2021年8月7日土曜日

広島市長「核兵器と共存ありえない」禁止条約参加求める/広島平和宣言

 原爆が投下されてから76年となる広島原爆忌・平和記念式典には、83の国の代表などが参列しました。新型コロナの感染が拡大する中、去年に引き続き式典の規模が縮小され、参列者は例年の1割に満たない751人となりました。

 式典ではこの1年に亡くなった人たち4800人の名前が書き加えられた、32万8929人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められました。
 広島市の松井市長は平和宣言で「人々を無差別に殺害する核兵器との共存はありえない」と述べたうえで、日本政府に対し、被爆者の思いを誠実に受け止めて、ことし1月に発効した核兵器禁止条約に参加し、核保有国と非保有国の橋渡し役をしっかりと果たすよう求めました。

 菅首相は式典のあいさつの冒頭で「広島市」を「ひろまし」と噛み、原爆を「げんぱつ」と読み違えました。さらに、原稿1ページ分を読み飛ばしました。
 読み飛ばしたページには、「世界の実現に向けて力を尽くします、と世界に発信しました。我が国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、核兵器のない世界の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要です。近年の国際的な安全保障環境は厳しく」と書かれてありました。

 これについて、被爆者7団体の一つ、広島被団連事務局長の田中聡司さんは「不勉強かつ不誠実。菅首相の基本的な姿勢が表れたのだと思う」と批判しました
 式典に出席していた共産党の志位委員長はツイッターに、「現場で聞いていて日本語としておかしいと思っていたが、まさか読み飛ばしとは。原爆死没者、被爆者、被爆地に礼を失している」と投稿し、新型コロナ対応も含めて、「この政権と首相はある種の『機能不全』『機能崩壊』に陥っているのではないか」と指摘しました。
 また共産党の田村智子政策委員長は6日の記者会見で、「あまりに不誠実だ。暑かったかもしれないが、世界も注目する式典だから、ぼーっとしてないでしゃんとしなさいと言いたい」と批判しました。
 読み飛ばしたページはノリで一部が前のページに貼りついていたということですが、なぜ事前に確認しなかったのか、あらゆることを人任せにしていることの現れです。

 首相は式典に出席したあと原爆資料館を訪れ、資料館を訪れた各国の元首や首脳たちがメッセージを記載する芳名録に、単に「内閣総理大臣 菅義偉」と筆太に大書しましたここを訪れたオバマやバッハはそれぞれコメントを記していました。
 TBSTVが首相の署名した個所を大写しにしていたのは違和を持ったからでした。
 TBSは6日のNスタで、原稿の読み飛ばしについて、「頭を全く使わずに喋ってることの表れだよ。総理が自分の言葉で話してないから伝わらないし、こういうことが起きる」という自民ベテラン議員の言葉を紹介し、「コロナ対策などに追われる菅総理。自民党内からも疲れの心配や発信力不足を懸念する声が日増しに高まっています」と結んでいました

