2月21日の為替市場では、新型コロナウイルスの不安で世界の株が売られる中で、これまで「安全通貨」とされていた日本の円が韓国ウォンとともに売られました。経済に無知の人間にも何らかの深刻な変化が起きていることを感じます。
それだけだけでなく、いま日本は海外から新型コロナウイルスの「震源地」と見做されつつあるということです。
トランプは28日、新型コロナ感染者数が多い2~3の国に対し、入国禁止措置適用の拡大を検討していると明らかにしました。それについてCNNテレビは、複数の米政府高官の話として対象国は日本と韓国となる可能性があると報じました。日本はまだ感染者の公表数は少ないのですが、全国一斉休校がその理由とされているようです。
首相のパフォーマンスは意外なところに波及しようとしています。
日本は2002年の「SARS」ウイルスは水際で抑え込みましたが、今回はそれに失敗し、いまや蔓延の惧れに瀕しています。まずクルーズ船内で感染者の大発生させたことに続いて、「非感染者たち」を下船させた際の対応―通常の人たちとまったく区別しなかった―が、諸外国の「常識」から外れていたことで日本は大いに信用を失墜しました。
各国から「その無防備さが感染拡大リスクを高めた」と批判され、新型ウイルス感染は「天災」ではなく「人災」だとの認識を広げ、日本売りをもたらす大きな要因になったということです。
こうした認識が広がれば東京五輪の開催は危ういと見られ、最終的にIOCが中止を言い出す可能性があります。
政府の無能がいまや国際的に指摘され、歯車が政府の意図とは真逆に回り出しました。
経済評論家の斎藤満氏が、日本経済の危機という面からこの問題を捉えました。
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新型コロナウイルスをばらまく日本へ相次ぐ批判
「安全通貨」の地位を失った「日本円」と経済危機
斎藤満 Wezzy 2020.2.28
『安全通貨』のはずの円が売られた
2月21日の為替市場では、珍しい現象が見られました。新型コロナウイルスの不安で世界の株が売られる中で、日本の円が韓国ウォンとともに売られたのです。
これまで日本の円は「安全通貨」と認識され、株価が大きく下落したり、世界の市場が不安に襲われたりした場合には真っ先に買われていました。円はいわば「駆け込み寺」のように見られていたのです。このため、市場に不安が大きいほど円が買われ、円高になりました。
しかし今回の新型コロナウイルスにおいては、従来と様相が異なります。感染の不安が広がり市場が怯える中で、安全資産と見られ、新たな「駆け込み寺」の役割を果たしたのは米国債でした。米国債が買われ、その結果ドルも買われてドル高が進みました。
日本の円は「安全通貨」の地位を失ったばかりか、米国のメディアやコメンテーターから、日本が新型コロナウイルスの「エピセンター」(震源地)との声が上がり、ウイルス発祥源とされる中国はさておき、日本がウイルスを世界にばらまき、感染を拡大させる犯人だとの認識が広がっています。
甘かった日本政府の対応
確かに日本政府の対応は甘かったといわれても仕方ない面があります。感染源となった中国の湖北省、武漢からの入国禁止措置が遅れ、2002年の「SARS(重症急性呼吸器症候群)」ウイルスと異なり、今回は水際で抑え込むことに失敗しました。
おりしも、今年4月には中国の習近平国家主席を「国賓」として日本に招く予定で、その前段階の準備交渉を進めている時期にありました。このため、下手に中国を刺激して関係を悪くしたくない事情は分かりますが、実際に感染した中国人が訪日して、日本で感染を拡大させてしまったことは否定できません。
それだけならほかの国でも同様の事情があり、日本だけが責められるものではなかったかもしれません。しかし、クルーズ船内での管理や、乗客を下船させる際の対応が、諸外国の「常識」から外れていたことが問われています。米国にしてもオーストラリアにしても、船内での検査で「陰性」であった人を下船させ、チャーター便で帰国させた後、さらに2週間隔離してチェック体制をとりました。
ところが、日本政府は船内での2週間の隔離だけで確認できたとして、下船させた客を自由に自宅に帰してしまいました。米国でもオーストラリアでも、帰国後の隔離期間に「陽性」となった人が複数出ています。日本でも下船後に感染が確認される人が出てくる可能性は同様にあったわけで、この無防備さに、各国から感染拡大リスクを高めたとの批判が寄せられています。そして不幸にしてこの恐れが現実のものとなりました。
