財務省の矢野・事務次官が「文芸春秋」11月号に「このままでは国家財政は破綻する」との記事を発表して以来、メディアは「財政規律」1本に傾いて、連日「バラマキ」批判をしているということです。
この25年間(実際は27年間)日本だけが名目GDPがゼロ成長で、国民の実質賃金が低下し続けています。最貧国レベルを除けばそんな国は他にはなく、どこでも2倍から3倍になっています(米国と韓国は3倍、英国は2・5倍、ドイツとフランスは2倍)。
特にアベノミクスでは大企業や富裕層・株式投資家はいい思いをしましたが、国民はより貧しくなり、貧困層の世代的固定化も起きています。そんな異常な状況下でこの先「均衡縮小財政」に固執していい筈はありません。ましてや日本が世界でも有数の赤字国家になった責任は挙げて25年間の財務省の予算措置にあったのですから、先ずその反省をすべきでしょう。
「世に倦む日々」氏が前回の記事:(10月21日)「日本経済をここまで衰退させた財務官僚に反省はないのか~ 」に引き続いて、新たな記事「GDP1000 兆円の日本経済を – 消費税マクロ経済スライド方式を提案する」を出しました。といってもそれは矢野次官の論文への反論の続きではなく、それは前回の記事で既に完了していて、日本の財政の危機を脱するには海外に倣って日本もGDO成長戦略に舵を切るしかないというものです。
日本も外国並みにGDPを現在の2倍の規模(⇒1000兆円)にしなければならない、GDPが2倍になれば、所得も税収も自動的に2倍になっている、所得が2倍になれば、GDPも2倍に増えているという相互関係にあります。海外で自然に達成されていることが一人日本では出来ないということはありません。前回「世に倦む日々」氏が強調したように、日本は「そうならないような政治」をしてきたからです。
中でも消費税を31年間にわたって大企業の便益にのみ使って来た事実は争う余地がありません。それをまず確認するとともに、消費税の税率は政府が独断的に決めるのではなく、マクロ経済スライド制にすればよいとも提案しています。
以下に紹介します。
今回も多数のグラフが添付されていますが、1枚だけを紹介します。他のグラフをご覧になりたい方は、⇒「GDP1000兆円の日本経済を – 消費税マクロ経済スライド方式を提案する(世に倦む日々)」をクリックし原文にアクセスしてください。
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GDP1000 兆円の日本経済を – 消費税マクロ経済スライド方式を提案する
世に倦む日々 2021-10-21
21日のNNN・読売の情勢調査記事で、「自民単独過半数は微妙」という観測が出た。毎日の報道では、「無党派層、比例の投票先は立憲が最多」の情勢分析が示され、比例の投票先で立憲を選んだ無党派層が21%だったのに対して、自民を選んだ無党派層は15%とある。自民が苦戦している。一般に、無党派層の動向が選挙の勝敗のカギを握ると言われていて、投票10日前のこの数字の意味は小さくない。風は野党に吹いている。櫻井よしこなど安倍系右翼は半狂乱の焦燥ではないか。自民党がもし過半数を割った場合、党内は混乱して敗北責任の押しつけ合いとなり、(1)安倍・麻生の主流タカ派と、(2)岸田文雄の弱小ハト派と、(3)河野太郎の「改革」派の、三派入り乱れての権力闘争となる。来年の参院選に向けて暗闘が熾烈になるだろう。岸田文雄は参院選に勝つために政策を野党寄りにシフトせざるを得ず、安倍・麻生の脅しによって公約から外した分配策を元に戻す選択に出るだろう。宏池会と公明党の左方向に寄せるはずだ。必然的に自民党内の軋轢と亀裂は大きくなる。路線対立が浮上する。
