菅首相と小池都知事が16日午後、「抗体カクテル療法」を実施している都内の宿泊療養施設を視察したそうです。この「呉越同舟」の視察イベントは、官邸の働きかけで急きょ組まれたものでした。官邸は単なるパフォーマンスを狙ったのかも知れませんが、現場を見て実態を悟ること自体は結構なことです。
菅首相はこれまで「ワクチン接種が普及すればコロナは収まる」という、誰が聞いても首を傾げる間違った考えを恥ずかしげもなく公言していましたが、ようやくそれがいま主流のデルタ株には殆ど効かないことが分かってきたのでしょうか。だからと言って今度は「抗体カクテル」を切り札にしようとしても、そもそも飲み薬とは違うので「病院で点滴」するしかありません。
何よりも自宅療養者が3万5千人もいることを放置していては、切り札にはなりません。
それとは別に東京都は10日、濃厚接触者や感染経路を詳しく調べる「積極的疫学調査」を縮小する方針を各保健所に通知しました。重症化リスクの高い高齢者施設や医療機関の調査を優先させれば保健所の負担は軽減されますが、それに便乗して感染者の家族であっても濃厚接触者と見做さずに検査もしないというのでは話になりません。まさに感染者数の隠蔽で、そうなれば「水面下での感染拡大」となり感染爆発は留まるところを知らなくなります。
隠蔽とゴマカシは安倍・菅政権の最悪の特徴ですが、小池都知事も全く同類だったということです。しかし感染者数の隠蔽は決してそれだけに留まることはあり得ません。そもそも調査縮小により数値と実態がかけ離れれば第5波の全貌も把握できなくなります。
因みに都は1日あたりのPCR等の検査能力を通常時7万件、最大稼働時9万7000件確保していますが、このところの検査数は1万~1万5000人程度にとどまっています。
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“犬猿の仲”菅首相&小池都知事 苦し紛れタッグ結成のウラ側と思惑
日刊ゲンダイ 2021/08/17
「抗体カクテル」現場を突然視察
焦りは相当なもののようだ。菅首相と小池都知事が16日午後、重症化を防ぐ「抗体カクテル療法」を実施している都内の宿泊療養施設を視察。重症化リスクを7割減らせるという“特効薬”について菅首相は「対策として大事」と強調。小池知事も「大きな武器になる」と期待を込めた。犬猿の仲といわれる2人の意見が、珍しく一致した格好だ。実は「呉越同舟」の視察イベントは、急きょ組まれたものだった。
「小池知事は先週末時点で、16日午後は『都庁内で仕事』という予定になっていた。それが当日朝、急に『視察』に変わりました。視察プランを主導したのは官邸サイドとみられています」(都政関係者)
突然の“タッグ”結成はもちろん思惑含みだ。
「2人にとって頼みの綱のワクチンは、デルタ株(インド株)の出現で効果が微妙になっている。『ワクチン一本足打法』では持たないと抗体カクテル療法を新たなアピール材料にしようとしているのです。ただでさえ『都内の感染爆発は五輪強行のせい』という批判が2人に向かっています。“やってる感”を出すため、苦し紛れでタッグを組んだのでしょう」(永田町関係者)
もともと、抗体カクテル療法として新たに承認された治療薬は、入院患者にしか使えないとみられていた。今後、宿泊療養施設で使えるようになれば、軽・中等症患者の重症化を防げる可能性がある。歓迎すべきことだがちょっと待ってほしい。
都内では感染者激増のため病床が逼迫。宿泊療養施設に入れない人も出ている状況だ。都が確保する宿泊療養施設のうち、受け入れ可能なのは計3210人分で、昨夜時点で実際に使用されているのは1629人分。一方、入院・療養等調整中は1万1642人だ。病院や施設からあふれている人が大勢いるのだから、カクテル療法の前にやるべきことがあるんじゃないか。昭和大医学部客員教授の二木芳人氏(臨床感染症学)はこう言う。
「抗体カクテル療法自体は重要な治療法だと思います。しかし、治療薬は数に限りがあり、まだ幅広く使用できる段階にありません。現状は、療養施設に入れず、自宅療養せざるを得ない患者が増えているわけですから、まずは療養施設自体や『野戦病院』のような施設を増やすべきです。新型コロナは容体が急変するケースが多いので、患者には医師や看護師の目が届く施設にいち早く移ってもらうことが重要なのです」
菅首相や小池知事が「ワクチン」「治療薬」と聞こえのいい言葉を連発する時こそ、注意すべきだ。
東京都が「積極的疫学調査」縮小!「隠れ陽性」と「死後コロナ判明」の激増を専門家が強く危惧
日刊ゲンダイ 2021/08/17
東京都は濃厚接触者や感染経路を詳しく調べる「積極的疫学調査」を縮小する方針を各保健所に通知した(10日付)。重症化リスクの高い高齢者施設や医療機関の調査を優先させる。保健所の負担が軽減される半面、陽性者の発見はおろそかになる。この先、「隠れ陽性」と「死後のコロナ判明」が激増する恐れがある。
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新型コロナウイルスの感染拡大を止めるには、陽性者の行動歴をさかのぼり、濃厚接触者を特定するのが必須だ。積極的疫学調査を縮小すれば、隠れ陽性者が野放しになり、際限なく感染が広がるリスクが高まる。
一方、表向きの数値は改善する。追わなければ、新規感染者数は積み上がらないからだ。例えば、感染拡大が深刻な川崎市では保健所業務が逼迫し、濃厚接触者を追い切れていない。
「保健所業務が追い付かず、区によっては同居家族の濃厚接触者もPCR検査をできない場合があります。しっかり検査をできていれば、感染者数は増え、陽性率も上がるでしょう」(川崎市感染症対策課)
同居家族は典型的な濃厚接触者だ。感染力の強いデルタ株(インド株)の登場以降、同居家族が「陽性」になる確率は大幅に高まっている。ところが、川崎のようにPCR検査が実施されなければ、同居家族は陽性者にはなり得ず、市が発表する新規感染者数にはカウントされないのである。療養者数も増えず、自宅療養者数の増加や入院率の悪化にも“歯止め”がかかったように見えるのだ。
新規感染者数などの数値改善は“見せかけの減少”に
都の調査縮小も見た目の“数値改善”の効果がありそうだ。西武学園医学技術専門学校東京校校長の中原英臣氏(感染症学)が言う。
「積極的疫学調査の縮小により、一見、新規感染者数などの数値が改善されたように見えても、水面下で感染拡大は進行します。検査を受けられなかった潜在陽性者に対する治療もできなくなり、死後、コロナの陽性が判明するケースが増えてもおかしくありません」
都は今年1月の第3波で保健所業務が逼迫し、1月22日から「調査縮小」に踏み切った。この時は新規感染者数のピークは過ぎ、減少傾向に転じていた。第5波はいつピークアウトするのか分からない。調査縮小により、数値と実態がかけ離れれば、第5波の全貌も把握できなくなる。
「検査余力はあるはずです。小池知事は調査縮小ではなく、検査拡充を行い、実態を直視すべきです。調査縮小では、後々、大きなツケが都民に回ってくるだけです」(中原英臣氏)
都は1日あたりのPCR等の検査能力を通常時7万件、最大稼働時9万7000件確保しているが、足元の検査数は1万~1万5000人程度にとどまっている。
小池知事は16日、「縮小ではない。効率を上げるという意味だ」と言い繕った。トリックに引っかかってはならない。