2019年11月10日日曜日

映画『 i -新聞記者ドキュメント-』が突きつける安倍政権とマスコミの異常

 安倍政権の暗部を見事に抉り出して評判となった映画「新聞記者」(藤井道人監督)は、東京新聞記者・望月衣塑子氏が書いたノンフィクションノベル「新聞記者」が原案になっていますが、独自のストーリーを持ち、女優によって演じられたドラマ仕立ての映画でした。

 15日からロードショーに入る映画 i -新聞記者ドキュメント-は、望月衣塑子氏その人に密着し追いかけたドキュメンタリーで、113分にわたるものです。
 監督は、オウム真理教を題材にした『A』やその続編『A2』や、ゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした『FAKE』などを作った、映画監督で作家の森達也氏です。
 その試写会が6日、東京・駿河台の明治大学でありました。
 植草一秀氏と田中龍作氏がブログで取り上げましたので紹介します。
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 i -新聞記者ドキュメント」が突き付けるもの
植草一秀の「知られざる真実」 2019年11月 7日
森達也監督のドキュメンタリー映画「 i -新聞記者ドキュメント- https://i-shimbunkisha.jp/  について、ブログにおいても記述しておきたい。
11月15日(金)ロードショーの最新作映画である。https://bit.ly/2WWkM6Z このドキュメンタリー映画は、東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏に密着し、追いかけたもの。
113分の時間があっという間に過ぎ去る息もつかせぬ濃密な展開だ。

菅義偉官房長官による記者会見で執拗に食い下がる望月記者がリアルに描かれる。
監督の森達也氏は記者会見場での撮影を求めるが、国家権力がアクセスを認めない。国民の知る権利が保障されているのではなく、国家権力が情報を上から限定的に投げ与えているに過ぎない。
あたりまえのことをあたりまえに実践する望月氏が「特異」な存在として浮上することが、この国の歪んだ実相を鮮明に浮かび上がらせる。

 i -新聞記者ドキュメント」はいくつかの重要な素材を取り扱う。
官邸記者会見は全篇を通じて取り上げられる。望月氏の質問が標的にされる。質問は制限され、質問が妨害される。「特異」な存在である東京新聞ですら、望月氏を守り切れない。
この状況下でも望月氏はひるまない

日本の風土のなかで望月氏の行動は極めて「特異」である。
しかし、その「特異さ」を貫かない限り、この国の構造は永遠に変わらないだろう。
憲法改悪に反対する。辺野古基地建設強行に反対する。原発稼働に反対する。
安倍内閣を批判し、安倍内閣の打倒を目指す主権者が多数存在する。
望月氏も森監督も政治的立ち位置は「リベラル」に近い。

しかし、森達也監督が描こうとしたのは、政治的思潮の是非ではない。ラストにリベラルの立場が主導権を奪還したときに発生した歴史的事象が取り上げられる。
リベラルが善であり、保守が悪ということではないのだ。情報空間が一色に染め抜かれるところに最も重大な問題がある。
メディアの役割は言論の自由を実質的に保障することにある。いかなる言論であれ、公共の福祉に反しない限りは尊重されなければならない。

官邸における官房長官記者会見は、本来、メディアが主宰し、メディアが求めるなかで実行するべきものだ。
主権者には「知る権利」があり、政府には「答える義務」がある。その「情報開示」を保障するためのツールが官邸記者会見である。
映画には海外の記者が登場する。海外での政府要人の記者会見では、記者の質問に対して政府要人が自分の言葉で対応する。事前に質問内容を通告させることもない。

ところが、日本の政府要人記者会見では、質問内容を事前に通告することが義務付けられている。記者会見は政府が主宰し、政府の職員が進行を担当する。
事前に通告された質問に対する答弁は官僚が執筆する。政府要人は官僚が執筆した答弁を読むだけなのだ。だから、LeaderではなくReaderに過ぎない。

沖縄の辺野古では、環境を害する恐れの高い「赤土」が大量に投下されている。
宮古島の自衛隊基地建設が強行されるが、危険物を貯蔵する弾薬庫の存在が隠されていた。
どのようなプロセスを経て重大事実が紙面で紹介されるのか。

