2021年10月3日日曜日

たった一日で消えた 新政権の新鮮味(日刊ゲンダイ)

 岸田氏が行った自民党役員人事で「安倍・麻生の傀儡政権」であることが明らかになり、新政権の新鮮味は大半が失われました。岸田氏がもしも「傀儡政権」を潔しとしないのであれば、閣僚人事ではせめて何らかの新鮮味を見せて欲しいものです。「人の話をしっかり聞く」と自ら強調するのは決して安倍麻生氏の話を聞くことではなくて、あの人心を倦ませた「安倍・菅政治」に対する「アンチテーゼ」を提示して批判の意思を示した筈です。
 新内閣の人事では何とかその片鱗を見せて欲しいものです。
 岸田氏は総裁選中、新自由主義から脱却し税の適正な再分配を行うと述べてきました。それが高市氏の政調会長就任とどう整合するのかは理解しがたいところですが、本当にその意思があるのであれば政治をその方向に向けることは出来る筈です。
 国民は、「安倍・菅政権」の政治手法はいうまでもなく、政治・経済政策の継承望んでいません。この30年、OECD諸国のなかで日本だけが個人の所得がほとんど伸びておらず、安倍政権時代には賃金は下がる一方だったのに、安倍氏はひたすら海外に60兆円ともいわれるほど円をバラまく一方で、いたずらに危機を叫んで軍事費には年間5兆円以上も割くというデタラメな政治をして来ました。うんざりです。
 経済学者の斎藤満氏は、「岸田氏が本気ならば、労働者に適正に還元してもらえるよう、経団連を説得して交渉したらいい。もしくは、税制に手をつけて、強制的に中間層の所得を増やすよう政治が介入すべき」と述べています。
 せめて宏池会の理念を政治の上で発揮すべく努力して欲しいものです。
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たった一日で馬脚 もう消えた 新政権の新鮮味(日刊ゲンダイ)
                       日刊ゲンダイ 2021年10月1日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
「岸田文雄の特技は、人の話をしっかり聞く、ということであります」
 自民党総裁選に勝利した直後の挨拶で、岸田新総裁が改めてこう発言したのにはズッコケた。道徳の授業じゃあるまいし、一国のトップリーダーの政治的アピールとしては、あまりに平板で当たり前すぎるからだが、1日正式に発足した党執行部人事で、その意味がよーく分かった。「人の話を聞く」とは、安倍前首相と麻生財務相の話を聞く、唯々諾々と従う、ということだったのだ。
 人事では、安倍の出身派閥である党内最大派閥の細田派と第2派閥の麻生派への、これでもか、という配慮が鮮明だ。
 30日昼、岸田は都内のホテルで麻生と会談。その後、幹事長に麻生派の甘利明・元経済再生相の起用が内定した。甘利は、安倍・麻生とともに「3A」と呼ばれる両者の盟友で、総裁選期間中から「岸田政権なら甘利幹事長」と下馬評に上がっていた。まさか本当に甘利を選ぶとは。
 甘利は第2次安倍政権の「屋台骨」の閣僚のひとりだったが、大臣室で現金50万円をもらうという、あり得ないスキャンダルで辞任した人物である。この人事だけを見ても、岸田には「政治とカネ」の問題が相次いだ安倍・菅政権の反省ゼロということだ。
 安倍は安倍で、高市早苗前総務相の幹事長就任を猛プッシュしていたらしい。岸田勝利の直後から細田派の幹部連中にしつこく電話をして、「幹事長に高市を推せ!」と大号令。「高市は無派閥なのに」と幹部らが頭を抱えていたというが、当然、岸田にも「アベフォン」でポストを求めただろうことは想像に難くない。その結果、高市は政調会長に起用された。

