安倍政権や小池都知事は一貫して東京五輪中止はあり得ないとの態度ですが、それはコロナ禍が蔓延しつつある世界の状況とマッチしているのでしょうか。
いまやアスリートのために五輪を断行するという主張にも説得力はなくなりました。アスリートたちからも十分な練習が出来ないなかでは開くべきでないという声が上がっています。
いずれにしても海外の雰囲気と安倍首相や小池都知事の態度には大きな温度差があります。
東京新聞によれば、ノルウェー・オリンピック委員会、スロベニアNOC会長、スペインのNOC会長らが東京五輪を延期すべきだとの見解を示し、米国の水泳連盟と英国陸連も延期すべきだと表明したということです。
またNHKによれば、『ワシントン・ポスト』は「世界中が感染症と闘っているさなかに、オリンピックと日本の当局者たちが大会を予定どおり開けるかのようにふるまっているのは全く無責任だ」と指摘し、『USAトゥデー』は「選手たちは最高の状態で競技がしたいと願っているが、それが不可能だと分かったときは、誠実な対応を与えられるべきだ」とIOCに延期を働きかけるよう求め、『ニューヨーク・タイムズ』は「世界が不安定な中、オリンピックの開催に固執することは傲慢だ」として大会は中止されるべきだと主張しました。
LITERAの記事「国民は辟易『呪われた五輪』に翻弄されてきた日本の損得」を併せて紹介します。
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<新型コロナ>
五輪今夏開催、各国で異論 ノルウェー、IOC会長に延期要請
東京新聞 2020年3月21日
【ジュネーブ=共同】ノルウェー・オリンピック委員会は二十日、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長に対して「新型コロナウイルスの状況が世界規模でしっかり終息するまで、東京五輪を開催すべきではない」と要望する文書を送ったと発表した。七月二十四日の開幕を譲らないIOCの方針に、各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)などから異論が出始めた。
ノルウェーのNOCは国内の各競技団体とも協議した上での訴えだと強調し、IOCに最終決定に至る過程をより明確にするよう求めた。バッハ会長は開催是非の判断期限を「設定しない」と繰り返している。
ロイター通信によると、スロベニアNOCのガブロベツ会長もこの日、東京五輪を延期すべきだとスロベニア通信に語った。選手が練習場所を確保できない現状を問題視し「二〇二一年開催でも何の問題もない」と述べた。スペインのNOC会長も延期すべきだとの見解を示していた。
米国では水泳連盟が、同国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)に対し五輪の一年延期に尽力するよう要請した。
英国陸連のカワード会長も延期すべきだとの意向を示したと複数の英メディアが伝えた。練習施設が閉鎖されるなどしており「(選手への)負荷は非常に大きい」と、英BBC放送(電子版)に語った。
◆組織委副会長「決定段階にない」
二〇二〇年東京五輪・パラリンピック組織委員会副会長の遠藤利明元五輪相は二十一日、「組織委としては、中止や延期を決定する段階ではない」と共同通信の取材に答えた。同時に「最終決定するのはIOCだ。しっかりと七月の開催に向けて準備を進めていく」と述べ、開催方針に変更はないと強調した。
米メディア「東京五輪の延期・中止を」主張相次ぐ
NHK NEWS WEB 2020年3月21日
新型コロナウイルスの感染が世界的に広がる中、東京オリンピックについてアメリカの有力紙は、IOC=国際オリンピック委員会などは現実と向き合い、延期または中止すべきだと相次いで訴えています。
このうち『ワシントン・ポスト』は20日、宮城県で聖火の到着式が行われたことに触れ「世界中が歴史的なパンデミックになるおそれがある感染症と闘っているさなかに、オリンピックと日本の当局者たちがあたかも大会を予定どおり開けるかのようにふるまっているのは全く無責任だ」と指摘しました。
