2021年10月17日日曜日

17- 財務次官の「国家破綻」論は過去の財政破綻否定論と整合しない

 財務省の矢野康治事務次官「文藝春秋」(11月号)に、「このままでは国家財政は破綻する」という記事を寄稿して話題なっています。財政再建の必要性を訴えたのはいいのですが、新型コロナウイルスの経済対策をバラマキ呼び、国家財政破綻の可能性に言及した点が、タイミング的に岸田内閣を直撃することになりました。

 因みに、矢野氏は一橋大の出身(財務省で東大以外の出身者は数%ほど)で、今年の5月に事務次官に異例の昇進を遂げたのは菅首相(当時)の引きによると言われていて、この時期にそうした投稿が行われたのは菅氏の指図だというような尤もらしい噂もあるようです。
 国債残高がGDP(年額)の2倍近くもあるのは明らかに異常であり、歴代の自民党政権(小泉・竹中政権と第一次・第二次の安倍・菅政権が殆ど)の放漫財政と予算のコストパフォーマンス、即ち予算が適正かつ効率的でそれが的確に消費されたのかは厳しく問われなくはなりませんが、コロナ対策としての諸費用を「バラマキ」と称して、国家財政が破綻するから止めるべきだというのは大いに的外れです。
 予算の効率的な使い方の点で、例えば給付金などの支払に全て竹中氏のパソナが絡んで莫大な手数料を取る(五輪では一層顕著でした)というような件は大いに見直す必要はありますが、国債が膨らんでそれが暴落したとしても日本円による借金で財政が破綻することはないことは財務省自身が2002年文書認めていることなので、必要な出費は臆することなく行う必要があります。
 デイリー新潮編集部が、「財務次官の国家破綻論は過去の財政破綻否定論と整合しない」という趣旨の記事を出しました。
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財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?
                    デイリー新潮編集部 2021年10月14日
コロナ禍で痛み、苦しむ人たちに
 財務省の矢野康治事務次官による月刊誌「文藝春秋」(11月号)への寄稿が話題となっている。財政再建の必要性を訴え、新型コロナウイルスの経済対策を「バラマキ」と喝破し、国家財政破綻の可能性に言及する内容だ。財務省といえば霞が関の頂点に君臨する省庁で、その現役トップが自身の考えを表明するのは異例のことだ。しかし、財務省は過去に、国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定していた。それとの整合性はどうなのだろうか?
 矢野氏は、与野党で10万円の定額給付金や消費税率引き下げなどが議論されている点について、「国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」「(今の日本の財政状況は)タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」と主張。
 さらに、「(この状況を放置すれば)日本国債の格付けに影響が生じかねず、そうなれば、日本経済全体にも大きな影響が出ることになります」と訴える。
 選挙直前のタイミングということもあり、コロナ禍で痛み、苦しむ国民に救いの手を差し伸べようとしている点では与野党共通しているといえるだろう。そうした政策に異議申し立てをしているのだ。本人によれば寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」だという。

日本円による借金で財政が破綻することはない
「財務官僚にとって悔やんでも悔やみ切れないのが、今や1200兆円を超える借金の山にあるのは言うまでもないでしょう」
 と話すのは、読売新聞経済部で大蔵省などを担当し、現在は経済ジャーナリストとして活躍する岸宣仁氏。日本を牛耳る財務官僚たちの立身出世の掟などについて論じた『財務省の「ワル」』の著者でもある。
  霞が関のトップエリートが集う財務省。そこでは「ワル」といえば、いわゆる
 「悪人」ではなく、「やり手」という一種の尊称になる。求められてきた「勉強も
 できるが、遊びも人並み以上にできる」タイプとは? 出世の条件とは?――当代
 一の財務省通が「ワル」たちの内幕を明かす

 日本が抱える借金を表す数字として「1200兆円」がよく使われる。これは、国と地方を合わせた長期債務残高(2020年度末)を意味し、日本が1年間に生み出す付加価値の総和である国内総生産(GDP)の約2倍の水準にある。
 長期債務は、建設国債と赤字国債(正式には特例公債)からなる普通国債のほか、国際機関への拠出国債、特別会計の借入金、地方公共団体が発行する地方債などを合計したものだ。このうち、国の借金に当たる普通国債の発行残高は906兆円にのぼり、長期債務全体の76%を占める。
 気の遠くなるような金額を見れば、日本は大丈夫かと不安になるかもしれない。しかし、実はそういう不安を否定する文書を財務省はかつて作成していた。
日本円による借金で財政が破綻することはないと財務省自身が認めた文書があります。2002年、外国の格付け会社が“日本の国債にはデフォルト(債務不履行)のリスクがある”と指摘したのに対し、反論の意見書を提出したものです」(岸氏)

財務省の公式文書
「外国格付け会社宛意見書要旨」と題されたその中身は、大要以下の通りである。
《貴社(外国の格付け会社を指す)による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい》
《(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。(2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高(3)各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。・1人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。》
 ちなみにこれは黒田東彦日銀総裁が財務官だった当時に出されたもので、国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した財務省の公式文書である。今から19年前の文書ではあるが、財務省はこの主張をその後も変えていない。矢野次官の今回の主張とは正反対ではないか。

オオカミ少年になる危険がある
 岸氏はこう解説する。
「《日本、米国など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか》という箇所には、その行間に怒りの感情さえ感じますね。折に触れてマスコミなどへの説明に、“歯止めのない国債発行はいつの日か財政破綻を招きかねない”と決まり文句のようにしてきた財務省ですが、海外向けについつい本音を漏らしてしまった格好です」
 財務省自らが財政破綻のリスクを否定してしまっている以上、国債の大量発行、ひいては彼らの永遠なるスローガンである「財政再建」も色褪せて見えてきてしまう。
「理財局で国債を担当したことがあり、現在は予算を編成する主計局に籍を置く現役幹部は以前に、『国債の暴落をブラフ⇒脅し文句に使うのは、確かにオオカミ少年になる危険がある』と素直に認めていました。長州人の矢野次官が『やむにやまれぬ大和魂』で書き上げた原稿なのだと思いますが、デフォルトを否定した反論書を公表した事実がある以上、単に赤字国債からの脱却を軸にした『財政再建』の4文字を声高に叫ぶだけでは、不可避的に積み上がる借金の山を前に手をこまぬいて見ているとしか思えません」  デイリー新潮編集部