2021年10月1日金曜日

早稲田OB首相は短命? 岸田氏は「永田町のジンクス」を覆せるか(窪田順生氏)

 ダイヤモンド・オンラインに、窪田順生氏による題記の面白い記事が載りました。
 岸田氏は4候補の中では一番マシでしたが、いつまでも安倍・麻生ラインの掣肘下に甘んじていれば、いずれは人心を失い短命に終る可能性は大です。ただいうまでもなく政権の評価は長短ではなく、その間に何をやったかです。安倍・菅政権による、不毛というよりは劣化の一途をたどった9年間は余りにも有害で空しいものでした。
 岸田氏が新自由主義を脱する意思を持っているのであれば是非それを貫いて、それによって有意義な政権になって欲しいものです。
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早稲田OB首相は短命?新総裁・岸田氏は「永田町のジンクス」を覆せるか
                窪田順生 ダイヤモンド・オンライン 2021/09/30
新リーダーを覆う、永田町と早稲田の「ジンクス」とは
 テレビや新聞では「昔から真面目でひたむきだった」「熱烈な広島カープファン」なんて感じで、岸田文雄新総裁の素顔を報じるなど、お祭り騒ぎをスタートさせているが、永田町では早くも「首相のジンクス」を心配する声が聞こえている。
 まず、よく言われているのが、「長期期政権後は短命」というものだ。これは昨年、菅義偉首相が総裁選を制した時にも真っ先に言われていたが、実は今回にも当てはまってしまう。長期政権後は短命政権が最低2度は繰り返す、というのがこれまでの傾向だからだ。
 首相の通算在職日数1980日の小泉純一郎氏の後は、安倍晋三氏(366日)、福田康夫氏(365日)、麻生太郎氏(358日)と年中行事のように首相が変わっている。また、通算在職日数の1806日の中曽根内閣後にも似た傾向が見られる。中曽根氏の後を引き継いだ竹下登氏(576日)は1年半ちょっと、そのあとの宇野宗佑氏も69日と超短命。続く、海部俊樹氏(818日)も2年2カ月ちょっとだ。
 3188日も続いた安倍政権を引き継いだ菅首相もわずか1年で退陣へ追い込まれた。これまでのジンクスを踏まえれば、次の政権ももって1〜2年ではないかというわけだ。
 そこに加えて、早稲田大学法学部卒業の岸田氏には「早稲田の呪い」もささやかれる。早稲田大学は東京大学に次いで多くの首相を輩出しているが、戦後で長期政権を維持できた人がいないというジンクスがあるのだ。実際、石橋湛山氏(65日)、竹下登氏(576日)、海部俊樹氏(818日)、小渕恵三氏(616日)、森喜朗氏(387日)、福田康夫氏(365日)、野田佳彦氏(482日)と、こちらも海部首相の約2年2カ月が最長だ。
 これまでの早稲田OB首相と同じ道を辿ってしまうのではないか、と心配する声もあるのだ。

平成以降、外相を経験した首相は2年もたない?
 また、「平成以降の外相経験者首相は2年もたない」というジンクスもある。
 日本では外務大臣経験者が首相へステップアップするというキャリアパスが多い。日本のリーダーは、とにもかくにもアメリカとの安定的な関係構築が最重要課題なので、外相として外交経験を重ねた人が首相に繰り上がるのは当然の流れなのだ。その代表が、吉田茂氏や岸信介氏である。
 しかし、そんな“首相コース”も平成に入ると輝きを失った。
 宇野宗佑氏(69日)、宮澤喜一氏(644日)、羽田孜氏(64日)、小渕恵三氏(616日)、そして麻生太郎氏(358日)と、「外相経験首相」の政権は2年ももっていない。そこで、第二次安倍政権時、2012年12月から2016年8月という長きにわたって外務大臣という要職に就いていた岸田氏が首相になった際にも、このジンクスが発動するのではと見る向きもあるのだ。
「バカバカしい、そんな話があてになるか」と冷笑する人も多いだろうが、口にしている人たちも同様であくまで「ネタ」として楽しんでいる感じだ。もちろん、筆者も信じていない。
 ジンクスも何もそもそも、日本の首相は「短命」がデフォルト⇒標準だからだ。

