今回の総裁選は、表面上は多様性を演出した4候補がTVを通じて政策論を主張しましたが、裏でおこなわれていたのは、実権を握る長老、安倍晋三、麻生太郎、菅義偉、二階俊博の4人による熾烈な抗争で、結果的に安倍・麻生氏が勝ち残り、菅(・二階)氏は脱落し表舞台から消えることになりました。
菅氏の失脚は結構なことですが、それにより子分格の河野太郎・小泉進次郎も干されることになりました(河野氏の議員票が意外に少なかった背後には彼自身の様々な舌禍もありますが、それと並んで小泉氏に対する反感も大きかったという見方があります)。
結局 無傷で生き残った安倍氏だけ(麻生氏は実質的に権力が半減)が闇将軍として党の絶対的支配権を確立しました。それは党役員人事の顔ぶれを見ても一目瞭然で、何らかの清新さを期待していた国民を大いに失望させました。
世に倦む日々氏は、党内における力関係は上述のようではあるものの、地方の津々浦々では、安倍・麻生レジームに対する倦怠と食傷の気分が鈍く沈殿していて、現実には保守的思想の持ち主でも安倍・麻生時代の政策と文化からの転換を求め、安倍政治とは異なる価値観と方向性を求めていると述べています。自民党の市議や県議は安倍政治を支える忠実な分子だが、一般の地域の商店主レベルは変わっていると。
そうあるべきで、腐臭ふんぷんの安倍政治はもういい加減に消失して欲しいものです。
世に倦む日々氏のブログを紹介します。
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安倍・麻生の指示と命令を無条件に「聞く力」– 黒幕純正の憐れな忖度政権
世に倦む日々 2021-10-01
大方の予想どおり岸田文雄が新総裁に決まり、党と内閣の人事内容が報道されている。幹事長に甘利明、政調会長に高市早苗、総務会長に福田達夫、官房長官に松野博一、財務大臣に鈴木俊一と顔ぶれが並び、まさに絶句させられる陣容となっている。想像をはるかに超える、正真正銘の安倍・麻生直系政権の立ち上がりだ。第3次安倍政権そのもの。安倍晋三と麻生太郎に対するあまりに露骨な忖度と盲従ぶりに、正直なところ度肝を抜かれた。安倍の言うことを「聞く力」。麻生の言うことも「聞く力」。岸田文雄が自慢していた「聞く力」の正体に恐れ入る。ここまで凄まじい「聞く力」の能力だとは知らなかった。政権の主要ポスト、ほとんど安倍晋三の言いなりになって細田派を並べ、麻生太郎のわがままな指図どおりに人選している。岸田文雄が独自に決めたのは、総務会長に若手を持ってきた点だけだ。抱腹絶倒の無抵抗と徹底従順。菅政権以上に独自色がなく、中枢部を安倍・麻生の系列で染め上げた布陣になっている。安倍晋三は笑いが止まらないだろう。まさしく安倍・麻生の純正政権。
今回の総裁選は、表面上は多様性を演出した4候補が政策論を並べ立て、テレビで自民党を宣伝訴求する儀式だったが、裏では厳しい権力闘争の契機と実態があり、実権を握る黒幕長老たちが生き残りを賭けて熾烈な鍔迫り合いを演じる過程だった。安倍晋三、麻生太郎、菅義偉、二階俊博の4人による生臭い党内抗争の喧嘩である。結果的に、4人の中で2人が脱落し失脚した。菅義偉が完全に影響力を失い、子分の河野太郎・小泉進次郎が干されて冷や飯の仕置きの幕となった。菅義偉が消えた。二階俊博も、情勢判断を誤って主流派に乗ることができず、幹事長ポストを失って無役の高齢者になった。二階派を維持するのは難しい。本人も消えるしかなく、二階派は崩壊して草刈場の運命だろう。4人の実力者のうち2人が生き残り、安倍晋三は党内での独裁支配権力をさらに強化して、超越的絶対的な闇将軍の地位を確立した。令和の妖怪となった。麻生太郎は、遂に副総理・財務相のポストを手放す段となり、政府から剥がされて党の重鎮ポストに移る身となったが、財務相に姻戚で派閥子分の鈴木俊一を送り込んで、なお財務省に睨みを利かせている。
総裁選の権力闘争のフォーカルポイント(⇒注目点)が、麻生派の行方と麻生太郎のポストの如何にあるという視角と関心を、9月の最初からずっと言い続けてきて、その進行と顛末に目を凝らしたが、結論的には、麻生太郎の失脚度は3分の1から4分の1程度の軽傷で、麻生派のボスとして党内で依然健在なままだ。幹事長と政調会長の要職を握り、自身が副総裁に座り、党執行部は安倍・麻生レジームで盤石で、岸田文雄は絵に描いたような軽い神輿の存在感になっている。9月初旬の時点の予想では、河野太郎がもう少し票で拮抗し、河野陣営と岸田・高市陣営(安倍・麻生)の対峙関係が峻烈になると踏んでいて、河野太郎は麻生派を割って出て一家を旗揚げし、麻生派は勢力半減して一気に権力から転げ落ちると考えていた。コロナ禍の沈静化が急速に進み、議員と支部が「選挙の顔」を不要とする情勢に変わったため、河野陣営が大敗してその図はなくなった。麻生太郎は派閥ボスの地位を安泰させ、安倍晋三との親密な関係を梃子にして権力を維持している。安倍晋三にとっても、盟友の麻生太郎を失脚させることはできず、極右の2人が同志として永劫に強固なコンビだから権力を万全にできるのだ。