 NHKの記事と松井広島市長による「平和宣言」を紹介します。
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島 松井市長「核兵器と共存ありえない」禁止条約参加求める
                      NHK NEWS WEB 2021年8月6日
広島に原爆が投下されて6日で76年となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大で例年どおりの追悼が難しくなっていますが、被爆地 広島では犠牲者を追悼し、核兵器のない世界の実現に向けた訴えを国内外に発信する一日が続いています。
広島市の平和公園で行われた平和記念式典には、被爆者や遺族の代表をはじめ、菅総理大臣のほか83の国の代表などが参列しました。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、去年に引き続き式典の規模が縮小され、参列者は例年の1割に満たない751人となりました。
式典ではこの1年に亡くなった人や死亡が確認された人、合わせて4800人の名前が書き加えられた、32万8929人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められました。
そして、原爆が投下された午前8時15分に参列者全員で黙とうをささげました。
広島市の松井市長は平和宣言で「人々を無差別に殺害する核兵器との共存はありえない」と述べたうえで、日本政府に対し、被爆者の思いを誠実に受け止めて、ことし1月に発効した核兵器禁止条約に参加し、核保有国と非保有国の橋渡し役をしっかりと果たすよう求めました。
そして「黒い雨」をめぐる裁判で国が上告を見送ったことを踏まえ、原告以外の黒い雨体験者を早急に救済するよう求めました。
これに対し菅総理大臣は「核軍縮を進めていくためには、さまざまな立場の国々の間を橋渡ししながら、現実的な取り組みを粘り強く進めていく必要がある。核兵器不拡散条約体制の維持・強化が必要だ」と述べ、核兵器禁止条約には直接触れませんでした。
一方、黒い雨については「原告の皆様と同じような事情にあった方々についても救済できるよう早急に検討を進める」と述べました。
式典に参列した「黒い雨」の裁判で原告団長を務めた高野正明さん(83)は「黒い雨を浴びて亡くなった人がたくさんいる。命あるかぎり実相を伝えていきたい」と話していました。
また、原告の高東征二さん(80)は「手帳を取得できたという意味で去年とは違う式典だった」としたうえで、式典前に菅総理大臣とことばを交わし、まだ手帳の交付を受けていない人に対して速やかに手続きを進めてほしいと要望したことを明らかにしました。
被爆者の平均年齢はことし84歳に迫り、高齢化が一層進む中、若い世代がSNSで式典の様子を発信するなど、被爆の記憶を次の世代につなごうという動きも出ています。
被爆地 広島では犠牲者を追悼し、核兵器のない世界の実現に向けた訴えを国内外に発信する一日が続いています。

菅首相 あいさつ一部読み飛ばし 陳謝
菅総理大臣は平和記念式典に出席したあと記者会見し「先ほどの式典のあいさつの際、一部を読み飛ばしてしまい、この場をお借りしておわびを申し上げる」と陳謝しました。
菅総理大臣のあいさつの文案には「わが国は核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要です」などと記されていました。

菅首相 原爆資料館を視察
菅総理大臣は平和記念式典に出席したあと原爆資料館を訪れ、熱線と爆風で街が一瞬にして破壊された様子を再現した展示などを視察しました。
この中で菅総理大臣は、広島の市街地の模型にコンピューターグラフィックスで制作した映像を映すことで、熱線と爆風で街が一瞬にして破壊された様子を再現する「ホワイトパノラマ」という展示を視察しました。
また、亡くなった子どもたちが着ていた衣服や、やけどを負った人の写真などを見て回り、資料館を訪れた各国の元首や首脳たちがメッセージを記載する芳名録に「内閣総理大臣 菅義偉」と記しました。
                 (後 略)

                                 

76年前の今日、我が故郷は、一発の原子爆弾によって一瞬で焦土と化し、罪のない多くの人々に惨(むご)たらしい死をもたらしただけでなく、辛うじて生き延びた人々も、放射線障害や健康不安、さらには生活苦など、その生涯に渡って心身に深い傷を残しました。被爆後に女の子を生んだ被爆者は、「原爆の恐ろしさが分かってくると、その影響を思い、我が身よりも子どもへの思いがいっぱいで、悩み、心の苦しみへと変わっていく。娘の将来のことを考えると、一層苦しみが増し、夜も眠れない日が続いた。」と語ります。

「こんな思いは他の誰にもさせてはならない」、これは思い出したくもない辛く悲惨な体験をした被爆者が、放射線を浴びた自身の身体(からだ)の今後や子どもの将来のことを考えざるを得ず、不安や葛藤、苦悩から逃れられなくなった挙句に発した願いの言葉です。被爆者は、自らの体験を語り、核兵器の恐ろしさや非人道性を伝えるとともに、他人を思いやる気持ちを持って、平和への願いを発信してきました。こうした被爆者の願いや行動が、75年という歳月を経て、ついに国際社会を動かし、今年1月22日、核兵器禁止条約の発効という形で結実しました。これからは、各国為政者がこの条約を支持し、それに基づき、核の脅威のない持続可能な社会の実現を目指すべきではないでしょうか。