選挙戦が始まって、マスコミはずっと「財政規律」のキャンペーンをやっている。毎日毎晩ヒステリックに「バラマキ」批判をやり、政党の公約を叩く論陣を張って国民の洗脳に余念がない。前回の記事でもマスコミ批判を書いたが、不愉快で憤懣やるかたない。「財政規律」を言うのなら、国民や政党に向かってではなく、財務省に向かって言わなくてはいけない。当の財務省自身が、一体どれだけ国民の税金を無駄遣いし、国家予算をドブに捨てていることだろう。東京五輪もそうである。コロナ対策の給付金事業の電通とパソナの中抜きもそうである。防衛省のFMS調達による武器購入もそうである。アベノマスクの260億円もそうである。税金を次から次にドブに捨てながら、一方で、売上1000万円以下の零細事業者やフリーランスに対して、消費税を納めろと圧力をかけ、インボイス登録を強制づけている。他方では、法人税ゼロ円のソフトバンクに対しては何のお咎めもない。朝日新聞を中心とするマスコミは、財務省の放漫財政や本末転倒に対しては何も言わない。庶民からの収奪を正当化するだけだ。
あらためて持論を言わせてもらうが、日本経済は規模が小さすぎるのである。現在の2倍の規模の1000兆円のGDPを持たなくてはいけない。マクロ経済政策を議論するときは、まずその論点と展望を基本に据えなくてはいけない。規模が小さすぎる。他の国は、どこも25年間で2倍から3倍の規模になっているのだ。アメリカと韓国は3倍に、英国は2.5倍に、ドイツとフランスは2倍になっている。そのサイズの国民経済を得て、必要な社会保障を賄っている。事実として他国は経済成長しているのであり、日本だけがゼロ成長を長く続けている。必要なことは、なぜ日本だけが25年間ゼロ成長を続けているのかという原因の分析と特定である。少子高齢化ならどこの国も状況は同じで、韓国は日本よりも深刻で、その要因は経済低迷の理由にはならない。言い訳にはできない。言い訳にならず、経済論議では無意味な雑音なのに、日本の論壇は思考停止してその弁解を無条件に認めてきた。田中優子や小熊英二や内田樹など左翼社会学者が、ゼロ成長を合理化し容認し歓迎する言論を続けてきた。成長は悪で不可能だと決めつけてきた。
2倍の経済規模が必要なのであり、高度経済成長が必要なのである。選挙戦の議論を聞いていると、枝野幸男が、岸田文雄の「所得倍増」のフレーズに難癖をつけ、昭和の発想だと貶す場面があったが、所得倍増は数字の話で、昭和だとか令和だとかは関係ない。経済は数字の世界の問題であり、数字に色はついてない。GDPが2倍になれば、所得も税収も自動的に2倍になっている。所得が2倍になれば、GDPも2倍に増えている。枝野幸男の言う「1億総中流社会の復活」が、所得倍増という中身なしに果たして実現できるだろうか。分配するということは、一義的には労働者の所得を増やすということに他ならない。新自由主義からの脱却である分配政策の要諦は、富を資本家ではなく労働者に配分することだ。最低賃金が1500円から2000円になり、非正規が正規に置き換わり、中小企業含めて労賃が毎年上がって行くという方向性である。貯蓄ゼロ世帯が減って行くということだ。 所得が伸びれば消費も伸び、必然的にGDPが拡大するのである。田中優子が何を言おうと、右肩上がりに経済成長してしまうのだ。数字は口で止められない。
今、必要なのは、GDPが1000兆円になった日本経済の絵を見せることだ。それはどんな経済の姿か。所得は、税収は、サラリーマンの年収は、消費は、社会保障(医療・介護・年金)は、企業の純利益と内部留保は、出生率は、、それらすべての数字を埋め、イメージを作り、グランドデザインとして提示することである。そのモデル作業こそが必要だ。それは、本来、25年前の日本の視座からすれば、いま実現していなければならない未来である。われわれが間違った新自由主義の路線に迷い込むことなく、加藤紘一(宏池会)や田中真紀子(経世会)が正しく政権を担っていれば、現在の日本人が享受しているはずの経済社会である。その絵を描いて見せることが必要で、それを実現することを国民に呼びかけることが大事だ。経済は夢を描かなくてはいけない。夢を描き、モラールをアップさせ、国民の心を一つにして活動の実践に進むことが重要だ。昭和の所得倍増と高度成長と1億総中流社会はそのようにして達成した。同じことをやればいい。必要ならやればいい。私は2倍の経済規模が必要だと思う。社会保障を賄うために必要で、財政破綻を避けるために必要だ。
