2019年11月7日木曜日

関税引き下げで危険な米国牛肉が流入/使い道のないトウモロコシを買い取る

 日米貿易交渉で関税の大幅引き下げが決まった米国産牛肉は、安全上の懸念から欧州連合(EU)が輸入を原則として禁止しているものです。
 米国産牛肉には、生産効率を上げるためにいくつもの薬剤とともに「肥育ホルモン剤」が使われてています。肥育ホルモン剤が投与された米国産牛肉を食べると、細胞分裂を活発にする作用があるため、特にがん細胞を刺激します。
 他にも人の健康を損なう作用のある疑いがあり、EUは1988年に域内での使用を禁止し、翌年には肥育ホルモン剤を使った牛肉の輸入を禁止しました。
 この輸入禁止措置はWTO協定違反だと米国などが提訴し1998年にEUが敗訴しましたが、EUは81品目に対する報復関税という報復措置を受けながら、輸入禁止を続けました。米国内でも食べない消費者が増えつつあります。
 
 8月末の日米首脳会談で緊急輸入が決まった米国産トウモロコシも、中国が輸入しなくなったからだぶついたのではありません。
 地球温暖化対策として米国では、エタノールをガソリンに混ぜることが義務づけられていますが、「製造業や消費者の負担を増す」などの理由で石油業界に不評です。そのためトランプ政権は今年8月、国内の31製油所に対しエタノールの混合義務を免除すると発表した結果、エタノール精製の原料であるトウモロコシがだぶつき、今度はトウモロコシ農家から大反発を招いたのでした。
 トランプ氏の窮地を救うために日本が275万トンのトウモロコシの「実」を買うことになったのですが、牛の飼料としてのトウモロコシの「実」は日本では十分に足りているので、全く使い道がありません。
 日本は、トランプ氏再選支援のために危険な牛肉を何の条件も付けずに輸入し、全く使い道のないとモロコシを大量に購入するということで、米国の余剰農産物の恰好の“はけ口”になったということです。
 ダイヤモンドオンラインの特別レポートを紹介します。
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「トランプ再選支援」で米国の余剰農産物の“はけ口”になる日本
DOL特別レポート ダイヤモンドオンライン 2019.11.6
岡田幹治:ジャーナリスト 
 日米貿易交渉で関税の大幅引き下げが決まった米国産牛肉は、安全上の懸念から欧州連合(EU)が輸入を原則として禁止しており、米国内でも食べない消費者が増えつつある代物だ。
 8月末の日米首脳会談で緊急輸入が決まった米国産トウモロコシも、燃料用需要が増えず、だぶついている。
 日本はこうした米国の余剰農産物の「はけ口」になろうとしている。
 
米国産牛肉の関税引き下げ
「肥育ホルモン剤」でEUは輸入禁止
 日米両政府は10月7日、新貿易協定に正式に署名した。臨時国会での承認を経て、来年1月1日に発効する見通しだ。
 新協定の目玉の1つが米国産牛肉の関税引き下げだ。
 いま38.5%の米国産牛肉の関税は、協定発効と同時に26.6%に下がり、その後、段階的に下がって2033年度には9%になる。
 これは、米国を除く11ヵ国で昨年末に発効した環太平洋経済連携協定(TPP)と同じ内容だ。
 