そのうえで「大会がウイルスの培養器となりさらなる拡散につながるおそれがある。現実を認めようとしないのは、金と名誉がかかっているからだ」と厳しく批判しました。
『USAトゥデー』は、ほとんどの選手が十分に練習できていない現状を紹介し、「選手たちは大会にただ参加するだけでなく、最高の状態で競技がしたいと願っているが、そのための時間はなくなってきている。あらゆるチャンスが与えられるべきだが、それが不可能だと分かったときは、誠実な対応を与えられるべきだ」と、アメリカのオリンピック・パラリンピック委員会がIOCに延期を働きかけるよう求めました。
また、『ニューヨーク・タイムズ』は18日、「中止せよ。オリンピックを」という見出しで専門家のコラムを掲載し、「新型コロナウイルスについてはまだ多くのことが分かっておらず、世界が不安定な中、オリンピックの開催に固執することは傲慢だ」として大会は中止されるべきだと主張しました。
国民は辟易「呪われた五輪」に翻弄されてきた日本の損得
日刊ゲンダイ 2020/03/19
7月24日の開会式まで間もなく4カ月。本来ならメディアは今頃、東京五輪フィーバーに染まっていたはずだ。ところが、新型コロナウイルスが世界的流行局面に入り、開催の雲行きは怪しくなる一方である。
IOC(国際オリンピック委員会)は19日まで、国際競技連盟や各国オリンピック委員会、アスリート代表と続けざまに電話会議。表向きの議題は混乱している各競技の代表選考会だが、五輪開催の可否も話し合ったとみられる。
何しろ、世界各国で鎖国主義的な入国制限が相次ぎ、3~5月に予定された選考会は中止や延期が続出。残り43%の代表選手が決定していない。最新の世論調査でも7割以上が、五輪を延期か中止すべきと答えている。
ギリシャ国内での聖火リレーは中止。あのトランプ米大統領まで、感染拡大は「7月か8月まで続くとの見方がある。それより長いかもしれない」と言い出した。感染終息の見通しが全く見えぬ中、日本サッカー協会の田嶋幸三会長の感染が判明。田嶋氏はJOC副会長も兼務している。
開催国のお膝元で国内外のスポーツ団体の要人が「陽性」とは、世界に与える負のインパクトは絶大だ。もはや今夏開催は絶望的ではないか。
それでもホスト国・日本のお偉方は、最近まで「消極的、悲観的なことは一切、考えてはいけない時期」(組織委の森会長)、「7月開催に変更はないと聞いている」(小池都知事)と楽観的だった。彼らが「最後は神頼み」に傾く理由はソロバン勘定。無観客や中止だと巨額損失は避けられないからだ。中止の場合、経済損失は5兆9000億円との試算もある。仮に延期になっても経済的困難が付きまとう。
オツムの中はカネの心配ばかり
第1に、森会長が「1年や2年延ばし、その場所(競技会場)を使える保証はない」と指摘した通り、再確保は非現実的だ。特にメインプレスセンターなどに使われる東京ビッグサイトや、レスリングなど3競技の会場となる幕張メッセの借り上げは、既に展示会不足問題を招いている。
製品PRや商談の機会を失った企業には大ダメージ。延期後に再び借り受ければ混乱はさらに拡大し、展示予定の事業者には膨大な補償料が発生する。補償が伴うのは晴海の選手村も同じ。大会後に改修するマンションは分譲済み。五輪延期で入居が遅れる人々には埋め合わせが必要だ。
組織委の人件費も重くのしかかる。開幕時に職員は8000人程度まで膨らむ予定だが、延期で解雇できるのか。計約12万人のボランティアを集め直すのにも多額の費用がかかるだろう。
そもそも、五輪憲章は「夏季五輪は4年に一度開く」と明記。近代五輪の歴史を振り返っても、延期の例はない。どうせ問題山積なら、「エイヤッ!」と玉砕覚悟で今夏開催へ突っ込め――。「お・も・て・な・し」を掲げても、お偉方のオツムの中はカネ勘定だけ。「アスリートファースト」なんて、しょせん空証文である。
IOCのバッハ会長が五輪開催の是非について「WHOの助言に従う」と責任を丸投げした途端、安倍政権はWHOにコロナ対策費として約166億円を追加拠出した。招致活動を巡る2・2億円の裏金捜査がくすぶる中、再びカネの力で五輪を強行する気なのか。
いずれにせよ、原資は血税だ。国民不在の五輪狂騒に付き合わされるバカバカしさには閉口するほかない。
