元近畿財務局職員赤木俊夫さんの遺族が、週刊文春に俊夫さんの「手記」と「遺書」を公表し、国に賠償を求めた件は、世間に大変な反響を呼びました。
そのときも事件の大元である安倍首相は、「公文書の改竄はあってはならないこと」云々と述べて、みたび・よたび(三度・四度)世間を唖然とさせました。
そして安倍首相と麻生財務相は口を揃えて「手記には新事実はない」と述べました。
彼らがそんな違和感に満ちた発言をするのは、財務省の調査報告書には「今後、新たな事実関係が明らかになるような場合には、更に必要な対応を行っていくこととなる」と記されているからです。そもそも調査報告もまた忖度の塊りでした。彼らとしては、どうしても新たな事実をもとに調査して欲しくないというわけです。
著作家・(元)編集者の大山 くまお氏が、「 ~ “自殺職員”の手記とも向き合わない安倍・麻生の見苦しさ」と題して、両氏を中心として森友問題に関する発言を「おさらい」する記事を出しました。
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森友問題「再調査するつもりはない」
“自殺職員”の手記とも向き合わない安倍・麻生の見苦しさ
大山 くまお 文春オンライン 2020/03/28
『週刊文春』3月26日号に掲載された大阪日日新聞記者の相澤冬樹氏のスクープ記事が轟々たる反響を巻き起こしている。あらためてクローズアップされた森友問題に関する発言をおさらいしたい。
赤木俊夫さん 近畿財務局職員:「財務省が国会等で真実に反する虚偽の答弁を貫いている」「元は、すべて、佐川理財局長の指示です」 (『週刊文春』3月26日号)
自殺当日まで書いていたと見られる手記
学校法人「森友学園」の国有地売却問題に関する公文書改ざんを指示され、2018年3月7日に自殺した財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54歳)の「手記」が公開された。
安倍昭恵首相夫人が関与する小学校への国有地格安払い下げにまつわる、財務省の公文書改ざん事件。赤木さんは自殺当日まで書いていたとみられる手記の中で、「元は、すべて、佐川理財局長の指示です」「佐川理財局長の指示を受けた、財務本省理財局幹部、杉田補佐が過剰に修正箇所を決め、杉田氏の修正した文書を近畿局で差し替えしました」などと、公文書改ざんを行った当時の財務省、および近畿財務局の幹部らの言動について実名で詳細に明かし、強く批判している。
すぐさま「再調査するつもりはない」と反応
赤木さんの死後、麻生太郎財務相をはじめとする財務省、近畿財務局の幹部らの対応に不信感を持った赤木さんの妻は、国と佐川宣寿・元国税庁長官に損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。しかし、麻生財務相、安倍晋三首相の反応はというと……。
麻生太郎 副総理兼財務相:「手記にもとづいて新たな事実が判明したとは考えられないので、再調査するつもりはない」 (日テレNEWS24 3月19日)
麻生財務相は、『週刊文春』が発売された翌19日、閣議後の記者会見でいち早く再調査を否定した。その根拠は「手記と調査報告書の内容に大きな乖離があるであろうとは考えておりません」というものだった。
では、本当に両者には乖離がなく、手記には「新たな事実」がないのだろうか。
調査報告書と読み比べてみれば一目瞭然
2018年6月4日に発表された財務省の調査報告書によると、「特例申請」と「特例承認」文書の改ざんの経緯について、佐川理財局長は文書の位置付けなどを十分に把握しないまま、政治家関係者からの照会状況についての記載がある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきと反応。それ以上の具体的な指示はなかったとある。
赤木さんの手記では、佐川氏が森友学園に関する資料(応接記録)はできるだけ開示しないこと、開示するタイミングもできるだけ後送りするよう指示したことが明らかにされている。
決裁文書の改ざんについては、「局長の指示の内容は、野党に資料を示した際、学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があったと聞きました」とより具体的に記されていた。
「すべて、佐川理財局長の指示です」とは、まぎれもない新事実だ。その他にも新事実は多い。調査報告書と手記を読み比べてみれば一目瞭然である。
“上意下達のパワハラ体質”が自殺の原因?