実際のところ、今の日本経済は、栄養失調でガリガリに痩せた病人の身体そのものであり、分配の転換によって、デマンドプッシュ(志位和夫の言うボトムアップの購買力上昇)で3割方の経済成長は簡単に遂げられる。それは、藻谷浩介が説明するとおりだ。550兆円のGDPは700兆円までは分配策で自然生的に実現できる。残りの300兆円は、分配と消費の単純な自然拡大によってではなく、やはりサプライビルディングが必要だろう。サプライの契機と立案が要る。サプライを組み立てないといけない。産業構築と価値生産が要る。その具体策は、また詳しく述べたく、新しい日本経済のビルディングブロックを構想したいが、さしあたり、この時点で思うことは、これだけ世界中で半導体が足りないと言われ、半導体供給不足で悲鳴が上がっているのに、日本人がそれを傍観しているという脱力の事実である。ほんの20年前まで、半導体の開発と製造で日本企業に勝てる者はいなかった。半導体は産業のコメと言われ、日本人がコメ作りで世界一だった。九州はシリコンアイランドと呼ばれた。DRAMもカスタムLSIも日本が作っていた。今は歌を忘れた憐れなカナリヤ状態だが、果たしてカナリヤは歌を思い出せるだろうか。
半導体事業に再チャレンジして割り込めるだろうかという問題だが、仮に割り込むことができれば、世界市場はどんどん伸びているから、日本企業が成功で得るパイは巨大だろう。業界資料を見ると、世界の半導体市場は5272億ドル(約58兆円)である。市場は急速に伸びていて、6年間で57%成長している。来年も9%成長が見込まれている。日本のシェアはどんどん下がって現在8%弱。1980年代後半の日本のシェアは50%だった。半導体は1000兆円経済のビルディングブロックの一つだろう。エレクトロニクス製品も同じだ。半導体とエレクトロニクス、ITのハードウェア製品は、1000兆円経済を構成する上での重要なパーツである。日本が何もしなければ、絶倫のエネルギーで拡大するこれらの市場は中国と韓国と米国が取る。韓国がこの10年間でGDPを倍増させ、1人当たりGDP値で日本を追い抜いたのは、半導体とエレクトロニクスの功績と貢献による。日本はなぜかやすやすと陣地を明け渡し、脱構築的に、おもてなしのインバウンド経済の方向に精力を傾け、列島を乞食経済に改造してメシを食おうとした。意味のない愚策であり、数字も小さい。オーバーツーリズム(⇒観光客の過剰集中)で地域が破壊される割にGDPに貢献しない。世界が日本に期待するのは製造業だろう。
前置きが長くなったが、「財政規律」を絶叫し、緊縮財政の押しつけに狂奔するマスコミと財務省に建設的な提案をしたい。それは、消費税マクロ経済スライド方式の採用と導入である。具体的には、GDPが500兆円の間は消費税5%、600兆円台になったら6%、700兆円台になったら7%と、GDPの拡大にスライドした累進課税方式にすることである。GDP1000兆円に到達したら10%。それなら誰も文句は言うまい。現在よりも所得は倍、生活水準も倍の環境だから、消費税10%の税率負担に障害はない。GDPが1500兆円になったら消費税も15%、GDPが2000兆円のときに消費税20%。財務省の長期計画としてこれで問題ないのではないか。財務省は、日本のGDPを1000兆円、1500兆円、2000兆円にすることを考えないといけないのである。25年前と較べて、英国は2.5倍、ドイツとフランスは2倍の経済になった。25年後に、ドイツとフランスはやはり現在の2倍になっているだろう。韓国はこのペースだと15年後に2倍にしていて、日本がこのままの停滞と惰性を続けていれば、日本のGDPを確実に追い越している。財務省には、無駄な緊縮のエバンジェリズム(⇒自賛)はやめて、GDP1000兆円の絵を描くことを求めたい。
韓国とアメリカは、25年前から自国経済を3倍に増やしたのだ。日本が同じことをしていればGDP1500兆円である。まさにマルクス的な「明日には狩りを」の夢の世界だけれども、他の国は現実に実現している。エリートである財務官僚には、日本のGDPを3倍増の1500兆円にする責任と使命を引き受けてもらいたい。経済を担う者は、現場であれ、司令塔であれ、参謀本部であれ、夢を持ち、夢を追いかけないといけない。いつの時代もそれは同じだ。