 関税が下がれば価格が下がって買いやすくなるので、「米国産牛肉がより安く食べられる」と歓迎する消費者や外食業者も少なくない。
 しかし米国産牛肉には、生産効率を上げるためにいくつもの薬剤が使われており、安全上の不安が指摘されている
 その1つが「肥育ホルモン剤」という動物用医薬品だ。
 肥育ホルモン剤は牛の成長を早めるため、米国・カナダ・オーストラリアなどでは広く使われている。
 動物の体内にあるものを製剤化した天然型(3種類)と、化学的に合成して天然型と同じ作用をする合成型(3種類)がある。
 人のホルモンは体内で必要なときに分泌され、さまざまな働きをしているのだが、肥育ホルモン剤が投与された米国産牛肉を食べると、余分のホルモンが人の体内に取り込まれる。
 肥育ホルモン剤には細胞分裂を活発にする作用があり、特にがん細胞を刺激する。このため、女性の乳がんや子宮がん、男性の前立腺がんなどホルモン依存性のがんを誘発する疑いが持たれている。
 肥育ホルモン剤には他にも人の健康を損なう作用のある疑いがあり、EUは1988年に域内での使用を禁止し、翌年には肥育ホルモン剤を使った牛肉の輸入を禁止した
 この輸入禁止措置はWTO(世界貿易機関)協定違反だと米国などが提訴し、1998年にはEUが敗訴したが、EUは81品目に対する報復関税という報復措置を受けながら、輸入禁止をやめなかった。
 米欧間の紛争は今年8月、EUが米国産牛肉の輸入割当枠を7年かけて年3万5000トンに拡大することで決着したが、輸入の対象は「ホルモン剤不使用」の牛肉に限っている
 
米国の消費者も見放す?
 有機牛肉などの需要急増
 肥育ホルモンの安全性について、食品の国際規格を設定する機関(FAO・WHO合同食品規格委員会=CODEXコーデックス)は、天然型は適正に使用されている限り人の健康に危害となる可能性はないとし、合成型は設定された残留基準値以下であれば問題はないとしている。
 日本政府はこれとほぼ同等の残留基準を定め、それ以下の牛肉は輸入も販売も認めている
 ただ、国内の畜産業者は1990年代末に肥育ホルモン剤の使用をやめており、国産牛肉には肥育ホルモン剤は含まれていない
 最近では、日本と同じように残留基準以下のなら安全とされている米国で、自国産牛肉の安全性に疑問を抱く消費者が増えつつある。
 こうした消費者は安価な普通の牛肉を避けて「有機(オーガニック)牛肉」を買っており、その売り上げが急増している。有機牛肉になる牛は、合成農薬や化学肥料を使わない飼料で育てられ、もちろん肥育ホルモン剤も使っていない
 外食業界でもホルモン剤使用牛肉を避ける店が増えており、「私たちは、成長剤やホルモン剤や抗生物質を一切使わず牛を育てている生産者からしか牛肉を買いません」と宣言し、売り上げを急増させている新興の高級ハンバーガー店も出ている。
 
 米国では、「グラス・フェッド(牧草飼育)牛肉」の需要も急増している。 グラス・フェッド牛は、普通の牛が高カロリーの穀物飼料を食べて育つのに対し、本来の牛の食べものである牧草を食べて育つ。脂肪分が少なく健康によいうえ、飼料のために大量の穀物を生産しなくて済むため環境への負荷も少ない。
 このため需要が急増しているが、米国内での生産が少なく、約8割は輸入ものだ。
 EU市場から締め出され、米国内の消費者にも見放されつつある米国産牛肉にとって、肥育ホルモン剤使用に無頓着な日本はきわめて重要な市場だ。
 ところが、オーストラリア産牛肉の関税はTPPですでに下がっている。 トランプ大統領は「ハンディを早くなくしてほしい」という牛肉生産者の要望に急いで応える必要があったわけだ。
 実際、米国牛肉の対日輸出量は今年3月から8月については7月を除いて5ヵ月が前年割れ(前年同月比78~95%、農畜産振興機構資料)だ。
 なおオーストラリアも肥育ホルモン剤の使用を認めているが、輸出用にホルモン剤不使用の牛肉も生産しているから、日本の消費者は「ホルモン剤不使用」と明示されたものを選べば、ホルモン牛肉は避けられる
 
