「ここ1~2週間が瀬戸際だから」として安倍首相は唐突に小学校・中学校・高等学校の一斉休校を「要請」してから3週間あまりが経過しました。
休校に関しては20日、安倍首相は一斉休校の延長は要請しないことを明らかにしましたが、学校は既に春休みに入っているので殆ど意味のないものでした。それよりも政府が「要請」の名の下に日常生活や企業活動に関わるさまざまな自粛を国民に促している状況は固定されたままになっています。
もしも過剰自粛で社会的影響が生じれば、政府は「強制はしていない」と逃げられるという都合のいい「要請」は、根拠も責任も曖昧なまま長期化の様相を見せています。
政府からの「要請」は日本社会においてはほぼ「命令」と同等です。政府には、集会等が事実上禁止された中で、収入の途を絶たれるか大幅に減じられた無数の人たちに対して、必要十分な救済をする責任がありますj。
木村草太教授は、「首相が法的根拠なしに要請を繰り返したのは緊急独裁に近い事態」として、そうした事態を避けるためにも決定過程の文書の保存等が必要としていますが、例によってそうした文書は何もないようです。
西日本新聞が取り上げました。
そもそも今回の休校措置は首相補佐官の今井尚哉氏が発案して強く勧めたもので、安倍首相は指導力発揮を見せつける何よりの舞台だと思ったのでしょう。閣内の誰に相談することもなく、しかも教員などの学校関係者が何の準部をする余裕も与えないまま休校に突入させたのでした。これは学校教育をまともに受けた形跡のない首相ならでは暴挙で、一国の指導者として誠に不適格であることを示しています。
日テレNEWS24の記事「『一斉休校』舞台裏 見えた政権内の“溝”」を併せて紹介します。
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都合のいい「要請」国民に圧力 判断の丸投げ長期化、責任は負わず
西日本新聞 2020/3/21
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府は「要請」の名の下に日常生活や企業活動に関わるさまざまな自粛を国民に促している。本来は法的根拠のない「お願い」にすぎないが、自治体が全国ほぼ横並びで一斉休校に応じるなど、政府の「要請」は強制措置と同様の効力を発揮する。しかも過剰自粛で社会的影響が生じれば、政府は「強制はしていない」と逃げられる。都合のいい「要請」は根拠も責任も曖昧なまま、長期化の様相を帯びる。
「政府の要請がきっかけでイベントに批判的なムードが広がっている。主催者だけに判断を委ねられるのはつらい」。福岡市内で劇場を運営し地域イベントにも携わる石川鉄也さん(51)はこう漏らした。
安倍晋三首相は20日、大規模イベントの開催について引き続き主催者に慎重な判断を求めた。中止勧告ではなく、あくまでも自主的な見送りを促す手法。石川さんは「どういう状況なら開催してもいいのか、客観的基準を示してもらいたかった」と話す。
法的根拠のない一連の「要請」は、首相が対策本部で唐突に発言する形で始まった。首相は2月26日に全国的なイベントの中止や延期などを「要請」。翌27日には学校の一斉休校を要請した。政府は「あくまでお願い」と強調するが、選抜高校野球やコンサートなど各地のイベントは軒並み中止に。今月16日までに休校を実施したのは国立が100%、公立が98・9%、私立が97・8%に上る。
東京大大学院の関谷直也准教授(社会心理学)は「政府の要請は規範となり社会的圧力を生む。学校など圧力を受けやすい立場ほど過度に自粛しがちだが、個人には意識差があるのでスポーツジムに行く人が出るなど感染が拡大するリスクもある」と指摘する。
「この1、2週間が瀬戸際」として期間限定で始まった「要請」は長期化しそうな雲行きだ。13日には私権を制限できる緊急事態宣言が可能となる法改正が成立したが、政府は感染が爆発的に増えない限りは宣言しない方針。政府高官は「日本の国民はお願いだけで十分、協力してくれる」という。
実際、「要請」の効き目は強烈だ。「全国一斉休校の宣言が出た後からみるみる仕事が減った」。業績悪化した勤め先から退職を求められた40代男性は19日、閣僚や与党幹部向けのヒアリングで首相らに窮状を訴えた。
「要請」は今のところ政府にとって都合がいい。広瀬弘忠東京女子大名誉教授(災害リスク学)は「要請にとどめることで責任を負いたくない政治的思惑が透けて見える」と指摘する。一方、厚生労働省内では「要請」長期化による国民の「自粛疲れ」を懸念する声も。広瀬教授も「曖昧な要請を長期に繰り返すことで実効性がなくなる恐れがある」と感染防止の観点で警鐘を鳴らす。
木村草太首都大東京教授(憲法学)は、さまざまな権限を持つ政府の要請が結果的に強い自由の制約となる点を強調。「首相が法的根拠なしに要請を繰り返したのは緊急独裁に近い事態だった。このような事態を避けるためにも、決定過程の文書の保存、公表の明文化など仕組みづくりが必要だ」と話す。 (川口安子)
「一斉休校」舞台裏 見えた政権内の“溝”
日テレNEWS24 2020/3/21
20日、一斉休校の要請を延長しないと明らかにした安倍政権。
国民生活を混乱させた一斉休校の要請だったが、その政治判断をめぐって、一枚岩だった安倍政権の溝も見えてきた。
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休校中も学校を開放している東京・港区立白金小学校。職員室では、先生が学校再開にむけた準備などを行っていた。また、体育館では来週行われる卒業式のリハーサルが。
“一斉休校”から3週間。政府による休校の要請は、突然のことだった。
港区立・白金小学校 花井拓也教諭「正直に、かなり衝撃でした。(職員室の)テレビで知りました」
港区立・白金小学校 福田和寿美教諭「子供たちと過ごす時間があっという間になくなってしまって」
(先月27日)
安倍首相「来週3月2日から春休みまで臨時休業(休校)を行うよう要請します」
先月、安倍首相が発表した一斉休校の要請。これは安倍首相による突然の「政治判断」だった。判断に大きくかかわったのは…安倍首相を1次政権のときから支える今井尚哉首相補佐官。経済産業省の官僚で“側近中の側近”。官邸でも安倍首相の後ろに控える姿がたびたび見られる。
通常、危機管理の際は、安倍首相や今井補佐官のほか菅官房長官、杉田官房副長官も加わって判断し、各省庁に指示している。
ところが今回の休校措置は、今井補佐官が強くすすめたもの。菅長官らは当日の午後まで知らされていなかった。地域ごとの休校がよいと考えていた菅長官。
周辺によると――
菅長官に近い議員「菅長官は、今回の要請は自分の考えと違う話になり不満だった」
さらに、安倍首相側近でもある萩生田文科相も当初、一斉休校には反対だった。
萩生田文科相「3日間ですべての(休校の)準備をするということに対しては、かなり無理があって、結果的として現場にご迷惑と混乱を与えている」
また1週間後(今月5日)には――
安倍首相「(中国・韓国)両国からの入国者に対する検疫を強化し」
中国と韓国に対する、事実上の入国制限を発表。この判断についても菅長官は決定前日の段階で知らなかったという。これまでにはなかった、安倍政権内の足並みの乱れ。
官邸関係者らは――
官邸関係者「イニシアチブが今井補佐官寄りになっている」
自民党議員「官僚は、国民に選挙で選ばれたわけではないのに力を持ちすぎている」
こうした中、各省庁との調整がなかったことの「弊害」も浮き彫りになった。
実は、萩生田文科相は要請のあと、ただちに学童などの対応について発表するはずだった。しかし、安倍首相が直前になって休校期間を「2週間」から「春休みまで」と変更。文科省側は混乱し、同時に対応策を発表することができなかった。発表の遅れは学校現場や保護者の混乱に拍車をかける形となった。
未知のウイルスへの対応がせまられる中での「政治判断」。その意思決定のあり方が問われている。