今、新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、人類への脅威となっており、世界各国は、それを早期に終息させる方向で一致し、対策を講じています。その世界各国が、戦争に勝利するために開発され、人類に凄惨(せいさん)な結末をもたらす脅威となってしまった核兵器を、一致協力して廃絶できないはずはありません。持続可能な社会の実現のためには、人々を無差別に殺害する核兵器との共存はあり得ず、完全なる撤廃に向けて人類の英知を結集する必要があります。

核兵器廃絶の道のりは決して平坦ではありませんが、被爆者の願いを引き継いだ若者が行動し始めていることは未来に向けた希望の光です。あの日、地獄を見たと語る被爆者は、「たとえ小さなことからでも、一人一人が平和のためにできることを行い、かけがえのない平和を守り続けてもらいたい。」と、未来を担う若者に願いを託します。これからの若い人にお願いしたいことは、身の回りの大切な人が豊かで健やかな人生を送るためには、核兵器はあってはならないという信念を持ち、それをしっかりと発信し続けることです。

若い人を中心とするこうした行動は、必ずや各国の為政者に核抑止政策の転換を決意させるための原動力になることを忘れてはいけません。被爆から3年後の広島を訪れ、復興を目指す市民を勇気づけたヘレン・ケラーさんは、「一人でできることは多くないが、皆一緒にやれば多くのことを成し遂げられる。」という言葉で、個々の力の結集が、世界を動かす原動力となり得ることを示しています。為政者を選ぶ側の市民社会に平和を享受するための共通の価値観が生まれ、人間の暴力性を象徴する核兵器はいらないという声が市民社会の総意となれば、核のない世界に向けての歩みは確実なものになっていきます。被爆地広島は、引き続き、被爆の実相を「守り」、国境を越えて「広め」、次世代に「伝える」ための活動を不断に行い、世界の165か国・地域の8,000を超える平和首長会議の加盟都市と共に、世界中で平和への思いを共有するための文化、「平和文化」を振興し、為政者の政策転換を促す環境づくりを進めていきます。

核軍縮議論の停滞により、核兵器を巡る世界情勢が混迷の様相を呈する中で、各国の為政者に強く求めたいことがあります。それは、他国を脅すのではなく思いやり、長期的な友好関係を作り上げることが、自国の利益につながるという人類の経験を理解し、核により相手を威嚇し、自分を守る発想から、対話を通じた信頼関係をもとに安全を保障し合う発想へと転換するということです。そのためにも、被爆地を訪れ、被爆の実相を深く理解していただいた上で、核兵器不拡散条約に義務づけられた核軍縮を誠実に履行するとともに、核兵器禁止条約を有効に機能させるための議論に加わっていただきたい。

日本政府には、被爆者の思いを誠実に受け止めて、一刻も早く核兵器禁止条約の締約国となるとともに、これから開催される第1回締約国会議に参加し、各国の信頼回復と核兵器に頼らない安全保障への道筋を描ける環境を生み出すなど、核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかりと果たしていただきたい。また、平均年齢が84歳近くとなった被爆者を始め、心身に悪影響を及ぼす放射線により、生活面で様々な苦しみを抱える多くの人々の苦悩に寄り添い、黒い雨体験者を早急に救済するとともに、被爆者支援策の更なる充実を強く求めます。

本日、被爆76周年の平和記念式典に当たり、原爆犠牲者の御霊に心から哀悼の誠を捧げるとともに、核兵器廃絶とその先にある世界恒久平和の実現に向け、被爆地長崎、そして思いを同じくする世界の人々と手を取り合い、共に力を尽くすことを誓います。

                                                    令和3年(2021年)8月6日
                                                            広島市長  松井 一實