森友学園の籠池泰典夫妻が逮捕、勾留され、起訴された。
検察は懲役7年の実刑を求刑したが、事件の本丸の国有地不正払い下げを実行し、14の公文書の300箇所を改ざんした重大犯罪は無罪放免にされている。
元TBS職員の山口敬之氏に対して発付された伊藤詩織さんへの準強姦容疑での逮捕状は執行寸前に警視庁刑事部長の中村格氏の命令によって執行が中止された。

この国に広がる国家の不正のかずかず。このなかでメディアが本来果たすべき役割がある。
しかし、その機能を不全にするおおがかりな仕組みと空気が作られている。
(以下は有料ブログのため非公開)


 i -新聞記者ドキュメント-』が示す日本マスコミの異常
田中龍作ジャーナル 2019年11月7日
 東京新聞・望月衣塑子記者の取材活動を追った『 i - 新聞記者ドキュメント(監督:森達也)』。試写会が6日、東京・駿河台の明治大学であった。
 『 i 』が題材にしているのは「辺野古移設問題」「伊藤詩織・準強姦事件」「森友問題」「加計問題」。
 いずれも官邸による権力犯罪である。『 i 』はマスコミが追っていない所まで踏み込み、問題を告発する。
 「どうして答えられないんですかっ!」
 望月が猛然と沖縄防衛局幹部に詰め寄る場面がある。物凄い剣幕で迫り、防衛局幹部が車に逃げ込むまで追い駆けて行く。田中も同じ現場にいたが、彼女の怒りがヒシと伝わってきた。
 辺野古新基地の埋め立てには、赤土が大量に使われている。誰が見ても沖縄県「赤土流出等防止条例」違反だ。
 埋め立て自体が県知事の許可なく行われる違法行為であるのに、さらに条例破りまで重ねる。
 違法な埋め立ては、法治国家であることを自ら放棄する官邸の強引な姿勢を象徴する。
 にもかかわらず、沖縄2紙をのぞくとマスコミの追及は手ぬるい。

「広報に聞いて下さい」。沖縄防衛局幹部は得意の逃げ口上でかわそうとしたが、望月衣塑子は追及の手を緩めなかった。=1月、那覇市 野党合同ヒアリング会場 撮影:田中龍作=
 「伊藤詩織・準強姦事件」になるとマスコミの追及はさらに ゆるく なる。望月は追及の手を緩めない。アベ友の元TBS記者を実名で「呼び捨て」にして事件の真相に迫る。
 圧巻は官房長官記者会見だ。記者クラブに加えて番記者制度まであるため、官房長官を厳しく追及する記者は皆無に等しい。
 望月は質問妨害にもめげることなく、官房長官の嫌がる質問を続ける。国民が最も知りたがっている事だからだ。
 たまりかねた官房長官側は望月の質問を「事実誤認」だとして、沈黙させようとしてくる。官房長官側が事実誤認であることは、国会で野党議員が示した「赤土の写真」で明らかになった。
 外国人記者との会話は日本マスコミが世界水準でないことを物語る。
 「外国人記者は官邸会見に出てもオブザーバー参加しかできない」「政府を批判した記事を書くと反日と言われる」・・・まるで望月が受けている仕打ちと同じだ。

「等身大の自分が写っている」と望月は『i』を評価する。
 彼女は世論を動かせるだけの優秀な記者だ。だが冷静に考えてみると記者として当たり前の仕事をしているに過ぎない。
 ところが、それを追ったドキュメンタリー映画が感動を与えるのだ。
 『i』は 日本のジャーナリズムが、本来の役目を果たしていないことを、雄弁に語る。(敬称略)
~終わり~

『iー新聞記者ドキュメントー』予告篇

オウム真理教を題材にした『A』『A2』、そしてゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守を題材にした『FAKE』などで知られる映画監督で作家の森達也監督が、東京新聞社会部記者・望月衣塑子の姿を通して日本の報道の問題点、ジャーナリズムの地盤沈下、ひいては日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体に迫る社会派ドキュメンタリー