安倍元首相は「岸田新政権」という傀儡政権の誕生に「わが世の春」と道長風に満足していると思われたのですが、日刊ゲンダイによると、実は「岸田新体制にブンむくれ」(⇒傀儡政権じゃなかったの? 安倍前首相が「岸田新体制」にブンむくれのワケ)だということです。
安倍氏は、総裁選が終ると細田派の幹部にしつこく「高市さんを幹事長に推せ」と電話をかけ、一方では「官房長官には萩生田氏という新聞辞令」を手配して圧力を掛けたのでしたが、岸田氏は幹事長には甘利氏(麻生派)を、官房長官には細田派の松野博一氏を当てて安倍氏の要求をかわしました。岸田政権は世間が酷評する通り「安倍麻生の傀儡政権」なのですが、その裏では岸田氏なりに、麻生氏の威光?も利用しながら安倍氏を不快にさせる抵抗も見せたということです。4日に発表される内閣人事は当然その延長線上にあると思われるので、果たしてどういう陣容になるのか注目されます。
それとは別に文春オンラインに「 ~ 岸田文雄は“あの男”に似ている … ~ 首相就任に感じる『悲劇の匂い』」という記事が出ました。
岸田氏は総裁選に当たり早々に「幹事長の任期は1期1年、3期まで」と二階氏を標的にした政策を打ち出して一気に事態を緊張させ、次いで「森友問題もクリアにする」と言い出して大向こうをうならせました。
そこまでは良かったのですが、安倍氏がそれに激怒したことが伝わると岸田氏はあっさり引っ込めました。それでは何の覚悟もなく発言したことになるわけで世間は唖然とし当然酷評に転じました。安倍氏が激怒するであろうことは誰にも分かることなのに、なぜそんなことを言い出したのか、それを理解できた人はいなかったのではないでしょうか。
文春オンラインは、(岸田氏がそれを口にしたとき)「会場の自民党議員たちはヒヤヒヤしたと思うが岸田本人はあっけらかんと言っていた。普段は安倍氏に気を使っているようなのに、たまにいきなり明言する岸田文雄。もしかして、天然なのか……?」と述べています。
軽いタッチの文章ですがそういわれると納得がいきます。
以下に文春オンラインの記事を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「傀儡と見られるのでは」新総裁・岸田文雄は“あの男”に似ている…めでたいはずの首相就任に感じる「悲劇の匂い」
プチ鹿島 文春オンライン 2021/10/02
自民党の総裁選は岸田文雄が勝利。
岸田さんは凄い。さっそく会見があったが「ちゃんと記者の質問に答えていた」。素晴らしい。感動した。こんな逸材が自民党にいたとは。これまでフニャフニャしてるとか優柔不断とか言ってすいませんでした。
しかし意地悪な新聞は岸田氏が議員票で圧倒した理由をこう書いている。
『安倍・麻生・甘利氏「3A」結束』(朝日新聞9月30日)
この3氏が岸田氏を決選投票で推したから総裁になれたのだと。岸田氏周辺は「傀儡と見られる」との不安を抱えているという。
岸田新総裁は誰に似ている?
ザワザワする。この感じって既視感がある。過去に似ている政権では誰だろう。
岸田氏は「宏池会」のトップです。宏池会とは自民党の名門派閥で政策的にはリベラルで憲法改正には慎重派が多く、いわゆる「ハト派」と呼ばれる。
その「宏池会」から首相が誕生したら宮澤喜一以来で約30年ぶり。そういえばあのときも最大派閥の竹下派に宮澤氏は選ばれたという経緯があった。やはり宮澤政権に似ているのだろうか?
