東京新聞が<敵基地攻撃能力>に関する記事4本を電子版に載せました。
そのタイトルは下記の通りです。
首相主導で「急いだ作業」 防衛相経験者「この短期間で無理」
「他国に脅威与えぬ」方針揺らぐ 敵基地攻撃は専守防衛の枠内か逸脱か
「先制攻撃能力」へ道 安保政策大転換の恐れ 抑止力向上か危険増大か
「地上イージスより安い」理由も2倍超の試算も 敵基地攻撃能力の保有
掲示時刻は全て一緒なので一つの記事を4本に分けて掲示したようです。
掲示の順序は事務局で勝手に決めました。
そもそも「敵基地攻撃能力の保有の検討」は、地上イージスの配備撤回を発表した3日後の6月18日、唐突に安倍首相が21年度の予算案に間に合わせるために9月末までにまとめたいと提起し、それに自民党が応じ6月末に検討チームを発足させ、約1カ月で提言をまとめたものです。
しかし憲法の「少なくとも専守防衛に留めるべき」との精神を逸脱し、諸外国に深刻な恐怖を与えるだけでなく結果として日本自身が壊滅的な反撃を受けることに繋がる この「構想」を、いくら首相がそれを望んだからと言っても、僅か1ヶ月間で しかも1回程度の会議で提言をまとめたのには大いに無理がありました。
いくら首相の座にいるからと言って、好戦的であること以外には何の見識も持たない人間の意のままになっては国を大きく誤ります。
しかもことのはじめにおいて、「敵基地攻撃能力の保有」は「イージスアショア」の設置より安上がりという見込みがあったようなのですが、それが間違いであることも明らかにされました。
はじめに自分に都合が良いように漠然と考えたことには兎角間違っていることが多くあります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<敵基地攻撃能力>
首相主導で「急いだ作業」 防衛相経験者「この短期間で無理」
東京新聞 2020年8月27日
敵基地攻撃能力の保有の検討は、安倍晋三首相の主導で期限を区切って進められている。
首相が安保戦略について「この夏、国家安全保障会議(NSC)で徹底的に議論し、新しい方向性を打ち出す」と表明したのは6月18日の記者会見。河野太郎防衛相が地上イージスの配備撤回を発表した3日後だった。
河野氏は方向性を2021年度予算案に反映させるのに「(9月末が締め切りの)概算要求は一つの節目になる」と言及。当初から検討期間を約3カ月に区切ったことになる。
これに間に合わせる形で、自民党の検討チームが6月末に発足し、約1カ月で提言をまとめた。議論に参加した岩屋毅前防衛相は「非常に急いだ作業。もう少し時間がほしかった」と明かす。この間、国会は閉会中で、安保政策に関する審議は衆参両院で7月に一度ずつ開かれただけ。保有に慎重な与党の公明党との調整も行われていない。
安倍政権は、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更といった安全保障政策の転換を、国民の根強い反対を押し切る形で進めてきた。地上イージスはトランプ米大統領に購入を促され、導入を閣議決定した。今回も丁寧な説明や議論が不足している印象は否めない。自民党の防衛相経験者は「この短期間で政府が敵基地攻撃まで踏み込むのは無理だ」と指摘している。(井上峻輔)
「他国に脅威与えぬ」方針揺らぐ 敵基地攻撃は専守防衛の枠内か逸脱か
東京新聞 2020年8月27日
他国の領域内を標的にする敵基地攻撃能力の保有は、日本の安全保障政策の大転換にも直結する。専守防衛の枠内なのか、逸脱かが大きな論点だ。国際社会に発信してきた「他国に脅威を与えない」という防衛の基本方針も揺らぎかねない。(上野実輝彦、川田篤志)
◆攻撃を防ぐのに「やむを得ない最小限度」
政府は敵基地攻撃に関して、歴代防衛相の国会答弁などで「誘導弾などによる攻撃を防ぐのに、やむを得ない最小限度の措置を取ることは、他の手段がない限り、自衛権の範囲に含まれる」と、憲法上可能という立場を取ってきた。しかし、上智大の高見勝利名誉教授(憲法学)は「専守防衛を逸脱する」と明言し、違憲だと断じる。
敵基地攻撃を巡る政府見解は、鳩山一郎内閣が1956年2月に示した憲法解釈を現在も引き継いでいる。「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、相手国の領域内にあるミサイル発射台などを攻撃することも自衛の措置として認められるという内容だ。
