東京五輪をキッカケに再びかつての軍旗「旭日旗」の使用が問題になっています。
具体的に五輪会場内への持ち込み禁止をIOCに訴えたのは韓国政府ですが、それはいま日本と対立しているからでは勿論ありません。韓国は、日本の軍国主義下で「日韓併合」という名の下、約40年に渡り植民地にされた最大の被害者だったからです。
外務省のホームページには「旭日旗」についての説明文が掲載され、そこには菅官房長官の「旭日旗は広く使用されている」というコメント(13年)も載っていますが、そうした情勢を踏まえて11月8日にアップデートされたということです。
しかし日本の軍国主義を象徴する旭日旗の掲示を正当化する論理などありようがなく、政府が「今日でも、旭日旗の意匠は大漁旗や出産、節句の祝いなど、日常生活の様々な場面で使われている」と苦し紛れの言辞を吐いてみても、あまりにも現実から乖離していて何の説得力もありません。
日本で目にするのは極右/嫌韓団体の示威行為時くらいのもので、来日した外国人も「旭日旗は見たことがない」というのが現実です。
ハーバービジネスオンライン(HARBOR BUSINESS Online)が取り上げました。
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外国人からも呆れの声
外務省が世界に発信する“怪文書”の、火に油を注ぐだけの中身
HARBOR BUSINESS Online 2019年11月17日
東京五輪をキッカケに再び海外からも注目されている旭日旗。韓国政府がIOCに対して会場内への持ち込み禁止を訴えると、日本政府は容認することを表明。他国メディアからも懐疑的な意見が出るなど、泥沼状態となっている。
◆外務省HPに現れた「怪文書」
そんななか、外務省のホームページ上に登場した旭日旗の説明が一部で話題となっている。2013年に菅義偉官房長官が発した「旭日旗は広く使用されている」というコメントを補足する内容で、日本語、英語、韓国語、フランス語、スペイン語の資料が用意されており、11月8日にアップデートされている。(参照:外務省)
6年前の会見で示した旭日旗への政府の立場を今になってアップデートしているというのは、東京五輪を巡って海外から疑問視する声が挙がっているからだろう。
以前紹介したとおり、海外からのイメージはメディアも一般人も日本の軍国主義を象徴するというものだ。それを覆すべくアピールしようということなのだろうが、その内容を見ると首を傾げたくなってしまう。
◆旭日旗そのものの説明はなし
まずは「日本文化としての旭日旗」という部分の下記の説明だ。
「旭日旗の意匠は、日章旗同様、太陽をかたどっている。この意匠は、日本国内で長い間広く使用されている。
今日でも、旭日旗の意匠は、大漁旗や出産、節句の祝いなど、日常生活の様々な場面で使われている」
注目したいのは、「日本文化としての旭日旗」としていながら、説明は「旭日旗の意匠」となっている点だ。
当然ながら、「太陽のイメージ」と「旭日旗」そのものでは意味合いが全く異なるし、海外から批判をされているのも「太陽のイメージ」ではない。その2つの境目をぼかしながら、曖昧な説明しかされていないところに疑問を感じてしまう。
具体的に旗がいつから、どのように使われているかの説明はなく、例として挙げられているのは絵画の背景にある太陽や、船の名前が書かれた大漁旗だけ。そして、参考として前述の菅官房長官のコメントが載っている。
◆弱すぎる論拠
近頃はいつも以上に「説明責任」という言葉を見聞きする機会が増えているが、これが旭日旗が広く使用されている説明になっているとは到底思えない。「似たような太陽のイメージが昔の絵画とか大漁旗でよく使われてるし、官房長官もこう言っているので」とは、あまりに雑ではないだろうか。
「出産、節句の祝い」ともあるが、こちらも自分が知る限りではほとんど目にしないが、どれだけ広まっているのか疑問だ。
そして、説明の2点目では、「自衛隊の公式な旗としての海上自衛隊の自衛艦旗と陸上自衛隊の自衛隊旗(連隊旗)」とある。説明する必要もないだろうが、これが東京五輪で旭日旗の使用を許可する説明になると思っているのだとしたら、完全に逆効果だ。
自衛隊が使用していることの是非とは関係なく、なぜその旗を平和とスポーツの祭典で振る必要があるのかというのは、当然の疑問だろう。これまで、他の五輪ではまず目にしなかった光景だ。
◆マケドニア国旗に似ている?