いや、もっと悲劇的な例を思い出した。94年の村山富市首相である。
当時、政権を取り戻すことに必死だった自民党は連立を組んだ社会党の党首・村山富市を首相候補に担ぐという奇策を放った。
首相となった村山氏は94年7月18日の所信表明で、
《「自衛隊は憲法の認めるものだ」と明言。議場は一瞬静まり、直後に拍手とヤジで騒然となった。21日も参院で非武装中立を「役割を終えた」と言い、連日、党の歴史的転換となる発言を繰り返した。》(日本経済新聞2015年10月18日)
あのときのインパクトは凄かった。
《基本政策の大転換は党の衰退を招き、95年参院選で大敗。96年の衆院選前に分裂し民主党に多くの議員が流れた。》(同)
首相になったはいいが、それまでの主張を一気に変えたことで身内の支持を失ったのである。そりゃそうだ。
首相就任は「ピンチ」なのかも
今回、あの悲劇の匂いを感じてしまう。「岸田文雄=村山富市」説である。人事だけでなく政策でも安倍氏の言うことを次々に飲んだら宏池会の存在意義が問われる事態になるのではないか。あのときの村山氏と社会党のように。首相就任はめでたいように見えてピンチなのかもしれない。
もっとも、こんな見方もある。
『日和見主義的な姿勢懸念』(西日本新聞9月30日)
政治学者の中島岳志が言う。
《岸田氏は、これまでも強い力を持つものに迎合する傾向が強かった。当たり障りのない主張を並べることで敵をつくらず、重要なポジションを獲得するというのが、岸田氏の政治スタイルだった。(略)今回の総裁選でも、本来リベラルな政策志向のはずなのに、首相の靖国参拝や選択的夫婦別姓の是非について言葉を濁し、明言を避けた。日和見主義的な政治姿勢は、何も変わっていない。》
すいません、やはり岸田さんはフニャフニャしていました。
それにしても同じ「日和見」なら河野太郎も「当たり障りのない主張を並べることで敵をつくらず」という岸田氏の姿勢を見習ったほうがいいのかもしれない。総裁選の決選投票は日和見VS日和見だった。
一方で私が注目したいのは岸田氏の次の部分だ。当選直後の壇上スピーチで「民主主義の危機」とか「特技は人の話をしっかり聞く」と言っていたこと。
これってどう考えても安倍晋三・菅義偉をディス(⇒否定)っていませんか。会場の自民党議員たちはヒヤヒヤしたと思うが岸田本人はあっけらかんと言っていた。普段は安倍氏に気を使っているようなのに、たまにいきなり明言する岸田文雄。
もしかして、天然なのか……?
そういえば今回の出馬会見でいきなり二階幹事長の再任拒否という先制パンチを放ち「今年の岸田は違うぞ」という印象を残した。大胆なことも言えるようになったのかと。
岸田文雄の“大きな弱点”とは
岸田氏の二階外しは予想以上にウケて二階氏も菅氏も慌てたが、しかし、言った岸田本人も反響にびっくりしていたフシがあった。あれも天然のなせるわざと考えたほうがよいのだろうか。安倍・麻生・甘利の言うことを聞きつつ、自分のやりたいことを思わずやってしまう天然な展開があったら見直されるのかもしれない。
だが岸田氏には大きな弱点がある。地元・広島の中国新聞が9月23日に一面トップで大きく報じたこの件だ。
『1億5000万での買収否定 自民 河井夫妻事件で説明』
自民党の柴山昌彦幹事長代理は、
《2019年の参院選広島選挙区での大規模買収事件を巡り、党本部が元法相の河井克行被告(58)=公選法違反罪で一審実刑、控訴=らの党支部に提供した1億5千万円について「買収資金になっていない」と述べた。一方、巨額の資金投入が決まった経緯は明らかにしなかった。》
中国新聞はこの点について「金権選挙」の闇晴れず、と書き、
・一体、誰が巨額の資金投入を決めたのか
・なぜ同じ選挙区に立候補した別の党公認候補の10倍の資金を投じる必要があったのか
・結果的に河井夫妻による現金の「ばらまき」を誘発したのではないか
と指摘した。
そもそも同じ選挙区に自民党の溝手顕正がいたのになぜ「新人」(河井案里)がわざわざおくりこまれたのか? こちらの記事を読めばわかる。
『「首相の責任」「もう過去の人」 安倍首相はかつてこき下ろされた“あの男”を許さない』 (週刊文春 2019年6月27日号)
かつて、安倍氏は広島が地盤の溝手氏(岸田派)に痛烈に批判されたことがあった。
《安倍氏は、そうした恨みを片時も忘れない。》
こんなにわかりやすい理由だった。新聞もこう伝える。
《河井氏は首相や菅氏に近い河井克行・党総裁外交特別補佐の妻で、菅氏が出馬を後押しした。》(日本経済新聞2019年7月23日)
地元の声を「聞く力」はあるか
溝手氏に対して官邸が放った刺客と言われたのだ。このあと出たのが、河井案里陣営が昨年7月の参院選で、党本部から1億5千万円の資金を受け取っていたという報道である。官邸の力の入れ具合が「金額」で証明された。
岸田氏はよりによって自分の派閥の仲間が狙い撃ちされたのに、この件についてなぜか今は無口。
広島県連ナンバー2の中本隆志・県議会議長は、
《河井夫妻が作成した資料を検証することもなく、1億5千万円について「買収資金ではない」などと公表したことを問題視。「説明責任から逃げている」と党本部の姿勢を批判した。》(朝日新聞9月30日)
記事のタイトルは『岸田さん、この声聞いて』。
岸田さんは地元の声を「聞く力」はあるのでしょうか。 (プチ鹿島)