また中国人の視点からも、日本が多勢の参加者を集めたマラソンを実施したり、「濃厚接触」のリスクのあるイベントを開催することに理解できないとの声が上がっています。もはや、新型ウイルス感染は「天災」ではなく「人災」だとの認識が広がり、これが日本売りをもたらす大きな要因になっています。
加速する日本排除の動き
そうした中で、米国政府は日本への警戒レベルを1つ引き上げ「2」として、渡航を一部制限する動きをとるようになりました。アジアの国の中にも同様に日本への渡航を制限する動きが見られます。一方、イスラエル政府は日本や韓国に立ち寄った外国人の入国を禁じる措置をとり、日本への渡航を制限しました。まさに日本はウイルス感染リスクの高い国とみられ、警戒されるようになりました。
こうした認識が広がると、いずれこの夏の東京オリンピック開催が危ういと見られ、IOC(国際オリンピック委員会)が突然開催地の変更、あるいは中止を言い出す可能性があります。タイムリミットは3月あたりではないかと見ます。それまでに新型ウイルスの感染収束にめどが立つか、処方薬が見つかるか、少なくとも国際的な不安意識が解消するものを提示する必要があります。
それに失敗すると、オリンピックの東京開催を断念せざるを得なくなり、これまでかけてきた巨大なコストが無駄になります。その場合は、改めて日本株を中心に円資産が大きく売られ、日本経済へのダメージは計り知れない大きさとなります。
これからの日本経済への影響
日本経済においても、具体的な影響が出てきました。当初は中国経済の悪化や中国からの訪日客の減少、つまりインバウンド需要の減少に目が向いていましたが、それに留まらなくなりました。東京都や各自治体がイベントの中止、延期を打ち出しているほか、人々が新型ウイルスの感染を恐れて、人混みを避けるようになりました。このため、集客に依存するホテルやデパート、交通機関などの売り上げが落ち込んでいます。
団体客の相次ぐキャンセルで、観光バス会社では事業の縮小、廃業を検討するところも出ています。売り上げの急減で資金繰りが苦しくなり、経営がピンチに陥る中堅・中小企業も出てきました。日本ではまだ具体的な経済統計としては確認できていませんが、中国では2月前半の自動車販売が前年比9割以上減少したといい、米国では2月のサービスPMI(購買担当者景気指数)が急減して拡大・縮小の分岐点50を割り込み、「縮小」領域に入りました。
日本でも今後2月以降の数字が出るに従い、こうした影響が明らかになります。株式市場ではこれを先取りするように、「懸念の売り」が出るようになりました。
不安解消が急務
今回の日本売り、経済への影響をもたらしているのは、目に見えない新型ウイルスへの不安であり恐怖です。インフルエンザと異なりワクチンがないので、重症化すると死に至る恐怖があります。その点、8年前の「3.11」当時の福島原発事故による放射能不安と似ていますが、今回は日本全土に感染リスクが広がっています。それだけ影響が大きくなりかねません。
日本売り、経済へのダメージを抑える上では、この不安を断ち切ることが必要です。そのためには、中国のような国家権力を使って街を封鎖し、交通、通行規制をしてでも徹底的にウイルス感染を防ぐか、一刻も早くコロナウイルスに有効な薬を開発、発見することです。
民主国家では中国のような統制はできないとなると、国民が自ら外出自粛などで対応せざるを得なくなり、結局経済を収縮させます。感染していても症状が出ない人からの感染リスクも指摘され、これらの人が出歩けばさらに感染拡大の懸念もあります。新型ウイルス不安は内閣支持率を下げ、政権にも大きな打撃になります。
それだけに処方薬の発見、開発が急がれます。すでに効果が期待できる薬が一部で指摘されていますが、これらを早急に確認し、認可し、一般の医療機関で対応できるようになれば、少なくとも国民の不安はかなり軽減できます。ウイルス感染による経済への影響も緩和され、日本を見る目も変わると期待されます。政府は今こそ正確な情報を提供し、国民の命を守る行動が求められます。さもないと、政権自体が倒れるでしょう。
斎藤満
一橋大学経済学部卒業。1975年4月 三和銀行入行。85年、三和総合研究所調査部主任研究員。90年、三和銀行資金為替部ニューヨーク駐在エコノミスト。2001年9月、WTCにて「9.11同時多発テロ」に遭遇。著書に『ドル落城~ついに日本経済が目を覚ます』(2003年、講談社)、共訳著にジョセフ・サックス『レンブラントでダーツ遊びとは』(2001年、都留重人監訳、岩波書店)などがある。