ぼしている、としています。
そして「検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている」、「実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の、事実と異なる内容の記事が散見され(、心外であ)るとしています。
要するに「職員は何の他意もなく事態に誠実に対応している」ことを強調するもので、是非そうあって欲しいのですが、そこに記載されている職員の発言内容を見るとそれ程正直には受け止められません。具体的には次の2項です。
・検査に関する議論の中で、「軽症の方(あるいは無症状)を対象とした検査については、積極的疫学調査の観点からは、 「PCR検査確定者の接触者であれば、軽症でも何らかの症状があれば(場合によっては無症状の方であっても)、PCR検査を行うことは必要である」と述べた
・「一方、接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」と述べた
の(着色は勿論原文にはありません)部分は、文章作成後にそれ以下の一定部分を削除したと思われる個所で、“ 」”マークが欠落していることを含めて文章の体をなしていません。公表してはまずい発言だったから削除したとしか考えられません。
つぎの項の、「接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」の発言は、北海道の職員に『誤認』を与えるのに十分です、接触歴がある人を優先するのだから「接触歴がなければ優先順位がそれよりも下がる」のは当たり前のことですが、敢えてそれを述べ立てれば萎縮の効果を持つのは明らかです。もしもそのことに全く思い至らなかったのであれば、感染症・疫学の専門家ではあっても「伝達能力」に問題があると言えます。
専門家会議のメンバーが2日記者会見し、「北海道全域で先月25日の時点で感染した人は、およそ940人に上る可能性がある」とする見方を示しました。
事態は既にそこまで進展しています。「希望者全員がPCR検査を受けられる態勢をつくるのが大前提」であるのはますます明らかで、「優先順位は下がる」どころの騒ぎではありません。感染研にはむしろそうした態勢づくりの先頭に立って欲しいものです。
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市民の皆様へ
新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について
2020年3月1日
国立感染症研究所
所長 脇田 隆字
所長 脇田 隆字
今般、北海道における新型コロナウイルス感染症に関する一部の報道において、国立感染症研究所(以下、本所)職員の発言趣旨に関して事実と異なる報道がございましたので、ここでご説明いたします。
1.前提:積極的疫学調査について
感染症が流行した際には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第15条に基づき、「積極的疫学調査」が実施されます。
「積極的疫学調査とは、感染症などの色々な病気について、発生した集団感染の全体像や病気の特徴などを調べることで、今後の感染拡大防止対策に用いることを目的として行われる調査」です(厚生労働省ホームページより)。
積極的疫学調査は、都道府県・政令市・特別区の業務であるとともに、感染症の発生予防・まん延防止のために緊急の必要がある場合には、国が都道府県等の行う疫学調査について必要な指示を行うとともに、国自らも積極的疫学調査を行うことと定められています。また、地方公共団体等の調査体制を強化し、連携するため、都道府県等は、調査のため他の都道府県等に対して職員の派遣等の協力を求めることができることとなっています。
今般の新型コロナウイルス感染症においても、感染の急速な拡大を防止するために、本所をはじめ、公的な機関の職員らが連携して、全国各地で実施されています。
2.国立感染症研究所の職員による積極的疫学調査について
今般の新型コロナウイルス感染症への対応のため、新型コロナウイルス感染症厚生労働省対策本部クラスタ―対策班の指示により、国立感染症研究所等の職員7名が北海道に派遣され、積極的疫学調査に従事しています。今回の積極的疫学調査では、感染の拡がりを、集団感染単位(クラスター)ごとに封じ込め、地域や国全体の感染の抑制、収束に至らせることを目的として活動しています。具体的な活動は、以下の通りです。
· PCR検査によって感染が確定した人の接触者に何らかの症状が出た場合に、PCR検査によって感染の有無を確定すること
· 感染があることが確定すれば、次の感染伝播を防ぐために、その人の接触者に対して、行動の制限を依頼すること
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3.一部報道による事実誤認について
一部の報道では、北海道に派遣された職員がPCR検査について「入院を要する肺炎患者に限定すべき」と発言し、「検査をさせないようにしている」との疑念が指摘されています。
しかし、積極的疫学調査では、医療機関において感染の疑いがある患者さんへのPCR検査の実施の必要性について言及することは一切ありません。
本所において、職員に対して聞き取り調査を行ったところ、
· 感染者の範囲を調査により特定し、対応を行っていく積極的疫学調査のあり方についてアドバイスを行った
· 検査に関する議論の中で、「軽症の方(あるいは無症状)を対象とした検査については、積極的疫学調査の観点からは、 「PCR検査確定者の接触者であれば、軽症でも何らかの症状があれば(場合によっては無症状の方であっても)、PCR検査を行うことは必要である」と述べた
· 「一方、接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」と述べた
とのことでした。
職員が述べた考え方は、感染伝播の状況を把握することを目的とした、積極的疫学調査における一般的な考え方です。しかし、この考え方は、体調を崩して医療機関を受診する患者さんに対するPCR検査についての考え方ではありません。現在の政府の方針、すなわち、「医師が総合的に新型コロナウイルス感染症の疑いありとした患者に関しては検査が可能である」という考え方を否定する趣旨はなく、また、医療機関を受診する患者さんへのPCR検査の実施可否について、積極的疫学調査を担っている本所の職員には、一切、権限はございません。
よって、本所職員の発言の趣旨が誤った文脈に理解され、事実誤認が広がった可能性があるものと考えます。
4.積極的疫学調査にご協力いただいている皆様へ
感染者や接触者の皆様におかれましては、大変な状況のなかで、積極的疫学調査の趣旨をご理解いただき、ご協力くださっていることに心から感謝申し上げます。皆様の多大なご協力によって、新型コロナウイルス感染症への理解が進んできております。どうぞ今後ともご協力をよろしくお願い申し上げます。また、気になる症状がございましたら、管轄の保健所や帰国者・接触者相談センターにご相談ください。
5.報道に携わる皆様へのお願い
最近の各種報道では、上記の件以外でも、本所が「検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている」、「実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の、事実と異なる内容の記事が散見されます。
こうした報道は、緊急事態において、昼夜を問わず粉骨砕身で対応にあたっている本所の職員や関係者を不当に取り扱うのみならず、本所の役割について国民に誤解を与え、迅速な対応が求められる新型コロナウイルス感染症対策への悪影響を及ぼしています。
報道に携わる皆様におかれましては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」とその運用、ならびに本所の役割をよくご理解いただき、新型コロナウイルス感染症の急速な感染拡大の防止にご協力くださるよう、お願いいたします。
以上