2021年8月20日金曜日

日医会も提案「野戦病院」なぜ設置しない? 東京都の返答は“意味不明”

「とくに、一人暮らしの方々などは、自宅も、ある種、病床のようなかたちでやっていただくことが、病床の確保にもつながるし、その方の健康の維持にもつながる」

 これは小池都知事が都庁で会見(728日)したときの言葉で、それは3日前の日曜日に「犬猿の仲」と言われている菅首相と1時間近く話し合って決めた、「コロナ中等症1は自宅療養を原則とする」案を小池氏の言葉で言い換えたものです(いずれも推測)。しかし全く理屈が通っていない話なので、なぜ自宅療養が「健康の維持につながる」のかは誰も理解できませんでした。
 人口数百人程度の寒村であるならばいざ知らず、いま東京都だけで3万5千人と言われるコロナの自宅療養者のケアを、各地域の医療施設が担当するなどは絵空事に過ぎません。患者数が膨大であればホテルや野戦病院的なベッド施設などに患者を集中させ、そこに一定人数の医療スタッフを常駐させること以外に、効率的に医療を行う方法はありません。諸外国が応急的(野戦病院的)なベッド施設などを作っているのは、少ない医療陣で最大効率を発揮するにはそうする他にはないからです。
 日本医師会の中川俊男会長は18日の会見で「大規模イベント会場、体育館、ドーム型の運動施設を臨時の医療施設として、集中的に医療を提供する場所を確保することを提案する」と述べました極めて合理的な提案です。
 これに関連して日刊ゲンダイが都の意向を確認したところ、感染症対策部から次のような回答があったということです。
「東京都には豊富な医療資源があります。役割分担をして、必要な施設を整備しながら体制をつくってきました。 いわゆる野戦病院のように患者を1カ所に集めてオペレーションするのが効率的との考え方があるのは承知しています。しかし、医療資源があるのに、わざわざ、医療的に環境の悪い体育館に臨時病床をつくる必要性はない。検討する予定もありません」
 医療資源が足りないからこそ自宅療養者が3万5千人に達したのではないでしょうか。応急的な野戦病院が正規の病院に比べて衛生状態が劣るのはやむを得ないことであって、自宅に放置しておくよりは遥かに良いという判断で各国は踏み切っている筈です。
 もしも「医療資源が足りているので検討する予定もない」というのであれば、まずは直ちに自宅療養者・待機者を解消すべきです。都知事の発言と同様に意味不明・理解不能の発言です。

 その点で大阪府は軽症者の重症化を防ぐため、今月下旬から宿泊療養施設で抗体カクテル療法を開始するほか、自宅療養者が外来病院で治療を受けられるように40の新型コロナ受け入れ医療機関を設ける。15日時点で15施設4148室だった宿泊療養施設を21施設6000室まで増やし、ホテルを『医療機関』として使用し、そこで当初は1日あたり20人程度抗体カクテル療法』を行う低層階のフロアにリクライニングチェアを並べて『点滴・病床フロア』にし、酸素室、観察室を設置する。そして状態が安定した患者は高層階の部屋に戻って健康観察を続ける」という方針を立てたということです。
 これまで吉村大阪府知事はコロナ対応でも様々な問題を引き起こしてきましたが、今回の方針は、東京都に比べて至れり尽くせりの対応で、ここにきて正解を得たのは大きいことです。
 それと対照的に、この危機に小池都知事は一体何を考えているのでしょうか。
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日医会も提案「野戦病院」なぜ設置しない? 東京都からの返答は“意味不明”だった
                          日刊ゲンダイ 2021/08/19
「デルタ株」が猛威を振るい、病床は日に日に逼迫、入院できない自宅療養者の死亡が相次いでいる。専門家からは、患者を1カ所に集めてケアできる「野戦病院」の設置を求める声が広がっている。ところが、東京都はまったく動こうとしない。なぜ、小池知事は野戦病院をつくろうとしないのか。

■コロナ在宅患者3万人超
 日本医師会の中川俊男会長は18日の会見で「大規模イベント会場、体育館、ドーム型の運動施設を臨時の医療施設として、集中的に医療を提供する場所を確保することを提案する」と語った。
 西村経済再生相も17日の国会審議で「プレハブでもテントででも対応していくよう関係自治体の知事と取り組んでいきたい」と答弁している。
 いますぐにでも臨時病床が必要なのが東京だ。在宅患者(自宅療養と入院等調整中)は3万人を超える。第5波で自宅療養中に死亡した人は7人。親子3人全員が感染して、40代の母親が死亡する悲劇も起きている。

