2021年8月30日月曜日

30- 接種率78% 「イスラエル」で感染再爆発 死亡者増加のなぜ

 イスラエルのワクチン接種率は78%と世界最高レベルです。この春、感染者数が低下すると経済の完全再開を目指す政府は接種証明書を廃止し、移動制限を緩めるなどコロナ関連の規制を全面解除し、最後まで残っていた屋内でのマスク着用義務も6月15日に撤廃しました。

 ところがその後感染率が上昇し、イスラエルではここ1カ月で死者数も増加傾向となっています。それはワクチンの感染予防効果が弱まったためで、感染してもワクチンにより重症化は防げているという見方もある一方で、一部データは、早い段階で接種を済ませた人々の間で重症化リスクが高まった可能性を示しています。
 いずれにしてもワクチンの有効期限はかなり短い可能性があります。
 東洋経済オンラインが New York Timesの記事を紹介しました。
 その記事の中で6月中旬以降感染が再爆発した経過について次のような記載があります。
 屋内でのマスク着用義務が撤廃された6月15日の数日前、ある家族がギリシャ旅行からイスラエル中部のモディーン市に戻りました。同市は12歳以上の住民の90%以上がワクチン接種を完了しイスラエルでもトップクラスの接種率でしたが、この家族には接種可能な年齢に満たない子どもがおり、その子どもはPCR検査で陰性が確認できるまで最低でも自宅で10日間待機する必要があったのですが、保護者は子どもを学校に行かせた結果、約80人の生徒がデルタ株に感染しました。その後デルタ株はイスラエル全域に広がり、今では感染の大部分が国内のデルタ株によるものになっているということです。当然子どもから親には感染しにくいということもありません。大いに参考にすべきことです。
 東洋経済オンラインの記事を紹介します。
 併せてしんぶん赤旗の主張を紹介します。
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 接種率78%「イスラエル」で死亡者増加のなぜ
 「集団免疫」の勝利から一転、ロックダウンも
          The New York Times 東洋経済オンライン 2021/08/24
 今年春、ワクチン接種を驚くべき速度で進めたイスラエルは新型コロナ対策の世界的模範と目されていた。感染者は大幅に減り、接種完了者は電子的な接種証明書「グリーンパス」を提示することで屋内のコンサートやスポーツイベントに参加できるようになった。最終的には、マスク着用義務も撤廃された。
 イスラエルは世界にとって、コロナ禍から抜け出す希望の光だった。今は、もう違う。

「輝かしい手本」が「他山の石」に
 イスラエルの感染者数は現在、同国が最悪期を経験した今年冬の水準に急速に近づいている。1日当たりの新規感染者数は過去2週間で2倍以上に増加。世界でも感染が最も急速に広がっている地域の1つとなっている。8月中旬には、集会および商業・娯楽施設に関する行動制限が再開された。政府はロックダウン(都市封鎖)の再発動も検討している。
 輝かしい模範だったはずのイスラエルはなぜ「他山の石」に成り果てたのか。科学者による原因究明作業はまだ完了していないが、事態が一気に暗転したことでナフタリ・ベネット新首相は厳しい試練にさらされている。
 一部の専門家が懸念するのは、時間の経過とともにワクチンの効果が低下した可能性だ。イスラエルでは、早期にワクチン接種を済ませた人が感染する確率が高まってきている。アメリカが9月から幅広い国民を対象に3回目のブースター接種を開始するとした決定も、こうした知見に基づいている。
 デルタ株は感染力が極めて強く、ワクチンの感染予防効果が弱まったおそれがある。
 イスラエルでは、ソーシャルディスタンシング(密の回避)など感染予防を目的とした行動規制が6月には解除されるようになっていた。最悪期は脱したという確信からだ。
 政府にコロナ対策を助言する専門家パネルの責任者ラン・バリサー氏によれば、「あの時点での支配的な物の見方」は次のようなものだった。「イスラエルは世界で最も接種の進んだ国であり、接種済みの人が感染することはほとんどなく、感染して重症化する確率はさらに低い。基本的に国民は集団免疫に極めて近い状態にある。これは当時としては間違った見方ではなかった」。
 問題は、従来株の常識が「その後の変異株には必ずしも通用しなかったことと、そこに時間の経過によるワクチンの免疫力低下が重なったことだった」とバリサー氏は話す。
 イスラエルでは2月末までに高齢者の圧倒的大多数が、ファイザーとビオンテックが共同開発したワクチンの2回接種を完了。現在では、接種可能な12歳以上の約78%が2回のワクチン接種を済ませている。
 ワクチンには今も重症化を防ぐ効果があると考えられているが、イスラエルの一部データは、早い段階で接種を済ませた人々の間で重症化リスクが高まった可能性を示している。感染率が上昇する中、イスラエルではここ1カ月で死者数も増加傾向となっている。
 経済の完全再開を目指すイスラエルは、春に感染者数が低下すると接種証明書を廃止。移動制限を緩めるなど、コロナ関連の規制を全面解除した。最後まで残っていた屋内でのマスク着用義務も6月15日に撤廃した。

