2021年10月20日水曜日

20- “選挙の神様” 久米晃氏 「自民党は30議席減がベース、最悪40減も」

 日刊ゲンダイが「注目の人」として元自民党事務局長の久米晃氏を「直撃インタビュー」しました。

 久米氏は業界紙記者を経て、80年に自民党本部職員となり党選対本部事務部長などを歴任しました。長年選挙対策に携わり、永田町で「選挙の神様」と呼ばれました。
 2019年に退職現在は「選挙・政治アドバイザー」として活躍しています
 自民サイドからの選挙の見方が少し分かります。
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注目の人 直撃インタビュー
“選挙の神様”が占う10.31総選挙の行方「自民党は30議席減がベース、最悪40減もある」 
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久米晃(元自民党事務局長)
 14日衆議院が解散。いよいよ19日公示・31日投開票の総選挙に突入する。自民党は不人気だった菅前首相から岸田首相に「顔」を代えたものの、内閣支持率は期待したほど高くなかった。自民党職員として長年、選挙対策に携わり、永田町で「選挙の神様」と呼ばれる久米晃氏に、岸田政権の人事や自民党の現状、総選挙の行方について聞いた。
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 ――岸田首相の人事にはやはり派閥の影が見える。
 もともと派閥って、総裁候補をつくるためのものみたいなところが伝統的にある。例えば細田派は人が多いし人材も多い。ここを無視して他派閥から人を引っ張ってこようとしても人がいない。だから、派閥がどうこうではなく、結果として派閥が人材のプールになっているということなのです。
 ――長期政権の構造は変えられるのでしょうか。
 安倍政権プラス菅政権というのは、僕は個人的には、すごく慌ただしい政権だった気がするんです。つまり敵を見つけてそこを攻撃するみたいな。その手法が8年9カ月続いてきた。そういった意味じゃ岸田さんというのは、悪い言い方すると特徴がないが、逆に言えば落ち着いた感じがする。そこが総裁選挙でも議員の多くが一票を投じた理由だろうと思います。
 ――発足後の内閣支持率は歴代に比べて低い。
 新内閣には、若干当選回数の若い人がいたり、知名度の低い人もいる。ちょっと不安がありますよね。そこが支持率が思ったより低い原因じゃないですかね。朝日新聞の調査では岸田内閣の評価について「分からない」が35%もあった。不支持が増えているわけではなく、まだ分からなくて様子見をしてる人が多い。有権者はこれからをよく見ていくんじゃないかなと思います。

「政治とカネ」はキチッと説明するべき
 ――甘利幹事長の金銭授受問題や河井夫妻の買収事件での党からの1億5000万円など「政治とカネ」は引きずっている。
 甘利幹事長は不起訴になったからそれはもう白なんだと。確かにそうなんだけど、もう一度説明の場を設けて終わらせることも必要だとは思います。そうしたほうが、さっぱりするんじゃないですか。でなければ選挙中もずっと引っ張られますよ。
 ――1億5000万円については?
 河井(克行)さんは、買収で使った二千数百万円は手持ちのお金と証言しています。宣伝広報費で3回くらい全戸配布したそうですが、額としてはまあそのくらいは確実に使っているでしょうね。でも、1億5000万円を党から支出したことそのものが問題だというなら、それは岸田さんじゃなくて当時の執行部の責任ですよね。どちらにしても何か疑いをかけられたら、キチッと説明したほうがいい。そうすれば、野党だって攻撃材料がなくなっちゃうんだから。
 ――岸田首相が選挙日程を1週間前倒し、自民党内でも驚きの声が上がりました。早めたことは勝敗に影響しますか?
 1週間早くてもあまり変わらないんじゃないでしょうか。岸田さんの周辺は「ボロが出る前に」とか言ってる方もいらっしゃいますが、ボロが出るとするなら国会が始まってから。国会自体はもともと短期間の予定でした。有権者にとって投票の基準というのは、期待か不平不満なんですね。菅前首相の時は、申し訳ないけど期待よりも不平不満が上回った。しかし、岸田さんに代わったことによって期待値が大きくなった。そこで選挙情勢が変わったと思います。
 ――自民党の議席はどうなるでしょう。
 4年前の総選挙を基準に考えています。野党は、立憲民主党と希望の党に割れて、共産党からも維新からも候補者が出た。あの時、マスコミの何社かが、仮に野党が統一候補を組んでいたら、あるいは立憲、希望が割れなかったらどうなるかシミュレーションして、自民党はマイナス64になったんです。そこから私は、「野党が統一候補を組んだら1+1=2にならないが、1+1=1.5くらいにはなる。そうすると野党協力が進むという前提で自民党はマイナス30くらいになる」と。それを目算にして判断するという考え方です。マイナス30のベースからどれだけプラスにできるのか、あるいはさらにマイナスが増えるのか。うまくいけばマイナス20や10で済む。ただ、国民の期待と不満がどの程度なのか、まだ分からない。最悪マイナス40もある。これからの戦い方次第です。