麻生太郎 副総理兼財務相:「まだ読んでいませんからわかりませんが」 (テレ東NEWS 3月19日)
各メディアではカットされていたが、会見をノーカットで報じたテレ東NEWSの映像を見ると、麻生財務相は手記をまだ読んでいないとはっきり発言していた。ならば、なぜ手記と調査報告書の内容に大きな乖離がないと言い切れるのだろうか。最初から結論ありきで話しているように見える。
麻生太郎 副総理兼財務相:「(赤木さんの自殺は)役所内の風土(が原因だ)と結論付けている」 (共同通信 3月19日)
同じ会見で赤木さんの自殺について問われた麻生財務相は、こう説明した。財務省の「風土」とは、「軍隊的な上意下達のパワハラ体質」のこと。省内にはパワハラ上司をランキングした「恐竜番付」というペーパーが出回っており、佐川氏はその常連だった。赤木さんの手記にも「佐川理財局長(パワハラ官僚)」と記されている。
麻生氏の発言を聞いた赤木さんの妻は、「組織の風土が原因なら、麻生さんの責任だと思います」「風土はまったく良くなっていません。このままだと、また死人が出ると思います」と語っている(大阪日日新聞 3月20日)。
安倍氏と麻生氏は「調査される側」だ
安倍晋三 首相:「財務省で事実を徹底的に調査して明らかにした。検察当局による捜査も行われた」 (毎日新聞 3月20日)
安倍首相は3月19日の参院総務委員会で、麻生財務相と同じく、再調査に否定的な考えを示した。発言を見ても、どこか他人事のようだ。しかし、赤木さんの妻からは強烈なカウンターが放たれる。
赤木俊夫さんの妻:「2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではないと思います」 (NHK NEWS WEB 3月23日)
安倍首相と麻生財務相の発言を受けて、赤木さんの妻が直筆のコメントを発表した。その通りと言うほかない。代理人の弁護士によると、第三者委員会による再調査を強く希望しているという。
赤木俊夫さんの妻:「安倍首相は17年2月17日の国会発言で改ざんが始まる原因をつくりました」「(麻生氏については墓参りに来てほしいと伝えたのに)国会で私の言葉をねじ曲げました」 (共同通信 3月23日)
同じく赤木さんの妻のコメントより。安倍首相の発言が改ざんの原因だとはっきり指摘している。何度も取り上げられているが、あらためて紹介しよう。
“文書14件200項目超”の改ざんはこうして始まった
安倍晋三 首相:「私や妻、事務所は一切関わっていない。もし関わっていれば首相も国会議員も辞める」 (産経ニュース 2017年2月17日)
衆院予算委員会での発言。森友学園の設置認可や敷地の国有地払い下げに関与したのではないかとの指摘を受け、このように答えた。この発言がターニングポイントとなり、佐川氏の指示のもと、公文書の改ざんが始まった。改ざんは文書14件で200項目超に及ぶ。
2017年2月22日には菅義偉官房長官が佐川氏、中村稔・理財局総務課長(現・駐英公使)、太田充・財務省大臣官房総括審議官(現・財務省主計局長)を呼び出して森友問題について報告をさせると、佐川氏は24日の衆院予算委員会で「近畿財務局と森友学園の交渉記録というのはございませんでした」と発言。
赤木さんの手記によると、最初の改ざんは26日に佐川氏の指示によって行われている。改ざんによって決裁文書から安倍昭恵首相夫人らの名前が削除された。
安倍晋三首相の秘書官が佐川氏に渡したメモ:「もっと強気で行け。PMより」(『文藝春秋』2018年5月号)
「PM」とは「プライムミニスター(首相)」、即ち安倍首相を指す官僚たちの略語である。当時、佐川氏が国会で野党の質問攻めに遭っていたが、安倍首相が佐川氏を激励するためにメモをまわしたものとされている。また、このメモは冷え切っていた首相官邸と財務省の関係が森友問題を契機に強固なものに変わっていった象徴でもある。