そして、3つめに「世界で広く使用されている旭日のデザイン」という項目では、北マケドニア共和国国旗、アリゾナ州旗、ベネズエラ・ララ州旗、ベラルーシ空軍旗などが紹介されている。
解説文には「太陽から光線が放たれる旭日のデザインは、日本特有のものではない」と書いてあるが、だいたいこれらの旗が旭日旗となんの関係があるのか。まさに「似た旗もある」というだけのことで、日本で「広く使用されている」ことの説明にはなっていない。
そもそも、見ていただければわかると思うが、旭日旗に似ているのは北マケドニア共和国国旗ぐらいのもので、残りの3つに関しては光線が出ているぐらいしか共通点はない……。
◆海外メディアへの投書も
そんなお粗末な情報が「アップデート」(むしろ退行している気がするが)されたのと時を同じくして、外務省からは他にも世界に向けたメッセージが発信されている。
11月12日、イギリスの大手新聞「ザ・ガーディアン」に「日本の旭日旗は軍国主義のシンボルではない」という投書がされたのだ。(参照:The Guardian)
その内容はさらに驚愕のもので、5つのパラグラフの概要をまとめると下記のようなものだ。
1.「ザ・ガーディアン」に載った旭日旗の記事は真摯に過去と向き合ってきた日本を勘違いしたものだ。
2.安倍首相をはじめ、日本はこれまでも繰り返し謝罪と遺憾の意を表明してきた。
3.旭日旗を軍国主義に誇りを持つことと結びつけるのは間違い。出産や節句などで広く使われている。
4.自衛隊も使っている。釜山港に海上自衛隊が入港したときも韓国から反発はなかった。
5.旭日旗に反発するのは政治的意図があるから。ずっと使われてきたが、最近になって韓国が反発を生んでいる。五輪はそういった政治的扇動に使われるべきではない。
◆火に油を注ぐ行為
外務省のホームページになっているのとほぼ同じ、具体的な説明がないまま、軍国主義とは関係ないの一点張り。そして、「悪いのは韓国」というネトウヨも真っ青の低レベルな主張だ。
百歩譲って、一般人によるSNSなどでのコメントならまだしも、外務省の広報が世界でもトップクラスのメディアに投書したにしては内容が稚拙すぎる。旭日旗のイメージを変えるどころか、悪化させる効果しかないだろう。
実際、在日外国人に外務省の旭日旗を巡った対応について話を向けてみると、次のような反応が出てきた。
「バカだなぁ……。この間、五輪での使用について聞かれたときも思ったけど、なんでわざわざ火に油をそそぐようなことをするのか謎だよね。説明も意味不明だし、旭日旗が広く使われてることのロジックが破綻してる。だいたい、日本に来てから旭日旗なんてほとんど見たことないし」(アメリカ人・男性・38歳)
「広く使われてるなんて嘘でしょ。街中では一度も見たことない。それこそナショナリストがデモで使ってるのを映像で見たぐらい。これを政府が主張するのは間違ってる」(ノルウェー人・女性・33歳)
外務省HPの説明にしろ、「ザ・ガーディアン」への投書にしろ、こういった反応をする外国人がほとんどだろう。中身のない説明や不明瞭で一方的な物言いが通じると思っているのだとすれば、これ以上余計なことはしないほうがいい。<取材・文 林 泰人>
【林 泰人】
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン