安倍首相が専門家会議にも諮らずに唐突に出した「全国一斉休校」宣言は、いうまでもなく無為無策を批判されていた中で「起死回生」を図ろうとしたパフォーマンスでした。
その科学的根拠を追及され、それによって無収入に陥る人たちへの救援策が全く不十分であることを批判されるのは当然です。小中高校にも非正規の職員は沢山います。休校で孤立する(学校に行くことが救い)生徒がいることや食事を失うことへの細かい配慮もないもので、まさに拙速を絵に画いたものでした。
宣言は、盟友の麻生副総理にも、政権の要の菅義偉官房長官にも、最側近で担当大臣の萩生田文科相や加藤勝信厚労相にすら相談せずに、今井補佐官の言うことだけを聞いて暴発したもので、今井氏が「誰にも漏らさずにいきなり発表する方が総理の指導力を見せつけることになる」とそそのかされたからだと見做されています。
ジャーナリストの高野孟氏は「そうすることが首相による強力なリーダーシップを示す演出だと思い込んでいるところに、シナリオライターである今井尚哉首相補佐官と、彼に心酔しきっている“裸の王様”安倍の末期的な精神状態が表れている」として、安倍政権は死期を早めたとの見方を紹介しています。
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永田町の裏を読む
大勝負の「全国一斉休校」宣言が広げた安倍政権のヒビ割れ
高野 孟 日刊ゲンダイ 2020/03/05
安倍晋三首相の唐突極まりない「全国一斉休校」宣言で安倍政権は死期を早めたというのが、永田町の政局プロたちの読み筋である。
これほどまでに社会的に大影響をもたらす指示を、閣議も開かず、関係省庁による法律的・制度的・行政的・予算的な準備作業の検討にも委ねることなく、感染症対策本部の会合でいきなり発表してしまった。そうすることが首相による強力なリーダーシップを示す演出だと思い込んでいるところに、シナリオライターである今井尚哉首相補佐官と、彼に心酔しきっている“裸の王様”安倍の末期的な精神状態が表れている。
自民党の中堅議員が言う。
「今回、安倍さんは盟友の麻生太郎副総理にも、政権の支柱である菅義偉官房長官にも、側近中の側近でしかも直接担当の萩生田光一文科相や加藤勝信厚労相にすら相談せずに、今井の言うことだけを聞いて暴発したようです。推測するに、今井が『誰にも漏らさずにいきなり発表する方が総理の指導力を見せつける演出になりますよ』とか、小ざかしい進言をしてこうなったのだろうが、致命的な失敗でしたね」
致命的ですか?
「私の見るところ、これで菅は安倍を見限るでしょう。安倍は必ずしもそう思っていないのかもしれないが、今井は菅が嫌いだし菅も今井は嫌いで、まあこれは陰湿タイプの側近同士のせめぎ合いということでしょう。ところでポスト安倍については、安倍はおそらく五輪後に退陣し、岸田文雄政調会長を後釜に指名して自分の影響力を残そうとしているのだろうが、菅は岸田が嫌いで、その安倍シナリオをひっくり返して、石破茂を担ぐ方が面白いと思っているようだ。この辺りがどう転がるかは、実は、二階俊博幹事長が鍵で、菅が二階と組んで石破を担ぐことになれば形勢は一気に石破に傾くでしょう」と彼は言う。
そういう、なかなかに微妙な空気が漂う中での今回の大勝負だったので、ここはもっと丁寧な党内と政権内の根回しが必要だったはずなのだが、安倍=今井が猪突猛進して政権のヒビ割れを広げてしまった。それを「もう勝手にすれば。俺は後始末は引き受けないからね」とでもいうような冷めた表情で見ている菅の目付きが不気味である。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中