2022年9月13日火曜日

「国葬」問題 閉会中審査 新味ない首相答弁が危機を深める

 岸田首相は自ら要請した8日の衆参両院での閉会中審査で国葬決定の経緯や経費などについて説明しました。その狙いは事態の幕引きでしたが、全く新味のない説明で無内容のものでした。

 さすがに与党内にも「幕引きどころか問題の先送りで、内閣支持率のさらなる下落も避けられない」(自民長老)との声が広がり、野党からは「あくまで岸田内閣のお手盛りの理由でしかない」(立憲・泉健太氏)、「言葉遣いは丁寧だが、説明責任を尽くしていない」(社民・福島瑞穂)、「国葬を強行する理由を一切まともに答えなかった。『憲政史上最長』などは理由にならない」(共産・志位和夫などと批判のオンパレードでした
 これでは収束のしようがなく、首尾よく国葬にこぎつけたとしても10月3日召集が予定される次期臨時国会は冒頭から「統一教会国会」となるのが確実で政権危機がより深まることになります。
 政治ジャーナリスト泉 宏氏が「 ~ 『国葬』 新味ない首相答弁が深めた危機」とする記事を出しました。
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運の尽き? 「国葬」新味ない首相答弁が深めた危機
   ~低姿勢で説明したが内容は従来の繰り返し
                   泉 宏 東洋経済オンライン 2022/09/10
                       政治ジャーナリスト 
 旧統一教会問題が絡んで、9月27日に開催される安倍晋三元首相の「国葬」への反対論が急拡大する中、岸田文雄首相は8日の衆参両院での閉会中審査で国葬決定の経緯や経費などについて説明した。国会での説明は初めてで、狙いは幕引きだったが、説明に新味はなく、事態打開にはつながらなかった。
 自ら要請した閉会中審査だけに、岸田首相は国葬の妥当性などを低姿勢で説明し、理解を求めた。内容は従来の見解の繰り返しで説得力に欠けたが、野党側も共産党などを除き、国葬出席を念頭に置いていたこともあってか、追及はやや迫力に欠けた。このため、「単なる通過儀礼の政治ショー」(自民長老)に終わったようにもみえる。
 その一方で、岸田首相の一連の説明が国民の理解を得られるような内容ではなかったことで、与党内にも「幕引きどころか問題の先送りで、内閣支持率のさらなる下落も避けられない」(自民長老)との声が広がる。
 このまま首尾よく国葬にこぎつけても、10月3日召集が予定される次期臨時国会は、冒頭から「旧統一教会国会」となるのが確実で、政権危機がより深まる事態は避けられそうもない

「内閣葬」への変更要求に応じず
 8日午後1時から衆院、同3時からは参院の各議院運営委員会で、国葬に関する初の閉会中審査が行われた。国葬を主導した岸田首相が自ら説明に立ち、立憲民主党の泉健太代表ら野党側は、国葬とすることの妥当性や全額国費で賄う経費の詳細などを、繰り返しただした。
 野党のトップバッターとなった泉氏は、国葬を「内閣葬」に変更するよう強く迫ったが、岸田首相は応じなかった。
 泉氏は旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と安倍氏の関係もただしたが、岸田首相は「ご本人が亡くなられたことで実態把握に限界がある」と交わし、自民党総裁の立場で「断固関係を断つ」と繰り返すだけで、論議はかみ合わなかった。
 その中で、岸田首相は今回の国葬実施について、「国の儀式」を内閣府の所掌事務と定めた内閣府設置法を法的根拠として閣議決定したと説明。多くの国民が問題視している全額国費となる国葬経費についても、警備費なども含めた約16億6000万円の経費概算を示したうえで「適切な対応」と繰り返した。
 閉会中審査での岸田首相の一連の説明について、野党第1党の党首として質疑を行った泉氏は質疑終了後記者団に「(世論は)納得していないと思う。まだ説明責任を果たしていないことは明らかだ」と厳しく批判した。
 泉氏ら野党側は、吉田茂元首相や佐藤栄作元首相の葬儀開催では、当時の政権が野党の意向も重視して対応したことを挙げ、今回の政府・自民党だけの判断となった点を繰り返し追及。泉氏は国葬の開催理由について「あくまで岸田内閣のお手盛りの理由でしかない」と指摘したが、岸田首相は従来の見解を繰り返すだけだった。
 こうした岸田首相の対応に、他野党も「言葉遣いは丁寧だが、説明責任を尽くしていない」(社民党・福島瑞穂党首)、「国葬を強行する理由を一切まともに答えなかった。『憲政史上最長』などは理由にならない」(共産党・志位和夫委員長)と批判のオンパレード。
 国葬には理解を示している国民民主党・玉木雄一郎代表も「国葬を決定したときに(国会審議を)行っていればよかった」と指摘。このため国葬について改めて閉会中審査の実施を求める声も出たが、与党は応じない構えで、次の国会論争は国葬後の臨時国会になる公算が強まっている。
 こうした状況に、岸田首相周辺からは「あとは粛々と準備を進め、国葬を成功させれば国民の受け止め方も変わる」(官邸筋)と楽観する声も出る。しかし与党内では「首相の説明を聞いて、どれだけの国民が国葬の意義などを理解したかは疑問」(閣僚経験者)と首をかしげる向きが多い。