短命政権が多すぎる問題の根本には、マスコミ依存?
 戦後の首相は菅氏まで含めて35人いるが、彼らの在任期間を平均すると2年そこそこ。1000日を超える小泉氏や安倍氏の方が「異常」であって、1年や2年で退陣に追い込まれる首相が圧倒的に多い。石を投げれば短命政権に当たるので、先ほど述べたような、ほとんどのジンクスも当てはまるというわけだ。
 例えば、ちょっと前に、菅首相が頑なに公邸住まいをしないということで注目を集めた「首相公邸に入居すると短命政権」というジンクスがわかりやすい。
 これは、2002年にできたこの公邸に、小泉氏(途中入居)、安倍氏以外、5人の首相が就任後に入居したがみんな短命だったということで、まことしやかにささかれた。先ほども申し上げたように、そもそも小泉氏、安倍氏以外の首相はみんな短命なのだ。しかも、今回は入居していない菅首相が短命で終わったことで、このジンクスは完全に崩壊している。
 さて、そこで次に気になるのは、なぜ、こんな「短命ジンクス」が量産されてしまうほど、日本の首相は短命が平常運転となってしまったのかということだ。
 専門家によれば、小選挙区制度を導入したせいだとか、派閥政治が悪いなどさまざまな分析がある。また、そもそも自民党総裁の任期が短いことに加えて、党の長老たちが世論を見て、首相の首を挿げ替えられるというシステムがある以上、短命なのはしょうがないと言う人もいる。
 ただ、海外からは「回転ドア」なんてバカにされるほどコロコロ変わっていくのは、「マスコミの世論誘導力が高い」というところに尽きるのではないか、と個人的には思っている。

世界と比較してみても、マスコミを盲信する日本
 よくネット民の皆さんは、「マスゴミなんて信用できない!」とおっしゃるが、そのような方はマイノリティで、実は我々は世界で屈指の「マスコミを盲信する民族」なのだ。
 2020年9月時点で分析可能な77カ国を対象にした「第7回世界価値観調査」によれば、「新聞・雑誌」を信頼していると回答した人が日本は69.5%。ベトナムが79.3%、フィリピン71.2%、バングラディッシュ71.1%に次いで第4位。また、テレビや新聞のニュースを毎日情報源としていると回答した人が48カ国中でナンバーワンとなっている。
 ここまでマスコミに絶大な信頼を寄せている先進国ではかなり珍しい。例えば、「新聞・雑誌」の信頼度はドイツは36.6%で32位、イタリア30.2%、フランス30.2%で46位、アメリカ29.7%で47位、イギリス13.7%で75位とG7諸国では日本と逆で「信頼しない」が7割となっている。
 ここまで言えば、筆者が何を言わんとしているかお分かりだろう。どの国でもマスコミは最高権力者を厳しく批判する。それが「権力の監視」を掲げる彼らの仕事だからだ。
 ただ、マスコミが批判したからといって即座に、国民はリーダーを引きずり下ろそうとしない。先進国の多くはマスコミを信頼している人が3割程度なので、多くは「もうちょっと長い目で見るか」となる。時には、トランプ支持者のように「フェイクニュースを流しやがって」と批判するマスコミを逆に返り討ちにする人も現れる。
 しかし、日本人はその真逆で7割がマスコミを信頼している。テレビや新聞を毎日情報源にしている割合は世界一だ。なので、テレビや新聞が毎日、政権批判を繰り広げると、いともたやすく世論が変わる。支持率もガクンと落ちる。そのニュースを見た有権者によって、選挙も連敗が続く。
 選挙で負けるということは、政治家にとってある意味、政治よりも深刻だ。生活がかかっているのだから、党内の派閥が手に手を取り合って、「勝てない首相」を引きずり下ろす。「菅おろし」もそういう力学で起きた。
 つまり、表面的には、短命首相に引導を渡しているのは、支持率低下と自民党内の派閥の力学だが、そのきっかけをつくっているのは、「世界トップレベルで国民から信頼されているマスコミ」なのだ。
 そう考えていくと、岸田内閣が長期政権になるか否かは、ジンクスよりもマスコミにかかっている。