◆「政策判断で保有せず」に落ち着く
この見解が出されたのは、自衛隊創設の約1年8カ月後。当時の鳩山首相が「飛行機で飛び出して(敵)基地を粉砕してしまうまではできない」と指摘する一方、船田中防衛庁長官は「敵の基地をたたかなければ自衛できない場合(がある)」と主張するなど、閣内でも答弁が定まらず、野党の追及を受けて憲法解釈を統一させる必要に迫られていた。その結果、「法理(憲法の理論)的には可能」で合憲だと整理しつつ、敵基地攻撃のための装備は政策判断で保有しないという説明に落ち着いた経緯がある。
高見氏は政府が海外派兵を禁じていることに触れ「相手国に人を出すのはダメだが、兵器なら良いというのは無理がある。単なる言葉遊びにすぎない」と批判。敵基地攻撃能力の保有を求めた自民党提言は、米軍に矛(攻撃)を委ねて自衛隊は盾(防衛)に徹する役割分担に変わりはないと説明するが「そもそも憲法は、相手国に入り込んで自衛権を行使することを想定しておらず、専守防衛の域を超えている」と強調した。
◆防衛計画大綱の基本方針変えるのか
歴代政権は過去の戦争の惨禍を踏まえ、日本が専守防衛に徹して軍事的な脅威を与えない国であるとの発信を重視。1995年以降、5回の改定を経た防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」は「憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」との基本方針を明記し、安倍政権が2018年に策定した現大綱まで維持している。敵基地攻撃能力を保有するなら、この方針を変えるのかの説明が求められる。
安倍政権が13年に初めて打ち出した新たな外交・安保政策「国家安全保障戦略」でも「国家安全保障を達成するためには、国際社会や国民の理解を得ることが極めて重要」「諸外国との協力関係強化や信頼醸成を図る必要がある」と強調していた。
中国は「日本が歴史の教訓をくみ取り、専守防衛の約束を誠実に履行し、行動で平和発展の道を歩むよう促す」(外務省副報道局長)と早くも警戒している。
米中対立などで東アジア情勢の緊張が高まる中、近隣諸国の理解を得ないまま、敵基地攻撃能力の保有へと進めば、地域の新たな懸念材料になる可能性もある。
「先制攻撃能力」へ道 安保政策大転換の恐れ 抑止力向上か危険増大か
東京新聞 2020年8月27日
政府は、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備を撤回したことを受け、敵基地攻撃能力の保有を含む安全保障政策見直しの検討を近く本格化させる。9月中に一定の結論を得る方針だ。相手国内の兵器を攻撃する能力を備えれば、抑止力の向上につながるとの考えだが、逆に周辺国に脅威を与え、緊張を高めかねない。「先制攻撃」が可能になる能力との見方もでき、専守防衛を堅持してきた日本の安保政策を大きく転換させる懸念も高まる。
敵がミサイルを発射する前に拠点をたたく敵基地攻撃能力について政府は従来、憲法上は保有を認められるが、専守防衛の観点から政策判断として持たないとの立場を維持してきた。だが、地上イージス配備と入れ替わる形で政府・自民党内に保有論が台頭。安倍晋三首相は6月の記者会見で「新しい方向性を打ち出す」と安保政策を見直し、保有を視野に検討する意向を表明した。
自民党は8月、首相の指示を受け、事実上の敵基地攻撃能力である「相手領域内で弾道ミサイルなどを阻止する能力」の保有を求める提言を政府に提出。北朝鮮や中国、ロシアが「従来のミサイル防衛システムを突破するような新しいミサイル開発を進めている」ことを理由に抑止力の向上が必要だと主張した。不規則な軌道を描く新型ミサイルなどは、地上イージスを含む日本の防衛システムでは迎撃できず、対応は「喫緊の課題」と位置づけている。
相手国のミサイルを事前に破壊できる能力があれば、日本への攻撃を思いとどまらせることができる―。政府・自民党が保有の必要性を説く根拠だ。
だが、相手国内への攻撃が可能になれば、相手側が日本を標的にする口実になり、かえって危険が増す懸念がある。敵基地攻撃は自衛の範囲内で、国際法が禁じる先制攻撃に当たらないというのが政府の解釈だが、周辺国が警戒感を強め、軍拡競争など緊張を高める恐れも否定できない。
