2019年11月26日火曜日

なぜ安倍政権の支持率は下がらないのか ~ (世に倦む日々)

 「世に倦む日々」が、「なぜ安倍政権の支持率は下がらないのか - 電波の独占、皇室利用と韓国叩き」と題する記事を出しました。
 その中で、いまマスコミとネットで行われている「なぜ安倍晋三の支持率が下がらないのか」の議論は不十分であるとして、下がらない要因は、第一に安倍首相のTVへの露出が異常に高いこと、第二に今回は「皇室利用韓国叩き」など、政府は、毎回支持率を高める装置を開発していること、第三に本来政権の批判者であり対抗勢力である左翼リベラル感性らせて、独裁権力への正確な認識をしていないことにあるとして、それぞれの要因について丁寧に説明しました。

 ここで第一と第二の点は、指摘されれば誰しもが納得するところですが、第三の「覚せい剤事案での有名人の逮捕劇」を政権側の「焦点ずらしの話題作り」とする見方を、リベラルの間からも「陰謀論」だとして片付ける主張が出ている点については、問題の性質上一見して明瞭という訳にはいきません。
 それによると沢尻容疑者逮捕は通常の「麻取(麻薬取締官)」によるものではなく、違筋の警視庁「組対5課」(組織暴力対策5課)という、例の山口敬之氏の逮捕を強引に中断させた中村格・警察庁長官官房長のルートが行ったものでした。
 しかしそれは結果的に極めて「拙速」な逮捕で、沢尻氏は当夜そのクラブで覚せい剤を買っておらず、尿検査の結果も陰性でした。結局本人の供述によって以前に買った2錠が自宅から押収されただけというお粗末さでした。
 ようするに事実関係としては微量の覚せい剤を所持していたということだけで、あとは本人が以前に覚せい剤を使ったことがあるという「供述」が検察によって流布されているのみです。果たして逮捕は妥当だったのでしょうか。なぜあの段階で逮捕しなくてはいけなかったのか? それによって当人は世上10億円の負債を背負ったと言われています。
 「陰謀論」だとする人たちは、確実な証拠が見つからない限り「政権が保身のために行ったと主張すべきではない」と批判するのですが、この種の証拠が簡単に見つかる筈はありません。いずれにしても、そうした非現実的な理由を挙げて「陰謀論」だと主張するのは、単に政府を利するものでしかありません。
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なぜ安倍政権の支持率は下がらないのか - 電波の独占、皇室利用と韓国叩き
世に倦む日々 2019-11-25
先週、マスコミとネットで、なぜ安倍晋三の支持率が下がらないのかという議論があった。その議論の中で看過されている点が幾つかあると思われるので、整理して列挙しておきたい。第一は、テレビの露出の問題である。第二は、皇室利用と韓国叩きの問題である。第三は、正常性バイアス(【偏り】)の問題である。管見では、これらの論点について指摘している議論はなかった。テレビの露出の問題は、シンプルだが決定的な問題で、誰もが見落としている根幹の問題だろう。テレビに政治家が出る映像というのは、商品のCMの放送と同じである。企業は自社製品の宣伝と拡販のために巨額の費用を投じて電通にCM制作を依頼する。安倍晋三ほどテレビに出まくり、テレビで活発に広告宣伝を繰り返している政治家はない。毎晩毎晩、見たくもない安倍晋三の顔がテレビに割り込んでくる。安倍晋三の顔ばかりが出て、他の政治家の顔は出ない。枝野幸男の顔などほとんど出ない。

テレビに出れば誰もが人気者になれる。だから誰もが競ってテレビに出演しようとする。けんみんショーで紹介された店は客で埋まる。テレビが人気者を生み出し、売り出していて、露出する頻度と時間量が出演者(タレント・論者)の世間での人気の基準と評価を決めている。夜のNHKのニュースに出てくるのは常に安倍晋三で、安倍晋三のCMが流されているのと同じだ。安倍政権を正面から批判するテレビの人間は、次々と干されて消えて行った。国谷裕子、古館伊知郎、岸井成格。そして、代わってNHKの報道を仕切っているのが岩田明子で、まるで北朝鮮中央テレビの李春姬と同じ役だ。岩田明子の露出はどんどん増えている。テレビの報道は公平中立が原則であり、一般国民にとって価値観のメジャーメントがそこで提供される。テレビは教育機関(洗脳機関)である。そこでどれほど安倍晋三を持ち上げる映像と言説が流れていて、それが増えていることか

テレビが安倍晋三の人気(支持率)を支えている。支持の凋落を防いでいる。テレビが絶えず安倍晋三の宣伝を刷り込んでいる。安倍晋三はテレビを占有している。テレビの放映権を独占し、公共の電波を私物にして利用している。自己への賛美と翼賛以外の報道を許さない。基本的な事実だが、このことを再認識する必要があり、3年前や6年前のテレビの言論環境と比較分析して、変化の実態を確認する必要があるだろう。年を追う毎に程度が甚だしくなり、中国や北朝鮮のテレビ報道のあり方と同じになっていて、われわれは感覚が麻痺して慣れて行ってしまっている。久米宏や筑紫哲也がテレビ報道を担っていた当時を忘れ、現在の独裁国家のテレビに順応してしまっている。マスコミは権力機関である。司法権力と同じように、マスコミ権力が完全に安倍晋三の恣意的支配の道具になっていること、年々歳々それが強化されていることを、支持率の問題を論じる際は前提に置かなくてはいけない。