子どもの学校感染が発火点
 ところが、その数日前、ある家族がギリシャ旅行からイスラエル中部のモディーン市に戻ってきていた。テルアビブとエルサレムの間に位置する中産階級のベッドタウンだ。市長によると、同市は12歳以上の住民の90%以上がワクチン接種を完了し、イスラエルでもトップクラスの接種率を誇る。
 この家族には接種可能な年齢に満たない子どもがおり、当時の規則では、その子どもはPCR検査で陰性が確認できるまで最低でも自宅で10日間待機する必要があった。にもかかわらず、護者は子どもを学校に行かせ、結果的に約80人の生徒がデルタ株に感染した
 その後、デルタ株はイスラエル全域に広がり、今では感染の大部分が国内のデルタ株によるものになっている
 バリサー氏は、当初の対策は効果を上げたとはいえ、イスラエルのパンデミックはまだ終わっていない、と5月に警鐘を鳴らしていた。ワクチンの効きにくい変異株が出現する危険が引き続き存在していたからだ。
 人口900万人のイスラエルには、接種を避けている人が今も100万人ほどいる。さらに、最初に接種を受けた高齢者を中心に、ワクチンによる免疫が時間とともに弱まってきたことを示す証拠が科学者によって次々と確認されるようになった。

デルタ株への予防効果は39%に
 イスラエル保健省が7月下旬に公開したデータによると、イスラエルにおけるファイザー製ワクチンの感染予防効果は1〜4月上旬の95%に対し、6月下旬〜7月上旬には39%まで下がっていた。ただし、重症化予防効果はいずれの期間も90%を上回っている
 専門家は、これは暫定的な評価にすぎず、まだ科学的に証明されたわけではないと言うが、それでも感染状況は夏にかけてスパイラル的に悪化した。
 学校が休みになり、国内のホテルも家族連れで混み合うようになった。デルタ株が世界中で猛威を振るう中、1日当たり最大4万人が国外に出かけた。6月には新型コロナ感染症による死者がゼロの日も多かったイスラエルだが、8月の死者数は、月末まで10日以上残した段階ですでに230人を超過した。
 感染の中心はこれまで、ワクチン接種率が低く、密集して暮らす超正統派ユダヤ教徒のコミュニティーだったが、今回は中産階級が暮らす接種率の高い郊外が中心になっている。
 専門家からは、新政権の対応の遅さを批判する声が上がる。
 今回の感染再拡大は、6月中旬のベネット新政権発足と重なるようにして進んできた。すでに3度のロックダウンを経験したイスラエルでベネット政権は、ウイルスと共生しながら経済をフルに回すという新たな方針で臨んだ。ベネット氏はこれを「ソフトな抑え込み」政策と呼んだ。
 感染の再拡大を受けて、6月25日には屋内でのマスク着用が再び義務化されたが、ルールは十分に守られなかった。危機感を募らせた医療専門家は、あらゆる集会の制限を含む一段と厳しい措置の導入を求めるようになり、政府の諮問委員会も7月と8月1日の2度にわたってグリーンパスの即時再導入を呼びかけた。
 「緊迫感がやっと戻ってきたのは、ここ2週間のことだ」と諮問委員会のメンバーを務める公衆衛生の専門家ナダブ・ダビドビッチ氏は言う。「今行っている対策は、7月に講じておくべきものだった」。
 ただ、春につかの間の成功を味わい、コロナ疲れの広がるイスラエルでは、人々の行動を再び引き締めるのは難しくなっている。感染が広がる中でも国民の危機感が高まってこない状況に、当局は不安を隠さない。

