2021年10月5日火曜日

05- 「学者の会」が学術会議6人任命を改めて要求する声明

 菅首相は日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否し、その理由の開示を拒み続けた挙句1年間も放置したまま退任しました。

 菅首相(当時)による任命拒否が明らかになると各大学や各学会などは一斉に批判声明を出しましたが、その口火を切ったのは菅氏の母校である法政大学でした。
 当時、法政大学総長であった田中優子氏は、最近になって、菅氏は、首相が任命を拒否できる立場でないことや、学問の自由が何で、政治がそれに介入してはならないという大原則の認識もないままにそうした暴挙を行ったことが、「総長として非常に恥ずかしかった」ので全国に先駆けて批判声明を出したと述懐しています。菅氏には最後までそうした意識がなかったことでしょう。
 岸田首相は総裁選で学術会議会員の任命拒否の「撤回は考えない」と語っています。まさか菅氏と同じような認識ではないと思いますが、この問題は、新自由主義からの離脱と同様にというよりもそれ以上に大事な問題であると認識して欲しいものです。
 「安全保障関連法に反対する学者の会」が1日、都内で記者会見し、改めて会員候補6人の任命を求める声明を発表しました。
 声明は、任命拒否が「日本学術会議法が保障する日本学術会議の職務の独立を危うくし、6名の科学者の学問の自由を侵害し、名誉を傷つける」と指摘し、「思想と学問の自由を擁護し、科学の政治からの自律性を保障することは民主主義社会の要」だと述べています。岸田氏には何よりもこのことに「耳を傾けて」欲しいものです。
 また4月に結成された「学問と表現の自由を守る会」は2日、第1回座談会を東京・渋谷で開き、「あれから1年、私たちの自由は? そして社会は?」と題して語り合いました。メンバーは、任命拒否された6人のうちの1人である加藤陽子東京大学教授のほか、田中優子法政大学前総長、広渡清吾学術会議元会長、作家の温又柔氏で、司会を佐藤学東京大学名誉教授が務めました。
 概要はしんぶん赤旗が報じましたが、1時間50分余りの座談会の一部始終はいつでも動画で見ることが出来ます。図表などはないので音声を聞くだけで十分に理解できます。
  ⇒【動画】10/2 学問と表現の自由を守る会主催・第1回ライブ&オンライン座談会
    URL https://youtu.be/chpPvWCNvg0  時間 1:53;34
 しんぶん赤旗の記事と「澤藤統一郎の憲法日記」を紹介します。
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学術会議6人任命 改めて要求「1年放置の異常正して」 「学者の会」が声明
                        しんぶん赤旗 2021年10月2日
 菅義偉首相が日本学術会議の会員候補6人の任命を1年にわたって拒否していることを受け、「安全保障関連法に反対する学者の会」が1日、都内で記者会見し、改めて会員候補6人の任命を求める声明を発表しました。
 声明は、任命拒否が「日本学術会議法が保障する日本学術会議の職務の独立を危うくし、6名の科学者の学問の自由を侵害し、名誉を傷つける」と指摘。「思想と学問の自由を擁護し、科学の政治からの自律性を保障することは民主主義社会の要」だとして、まもなく発足する新政権に6人の任命を求めています
 日本学術会議元会長の広渡清吾・東京大学名誉教授は会見で「菅首相は、当事者である日本学術会議が説明を求めても、任命拒否の理由を一切説明しない。対話が成り立っていない。この正常でない状態が1年も続いている」と強い口調で語りました。
 また、「日本学術会議は科学の立場から政治に助言する組織。それには科学の自律性が保障される必要がある。あらかじめ政治が科学の側に影響を及ぼすようでは、科学的な助言ができないというのが国際的な常識だ」とも述べました。
 現会員の髙山佳奈子・京都大学教授は「日本学術会議法上、首相は任命を拒否できない。違法状態が1年にわたってまかり通っている。日本が法治国家でないことが国内外に知れ渡り、国際的信用を害している」と語りました。
 岸田文雄・自民党総裁は総裁選前の会見で、任命拒否の「撤回は考えない」と語っています。
 これについて元会員の佐藤学・東京大学名誉教授は「問題が1年も放置されていることの異常さに、気づかない人が首相になろうとしている。この異常性に私たちはマヒしてはいけない。この社会が自ら正常化できるかどうかが問われている」と指摘しました。


