2021年8月5日木曜日

「病床逼迫しない」 から自宅療養拡大へ急転換 見通し甘い政府

 新型コロナ感染爆発を受けて、政府は入院対象を重症者や中等症のうち重症化リスクの高い患者らに限定し、自宅療養を基本とする新たな方針を打ち出しました

 ワクチン接種の進展を理由に「新規感染者が増えても病床は逼迫しない重症者や死亡者数はそれほど増加しない」としていた甘い想定(それは菅首相自身が絶えず口にしていたものでした)は脆くも崩れました。3日、官邸に呼ばれた日本医師会の中川会長は、自宅療養者の状況を往診やオンライン診療で把握して適切な医療を提供するよう協力を求められ、「頑張れるだけ頑張ると言うしかない」と記者に述懐しました。
 方針転換に追い込まれても、政府内には「症状に応じて回転させれば病床は足りている」として、いまなお楽観論が漂っているということです。「自助」が大好きな菅首相にとってはそうなのかも知れませんんが、医療崩壊が起きているという認識がないのは不思議というしかありません。
 国際医療福祉大の高橋和郎教授(感染症学)は「菅首相は場当たり的で何も分かっていない」とあきれますそんな人間に政治の舵取りは任せられません。
 菅首相は在宅患者にも抗体カクテル療法を積極的に実施すると口にしますが、実際には発売元は土日は休みなので金曜日に発注しても届くのは4日後の火曜日になるということです。これでは「発症後7日以内」に間に合う保証はありません。勿論 自宅に居ては点滴は出来ません。首相の言うこと為すことはこんな風に常にいい加減です。
 そもそも自宅にいる数万人の患者を地域の医療機関がその症状等を適正に管理するなどは不可能です。そんなことを頭ごなしに要請したところで出来ないものは出来ないのであって、東京都北区保健所長は「政府方針は寝耳に水。保健所にとっては困難な内容だ」と語りました
 酸素吸入するにしても、抗体カクテルを点滴するにしても、地域医療陣の応援を頼むというのであれば。なおさら各地域のホテルなどを確保するのが最低限の条件になります。
 東京新聞の4つの記事を紹介します。
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「病床逼迫しない」から自宅療養拡大へ急転換 見通し甘い政府 野党「首相自ら医療崩壊認めた」と批判
                          東京新聞 2021年8月4日
 新型コロナウイルス感染の急拡大を受けて、政府は入院対象を重症者や中等症のうち重症化リスクの高い患者らに限定し、自宅療養を基本とする新たな方針を打ち出した。ワクチン接種の進展を理由に「新規感染者が増えても病床は逼迫しない」としていた甘い想定は崩れ、野党は「医療の放棄だ」と批判を強める。(井上峻輔、村上一樹)

◆医師がいくらいても追いつかない…
 菅義偉首相は3日、官邸で日本医師会の中川俊男会長ら医療関係団体の代表と面会し「急激な感染拡大でも医療提供態勢を確保し、誰もが症状に応じて必要な医療を行うことができるよう方針転換した」と説明。自宅療養者の状況を、往診やオンライン診療で把握して適切な医療を提供するよう協力を求めた。
 中川氏は面会後、記者団に「感染が爆発的に増えていくと、(医師が)いくらいても追いつかないことは現実になる。頑張れるだけ頑張ると言うしかない」と悲壮感を漂わせた。

◆政府・与党に楽観論がまん延
 政府の唐突な方針転換は、この時期の病床逼迫に備えていなかったことの表れだ。高齢者へのワクチン接種の進展によって、重症者は減るとみていた。
 感染力が強いデルタ株への置き換わりにより、7月に入って新規感染者が増え続けても、政府・与党内では「これからは感染者数でなく重症者や死亡者数を見るべきだ」(自民党幹部)などの楽観論が支配的だった。首相も記者会見で、東京の状況に関し「人工呼吸器が必要な重症者数は1月と比較して半分。病床使用率も2割程度に抑えられている」と説明していた。
 しかし、7月下旬の4連休後、さらに感染者数は急増。29日には初めて全国の新規感染者数が1万人を超えた。政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長は28日の段階で「医療の逼迫が既に起き始めている」と明言。デルタ株は若い人でも重症化リスクがあり、感染者が増えれば重症者も増えるのは「必然的」(中川氏)だったのだ。