崩れたワクチン一本足打法
 イスラエルが今、望みをかけているのが3回目のブースター接種だ。60歳以上から始まったブースター接種は接種対象を50歳以上へと足早に拡大し、すでに今月、100万人以上が3回目の接種を完了した。
 しかし、3回目の接種を終えたダビドビッチ氏は今、対策を何重にも重ねる必要があると確信している。マスクの着用、多くの人が利用する施設への入場を接種者もしくは感染から回復した人に限定する措置、医療提供体制の強化といった対策を何層にも積み重ねる戦略だ。
 ダビドビッチ氏が言う。「以前はワクチンですべてが解決すると思われていた。私たちは今、ワクチンだけでは十分でないことを知っている」。(執筆:Isabel Kershner記者)


主張 デルタ株と新学期 「災害級」にふさわしい対応を
                       しんぶん赤旗 2021年8月29日
 コロナ感染「第5波」では感染性がより高いデルタ株が主流になり、子どもの陽性者が急増しています。感染状況が大きく変わる中、「子どもが感染し親が感染することも心配」などの不安が広がっています。日本共産党は、夏休み明けの学校の感染対策について緊急提案を政府に行いました。感染拡大を防ぐ対応が急がれます。

リスクを踏まえて柔軟に
 感染しにくいとされていた子どもの感染が顕著です。感染はおとなから子どもにと指摘されていたものが、子どもから親へと感染するパターンが報告されるようになりました。しかも保護者世代はワクチン接種が間に合っていません。各地で医療崩壊が始まり入院できないケースが続出するただ中です。デルタ株は子育て世代にとっても、これまでで最大の脅威といって過言でありません。
 学校再開で感染爆発に拍車をかけることは絶対に避けなければなりません同時に、一斉休校などで子どもの成長に深刻なダメージを与え、不安定雇用のもとで働く多くの保護者を失職に追い込むようなことも防がなければなりません。かつてない事態に、知恵と力を集めて、社会全体で乗り切ることが求められています。
 緊急事態宣言の地域などの学校再開は柔軟にすべきです。登校を見合わせたい子どもには、それを可能とし、学びなども支援する。身体的距離を取るため分散登校にする。オンライン授業を活用する―これらを適切に組み合わせることが重要です。必要な子どもが朝から登校できるようにすること、感染状況の異なる高校と小中学校等との区別も大切です。国の方針は、登校見合わせを、家族に基礎疾患がある場合に限るなど柔軟性に欠けています。学習指導要領の弾力化と合わせ転換を求めます
 教室でのエアロゾル感染(空気感染)への注意が必要です。空気を短時間入れ替える常時換気と不織布マスクの着用に大きな効用があります。国の予算で必要な子どもに不織布マスクを支給すべきです。部活動や秋の大会なども真剣な検討が必要です。
 陽性者が出た場合、即座に広めのPCR検査を行うことも共産党は提案しました。「給食は15分以内だから濃厚接触者はおらず、検査もしない」では感染拡大を防げないからです。党の提案の直後、政府は「学級等の全ての者を検査対象の候補とする」ことも可能としました。一歩前進です
 ドイツでは広範な検査の一環として児童生徒に週2回、迅速な抗原検査をしています。政府は教員への定期的な検査の検討を始めました。急ぐとともに、子どもも対象にすべきです。国が高校で行うよう配布した迅速な抗原検査キットは、採取に必要な場所も防護具もないなど問題が噴出しています。対応策を示すべきです。

学びとゆとりの保障を
 子どもたちは長く我慢を強いられ、不満を募らせています。感染の仕組みを知り、自ら考え納得して行動を変え、部活動や行事でも「これなら可能」と前向きに話し合うことは、この時期こその大切な学びです。それには教職員が討議できるゆとりの保障も重要です。
 感染状況が今後も変わることは明らかです。変化を機敏にとらえ、これからの各地の取り組みの教訓も学び合い、対策を進めましょう