人事権を手放した総裁
 官房長官人事では、一時、萩生田光一文科相が浮上したものの、結局、松野博一・元文科相に。いずれにしても細田派である。つまり、党の要の幹事長と内閣の要の官房長官を、麻生派と細田派にしっかり振り分けた、ということだ。
 総務会長に党内若手グループ「党風一新の会」の福田達夫代表世話人を大抜擢して、わずかながら「岸田カラー」を出したように見えるが、「福田氏の党三役起用は、次世代リーダーのライバルである小泉進次郎氏への当てつけ」(中堅議員)とも。それに、「当選3回で、党の意思決定機関である総務会をまとめられるわけがない」(ベテラン議員)という冷ややかな見方が大勢だ。
 総裁選で対決した河野太郎ワクチン担当相は広報本部長で、事実上、重要ポストから外された。これも“河野嫌い”の安倍の意向を「しっかり聞いた」結果なのか。この後の衆院選で「広報担当」として岸田総裁を宣伝する役回りで、河野にとっては屈辱的な人事である。
 まさに露骨な論功行賞人事。NHKですら「細田派や安倍氏に気をつかった人事」と解説していた。そのうえ、驚くしかないのは、30日までに内定したポストに、岸田派議員の名前が1人もないこと。安倍・麻生に耳を貸していたら、案の定の股裂き状態なのだろう。一体誰の政権なのか。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が言う。
「総裁として本格始動した初日から大失敗でしたね。安倍氏と麻生氏から押し込まれた人事を受け入れた瞬間にアウト。ここで突っぱねなければ、この先ずっと、『安倍麻生傀儡政権』と呼ばれます。党三役どころか官房長官にすら、自派閥の仲間を就けることができなかった。甘利幹事長に至っては、メディアから『政治とカネ』についての質問攻勢となるでしょう。衆院選を目前にして、これらが国民にどう映るのか、考えているのでしょうか
 岸田官邸の官僚も安倍政権からの“お下がり組”が復活しそう。岸田は、しょっぱなから自らの人事権を手放してしまった。

中間層に再分配なら、まずはアベノミクスをぶち壊せ
 とにかく、「人の話」を聞きすぎて、訳が分からなくなったデタラメ人事の典型なのだが、特に、高市政調会長は酷すぎる。
 高市が今後、自民党の選挙公約をまとめることになる。総裁選期間中の討論では、岸田と高市の経済政策は明らかに異なっていたのに、党の政策責任者を高市に任せるのはどう考えてもおかしい
「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」「分配なくして次の成長はない」――。岸田はこう言って、宏池会(岸田派)を立ち上げた池田勇人の看板政策になぞらえた「令和版所得倍増」をブチ上げた。政治による再分配で格差を是正し、中間層に手厚い支援をする、というものだ。
 一方の高市の経済政策「サナエノミクス」は、アベノミクスのコピー。“3本の矢”は金融緩和、財政出動、「危機管理投資」と呼ぶ怪しげな成長戦略。これでは新自由主義の転換どころか、加速だ。個人ではなく企業が潤い、格差是正の再分配とはほど遠い。
 経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
森友問題の再調査で、安倍氏に睨まれたらすぐに日和ったように、岸田氏には信念が感じられません。再分配の経済政策については、当初、期待できるかもしれないと思いましたが、今は、初志貫徹は無理だろうと諦めています。アベノミクスの焼き直しでは、結局、竹中平蔵氏が会長のパソナや電通など、一部の企業が潤うだけでしょう。安倍氏の影に潰されて、宏池会の本来の力を発揮できそうにありません

世論は安倍・菅政権の継承を望んでいない
「所得倍増」というのなら、まずはアベノミクスの否定が先だろう。この30年、OECD諸国で日本だけ、個人の所得がほとんど増えていない。特に、安倍政権だった期間に賃金はダダ下がりだ。2015年を100とした実質賃金指数は、昨年98・6にまで低下し、日本の平均給与は、OECD35カ国中22位に沈んでいる。
 国税庁が29日に発表した昨年の民間平均給与は433万1000円と2年連続の減少。これでどうやって「所得倍増」など実現できるのか。
単に財政出動するだけでは、アベノミクスと同じで個人の所得はますます減るばかり。アベノミクスをぶち壊さなければ、問題解決の緒にもつけません。岸田氏が本気ならば、労働者に適正に還元してもらえるよう、経団連を説得して交渉したらいい。もしくは、税制に手をつけて、強制的に中間層の所得を増やすよう政治が介入すべきです。要は本気度の問題。安倍氏に怯えて岸田色が見えない人事を見ていると、経済政策においても期待が持てず、落胆しかありません。これでは衆院選も来夏の参院選も、自民党は負けるんじゃないですか」(斎藤満氏=前出)
 たった1日で馬脚を現し、新政権の新鮮味はすっかり消えた。
 週明け4日の首班指名と閣僚人事の後、報道各社が世論調査を実施するが、6割が安倍・菅政権の継承を望んでいなかった世論は、さて、どう判断するか。「選挙の顔」を求めて菅首相切りで右往左往した自民党議員が、再び真っ青になるかもしれない。