トウモロコシも「緊急輸入」
 米国内の需要減退に“助け舟”
 一方、米国産トウモロコシ275万トンの緊急輸入は、8月末の日米首脳会談で突然、決まった。
 トランプ大統領は首脳会談後の共同記者会見で、「中国が約束を守らないせいで、我々の国にはトウモロコシが余っている。それを、安倍首相が代表する日本がすべて買ってくれることになった」と述べた。
 あたかも米中貿易協議で、中国政府が貿易不均衡改善の一環として表明していた“約束”の不履行を日本が肩代わりしたかのような言い方だった。
 ただ、この発言には誤りが含まれている。
 近年、中国はトウモロコシをほぼ自給しており、米国からの輸出は年数十万トンにすぎない米国でトウモロコシ相場が下落している一因は、国内需要の4割近くを占めるバイオ燃料(トウモロコシからつくるエタノール)向け需要の減退だ。
 地球温暖化対策として米国では、エタノールをガソリンに混ぜることが義務づけられているが、これは「製造業や消費者の負担を増す」などの理由で、トランプ支持の石油業界に不評だ。
 このためトランプ政権は今年8月、国内の31製油所に対しエタノールの混合義務を免除すると発表した。その結果、トウモロコシ価格はさらに下落し、やはりトランプ支持のトウモロコシ農家の猛反発を買った。
 トウモロコシとエタノールの最大の産地であるアイオワ州は、来年の大統領選の勝敗を左右する州の1つだ。
 こうしたトランプ大統領の“事情”をくんで、安倍首相がトウモロコシの緊急輸入という助け舟を出したのが実態だ。
 もっとも日本が緊急輸入する275万トンは、米国のトウモロコシ生産量の1%にも満たない。日本の緊急輸入の話が伝えられた後も、相場はほとんど動かなかった。
 農民票を無視できないトランプ政権は10月4日、ガソリンのエタノール含有量を来年から引き上げると発表した。これには石油業界が激しく反発している。
 
「害虫の発生」という理由だが
被害報告なく、使い道は不明
 トウモロコシの緊急輸入を決めた日本政府の説明もごまかしに近いものだ。
 菅義偉官房長官は8月27日の会見で「(日本国内でトウモロコシの)供給が不足する可能性があるから」と説明した。
 7月からツマジロクサヨトウという害虫が発生し、九州地方を中心にトウモロコシに被害が出ている、というのがその理由だ。
 しかし、害虫が発生しているのは事実だが、被害の報告は少なく、供給に大きな影響を与えるほどのものではない。
 そもそも国内産のトウモロコシは、成熟する前に実や葉がついたまま刈り取り、サイロで発酵させ、牧草などとともに牛に与える「粗飼料」用だ。畜産業者が自家消費用に年450万トンほど生産している。
 これに対し、主として米国から年に1100万トンほど輸入されるのは、トウモロコシの実で、これは「濃厚飼料」(配合飼料)に用いられる。
 繊維質が多い粗飼料も、炭水化物やタンパク質が多い濃厚飼料も牛には必要だが、両者は別のものだ。
 人間の食べものに例えれば野菜と米のようなもので、両方とも必要だが、野菜が足りないからといって米を輸入してもほとんど役にたたないのと同じだ。
 
 日米首脳会談の決定を受け、農林水産省の外郭団体である農畜産業振興機構は9月24日、害虫による食害を理由とするトウモロコシの緊急輸入制度の詳細を発表した。
 商社や飼料メーカーが9月2日~来年3月末に備蓄する輸入トウモロコシの量が前年同期より増えた場合、増量分の保管倉庫費や購入代金の金利を補助する。
 米国産のほかブラジル産なども対象とし、上限は275万トン。最大で52億円の財政資金を投入する、という。
 これについて江藤拓農水相は10月11日の衆院予算員会で「関係各社で検討が進んでいて、最大のシェアを持つ会社は今月中にも輸入業者と相談を始めると言っている」と述べた。
 275万トンといえば、年間輸入量の3ヵ月分だ。そんなに大量の濃厚飼料用トウモロコシを輸入して一体、何に使うのだろうか
(ジャーナリスト 岡田幹治)