2019年11月18日月曜日

ボリビア軍事クーデターの続報(櫻井ジャーナル)

 10月20日の選挙で正当に支持されたばかりの南米ポリビアのエボ・モラレス大統領が辞任させられ国外に逃亡せざるを得なくなったのは、ポリビア国軍の最高指揮官だったウィリアム・カリマンから「最後通牒」を受けてのことで、その背後には米国(の巨大資本がいました。具体的に活躍したのは、米国の機関で政権転覆など様々な訓練を受けたメンバー(軍人や元軍人)でした。
 そして当然のように米英などの主流メディアは、モラレス大統領が辞任した理由は選挙での不正が暴かれたからとする大宣伝を行ったのでした。

 櫻井ジャーナルが続報を出しましたので紹介します。
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ボリビアの軍事クーデターを単なる辞任劇に描く西側メディア
櫻井ジャーナル 2019.11.16
 言うまでもなく、ボリビアのエボ・モラレス大統領が辞任したのは軍の最高指揮官だったウィリアム・カリマンから「最後通牒」を受けてのこと。選挙で最も支持されたモラレスが大統領を辞めたのは軍と警察、その背後にいるアメリカの巨大資本からの恫喝に屈したわけで、自発的に辞めたわけではない。だからこそ、現在でもクーデターに反対する人びとの抗議活動は続いている。その事実を隠すための仕事をしているのがアメリカをはじめとする西側の有力メディアだ。
 このカリマンのほか、クーデターを指揮したマンフレド・レイェス・ビラ、レンベルト・シレス・バスケス、ジュリオ・セーザ・マルドナド・レオニ、オスカル・パセロ・アギレ、テオバルド・カルドソ・ゲバラはSOA(南北アメリカ訓練所)で訓練を受けた軍人、あるいは元軍人である。

 本ブログでは繰り返し書いてきたが、SOAはラテン・アメリカの軍人を訓練するためにアメリカ政府が1946年にパナマで創設した施設。そこではアメリカの軍人や情報機関員から対反乱技術、狙撃訓練、ゲリラ戦、心理戦、軍事情報活動、尋問手法などを学ぶ。
 毎年700から2000名の軍人が訓練を受け、卒業生は帰国後、アメリカの巨大資本の利権にとって邪魔な人びとを排除するために「死の部隊」を編成したり、民主的に選ばれた政権を軍事クーデターで潰す際の中核になってきた。モラレス政権もその餌食になったわけである。
 この仕組みで倒された政権には、チリのサルバドール・アジェンデ政権も含まれる。アジェンデは1970年の大統領選挙で勝利したが、アメリカの巨大資本による収奪を止め、チリ国民を豊かにする政策を進めた。そこでCIAの手先だったオーグスト・ピノチェトを中心とする軍人が1973年9月11日に軍事クーデターでアジェンデ政権を倒している。
 このチリにはDINAという情報機関があり、これを中心にして軍事体制だったアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイなどは情報機関が暗殺や誘拐をするための互助ネットワーク、コンドルを1975年9月に創設した。勿論、このネットワークの背後にはCIAが存在している。

 1984年にSOAはパナマから追い出され、アメリカのジョージア州フォート・ベニングへ移動し、2001年にはWHISC(またはWHINSEC)へ名称を変更したが、行っていることに大差はない。
 アジェンデ政権が倒されたケースでは、軍事クーデターを指揮したピノチェトがアメリカの手先として実権を握ったが、そうした露骨なことを最近は行わなくなっている。見え見えではあるが、民主的な演出をするようになった
 CIAの指揮下、ピノチェトが軍事クーデターを成功させた頃にアメリカの議会では情報機関による秘密工作や多国籍企業の活動などが問題になっていた。上院のチャーチ委員会や下院のパイク委員会による調査が有名だろう。
 1970年代の終盤にアメリカ政府はアフガニスタンで秘密工作を開始、戦闘員としてサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を訓練、武器などを与えて送り込んだ。仕組みはSOAと同じだが、ラテン・アメリカで戦闘員は「死の部隊」と呼ばれていたが、アフガニスタンでは「自由の戦士」というタグがつけられた

 ロナルド・レーガン政権は侵略に「民主」、「自由」、「人道」といったタグをつけるようになる。一種のイメージ戦争だが、この作戦は「プロジェクト・トゥルース」や「プロジェクト・デモクラシー」と呼ばれた。
 イメージ戦争ではメディアの役割が重要になる。レーガン時代から巨大資本によるメディア支配は急速に進んだ。1990年代に入ると広告会社の存在感が強まり、作り話が多用されるようになった。この戦術は有効で、大多数の人びとは支配層が作り出す幻影に陶酔している


先住民を悪魔視する人物がボリビアの「暫定大統領」を名乗っている  
櫻井ジャーナル 2019.11.17
 ボリビア軍の最高指揮官だったウィリアム・カリマンからの「最後通牒」を受けてエボ・モラレス大統領が「辞任」、メキシコへ脱出したのは11月10日。軍と警察が離反したことを受けての決断だった。12日には上院の副議長のヘアニネ・アニェスが「暫定大統領」を名乗り始めた
 アニェスが所属する勢力は議会の少数派であり、「暫定大統領」を名乗る資格はないはずだが、その宣言をアメリカ、ブラジル、コロンビア、グアテマラ、ドイツ、イギリスだけでなく、ロシアも承認した。その自称「暫定大統領」はベネズエラで同じように「暫定大統領」を名乗るフアン・グアイドを承認している。
 ベネズエラの場合、軍はニコラス・マドゥロ大統領を支持したことからクーデターは失敗に終わったものの、火種は残っている。石油資源を持つベネズエラをアメリカの支配層が諦めることはないだろう。

 モラレスは先住民系の人物である。ボリビアでは70%近くがヨーロッパ系と先住民系の混血だとされているが、20%は先住民系。ヨーロッパ系は5%ほどだ。
 言うまでもなく、ボリビアを含むアメリカ大陸はヨーロッパ人に侵略され、現在に至っている。ラテン・アメリカは食糧や鉱物資源に恵まれた豊かな地域だが、その歴史は殺戮、破壊、略奪の連続である。その富をヨーロッパ人は奪ってきた。そうした歴史によってヨーロッパ系が支配階級、先住民が被支配階級という構造が形成された。
 支配階級の手先であるアニェスは2013年4月14日、先住民の伝統行事を悪魔の儀式だとし、先住民は都市から乾燥した高原地帯へ行けとツイッターに書き込んでいる。

 この人物はキリスト教系カルトの信者だと言われているが、彼女の周辺にはファシストが存在、そうした勢力をアメリカの情報機関が支え、その背後にはアメリカ系巨大資本が存在している。
 先住民がクーデターに抗議するのは当然のことだが、その抗議活動を警察は弾圧、すでに20名以上が殺された。