2020年3月23日月曜日

23- 安倍首相、解散戦略にコロナの影 しぼむ「年内」論(西日本新聞)

 IOCはようやく東京五輪の延期についての検討を始めるようです。安倍首相や小池都知事はこれまで一貫して五輪中止はあり得ないとしてきましたが、中国・韓国をはじめ、欧米でも新型コロナウイルスが猛威をふるいだした現状では、さすがに本心は異なってきたのではないでしょうか。
 もともとIOCと日本それに放映権を持っている米国は五輪利益共同体なので、開催に前向きなのは当然(米国は延期にも反対)ですが、最早世界の中で明らかに少数派であり強行するのは無理です。肝心のアスリートたちも7月開催を望む人たちはごく少数と見られています。
 Business Journalに「海外では東京五輪延期は既定路線の情勢…安倍首相、決断遅れるほど世界中からバッシング」とする記事が載りました。極めて常識的と言えるものです。

 安倍首相が当初東京五輪断行に奔った理由は他にもありました。
 2012年末、第2次政権発足後、安倍首相は2度野党の意表をつく「サプライズ解散」を断行して圧勝して来ました。今回も五輪の余勢をかって解散を断行すると見られ、何よりも首相自身がそれを意図していたようです。
 しかしいまやの可能性も限りなく小さくなりました。そもそもそうした党利党略・派利派略の解散はあるべきではありません。それでもあくまでも安倍首相が在任中に解散を行うためには、東京五輪は年内に行う必要があるのですが、米国は秋にはほかのプロスポーツやスポーツ競技大会とかぶるために認めません。そこで米国の持っている放映権を1400億円で日本が買い取るという構想があるということです。
 まあそこまで行くと私利私略の妄執というしかありません。そもそも秋に開催すれば成功するという見通しは夏の開催と同様にありません。
 そんな金があるのであればコロナ禍によって収入の途を絶たれた人たちへの救済に向けるべきです。
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海外では東京五輪延期は既定路線の情勢…安倍首相、決断遅れるほど世界中からバッシング
垣田達哉/ Business Journal 2020.03.22
消費者問題研究所代表
 安倍晋三首相は、16日のG7首脳テレビ電話会議後、記者団に対し「人類がウイルスに打ち勝った証しとして、完全なかたちでの(東京五輪の)開催を目指したいと表明し、各首脳から支持を得た」と語った。
 この発言をめぐり「今年の開催では完全なかたちで実施することは無理」なので、延期するのではないかという憶測が広がった。この発言について菅義偉官房長官は17日の記者会見で、「予定通りの開催に向けて準備を着実に進めていく」と開催延期を否定した。しかし、萩生田光一文科相は「仮に日本国内で収束しても、参加国が減ってしまえば、完全と呼べない」と述べている。東京都の小池百合子知事も、19日の記者会見で「具体的にどうこうという段階ではない」と、今は延期を検討していないと述べている。
 一方、IOC(国際オリンピック委員会)は17日、ビデオ会議で理事会を開き「東京五輪を開催する立場に変わりはない。大会まで4カ月もあるのに抜本的な決定をする必要はない」という意思を表明している。
 事ここに及んで、日本側とIOCが本気で開催するつもりがあるとすれば、あまりにも浮世離れした話だ。日本も含め世界中の人の多くが「東京五輪は今年は無理」と思っている。特に欧米の人々にすれば、新型コロナウイルスのことで頭がいっぱいで、五輪どころの話ではないだろう。
 五輪に参加する、あるいは参加しようとしているアスリートの大半も「延期やむなし」というより「延期してほしい」と願っているだろう。代表選考のための大会が、延期、中止されていることもあって、まだ出場枠の43%の代表が決まっていないという。