さりながら、マスコミ報道が言うほど安倍晋三の権力が巨大化し、院政支配が絶対化されたかと言うと、必ずしもそうではない。安倍晋三が口出しして固めた政権体制の隙のない完璧さを見るほどに、すなわち安倍ヘゲモニー(⇒主導権)の絶倫に仰天するほどに、逆に、その権力の脆さ危うさを直感させられる見方を否めない。安倍晋三がここまで強烈に純正体制を固めるのは、やはり森友と桜の問題が再び蠢動するリスクに怯えているからだ。最初に一番手で立候補したとき、岸田文雄は、森友問題の再調査を否定しない素振りを見せていた。これを見た安倍晋三が逆鱗でクギを刺す動きに出、撤回させ、それでは足りず、当て馬だった高市早苗を本格的にテコ入れする右翼運動の蹶起に出た。総裁選の2週目(9/13~)から、高市陣営はハイテンションでエンジン全開となり、安倍晋三が全国県連支部に自ら電話攻勢をかけて票の上積みを図る総力戦モードとなる。議員票の切り崩し引き剥がしも、安倍晋三が汚い脅迫手口で直接に執拗に行った。高市早苗は、途中から - 政策干渉目的の - 当て馬ではなくなり、安倍晋三は本気で2位に潜り込ませる腹で戦略指導し、陣営指揮官として鞭をふるっていたのだ。
要するに、それだけ、安倍晋三は森友と桜の今後の不吉な事態の発生を恐怖しているのであり、岸田文雄の政権運営を猜疑しているのだという内実が分かる。神輿を信用しておらず、安心していない。何かあれば、すぐに岸田政権を転覆させ、再び総裁選をコールして高市早苗を据える構えだろう。政権の要所を安倍晋三の配下で固めたのは、岸田文雄の自由を封じるためと、いざとなればクーデターを起こす布石からである。露骨すぎる傀儡政権が出来上がったけれど、安倍晋三は決して満足していない。その腹の中は、当日夕の高市陣営での挨拶で口惜しさを滲ませていた口調から推察できる。安倍晋三が狙っていたのは2位であり、高市3位の戦略が本意ではなかった。口惜しさを滲ませていたのは、実は、高市早苗の党員票が思うように伸びなかった不具合に対してなのだと真相を看取できる。議員票は十分取れた。想定どおりに切り崩せた。最後は、二階派から河野太郎に積まれていた派閥組織票までもぎ取った。領袖の二階俊博本人を切り崩した(投票2日前の安倍・二階会談の事実を田崎史郎がテレビ解説で紹介)。だが、地方党員票は思うように取れなかった。意図した伸びを得られなかった。
高市早苗の党員票は、得票率19%の74票で、得票率7%で29票だった野田聖子の2.5倍の数字でしかない。県別の集計結果でも奈良以外はトップを取れず、ほとんどの県で3位に甘んじた。極めつけは山口県で、ここでは林芳正の運動が奏功して岸田文雄が1位を奪っている。安倍晋三が地元で林芳正に負けた。象徴的な敗北の絵だ。マスコミが持ち上げて喋々するほどには、高市早苗は地場でブームを起こしていなかったし、右翼のエネルギーを高揚させ沸騰させることに成功していたわけでもなかった。産経や読売や、安倍晋三の手下のテレビ屋たちが大袈裟に騒いでいただけで、安倍晋三の代理人である彼ら自身と右翼の専従業者がモメンタム(⇒勢い)を作ろうと扇動工作していただけだ。私はこの結果と真相にも注目する。地方の党員党友は、5chやツイッターで演じられた右翼祭りの動員と狂躁に乗らなかった。冷静だった。その点が安倍晋三の不本意なのだ。やはり、現場の空気は変わっている。地方の津々浦々で、安倍・麻生レジームに対する倦怠と食傷の気分が鈍く沈殿している。否、明確な忌避感として意識定着している。アベノミクスに対する否定の評価が揺るぎなく確信されている。どれほど右翼祭りで盛り上げても、最早、安倍晋三は地方の自民党のバイタル(⇒活力のある)な英雄的アイコン(⇒記号)ではないのだ。
安倍晋三の威光と影響力は半ば過去のものになっている。現実の人々は、保守の思想的傾向の者でも、安倍・麻生時代の政策と文化からの転換を求め、安倍政治とは異なる価値観と方向性を求めている。耳をすませばそれが聞こえる。前回、私は総裁選のテレビを見ながら、自分自身の郷里の田舎町のことを思った。そこに住み暮らす商店街の店主や市議や県議のことを考えた。彼らはこの10年、20年の間に徐々に変貌し、あの河野太郎の新自由主義「改革」のノリや、高市早苗の右翼パラノイア(⇒偏執狂)の狂暴無双な野性に慣れ、そのコード(⇒言語・記号)とプロトコル(⇒手順・規則)に親しみ、嘗てのマイルドで地に足の着いた、宏池会や経世会の本来性を変容させてしまっている。市議や県議など大物になればなるほどそうで、この9年間の安倍政治で出世した佞悪な者が羽振りよく地域で権勢を誇っている。しかるに、この総裁選では、安倍信者の彼らこそが、高市早苗の右翼祭りを鼓吹して「革命」を起こさないといけなかった。安倍晋三の恩義に報いるときであり、安倍晋三を満足させる政治結果を導かねばならなかった。だが、それができなかった。市議や県議は安倍政治を支える忠実な右翼ネオリベの分子だが、一般の地域の商店主レベルは変わっているのだ。
そこから心が離れているのだ。耳をすませば、その秋の小さな音が聞こえるはずだ。