野党は出し殻の代表では新しい票は入らない
 ――野党はどうですか?
 いざとなれば共産党は一方的に候補者を見送ってくると思います。プラス30から、野党もどう積み上げるかというのがスタートラインです。でも、維新やファーストの会のような勢力は自民党にとっても助かります。自民党に入れたくないという人の受け皿になりますからね。野党は、出し殻みたいな人がずっと代表をやっていたら、新しい票なんて入りませんよ。党首を代えようがないなら、周りを取り囲んでいる人を代えればいいじゃないかと思います。何年も同じパターンで自民党攻撃をしているような気がしますね。
 ――野党がダメなら敵失で自民党が優位だと?
 いやそんなことはない。やっぱり候補者の中には例えば地元の県会議員などと折り合いが悪いとか懸念される人もいるわけです。だから自民党の支持率が上がったとしても「この人はちょっと……」というのが多ければ、票にならない。自民党の支持者って政党に対する支持じゃないんですね。政党に期待する部分もありますが、一票を入れるのは最後は候補者の人間性に対する評価だから。
 ――それが自民党という政党の特徴ですか。
 実はいろいろなところで言っていますが、日本にはそもそも政党なんてないと。例えばヨーロッパの国々では、キリスト教民主党や社会民主党など、みんなイデオロギーを持った政党じゃないですか。でも日本の政党は違う。自由民主党だってもともと民主党と自由党が一緒になったんですが、国会議員が集まってつくった政党です。息の合った人、あるいは地域の代表者、そういう人たちが集まって政党と言っているんです。それを、ヨーロッパの選挙制度は素晴らしいからと真似して小選挙区制度を導入した。当時のスローガンは「政権交代可能な2大政党」でしたが、政党がないのに、何? 2大政党って? と思いましたね。
 ――選挙制度を変えるべきだと?
 日本人って何か問題が起こると必ず制度論にすり替えるんです。民間の会社なんかもそうですよね。スキャンダルが起こるとすぐ検証委員会を立ち上げて、制度が悪いから事件が起こったと本筋をねじ曲げるようなことをやってきている。小選挙区制などはその最たるものです。僕は小選挙区制度を見直すべきだと思いますが、無理でしょうね。だって自分たちのつくった選挙制度、自分の陣地を壊すわけはないですから。

日本の選挙は政策や公約より人間で選ぶ
 ――今回、有権者の関心は高まるでしょうか。
 長く選挙に関わってきて思うのは、日本の選挙は政策や公約で選ぶのではなく、人間で選んでいるということです。その人を信用できるかどうかが基本。でも、その信用できる人がだんだんと少なくなっているからどんどん投票率が下がっている。あと、これだけ生活環境が完備されてくると政治に期待するものが減ってしまった。昭和の時代などは投票率が75%もありました。
 ――新型コロナで政治への関心が高まったという見方もありますが。
 コロナはいま、一息ついた感が出てきました。感染者が減ってワクチン接種も増えて、ほっとした感があります。加えて、少なくとも岸田さんに対しては様子見で期待値がまだ高くないとするなら、投票率はそんなに上がらないかもしれませんね。でも、不満はたまっている。飲食店や他にも大勢の人が。国民の不平や不満、怒りがどのくらい残っているか。投票率はもう少し見ないといけませんね。いずれにしても、最後は政党、候補者次第です。夢と希望を語れるか。有権者にそれを信用してもらえるのか。勝敗はそこにかかっていると思います。 (聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)

久米晃(くめ・あきら) 1954年生まれ。愛知県出身。業界紙記者を経て、80年に自民党本部職員。党選対本部事務部長などを歴任した。2019年に退職。現在は「選挙・政治アドバイザー」。