自由守る決意新た 学術会議任命拒否1年で座談会 学者・文化人ら
                       しんぶん赤旗 2021年10月4日
 日本学術会議会員候補の速やかな任命を求めて学者・文化人らが4月に結成した「学問と表現の自由を守る会」は2日、第1回座談会を東京・渋谷で開き、「あれから1年、私たちの自由は? そして社会は?」と題して語り合いました
 登壇したのは、任命拒否された6人のうちの1人である加藤陽子東京大学教授のほか、田中優子法政大学前総長、広渡清吾学術会議元会長、作家の温又柔(おん・ゆうじゅう)氏で、司会を佐藤学東京大学名誉教授が務めました。
 加藤氏は昨年9月29日に学術会議事務局から任命拒否の知らせを受けた1年前を振り返り、同会議の歴史の中で初めて任命を拒否した菅義偉首相に対し「すごい大罪を犯したな」と感じたと述べました。翌月1日の「しんぶん赤旗」のスクープに報道各社が続き、1日夜の時点で問題の本質を「われわれの側が流せた」のは、政権にとって痛手だったのではないかと分析しました。
 田中氏は法政大学出身の菅首相による任命拒否は「総長として非常に恥ずかしかった」と述べ、いち早く批判声明を出した経緯を説明。学問は政府から自由であってこそ発展すると強調しました。
 広渡氏は「忖度(そんたく)」に相当する独語は「先取り的服従」で、これが全国民に広がったのがナチズムだと説いたドイツの政治学者の分析を紹介。任命拒否を「決して見逃してはならない」と強調しました。
 温氏は不自由になりつつある日本社会に「ヒリヒリした怖さ」を感じたと語り、不自由な方向に加担せず自由に「心ある選択」を重ねていく決意を述べました。
 座談会はチューズライフ・プロジェクトがライブ配信。ユーチューブでいつでも視聴可能です。


学術会議任命拒否問題の解決なくして、国民の信頼を得ることはできない。
                    澤藤統一郎の憲法日記 2021年10月1
 短命であった菅政権がやってのけた愚行の最たるものが、学術会議の推薦者6名に対する「任命拒否」である。あの衝撃からちょうど1年が経過した。事態は基本的に動いていない。
 この国の政治の土壌には、少しはマシな民主主義が根付いていたと思ったのが、甘い幻想に過ぎなかった。それを思い知らされたことが、1年前の「衝撃」だった。この国の国民は、権力というものを制御しえていない。この国の権力は、国民の意思とは無関係に、自らの意思を強権的に問答無用で貫徹しているのだ。
 憲法の理念を無視し、行政の透明性も説明責任もどこ吹く風。まったく別の論理で、権力の専断が行われている。これに対する司法的手続による対抗はなかなかに困難である。本来は、国民こぞって政権に対する批判の嵐がなくてはならないが、菅の首をすげ替えるだけで、権力の連続性は保持されようとしている。
 菅に代わる新政権の評価における試金石が、宙に浮いたままになっている学術会議の推薦者6名を任命できるかにかかっている。岸田政権でも良い、連立野党による新政権ならなおさら良い。不透明で恣意的な任命差別をやめ、直ちに学術会議による推薦者を任命して欠員のない学術会議の構成を実現すべきである。
 学術会議は、昨年の10月2日には、形式上の任命権者である内閣総理大臣宛に、簡潔な下記要望書を提出している。
           第25期新規会員任命に関する要望書
                               令和2年10月2日
内閣総理大臣 菅 義偉 殿
日本学術会議第181回総会第25期新規会員任命に関して、次の2点を要望する。
1.2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり、推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい。
2.2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について、速やかに任命していただきたい。
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 この学術会議の立場は、現在もまったく揺るぎがない。
 昨日(9月30日)、日本学術会議の梶田隆章会長は、25期の活動開始から1年にあたっての談話を発表し、このことを確認した。
 同日、オンラインで開いた記者会見で、梶田会長は「文字通り試練の1年だった」「一刻も早く解決したい」と振り返った上、改めて、同会議が一貫して6人の即時任命と拒否した理由の説明を求めると同時に、首相には任命の責務があると指摘してきたことを強調した。
 さらに感染症や気候変動の危機に触れ、「科学的知見を尊重した政策的意思決定がこれまでにも増して求められる現状にあって、日本の科学者の代表機関としての本会議が科学者としての専門性に基づいて推薦した会員候補者が任命されず、その理由さえ説明されない状態が長期化していることは、残念ながら、科学と政治との信頼醸成と対話を困難にする」と指摘し、「相互の信頼にもとづく対話の深化を通じて現在の危機を乗り越える努力が重ねられることを強く希求」すると結んだ。
 まったく異議のあろうはずはない。この事件は、国民の菅政権に対する呪詛となって短命に終わらせた。菅に代わる新政権を誰が担うことになろうとも、この問題を解決せずに、国民からの信頼を獲得することはできない。