必罰の教訓含む壮大なおとぎ話
東京五輪に参加する国と地域は200以上で、新型コロナの感染者が確認された国と地域は既に140を超えた。死者も日々増え続けている。
「このパンデミック下で、今夏開催に固執するのは最悪のエゴイズム。自国中心主義の極みですが、その自覚もないから救い難い」と言うのは、近著に「オリンピックの終わりの始まり」(コモンズ)があるスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏だ。こう続けた。
「その上、巨額の放映権料を払う米NBCの意向に忖度。秋冬延期の選択肢は4大プロスポーツのドル箱日程と重なるからと、ハナから排除してしまう。来年夏だと世界水泳と米国初開催となる世界陸上が重なり、どちらも各国際競技連盟にとって重要な収入源です。2年延期論の浮上は、あくまで商業ベース。今年の本番に向け調整してきたアスリートにすれば、2年も延期されたらタマりませんが、今の五輪は常に『マネーファースト』です。アスリートは単なる見せ物扱いで、知ったことではないのでしょう」
そもそも、五輪が開催できるのも、いかがわしい招致活動があればこそだ。福島原発事故の汚染水に関する安倍首相の「アンダーコントロール(制御下にある)」演説を筆頭に、嘘とマヤカシのオンパレードだった。
そうして2013年に詐欺まがいで五輪をもぎ取ってから7年、日本は何か得をしたのか。総額3兆円超との指摘もある大会開催費をブチ込み、潤ったのは一握りの大手ゼネコンと利権にありついた政治家のみ。東京一極集中の再開発のあおりで、東日本大震災など災害被災地の復興は遅れに遅れている。
それでも今なお「復興五輪」を掲げる欺瞞。過去3回廃案になった共謀罪も「五輪のテロ対策」と称して成立。安倍は令和への改元との抱き合わせで、「新時代到来」を強調して改憲機運に結びつけようともした。
2年延期で炸裂する時限爆弾
つまり多くの国民にとって東京五輪はやってもやらなくても結果は同じ。恩恵はさほどない。ひたすら「安倍マリオ」の政治的パフォーマンスに都合良く利用されただけ。麻生財務相に言われるまでもなく、「呪われたオリンピック」でしかないのではないか。
「安倍首相は五輪の2年延期さえ、政治利用する懸念があります。来年秋に控える自民党総裁選も『五輪までは』と4選の免罪符にし、実現が遠のく改憲にも時間的余裕が生じます。悲願達成に向け、首相が『延長戦だ』とシャカリキになる姿が目に浮かぶようです。五輪中止に伴う経済的ダメージは計り知れない一方で、首相退陣の可能性が高まるのも事実。長い目で見れば、中止の方が民主主義国としての日本のためになるのかもしれません」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
安倍は16日夜のG7緊急テレビ電話会議の後、五輪開催について「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証しとして、実施するということでG7は一致した」と言ってのけた。裏を返せば中止はもちろん、無観客や規模縮小という不完全な形での開催はあり得ないとの強い意志の表れ。「せめて延期を」という願望だが、下馬評通り2年延期になれば、安倍を追い込む「時限爆弾」が、炸裂するのは必至だ。
今も福島第1原発の汚染水は絶えず発生。浄化処理後も、放射性物質のトリチウムは残ったままだ。その水の貯蔵タンクも増え続け、東電の見通しだと、タンク用地が満杯になるのは22年夏。五輪を2年延期すれば、ちょうど時期が重なる。
「安倍政権は有力視される海洋放出の選択を今年の五輪終了後まで延ばすつもりが、どうやら、そのアテは外れそうです。2年延期だと招致演説の『アンダーコントロール』の大嘘が世界にバレる。国際社会から非難を浴び、開催どころではなくなっても仕方ありません」(金子勝氏=前出)
果たして五輪が中止になっても国民は「悲しみ」を感じるだろうか。「悪いことをすれば必ずバチが当たる」――。そんな当たり前の教訓も含め、壮大なカネと時間を費やした「おとぎ話」の結末に「安堵」を覚える人も多いはずだ。これ以上、「アベ政治に呪われた五輪」に翻弄されるのは、もうウンザリだ。