■酸素ステーションは治療できない
 都は「酸素ステーション」の体制整備を進めているが、酸素ステーションは医師や看護師はいるものの、投薬など治療は行われない。インターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁院長はツイッターで〈酸素ステーション 残念だが意味がない。その前に投薬が必要。未治療で酸素だけをもらい、苦しむ場所にしかならない〉と疑問を呈している。
 やはり、これ以上、自宅療養中の死者を出さないために「野戦病院」をつくるべきなのではないか。都に聞いた。
「東京都には豊富な医療資源があります。役割分担をして、必要な施設を整備しながら体制をつくってきました。宿泊療養施設での抗体カクテル療法をできるようにしたり、酸素ステーションの整備も進めています。いわゆる野戦病院のように患者を1カ所に集めてオペレーションするのが効率的との考え方があるのは承知しています。しかし、医療資源があるのに、わざわざ、医療的に環境の悪い体育館に臨時病床をつくる必要性はない。検討する予定もありません」(感染症対策部)

「医療資源がある」は“意味不明”
 しかし、すでに都の医療資源が限界を超え、治療を受けられないコロナ患者があふれ返っているのが現実なのではないか。
 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長が言う。
「都は都民の命と健康を守る気がそもそもないのでしょう。できることは何でもやろうという姿勢はまったく見られない。だから、『医療資源がある』などと“意味不明”の理由になってしまうのです」
 東京都医師会の尾崎治夫会長も「野戦病院をつくるのが解決策になる」と訴えている。なぜ「野戦病院」をかたくなに拒むのか――小池知事は説明すべきだ。
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■厚労省「ラムダ株」濃厚接種者の調査リスト共有漏れ
 新型コロナの水際対策がザルであることがまた浮き彫りになった。先月20日、南米ペルーから羽田空港に到着した東京五輪関係者の30代女性が変異ウイルス「ラムダ株」への感染が確認されたことに関して、厚労省は機内での濃厚接触者の調査に必要なリストを、共有すべき関係自治体や大会組織委に送っていなかった。同省が18日発表した。同様のミスは「ベータ株」の感染者にも起きていた。
 国際線で感染が確認された場合、座席表に基づき前後2列に乗っていた人は濃厚接触した可能性があり、リストを自治体と組織委に送り確認する必要があった。厚労省は「担当者が業務に追われてリストを送るのを忘れてしまっていた」などと説明している。


吉村知事がブチ上げた新「大阪モデル」のリスクと勝算…抗体カクテルを打って打って打ちまくる
                          日刊ゲンダイ 2021/08/19
「大阪モデル」は重症患者減少の決め手となるのか――。
 新型コロナの新規感染者数が2296人と初の2000人超となった大阪府。重症者数は158人、自宅療養者数は1万58人と高い水準だ。府は軽症者の重症化を防ぐため、今月下旬から早期治療を実施する。宿泊療養施設で「抗体カクテル療法」を開始するほか、自宅療養者が外来病院で治療を受けられるように、40の新型コロナ受け入れ医療機関を設けた。
 なかでも吉村洋文知事が最も力を入れているのが、「抗体カクテル療法」だ。18日の定例会見では、「大阪が要請した125の医療機関が薬剤を確保している。(抗体カクテルが)全部でどれくらいあるか分からないが、数が限られていても集中投下して重症者を減らす。数が足りなくなったら批判されるかもしれないが、今、使うべき。何もしないリスク、倉庫に眠らせておくリスクの方が高い」と鼻息が荒かった。

自宅療養者も検査や治療が受けられるように
 府は15日時点で15施設4148室だった宿泊療養施設を21施設6000室まで増やし、ホテルを「医療機関」として使用するという。そこで当初は1日あたり20人程度、抗体カクテル療法を行う。低層階のフロアにリクライニングチェアを並べて「点滴・病床フロア」にし、酸素室、観察室を設置。状態が安定した患者は高層階の部屋に戻って健康観察を続ける。
 自宅療養者に関しては、約40の受け入れ医療機関が外来で患者のCT検査や薬剤投与を行い、自宅での継続治療か、入院を判断する。これまで自宅療養者は一度も受診できなかったケースが多かったが、自宅療養者も検査や治療を受けられるようになる
 府健康医療部感染症対策支援課の担当者がこう言う。
「自宅療養者が増えてきているので、体制を強化しなければ重篤化する患者が増えます。外来診察はこれまでの往診と健康観察に加え、状況に応じて治療できるようにしました。これらはすべて患者の重症化を防ぐための対策です。ただ抗体カクテル投与に関しては、現時点で外来診察ではできません。国の方針として、入院患者にしか使えないからです」
 ネックは、いくら抗体カクテル療法ができる体制を整えても、薬剤が底をついたり、対象者全員が滞在できる宿泊療養施設を用意できない恐れがあることだ。この先、6000室を確保するといっても現時点では5000室程度しかなく、とても1万人は収容しきれない。しかも清掃や患者の入れ替えで、実際の稼働率は7割程度だという。
 大阪では今年5月、国内最多の449人の重症者が確認され、感染防止策が後手に回った吉村知事は批判にさらされた。その教訓を生かせるのか