名古屋市の入管施設に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題で、出入国在留管理庁が調査報告書を公表しました。
それは全国から注視されていたものなので当然そのことを意識して作成された筈ですが、いわゆる仲間うちの調査の限界に留まりました。
それでも報告書で明らかになったのは、体調が日々悪化していく様子を職員が認識しながら、必要な措置を殆ど取らなかったということで、遺族をはじめ救出活動を行って来た関係者にとって「はらわたが煮えくり返る」ものでした。ただただ非人道的というしかありません。そうした残虐性を殆ど自覚しないままか、あるいはそれを当然のこととして対処してきた担当者たちには心底から怒りを禁じ得ません。
そもそも出入国在留管理庁は罪人を扱うような発想でスタートしたと言われています。
今回明らかにされたものは、まさに罪人に対して絶対的な優位性を持つ看守の暴虐に通じるものでしたが、それは決して当該の担当者たちに留まるものとは思えません。。
毎日新聞が「ウィシュマさん死亡 命を軽んじる入管の非道」とする社説を掲げました。
東京新聞の記事を併せて紹介します。
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【社説】ウィシュマさん死亡 命を軽んじる入管の非道
毎日新聞 2021/8/11
名古屋市の入管施設に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題で、出入国在留管理庁が調査報告書を公表した。
「留学」の在留資格で来日したが、その後に非正規滞在となり、入管施設に収容され、国外退去処分を受けた。収容から半年あまりの今年3月、33歳で病死した。
報告書で明らかになったのは、体調が日々悪化していく様子を職員が認識しながら、必要な措置を取らなかったことだ。命を軽視していたといわざるを得ない。
死亡する半月ほど前には尿検査の数値が著しく悪くなり、体を思うように動かせなくなっていた。だが、専門医による診療は行われなかった。
一時的に収容を解かれる仮放免を求めていたが、職員の多くは、許可を得るために体調不良を誇張していると疑っていた。物を飲み込めない状態に、からかうような言葉を投げかける職員もいた。
ウィシュマさんは収容時に、同居していた男性から暴力を振るわれていたと訴えた。脅す内容の手紙も施設に届いたが、施設側は事実確認の調査をしなかった。
非人道的な対応が続いていたにもかかわらず、報告書からは、事態を重く受け止めようとする姿勢が見えない。
問題は、この施設の体制にあったと結論づけ、情報共有や人員確保の不十分さ、職員の教育不足を挙げた。適切な治療を受けられなかったのは、常勤医がいない医療上の制約が原因と指摘した。
送還が困難になるなどとして仮放免を許可しなかったことも、不当とはいえないと判断した。
2007年以降、入管施設での死者はウィシュマさんを含め17人に上る。調査を徹底した上で再発防止策を講じなければ、理不尽な悲劇が繰り返されかねない。
問題の背景には、在留資格のない「不法残留者」を認めない入管行政のかたくなな姿勢がある。日本社会から排除しようとする考え方が、収容者への対応に表れているのではないか。
自由に生きる権利を奪う収容は本来、極めて限定的に運用されるべきだ。入管の判断だけで、期限もなく実施できる現状は、速やかに改めなければならない。
「鼻から牛乳や」「ねえ、薬きまってる?」衰弱していたウィシュマさんに入管職員 「命預かる施設」とかけ離れ
東京新聞 2021年8月11日
名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=が3月に死亡した問題で、出入国在留管理庁が最終調査報告書をまとめた。名古屋入管の対応や医療体制に問題があったとする内容。これまでも死亡事案が注目されるたびに再発防止策を打ち出してきたが、収容外国人が亡くなるケースは後を絶たない。(豊田直也)
【関連記事】「入管、人権意識欠く」 当時の局長ら4人処分 ウィシュマさん死亡で最終報告書<動画あり>
◆体調不良の訴え「仮放免のアピール」と軽視
「鼻から牛乳や」。最終報告によると、死亡5日前の3月1日、衰弱したウィシュマさんがカフェオレをうまく飲み込めず、鼻から噴き出した。この時、介助していた職員はそう言ってからかった。死亡当日の朝には、抗精神薬を飲んでぐったりしているウィシュマさんに「ねえ、薬きまってる?」と話しかけていたことも判明。職員は「フレンドリーに接したいとの思いから」と説明したという。
最終報告が「人権意識に欠ける」と評した、死に際の収容者をばかにするような職員の発言。上川陽子法相が繰り返してきた「入管は大切な命を預かる施設」という説明とはかけ離れている。
こうした職員の態度は、ウィシュマさんの度重なる体調不良の訴えを「仮放免を受けるためのアピール」と軽視し、内規に反して上司に報告しなかった対応とも通底する。
◆後を絶たない入管施設での死
最終報告では、死亡当日が土曜日で医療従事者がおらず、救急搬送まで時間を要したことを問題視。常勤医の配置や休日の医療体制の強化を求めた。
同様の再発防止策は、過去にも打ち出されてきたが、入管庁によると、2007年以降に限っても、各地の入管施設で計17人が亡くなった。
14年には茨城県牛久市の東日本入国管理センターでカメルーン人男性=当時(43)=が日曜日に死亡。「アイム・ダイイング(死にそうだ)」と体調不良を訴えていたのに、翌朝まで救急搬送されなかったことが問題視された。
法務省入国管理局(現在の入管庁)は当時、「医師が常駐していれば、医療措置を施すことも可能だった」と報告書をまとめ、休日対応を含めた医療体制の改善を求めた。だが、7年が過ぎた今、常勤医師がいるのは東京出入国在留管理局(東京都港区)だけだ。ウィシュマさんのケースでも対応を誤り、過去の反省が生かされなかった。
◆外部のチェック機能が働かず
一連の名古屋入管の対応を「危機意識に欠けた」と総括した最終報告。入管庁の佐々木聖子長官は「人の命を預かる行政機関としての緊張感や心の込め方が不十分だった」と述べたが、不適切な対応がウィシュマさんの死を招いたのではないかという視点は乏しい。
約20年前から東日本入国管理センターで収容者と面会活動を続ける山村淳平医師(66)は「入管職員が収容者の詐病を疑い、自らが医療的判断をしたことで、必要な医療につなげられなかった事例はこれまでも繰り返されてきた。医療体制の不備と結論づけた調査報告も、これまでと変わらない」と踏み込みの甘さを指摘。「背景にある職員の差別意識を改善しない限り、医療体制を整えても同じことが起きる」と警告する。
入管行政を巡っては、収容や仮放免、医療の必要性などを入管職員が判断し、第三者のチェックが働かないことが問題視されてきた。今回も入管庁が調査主体となったことに、山村医師は「外部のチェックが働かない入管行政のあり方こそが悲劇を繰り返してきた一因だ」と改善を求めた。
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