日米の軍事的一体化が加速する可能性もある。敵基地攻撃には、低軌道衛星など米軍の装備品が必要とされるからだ。自衛隊が攻撃能力を持てば、より主体的な任務を求められることも予想される。自民党の提言は、相手国の破壊に用いる兵器は持たず、装備品も最小限度に限るとするが、線引きは曖昧だ。
安保政策上、敵基地攻撃能力の保有は地上イージスの配備に比べ、大転換へとつながる多くの論点を抱えるが、政府・自民党の国民への説明は十分とは言い難い。国民的議論は置き去りのままだ。(上野実輝彦)
◆防げぬミサイル、緊張緩和以外に日本の安全はない<柳沢協二さんのウオッチ安全保障>
地上イージスの配備中止と敵基地攻撃論が、どうつながるのか。地上イージス中止の理由は、ブースターが近隣地域に落下するのを防ぐ改修に2000億円かかることだった。だが、代わりにイージス艦を2隻増やすなら3000億円かかる。敵基地攻撃には、ミサイルの位置とそれが攻撃態勢にあることを判断する情報が不可欠で、1基100億円の偵察衛星が何10基も必要になる。
今やミサイルは、極超音速滑空弾の時代だ。イージス・システムでは撃ち落とせない。落とせないなら基地を破壊しようというのが、敵基地攻撃論だ。
しかし、全ての基地を同時に破壊できなければ、残りのミサイルが確実に飛んでくる。ミサイルを巡る「矛」と「盾」の競争は、依然として攻撃優位だ。だから、ミサイルのつぶし合いになる。こうした状況は疑心暗鬼を招き、抑止を不安定化させる。
米インド太平洋軍が3月に発表した「全領域作戦」では、中国を念頭に、グアムを守る統合ミサイル防衛と、日本・沖縄を含む第一列島線への精密攻撃ミサイル配備が示されている。ミサイル軍拡競争の激化が予想され、その米軍と一体化すれば、米中戦争に巻き込まれるリスクも高まる。
専守防衛とは、相手に脅威を与えないことで戦争の動機をなくす戦略だ。その条件は大国関係の安定だ。ミサイルを防げない時代だからこそ、米中・米朝の緊張を緩和する以外、日本の安全はない。それを考えることが政治の第一の責務ではないか。(元内閣官房副長官補、寄稿)
「地上イージスより安い」理由も2倍超の試算も 敵基地攻撃能力の保有
東京新聞 2020年8月27日
防衛省は地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の迎撃ミサイルに技術的問題が見つかり、改修に2000億円以上かかることを撤回の理由に挙げたが、敵基地攻撃能力を保有する場合、どれぐらいの費用が必要なのか。防衛大の武田康裕教授は、地上イージスより年間で2倍超という試算をまとめた。全ての装備を独自に持つと年間863億円かかり、5兆円を突破した防衛予算をさらに膨張させる懸念がある。
敵基地攻撃には
(1)目標地点の正確な把握
(2)相手国の防空網の無力化
(3)正確な打撃
が必要。米軍の「矛」に依存せず、日本独自で能力を保持するには、さまざまな装備が必要となる。
相手国の防空網を制圧し、自衛隊が危険を避けて攻撃するのに欠かせないのが、敵のレーダーや通信を妨害する機能。優れた性能を持つ米国製電子戦機「EA18―G」を採用すれば、年間119億円かかる。
爆撃には、自衛隊が導入を始めているステルス戦闘機F35Aを42機配備すると想定し、誘導爆弾なども搭載すると、年間コストは744億円に上る。
防衛省は、地上イージスの購入と30年間の維持費などの総額を4504億円と見積もっていた。これに対し、武田氏は研究開発費や人件費なども加えて20年間で総額8250億円と、防衛省の見積もりを上回る費用がかかると試算。使用年数で割ると1年当たり413億円だが、それでも敵基地攻撃能力の費用が450億円高い。
敵基地攻撃能力と地上イージスをはじめとするミサイル防衛(MD)システムのいずれを選択する場合でも、弾道ミサイルなどの攻撃目標を正確にとらえる早期警戒衛星の活用が不可欠。日本が独自に保有すればさらに年間850億円の費用が上乗せされる。
武田氏は「敵基地攻撃は防衛の効果は高いものの専守防衛の考え方に抵触する恐れがあるので、兵器コストだけでなく世論を説得する政治コストも生じる可能性がある」と指摘した。(山口哲人)