2021年10月14日木曜日

14- シリーズ <検証・東京五輪> 4~5(終わり)(東京新聞)

 東京新聞のシリーズ <検証・東京五輪> の「4」と「5」です。
 「4」は、真夏の酷暑の中での開催と選手の熱中症の問題、「5」は、都が莫大な費用をかけて新設した6つの競技施設が五輪後に活用できるのかの問題について検証します。
 なお、このシリーズは今回で終了です。
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     (10月10日) シリーズ <検証・東京五輪> 1~3 (東京新聞)
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<検証・東京五輪> 4
SDGsに逆行「昭和の五輪」 米テレビ局の都合で熱中症75人、弁当・備品の大量廃棄も
                         東京新聞 2021年10月12日
 ゴール後に倒れ込んだ服部勇馬選手をスタッフが車いすに乗せ、医務室に運びこんだ。体温を測ると41度。危険な熱中症だった。
 8月8日の男子マラソン。酷暑を懸念して会場を札幌に移したが、レース終盤の午前9時は、気温27度、湿度73%。出場選手の約3割、30人が途中棄権し、大会組織委員会の職員は「みんな命を削って走っていた」と振り返る。
 熱中症で後遺症が残るケースもある。服部選手が所属するトヨタ自動車の佐藤敏信監督は9月下旬「高かった血液検査の数値が今は下がり、ジョギングを始めた」と胸をなでおろした。
 暑さに選手の苦情が頻出し、テニスやサッカーなど4競技で開催時間の変更を迫られた。特に、サッカー女子決勝は、国立競技場(東京都新宿区)で8月6日午前11時からが、日産スタジアム(横浜市)で同日午後9時からに変更。変更発表は前日の5日夜だった。
 組織委の高谷正哲スポークスパーソンは6日、「有観客なら、変更は厳しかった」と話した。皮肉にもコロナ禍で無観客になったことが幸いした。
 それでもパラリンピックを含めて75選手が熱中症になった。大会が7~8月開催なのは、プロスポーツの日程との重複を避けたい米テレビ局の意向であることは公然の事実。競技時間も欧米との時差を考慮して決められる。陸上の元五輪選手で、法政大の杉本龍勇教授(スポーツ経済学)は「日本の夏の暑さを考えれば、早朝か夜間に開催するしかないのにテレビ放送を優先した」と批判する。
 「平和でより良い世界の構築に貢献する」という理念が、五輪憲章に明記されている。暑さで選手が倒れることに目をつぶり、テレビ局の都合優先で日程を決めることは、この理念に反しないのか。
 また、東京大会は環境への配慮を掲げたが、明らかな逆行も目立った。7つの競技会場が新設され、選手村では新品のエアコン1万台超を設置。会場で余った弁当やマスクなどの医療品を廃棄した。
 組織委の記者会見で、水素エネルギー活用など「持続可能性」に関わる事業を紹介した際、海外メディアは出席者の机に置かれたペットボトルに注目した。「コカ・コーラ社がスポンサーなのは知っているが、なぜ『脱ペットボトル』を五輪で実現できないのか」と突っ込み、担当部長が「輸送と安全の観点から」と弁明する一幕もあった。
 杉本氏はこう残念がる。「大量生産、大量消費はまるで昭和のやり方。環境に配慮しながら経済活動をする世界の潮流とギャップがありすぎた。東京大会は五輪のあり方や日本社会を変えるチャンスでもあったのに」(森合正範、原田遼)


<検証・東京五輪> 5
「遺産」に見合った経費ですむのか…新設した都の6施設で年間7億3000万円の持ち出し
                          東京新聞 2021年10月13日
 9月下旬、東京五輪のボートとカヌー会場「海の森水上競技場」(東京都江東区)は、仮設物を撤去する工事のため、防護壁で覆われていた。全長2000メートルのコース周辺の空き地には大量のコンテナ。造成中の公園の隣を大型トラックが行き交う。発電用の風車2基が回っていた。
 「大会のレガシー(遺産)を活用してほしい」(都幹部)。海の森水上競技場は来春にも、ボートなどの大会開催や市民の利用が可能になる。課題の一つが、交通アクセスだ。東京テレポート駅からバスで十数分、バス停から徒歩20分。都は最寄りのバス停の新設を検討している。
 もう一つの課題、波や風の競技への影響については都オリンピック・パラリンピック準備局の佐竹禎司(さだし)施設整備担当課長は「(五輪では)問題なかった。素晴らしい施設と高い評価を受けた」と胸を張る。だが、大会で使われた「消波装置」は、大量のカキが付着する問題があり、対策が整うまで使えなくなる
 不安材料はほかにも。「海水の塩でボートが傷みやすい。海の森は護岸が垂直で、船がひっくり返った時の救助に課題がある」。1964年の東京五輪でボート会場だった戸田漕艇場(埼玉県戸田市)の関係者はそう指摘する。
 ある大学のボート部監督は「海の森に練習拠点を移すのは難しい」と話す。多くの大学は戸田に艇庫を所有しており、「移れば施設の利用料金がかかる。早朝や夜遅くに練習できなくなる。近くに買い物をする店もない」と漏らす。
 東京五輪・パラリンピックで、都が新設したのは、海の森水上競技場や東京アクアティクスセンター(江東区)など6つ。6施設とも順次、一般の利用を始めるが、黒字が見込まれるのはコンサート需要もある有明アリーナだけだ。
 海の森水上競技場はボートやカヌー、トライアスロンなど年間30大会を開く想定。戸田漕艇場は過密なため、高校生や社会人らの練習や合宿なども見込み、年間35万人の来場を目指す。それでも、都の持ち出しは1億5800万円。
 6施設では年間で計約7億3000万円の持ち出しになるが、都オリパラ準備局の鈴木一幸大会施設部長は「スポーツ振興のためのコスト。民間的な採算性だけでは割り切れない役割がある」と説明する。
 都の招致推進担当課長として2016年五輪の招致に関わった鈴木知幸・国士舘大客員教授は「長野五輪後に利用休止した施設と同じ道をたどれば、都は言い訳ができない」と話す。利用が低調なら、将来的に都の負担は増す。鈴木氏は「レガシーに見合う経費ですむのか。運営計画を見直し、都民に示す必要がある」と訴える。(土門哲雄)=おわり