2021年10月21日木曜日

シリーズ検証 安倍・菅政権の9年 (5) (最終回)(しんぶん赤旗)

 しんぶん赤旗の「シリーズ検証 安倍・菅政権の9年」第5弾は「放送に介入・支配(上)(下)」です。

 新憲法制定後において安倍・菅政権ほど露骨に放送に介入した政権はありませんでした。それはNHKに対してだけでなく、民放にも強烈な忖度を生じさせ報道局に「安倍シフト」の幹部体制を敷かせるほどでした。
 権力を持つものが報道への干渉について極めて抑制的であるべきことは憲法から容易に導かれるもので、最高裁の判例も出ています。この放送への介入という一事をとっても、安倍・菅政権が戦後最悪の政権であったことは明白です。
 シリーズ検証 安倍・菅政権の9年は今回で終了します。
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シリーズ検証 安倍・菅政権の9年  
放送に介入・支配(上)
NHK 会長・経営委人事で“掌握” 民放“電波停止”の脅しで圧力
                      しんぶん赤旗 2021年10月18日
 岸田文雄政権が誕生した自民党総裁選をめぐって、各テレビ局とも大騒ぎを繰り広げ、安倍・菅政治9年間の「負の遺産」を検証することはごく一部でした。結果として自民党の支持率アップにつながりました。テレビはなぜ、こんなに政権監視の力が衰えてしまったのか―。この9年間、テレビに何があったのか、総選挙公示を前に放送への介入と支配の流れを改めて検証します。(「放送への政治介入」検証チーム)
 2012年の第2次安倍内閣発足後、安倍首相が放送支配の道具としたのは「人事」と「放送法」でした。まずは公共放送NHKを狙います。(肩書はすべて当時)
 13年11月。NHK経営委員(定員12人)に安倍首相と近い、長谷川三千子(埼玉大学名誉教授)、百田尚樹(作家)ら4氏が送り込まれます。経営委員会は、新会長に籾井勝人氏を選びました。
 14年1月。籾井新会長は就任会見で「政府が『右』と言っているのに、われわれが『左』と言うわけにはいかない」と発言。以後、秘密保護法、戦争法と、国論を二分する問題でNHKは政府寄りの報道を続けます。
 例えば、集団的自衛権の行使容認を閣議決定した14年7月1日までの1カ月半、NHK「ニュースウオッチ9」は政府側の動きの報道時間が約114分だったのに対し、反対の動きはたったの77秒でした(元NHKディレクターの故・戸崎賢二氏調べ)。
 会長に籾井氏を据えた政権側の策動が功を奏したといえます。

陰に陽に
 しかし民放は「人事」では動かせません。14年から16年にかけて、陰に陽に露骨な圧力を加えていきます。
 総選挙を前にした14年11月。安倍首相は出演したTBS系「news23」で、番組が伝えた街の声が“アベノミクスの恩恵を感じない”ものばかりだと憤りました。
 自民党は同月、総選挙時の報道について在京各テレビ局に要請を送ります。“街頭インタビューでは一方的な意見に偏ることのないよう”など「公平中立」を強調する中身でした。
 評論家の古賀茂明氏は15年1月、朝日系「報道ステーション」で安倍首相の言動が日本人全ての意見ではないとの考えから「アイアムノット安倍」とコメントしました。同3月、番組コメンテーターを降板するにあたり「菅官房長官をはじめ官邸にバッシングを受けてきた」と発言しました。
 高市早苗総務相の「停波」発言は16年2月です。放送法4条の「政治的公平」に反すると総務相が判断した場合、電波法に基づき放送電波の停止(停波)を命じる可能性があるというのです。
 電波法は放送設備に関する法律で、設備上の不備があれば放送に支障をきたすので停波もありますが、放送の内容にかかわって電波法を適用するのは想定されていません。事実上、総務相の意向次第で停波命令ができるという強権を意味します。
 高市氏の発言に対しては、テレビキャスター有志が「私たちは怒っています」と記者会見で抗議。「政治的公平性は権力が判断するものではない」と批判しました。
 からめ手からの干渉もありました。
 15年11月。右派文化人グループが「産経」と「読売」に、1ページ全面広告を出しました。戦争法に真っ向から反対する「news23」アンカーの岸井成格(しげただ)氏に対し「放送法違反だ」と個人攻撃したのです。

3氏降板
 16年3月、決定的な事態が起こります。NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子、「報ステ」の古舘伊知郎、「news23」の岸井成格の3氏がそろって降板したのです。
 国谷氏は14年7月、菅官房長官に集団的自衛権の容認について“日本が戦争に巻き込まれる危険性は無いのか”と角度を変えて何度も尋ねました。それに対し菅氏が激怒したといわれています。
 以降、放送ジャーナリズムにおける権力の監視や、視聴者の知る権利の保障の観点で発言するキャスターやコメンテーターが減っていきました。


シリーズ検証 安倍・菅政権の9年 
放送に介入・支配(下)
視聴者団体 各地で活動 政権寄り報道に反撃開始
                      しんぶん赤旗 2021年10月20日
 総選挙公示を前にした15日、視聴者団体はNHKと民放各局、全国紙に対して、質量ともに充実した「政策本位の報道」をするよう申し入れました。安倍政権による放送の支配が進むなか、各地で視聴者団体が発足したのが新しい特徴です。2021年現在、「NHK問題全国連絡会」には、古くから活動していた団体を含め24団体が名を連ねています。
 15年8月25日には、戦争法をめぐり政権寄り報道を続けるNHKに対し、視聴者団体の呼びかけでNHK包囲行動が取り組まれ、約1000人が「政権の広報はやめろ」と抗議しました。
 学習会や署名、「良い番組を見たら激励、悪い番組を見たら抗議」の電話かけなど、視聴者目線の活動に意義があります。

労働者も
 放送労働者も黙っていません。自民党による「公平中立」報道の要請(14年)や、16年の高市早苗総務相(当時)の「停波」発言など放送に圧力がかけられるたび、日本民間放送労働組合連合会(民放労連)は厳しく抗議し、表現・言論の自由を守るためにたたかうと訴えました。戦争法には「戦争のために二度とカメラを回さない」と決議しています。
 安倍・菅政権は、視聴者・労働者の声に背を向け続けました。結果、安倍晋三元首相は「森友」「加計」「桜」の国政私物化疑惑で国民から見放されました。菅義偉前首相はコロナ禍での東京五輪強行で信頼を失いました。
 菅氏は4月の国政3選挙、7月の都議選、8月の横浜市長選に全敗しました。野党共闘の候補が自公に代わる選択肢と有権者が考え始めたといえます。
 近年のテレビメディアの政治報道の弱点として権力者目線で物事を捉える傾向が挙げられます。“野党はばらばら”とやゆするような表現がいい例です。それでは有権者の変化は分かりません。
 放送法はその目的を「放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図る」と定めています。放送は民主主義を支えるためにあるのです。

国民目線
 自民党総裁選をめぐっては、国民の立場での報道はほとんど見られませんでした。わずかに朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」が9月24日、日本共産党の志位和夫委員長ら野党4党の代表を招いてコロナ対策や原発・エネルギー政策、消費税減税などの経済対策と総選挙に向けた野党共闘について議論したのが目立つ程度です。
 選挙における「公平中立」報道を要請した自民党に忖度(そんたく)したのか、選挙期間に入ると選挙報道が減少する傾向が続いています。
 権力の代弁ではなく、視聴者・国民にとって本当に必要な情報を届けることができるのか―。視聴者の声に耳を傾け、国民とともに歩むような放送局に変えるためにも、政権交代が必要です。 (おわり)