赤木さんが批判した財務官僚たちは……
佐川宣寿 前理財局長:「忖度ってのはすいませんちょっと、どういう意味でございましょうか」 (朝日新聞デジタル 2018年3月9日)
安倍首相の「首相も国会議員も辞める」発言の前後、「忖度」という言葉が注目を集めた。渦中の籠池泰典氏も「安倍首相または夫人の意志を忖度して動いたのではないかと思っています」と発言している(ハフポスト 2017年3月15日)。
2018年3月、赤木さんが自殺した2日後、佐川氏は国税庁長官を辞任した。このときだけぶら下がり取材に応じた佐川氏は、「国会答弁や文書管理で、政治への忖度はあったのか」と問われたが、このように記者に逆質問。最後まで「強気」を貫き通した。この日以降、佐川氏は公の場に出ていない。
なお、赤木さんが手記で名前をあげて批判した6人の財務官僚は、佐川氏、近畿財務局長だった美並義人氏をはじめとしてほとんどが「栄転」を果たしていたことが明らかになっている(日刊ゲンダイ 3月23日)。
自殺の2日後、麻生氏は笑っていた
麻生太郎 副総理兼財務相:「えっへっへっへっへ。いいですか、終わります」 (朝日新聞デジタル 2018年3月9日)
こちらも赤木さんが自殺した2日後、佐川氏の取材とほぼ同時刻に行われていた麻生財務相の記者会見での発言。
「結果として(決裁文書の)書き換えがあり、(財務省が)組織的にやったと明らかになった時は、ご自身の進退も含めて考えるか」と問われたが、「仮定の質問には答えられない。何度も言ってんじゃん」と切り返し、笑って会見を切り上げた。
麻生太郎 副総理兼財務相::「佐川の(国会での)答弁と決裁文書の間に齟齬があった、誤解を招くということで佐川の答弁に合わせて書き換えられたのが事実だと思います」(ハフポスト 2018年3月12日)
3日後の12日、麻生財務相が14件の文書に改ざん(当時は「書き換え」と表現)があったことを発表。麻生氏は改ざんが行われた理由について、佐川氏が森友学園との面会記録を「破棄している」、「価格を提示したこともない」などと国会で発言しており、それらの発言と矛盾しないように改ざんしたと説明した。
改ざんの責任者についても、「佐川が理財局長だったから、その意味で理財局長となろうと思う」と述べた。6月4日に調査報告書が公表された際、佐川氏には退職金減額500万円の処分が下っている。
新たな「事実」を無視することはできない
安倍晋三 首相:「総理を守るために佐川さんが指示をした。そういう事実は全く認められていない」 (ハフポスト 3月23日)
2018年6月に公表された調査報告書によると、佐川氏が交渉記録の廃棄や公文書改ざんの方向性を決定したのは、国会審議の紛糾を回避するため(さらなる質問につながる材料を少なくするため)だったとされている。3月23日の参院予算委員会で安倍首相は調査報告書に書かれていた内容を繰り返し、自身の関与を全面的に否定した。
佐川氏が忖度して指示を出したとしても、その証拠が残っていなければ安倍首相は「事実」とは認めないだろう。だが、安倍首相の発言を契機に、佐川氏が国会で強硬な発言を繰り返すようになったのは事実だ。近畿財務局での公文書の改ざんが始まったのも事実。その上、手記によって佐川氏がすべて指示を出していたことなど、新しい事実も明らかになった。
安倍首相と麻生財務相が引き合いに出している財務省の調査報告書には、「今後、新たな事実関係が明らかになるような場合には、更に必要な対応を行っていくこととなる」と記されている。ならば、新たな事実をもとに、これまで明らかになっていなかった「事実」についてあらためて調査するしかあるまい。 (大山 くまお)