■中止・延期すべき3つの理由
 こういう状況を考えれば、当然、東京五輪の中止または延期という結論になる。中止・延期の理由は、大きく分けて次の3つある。

(1)アスリートの立場
 すでに代表が決まっている人と、五輪直前に決まった人では、五輪に望む準備という点で不公平になる。各国の事情により、アスリートの練習環境に大きな差が出ている。万全の状態で、東京五輪に臨めるアスリートは数少ない
(2)日本の立場
 7月までに各国の新型コロナウイルスの感染が終息するとは考えられない。終息したとしても、世界中の人が日本の東京を中心とした大都市に集中することは、コロナウイルスのクラスター(集団感染)を形成する可能性がある。いったん収まった新型コロナウイルスが、東京を起点として世界中に広がる可能性がある。そうなれば、無理に東京五輪を開催した日本に非難が殺到する。
(3)日本以外の国の立場
 各国の新型コロナウイルスの感染状況、終息状況が異なるなかで、世界中の人々が集まる東京に、五輪だからといって観戦に来るだろうか。たとえWHO(世界保健機関)が終息宣言を出したとしても、未知なことが多い新型コロナウイルスである。危険を承知の上で、東京に来る人は、アスリートの家族や関係者に限られるだろう。
 送り出す各国の立場としても、せっかく収まった新型コロナウイルスを再び持ち込まれるようなことがあってはならない。東京五輪を観戦に行くこと自体を自粛するよう国民に呼びかける可能性もある。

■決断が遅くなれば世界から批判
 日本側が開催にこだわる理由は、世界中から観光客が集まる五輪の経済効果を期待しているからだろう。箱物はすべて完成しているので、箱物の経済効果は終わっている。もし、観光客が半減、あるいは、ほとんど来ない五輪を開催するなら、開催する意味がなくなる。それなら1年あるいは2年後に、世界中の人々が安心して来日できる環境をつくって迎えることこそ、本当の「おもてなし」といえるのではないだろうか。
 政府も関係者も、国民も、皆、東京五輪開催はほとんど無理だと思っている。そうであれば、延期または中止の宣言をできるだけ早くしたほうが良い。それは、アスリートのためでもあり、日本のためでもある。早ければ早いほど、痛みは小さく済み、処置も早くできるので回復も早くなる

 五輪がなくなれば、北海道は札幌で予定通り北海道マラソンを開催すればよい。開幕が延びたプロ野球は日程に余裕ができる。開催しないことで救われる面もある。「まだ4カ月ある」のではなく「もう4カ月しかない」のだ。もしも安倍首相が3月中に「東京五輪延期」を宣言すれば、世界中から称賛されるだろう。しかし、それが遅くなればなるほど「そんなこと当然じゃないか。なんでもっと早く言わなかったのか」ということになる。WHOやIOCに期待していても、おそらく何も結論は出ないだろう。開催国の責任として、一刻も早く延期を表明するべきである。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)


安倍首相、解散戦略にコロナの影 しぼむ「年内」論
西日本新聞 2020/3/22
 新型コロナウイルスの感染拡大で、衆院解散を巡る安倍晋三首相のシナリオが視界不良に陥っている。当初は東京五輪成功の余勢を駆って年内に打って出るとの見方があったが、そうした戦略は崩壊寸前。五輪開催だけでなく感染の終息や経済情勢も見通せず、これまで多用した「サプライズ解散」も事実上封じられかねない。
 感染が拡大するまでは、夏の東京五輪・パラリンピック後、「首相はどんな選択肢も取り得る」(周辺)とされてきた。9月中に内閣改造と党役員人事を行い、自らの手で解散。次の解散までの猶予を十分に確保した上で、意中の岸田文雄政調会長に禅譲する-。政界ではこうしたシナリオが有力視されていた。
 衆院議員の任期満了は来年10月21日。時機を逸すれば「追い込まれ解散」になりかねないだけに、政府関係者は「年内解散は固い」とみていた。一方で首相が五輪を花道に退陣し、岸田氏に禅譲するとの見方も根強くささやかれていた。

 だが肝心の五輪の行方が不透明になった。開催が延期になれば仕切り直しの態勢づくりは混乱必至。経済的な打撃も避けられない。そもそも感染が終息しなければ解散できる環境は整わず、年内をにらんだ解散戦略は根底から崩れることになる。
 来年以降もタイミングが難しい。五輪が1年延期なら、年前半の解散は開催に万全を期すべき時期に政治空白をつくることになりかねない。首相の自民党総裁としての任期は来年9月まで。五輪が2年延期なら「総裁4選」も浮上しそうだが、自民党内には「あと2年、首相の気力が持つのかどうか」との声もある。

 2012年の第2次政権発足後、首相は2度解散を断行した。いずれも野党の意表を突く「サプライズ解散」で与党が圧勝。だが感染の終息と経済への影響が見通せない中ではそうした戦略も封じられ、政局の先行きは不透明感を増す。 (河合仁志)