2021年10月4日月曜日

「野党共闘」は自公の選挙協力を模範とせよ(小林節氏)

 野党4党「市民連合」の呼びかけに応じる形で次の総選挙で野党共通政策に合意したのは9月8日でした。しかしその後もまだ候補者が1区1人に調整されていない選挙区が多数ある中で、立民党は共産党などとの調整を行いませんでした。

 そんな中 9月30日、立民党の枝野代表と共産党の志位委員長が国会内で会談し、(1)次の総選挙において自公政権を倒し、新しい政治を実現する (2)「新政権」において、市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際共産党は、合意した政策を実現する範囲での限定的な閣外からの協力とする (3)両党で候補者を一本化した選挙区については、双方の立場や事情の違いを互いに理解・尊重しながら、小選挙区での勝利をめざす
―の3点を合意しました。
 会談では、冒頭、枝野氏が、総選挙での両党の協力について上記の3点を提案したのに対して、志位氏は、「全面的に賛同します。枝野代表の決断に敬意を表します」と応じました。志位氏は更に「とくに『新政権』において両党が協力していくことが合意されたことは極めて重要な前進です。~ 心からうれしく思っています」と述べました。
 共産党の委員長が快諾したものを第3者がとやかく言うべきではないのかも知れませんが、枝野代表の「選挙では協力して欲しいものの連立参加はお断り」という言い分は、狭量と独善以外のものではありません。それでなくとも9月8日の4野党の政策合意以降も、枝野氏は突如年収1000万円以下は所得税をゼロにするという立民党の政策を発表するなど、他党への信義にもと(悖)ろうとも立民党だけが伸びればいいという態度ははっきりしていました。

 小林節慶大名誉教授が、「『野党共闘』は自公の選挙協力を模範とせよ」とする記事を出し、「特定の選挙区で共産党の候補者を降ろせ」「共産党とは選挙協力はしても、政権を奪取しても共産党は閣内に入れない」というのは、要するに共産党は立民の議席獲得のために犠牲になれ言っているに等しいもので、政治家以前に人として失礼千万な話と断じ、「共産党異質な政党なので連立は出来ない」というのであれば、その是非を公開討論するべきだと提案しました。
 日刊SPA!の記事を紹介します。
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「野党共闘」は自公の選挙協力を模範とせよ
                   小林節  日刊SPA! 2021年10月2日
                      (慶大名誉教授・法学博士弁護士
政権を目指さない政党はない
「政党」とは、それぞれに同じ政治的主義・主張を持った人々の結社で、いずれも、政権を獲得してそれを用いて全国民の福利を増進させたいと願って活動している集団である。
 例えば、自民党は、自由と民主主義(とはいえ、2012年改憲草案によれば明治憲法的な国家観)によって日本国を統治することで、日本国民の最大多数の最大幸福が実現すると考えて活動している政治結社である。また、公明党は、日蓮仏法を信ずる人々の政治結社で、法華経の精神に従って国を統治してこそ国家は平和裏に発展すると考えている人々の集団である。
 私たち人間には、歴史の成果として、思想・良心の自由(憲法19条)と結社・表現の自由(21条)と参政権(15条)が等しく保障されているのだから、人々が、信条別に政党を結成して活動することは文字通り自由である。
 だから、マルクス・エンゲルスによって確立された共産主義を指導原理とする政党を結成することも自由である。「新自由主義」と称して弱肉強食の資本主義が大手を振っている今日、私有財産の無統制な自己増殖による弱者に対する搾取のない平等な社会を目指す共産党には、今こそ価値があるのではないか。だから、当然に、共産党も政権入りを目指して活動しているし、それは、政党として当り前のことである。

「野党共闘」の模範は自公選挙協力
 小選挙区(1人区)を中心にした現行の衆議院選挙制度の下では、まず、与党側が候補者を1人に絞っている以上、野党側も1人に絞らない限り、始めから勝負にならない
 自公政権(特に安倍・菅政権)による権力の私物化・利権化の結果、国民大衆の生活は確実に悪化している。不誠実なコロナ対策、重税、福祉の切り下げ、労働法制の改悪等により、国民大衆の中には不満がうっ積している。しかし、過去6回の国政選挙で政権交代は起きていない。
 それは、自公政権が支持されたというよりも、野党には期待できないから「どうせ選挙に行っても何も変わらない」と棄権する有権者が半数以上もいるからである。だから、支持率で50%にも満たない与党が選挙の結果では60%以上の絶対多数の議席を得てしまうのである。そして、「役に立たない野党」に対する期待はさらに遠退いて行く。
 だから、菅政権が国民の信を失って瓦解した今こそ、野党は「自公に学んで」全ての小選挙区に「野党統一」の一本の旗を立てるべきである。

「野党共闘」と「選挙区内調整」
 ところが、この期に至っても、野党第一党の立民からは、「特定の選挙区で共産党の候補者を降ろせ」「共産党とは選挙協力はしても、政権を奪取しても共産党は閣内に入れない」とか、訳の分からない話しか聞こえてこない。これは、要するに、共産党は立民の議席獲得のために犠牲になれ……と言っているに等しい政治家以前に人として失礼千万な話であろう。

「共産党異質論」について 公開討論を
 もちろん、立民もそれなりに「理屈」を言う場合がある。曰く、「共産党とは基本理念が異なるから内閣に入れることはできない」。
 しかし、それならば、「俱に天を戴けない」相手に、自分達の存続にかかわる選挙協力など求めるべきではない。
 しかも、「基本理念が異なる」と言っている内容に説得力がない。曰く、「自衛隊、日米安保、天皇制等について考え方が違う」。しかし、まず、立民の中でも上記論点について意見が一様でないという事実を指摘しておきたい。
 その上で、⑴ 日本国憲法は、本来、自衛隊や日米安保のいらない世界を目指しているが、今の国際情勢がそれを許さないことは認める。しかし、憲法が海外派兵を禁じていることは今守られるべきである。  明治憲法下の統治権を総攬していた国の主権者たる天皇と、日本国憲法下で主権者国民の総意に基づく象徴天皇は、法的に別異のものである……。という共産党の主張のどこが「俱に天を戴けない」程にまずいのか? 立民が公開討論の場を設けることを期待する
 これは非常に重要な、時の公的関心事であるのだから。
                   <文/小林節> <初出:月刊日本10月号>

こばやしせつ  法学博士、弁護士。
都立新宿高を経て慶應義塾大学法学部卒。ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。著書に『 【決定版】白熱講義! 憲法改正 』((ワニ文庫)など