◆それでも「病床は足りている」
 方針転換に追い込まれても、政府内にはなお楽観論が漂う。政権幹部の一人は逼迫の理由を「軽症者や無症状者をどんどん入院させているからだ」と指摘。別の幹部は「症状に応じて回転させれば病床は足りている」と語る
 だが、新方針は運用を誤れば入院の遅れや病状の悪化を招き、患者の命の危険を高めかねない。
 昨年春に厚生労働省がコロナの受診の目安を「37.5度以上の熱が4日以上」と示した際は、基準に満たない人が検査を受けられない例が続出し、軽症者が重症化したり死に至ったりすることもあった。加藤勝信官房長官は3日の記者会見で「そうした懸念も踏まえて対応していく必要がある」と強調。別の政府高官は「自宅療養者の健康観察は、保健所だけでは限界がある」と医療機関との連携強化を課題に挙げる。
 政府の対応に、立憲民主党の枝野幸男代表は3日の党会合で「『自宅療養』というのは言葉だけで『自宅放棄』と言わざるを得ない。とんでもない状況が生まれている」と医療の放棄だと批判。共産党の志位和夫委員長はツイッターで「首相自身が『医療崩壊』を事実上認めた」と指摘した。


「菅首相は何も分かっていない」 重症以外は「自宅療養」は命取りに…専門家の批判殺到
                           東京新聞 2021年8月4日
 コロナ禍の拡大が止まらず、病床が逼迫していく中、政府は2日、重症者や重症化の恐れのある人以外は、原則自宅療養とする方針を決めた。これまでもなかなか入院できず、自宅にいる間に亡くなるケースも多々あったのに、さらに入院治療を遠ざけるというわけだ。「自助」の言葉が大好きな菅義偉首相らしい国民への仕打ちだが、厳しい現実から目をそらそうと、ルールの方を都合よく変えていいのか。(佐藤直子、榊原崇仁)

◆自宅療養で父親が…
 「政府は何をやっているのかと思う。自宅療養中に一気に重症化すれば、命取りになるのに…」。コロナ感染で父親を亡くした東京都内の50代男性は憤る。
 父親が亡くなったのは最初の緊急事態宣言下の昨年春。せきと熱が出るようになり、地元の病院を受診。もらった解熱剤でいったん熱は下がったが、1、2日で症状がぶり返した。救急搬送された病院でPCR検査を受けて陽性判定が出た。
 即入院かと思われたが、いったん自宅に帰された後、保健所側は自宅療養を指示。家族は何度も「父をすぐに入院させてほしい」と必死に頼んだが拒まれ、担当者は「症状が重い人から入院させている」と言うだけだったという。
 しかし、3日ほどで父の容体は急変した。別の病院に救急搬送されたときにはすでに、人工呼吸器が必要なほど重症化しており、父は1週間後に息を引き取った。陽性判定が出てからあっけない死だった。
 男性は「感染が判明しながら当初入院を断られた父と、付き添った家族がどんなに不安だったか。保健所は電話のやりとりで、父親の症状をどう判断していたのかいまだに分からない。放置されたようなもの。救急搬送されたときに入院できていたら、助かったんじゃないかと思っている」と振り返る。

◆政府方針で続発の恐れ
 こうしたケースを続発させる恐れがあるのが、新たな政府の入院方針だ。
 これまでは、呼吸器に症状がない軽症でも基礎疾患がある場合や、肺炎や呼吸困難がある中等症以上が入院の対象だった。今後は中等症でも、重症化リスクが低いと判定された人は、原則自宅療養となる。家庭内感染の恐れや自宅療養が困難な事情があると判断された場合には宿泊療養になる。いずれも感染急拡大中の地域が対象となる。
 この方針転換の背景にあるのは病床の不足だ。デルタ株の広がりで新規感染者は1日1万人に達する日が続く。厚生労働省結核感染症課の担当者は「適切に病床を確保するため」と説明。国が近く全都道府県に通知し、各自治体が地域の実情に沿って判断することになる。国は自宅療養に備え血中酸素濃度を測る「パルスオキシメーター」の配備を進める。重症化の恐れをつかみやすくするという。

◆重症化「見極め簡単ではない」
 ただ、そもそも肺炎を起こし呼吸が苦しいような症状の患者を、医療を受けられない自宅で療養させるのは危険ではないのか。
 国際医療福祉大の高橋和郎教授(感染症学)は「菅首相は場当たり的で何も分かっていない」とあきれる。「酸素投与が必要かどうかによって中等症も1と2のレベルに分かれるが、1から2までは進行スピードが速い。2まで重症化すれば挿管手術が必要になり、手当てが遅れたら命は危険になる。重症化の見極めは簡単ではない。現場は基礎疾患の有無や症状の変化など今まで以上に丁寧にみていかなければならない」と語った。