二番目に注意を促したいのは皇室と韓国という要因である。この点に着目する議論がない。安倍晋三の支持率は、今年になって特に高い状態で推移している。昨年の支持率の動態を見たとき、平均して支持・不支持が40%で拮抗しており、本年とは様相が異なっている。安倍晋三の支持率がなぜ高止まりしているかを現時点で論じるとき、アベノミクスが原因だとか、野党の多弱が原因だとかを言うのは、思考停止の発想と言わざるを得ない。天皇の代替わりを巧妙に利用し、政権支持率に回収したマヌーバー(【策略】)も大きいが、今年は何と言っても韓国問題が大きく影響した。まず、われわれが考えるべきは、今年の安倍支持率が異常に高い現実である。本来なら7年目の政権がこれほど支持率が高くなることはなく、もっと低くなっているのが自然で、この時期に、なぜ支持率が下がらないのかなどと議論しているということはないのだ。昨年と同じ状況で、支持・不支持が拮抗ならば、こんな議論や設問はなかった。

令和の新元号から始まって、1年間の皇室行事をすべて自分の私有物にして支配統制し、テレビで政権宣伝に活用しまくることがなければ、安倍晋三の支持率は、支持と不支持が拮抗する昨年のバランスが今年も継続していただろう。もし、韓国の徴用工問題が昨年末に起きず、マスコミが韓国叩きの熱狂報道にシフトしなければ、内閣支持率は不支持の方が高くなり、安倍晋三の権力は緩やかなレイムダックへと進行したものと推測される。皇室行事の宣伝回収で支持率の下落を食い止め、ファナティック(【熱狂的】)な韓国叩きの扇動で支持率を上げている。勘づくべきことは、安倍晋三の支持率というのは永久不変の構造的な基盤がもたらしているのではないということで、一生懸命にアヒルの水かきをして、毎度毎度、支持率を高める装置を開発しているという真相だ。パーマネントな法則性によるのではなく、テンポラリーな要因の不断の継起が、安倍晋三の高支持率の秘密なのである。

2017年は北朝鮮だった。安倍晋三の側に即して言えば、必死で努力して次々に手を打っているから、何とか長期政権の停滞を食い止め、再活性化させるギアチェンジに成功しているのである。今年の支持率の中身は、何と言っても韓国叩きであり、韓国に対する国民の憎悪感情の高揚と沸騰だった。韓国憎悪で支持率を稼いだ。外に敵を作り、国民の意識を外敵への攻撃に仕向け、国内を一色に染め、敵への憤怒を自己への支持に回収する手法。7月の参院選に勝てた理由も、韓国叩きが大きく寄与している。半導体3品目の輸出規制、ホワイト国リストからの除外、これらの経済制裁は7月の参院選の直前に発動されたものであり、選挙の争点にするべく安倍晋三が狙って打ち上げた政策だった。目論見どおりに国民の反響と支持を得、嫌韓ナショナリズムが燃焼する空気の中で安倍晋三は選挙に勝利する。今年の安倍晋三の高支持率の原因を探るなら、絶対に韓国叩きの要件を外すことはできない。

最後に三番目の正常性バイアスの問題を提起しよう。7年間の安倍長期政権が続く中で、その批判者であり対抗勢力である左翼リベラルは、すっかり感性が鈍ってしまい、独裁権力への正確な認識を見失っている。例えば、具体的な錯誤として、沢尻エリカの逮捕を「桜を見る会」のスピン工作だと見抜けず、正しく指摘できなかった問題がある。それをスピン工作だと看破した者は僅かで、そしてあろうことか、その者たちに対して、右翼だけでなく左翼が「陰謀論」のレッテルを貼って袋叩きにするという光景が現出した。「陰謀論」叩きに夢中になっている左翼は、検察も警察も官僚も、30年前の日本と同じニュートラルな精密機械の歯車だと想定していて、フラットに職務を遂行しているものだと錯覚している。日本の国家権力の内実がどれほど変容し、独裁者に奉仕する機構に作り変えられているかを正視できていない。そのため、安倍晋三の独裁権力に対する監視が緩くなり、危機感が小さくなり、批判の声が弱くなるのである。

政権の支持率を左右するのは、何と言ってもテレビの論調である。朝昼のワイドショーと夜の報道番組の議論に他ならない。安倍晋三は、今後も窮地に陥ったときは、北村滋と中村格が非常時用に準備しているスピン案件を武器に使うだろう。スピンの刑事ローンチを発動して煙幕を張るだろう。そのたびに、左翼リベラル(しばき隊とそのシンパ)は、右翼と連携して「陰謀論」撲滅キャンペーンを展開し、スピン批判の言論を左から封殺する動きに出る。警察も検察も正常なのだと言い、捜査は安倍官邸の権力とは無関係だと強調し、妄想(「陰謀論」)を垂れ流すのはやめろと言う。こうなれば、期せずして左側からガードしてもらえ、安倍晋三の独裁権力は安泰で、謀略が謀略として世論に浮上して強く糾弾されることがない。左翼が反「陰謀論」の言説と立場に拘泥し、思考の病弊にとらわれ、権力の動きに対して鋭敏な観察できなくなっている。そのことが、安倍批判の言論攻勢を弱める要因となっている。