マスコミの扇動力で国民パニックは経験済み、新首相いかに
 菅首相に対しても、総裁選直後は「たたき上げの苦労人」「パンケーキ食べる姿がかわいい」なんてチヤホヤして、「既得権益の打破」を掲げる菅首相を応援する声も上がっていた。が、そういうハネムーン期間が終わった途端、長男の総務省接待、河合夫妻買収事件、モリカケの説明が足りないとたたき始めた。そして、コロナ対策でトドメを刺した。
 これは国民がノーを突きつけたということになっているが、国民を扇動したのは他でもないマスコミだ。
 彼らの扇動力の高さは、「コロナパニック」を思い出していただければ明白だ。昨年4月には、マスクやトイレットペーパーを買い占めたり、病院や保健所に無症状の人が押しかけて、職員に罵詈雑言を浴びせたりした。
 本連載の岡江久美子さんの遺骨帰宅を生中継、「恐怖報道」が医療機関を殺す理由の中で詳しく述べたが、当時はまだ新規感染者も死者も他国と比べて桁違いに少なかったが、ワイドショーが連日、過剰なまでにコロナの恐怖を煽った。
 それがトイレットペーパーやマスクの買い占め、医療関係者への差別やイジメを助長した。無症状の人たちは、「もしかしてコロナかも」と保健所や医療機関に押し寄せて現場を大混乱させたのである。「マスコミを世界一信頼する国民」ならではの、集団パニックといえよう。
 だからこそ、岸田氏が長期政権を目指すには、まずは何をおいても「マスコミ対策」が重要となる。と言っても、それは菅首相より愛想よくしゃべるとか、記者たちと仲良くお茶を飲むとかではない。彼らの多くはサラリーマンなので、どんなにいい関係を築いてたところで、たたいていいムードになったら社命に従い、人が変わったようにネガティブキャンペーンをスタートさせる
 では、どのような「マスコミ対策」かというと、「熱烈な支持者やメディア」を増やしていくのだ。

小泉・安倍時代に共通する「仮想敵」と「シンパ」
 近年、長期政権だった小泉氏と安倍氏の2人に共通するのは「マスコミにボロカスに叩かれたが、それを擁護する熱烈な支持者やメディアもいた」ということである。安倍氏でいうところの、いわゆる「安倍応援団」だ。
 これまで見てきたように、日本の首相というのはマスコミからボコボコにされる運命だ。そして、そのマスコミを信頼する国民によって、厳しい政権運営を強いられ、多くが1、2年でギブアップする。
 しかし、「熱烈な支持者やメディア」の応援があれば、この逆風をどうにか乗り切れるのだ。
 このあたりの人心掌握術に関して、小泉・安倍の2人は天才的だった。
 小泉氏は「自民党をぶっ壊す」「抵抗勢力」というキャッチーな話術で、「仮想敵」を生み出して、自身の改革者としてのブランディング⇒人気商品化を成功させて求心力にした。安倍氏も中国、韓国、朝日新聞を「仮想敵」とすることで愛国者イメージを不動のものとして、中国や韓国への向き合い方に不満を抱える人たちのハートをわしづかみにした。
 つまり、「仮想敵」をつくることで「熱烈なシンパ(信奉者)」を獲得したのだ。彼らはマスコミがいくら叩いても揺らがない。むしろ、「マスコミはデタラメだらけで真実を隠している」なんて感じで、さらに心酔していく。これは、マスコミに「史上最低の大統領」などと叩かれたトランプ大統領を熱狂的に支持した、いわゆる「岩盤支持層」でも見られた現象だ。
 もちろん、「分断から協調へ」を掲げ、党内でも「いい人」として知られる岸田氏が「仮想敵」をつくるというのは現実的ではないかもしれない。
 ただ、マスコミのネガキャンに揺るがない、強烈な「岸田応援団」をつくっていくには、どうしても誰かを敵にまわすようなこともしなくてはいけないのではないか。
「戦う政治家」に生まれ変わったという岸田氏が、ほどなくして始まるであろうマスコミの攻撃をどうしのいでいくのか。そして、どうやって安定した政権運営をしていくのか、注目していきたい。 (ノンフィクションライター 窪田順生)