中等症間患者の急変や重症化に対応できるか 政府新方針 柱の保健所は「困難な状況」
                           東京新聞 2021年8月4日
 政府は、新型コロナウイルス感染症の中等症患者を自宅療養させる方針に転換したのに合わせ、自宅での急変に備えた施策を打ち出した。だが、課題は多い。
 急変対策の柱は、保健所や地域の医師らによる在宅患者の健康管理強化だ。だが、東京都内の保健所は既に自宅療養者の支援や入院調整に忙殺されている。
 コロナ対策を厚生労働省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」の一員で、東京都北区保健所長の前田秀雄氏は「政府方針は寝耳に水。保健所にとっては困難な内容だ」と本紙の取材に語った。

◆突然重症化する懸念も…
 デルタ株は無症状や軽症者が短期間に悪化するケースがある。前田氏は「支援が必要な陽性者が増えた場合、対応は難しい。突然重症化し、亡くなる方が発生する懸念も大きい」と話す。入院基準見直しの必要を強調する政府にも「今の入院患者は症状が重く、自宅療養が難しい人。『軽症だけど念のため入院させておこう』という対応はしていない」と疑問を示した。
 政府は在宅コロナ患者の往診などの診療報酬の上乗せも決めた。医師らの意欲を高め、患者が在宅医療を受けやすくする狙いだ。しかし、往診の担い手が急に増える保証はない。
 症状の悪化が把握できたとしても、厚労省の集計によると、7月28日時点で入院の必要があるのに、受け入れ先が未定の都内の患者は既に202人。迅速な入院が確保されているとは言えない。

◆抗体カクテル、確保・配送に課題
 重症化を防ぐため、在宅患者にも抗体カクテル療法を積極的に実施することも掲げた。だが、確保量が十分か、迅速に配送できるか不安が残る。
 最後の手段となる救急搬送にも影響が出ている。総務省消防庁の集計では、7月26日~8月1日、患者の搬送先がすぐに決まらない救急搬送困難事案が全国で2376件あり、前週比で8%増だった。(大野暢子)


自宅療養中に家族全員感染 入院待つ女性「子どもまで悪化したら…」
                          東京新聞 2021年8月3日
 新型コロナウイルスの感染が急拡大する地域で、政府は入院対象を重症者らに限定し、中等症患者も自宅療養を基本とする方針を決めた。背景には病床の逼迫ひっぱくがあるが、自宅療養は病状悪化や家族内で感染拡大するリスクを抱える。自宅療養中、一家全員に感染が広がったという東京都内の女性が本紙の取材に応じた。(小倉貞俊、宮本隆康)
 夫が入院待ちの間に家族全員が感染してしまった。とても不安」。家族4人で暮らす多摩地域の50代女性は、苦しげに話す。
 女性は7月24日、咳が止まらなくなった50代の夫と一緒に、PCR検査を受診。翌25日、ともに陽性と分かった。夫には高血圧の基礎疾患があったが、保健所に「病院に空きがない」と言われ、自宅待機になった
 健康観察用に貸与された血中の酸素濃度を測るパルスオキシメーターで、夫は正常値(99~96%)を下回り、呼吸不全で酸素投与が必要とされるレベルの89%にまで低下。中等症の2段階の分類で、より重い「Ⅱ」にあたる症状になった。

◆夫は肺炎悪化、娘も、息子も「陽性」
 夫は保健所に呼吸苦を訴えたものの、陽性判定から入院まで5日かかった。医師からは「肺炎の症状が悪化している」と言われ、現在も入院治療を受けている。
 この間、同居する30代の長女、20代の長男とも検査で陽性が判明。自宅療養していた女性も急速に体調を崩し、高熱や倦怠けんたい感などに襲われ、入院を待つ状況だ。長男には障害があり、女性は「私が入院した後、長女まで悪化したらと思うと不安が大きい。精神的にも追い詰められている」とつらい心境を語る。
 都が確保するコロナ病床は3日時点で5967床で、入院者は3351人。病床使用率は56%と、感染急拡大の中でも余裕があるように見える。
 ただ、都の担当者は「対応する医師や看護師が限られており、空き病床があっても受け入れられないケースが多い」と明かす。

◆保健所長「酸素吸入できる場所を設けた方がいい」 
 各保健所が管内で入院先を見つけられず、都の入院調整本部に調整を求めるケースはここ数日、1日あたり400件超。感染状況がやや落ち着いていた6月上旬の8倍に上っている。
 都の入院調整でも連日、100件以上が決まらず、翌日以降に繰り越しているという。
 入院先を調整する各保健所の業務の逼迫は深刻だ。港区みなと保健所では、1週間の感染者数が1カ月で7倍の約1000人に増加。区内で入院先が見つからず、都の入院調整本部に対応を依頼している入院待ち患者は、多い日には10人を超えるという。
 松本加代所長は「入院待ちの人が酸素を吸入できる収容場所を設けた方がいいのでは」と指摘。都も待機ステーションを20床運用しているが、さらなる充実が必要とみている。