2019年11月6日水曜日

不公平試験をゴリ押しした下村元文科相の罪は重い

 大学入試の英語民間試験は、受験番号に当たる「共通ID」 の取得申し込み開始の11月1日という土壇場になって延期が決定し、2024年度開始を目途に再検討することになりました。萩生田文科相の「身の丈発言(10月24日)」でこれまで受験生・教師など関係者間で鬱積していた不満が一挙に爆発し、炎上したため、自民党幹部がこの段階での実施は無理と判断したためでした。
 それにしても、受験生の経済的負担の不公平性のみならず、試験の採点自体の公平性が担保できないという、入試として要件を満たさないものを、良くも長年かけて準備し実施に踏み切ろうとしたものです。
 そもそも入試は受験者を公平な条件で競わせて能力の優れた者を選別するものですから、そこに公平性が保証されない業者任せの試験制度を持ち込むことなどはあってはならないことです。
 一方、急遽延期になった業者側にすれば本来であれば損害賠償を求める筈ですが、そうはならないのであれば、これまで甘い汁が吸える見込みで突っ走ってきたことへの後ろめたさがあるからでしょう。
 
 5日の衆議院文科委員会で学校関係者などを招いて行われた参考人質疑で、英語教育に詳しい京都工芸繊維大学の羽藤由美教授は「制度の実現が困難であることは複数の民間試験を利用する方針が固まった時点でほぼ見えていた。それ以来、多くの研究者が問題を指摘してきたが、耳を傾けることなくここまで来てしまった。今回の騒動に失望した若者たちの信頼を回復できるような結論を導いてもらいたい」と述べました。
 まさにそれに尽きるもので、民間任せという本質を維持したままの復活はあり得ません。公平性を維持できないのであれば民間試験は廃止すべきでしょう。
 
 野党側が5日に行った、大学入学共通テストに「記述式の問題が導入」されることについてのヒアリングでも、出席した高校生や教員などから、公平な採点が担保されない(記述式の試験では判断に迷う解答が出てくることが予想され、アルバイトなどが一度に大量に採点すると不公平が生じる)惧れがあるなどとして、中止や延期を求める意見が相次ぎました。「記述式問題の導入」は画期的ではあるにしても、採点における公平性が担保されなければそちらも廃止するしかありません。
 
 このいびつ極まる英語民間試験の導入は、下村博文・自民選対委員長が第二次安倍政権発足の1212月から1510月までの約3文科相を務めたときに固められたものでした。同氏は1989年35歳で都議会議員に当選し政界に入りましたが、それまでは学習塾の経営者でした。彼が文科相に就いた前後の、05111417年の11年間に教育関係の企業や団体から多額の政治献金を受け取っていたことが知られています。
 
 日刊ゲンダイが「背景に利権 不公平試験をゴリ押しした下村元文科相の大罪」とする記事を出しました。
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背景に利権 不公平試験をゴリ押しした下村元文科相の大罪
日刊ゲンダイ 2019/11/05
「文科省による制度設計の詰めの甘さが原因」(世耕弘成参院幹事長)、「混乱を招いた自体、文科省には大いに反省してもらわなければならない」(岸田文雄政調会長)――。英語民間試験の延期について、自民党内から文科省に責任を押し付ける声が噴出。だが、本当に責めを負うべきは、安倍首相のお友だちとして民間試験導入の“旗振り役”だった下村博文選対委員長だ。
 
 民間試験導入は、安倍首相が2013年に設置した私的諮問機関「教育再生実行会議」で浮上した。14年12月には文科相の諮問機関「中央教育審議会」が大学入試で英語の4技能(読む・書く・聞く・話す)を評価することを提言。20年度の実施が持ち上がった経緯がある。
 安倍首相の意向を受け、大学入試改革を主導した政治家こそ、12年12月から15年10月までの約2年10カ月もの長期にわたって、文科相を務めた下村氏である。
 
 政府が多くの専門家の反対の声に耳を貸さずに導入を強行しようとした背景に立憲民主党の枝野代表は4日、民間試験導入の経緯を巡り、国会で下村氏を追及すると表明。「なぜこんなおかしな制度を作ることになったのか」と疑義を呈し、「いきさつが一番、本質的な問題」「知る限り、一番の(導入の)原動力になったのは下村氏だ」などと意気込んだ。
 
■背景に教育業界との癒着
 下村氏はこの期に及んでも「パーフェクトを求めていたらやれない」と、民間試験導入にやる気マンマン。実現したい背景に透けて見えるのは、教育業界との利権だ。
 民間試験を導入すれば、その対策として塾や予備校など教育関係の企業や団体も潤う。下村氏が支部長を務める自民党東京都第11選挙区支部は05~11年の7年間に教育関係の企業や団体から総額1289万円にも上る政治献金を受け取っていた。14~17年の4年間も、総額1160万円の献金を受けている。
 
 要するに、民間試験導入を主導しつつ、教育関係者からどっさりカネをもらっていたのだ。民間試験の中止を求めている京都工芸繊維大の羽藤由美教授がこう言う。
民間試験導入が決まった会議は非公開で、議事録も出てきません。議論の中で、導入を裏付けるエビデンスやデータを諮ったかは疑問です。政府が多くの専門家の反対の声に耳を貸さずに導入を強行しようとした背景に、教育業界と政治家との癒着があったとしても不思議ではありません。今回の混乱によって、政治主導のトップダウンによる教育政策の限界が露呈したと言えます」
 混乱必至の政策をゴリ押しした下村氏の責任は重い。