直後に旧統一教会との接点に関する点検結果を公表
 しかも、閉会中審査の直後に自民党が旧統一教会と各所属議員の関わりについての点検結果を発表したことにも野党側が反発。安住淳・立憲民主国対委員長は「ニュースを山盛りに出して、自分たちのニュースを小さく扱ってもらう。いかにも自民党執行部の考えそうな、せこいやり方だ」と皮肉った。
 自民党の茂木敏充幹事長が8日午後5時過ぎに発表した「点検結果」によると、党所属国会議員379人の半数近くの179人が旧統一教会や関連団体と何らかの接点があったとされる。ただ茂木氏は、このうち萩生田光一政調会長や山際大志郎経済再生担当相ら121人の氏名を公表したが、全面公表は避けたため、与党内でも「疑心暗鬼が広がるだけ」との声も出る
 これに対し、岸田首相(自民党総裁)は8日夜、首相官邸で記者団に「調査結果を重く受け止めている」と表明。「今後、国民の不信を招くことがないよう社会的に問題が指摘されている団体との関係を持たないことを党の基本方針とし、徹底していきたい」とこれまで通りの方針を示した。
 確かに、安住氏の指摘どおり、閉会中審査が行われた8日午後から9日早朝にかけては、国内外の大ニュースが飛び交った。同日深夜から未明にかけては岸田首相を含む日米欧の主要国首脳らがテレビ会議を開き、ロシアの軍事侵攻が続くウクライナへの追加支援について「引き続き結束して対応する」ことなどを確認した。

イギリスのエリザベス女王の国葬が比較対象に
 さらに、その直後に「イギリスのエリザベス女王が96歳で死去」のニュースが全世界を駆け巡った。女王死去を受け、王位継承権1位の長男チャールズ皇太子(73)がチャールズ3世として新国王に即位、葬儀(国葬)は死去から10日間経過後の9月19日以降に、ウエストミンスター寺院で行われる方向とされる。
 これを受けて岸田首相は9日午前、エリザベス女王死去について「深い悲しみを禁じえない。イギリスの王室、政府、国民に心から哀悼の意を表する」と沈痛な表情で語った。政府としては宮内庁とも協議のうえ、早急に女王の国葬に誰が参列するかなどを決める必要がある。
 女王死去について、政府の外交責任者の間では「女王の国葬はまさに世界的ビッグイベントで、しかも安倍氏国葬の直前というのが問題」との声が相次ぐ。「世界が悲しむ国葬と、国内ですら反対が多い安倍氏国葬では、別次元とはいえ、どうしても比較の対象となる」との不安からだ。

 岸田首相は就任以来、「強運の持ち主」(自民長老)とされてきた。しかし、「安倍氏の国葬即断や電撃的内閣改造以来、すべてが悪い方向に向かい始めた」(官邸筋)との見方が広がる。閉会中審査や旧統一教会との関係断絶での岸田首相の「決断と実行」が、かえって政権危機を拡大させているのは否定できないからだ。
 岸田首相自身は「難題を次々解決していけば、政権への支持は回復するとなお自信満々」(周辺)とされる。しかし、自民党内でも「このままでは早晩『運の尽き』となりかねない」(自民長老)と政権の今後を不安視する声が広がり始めている。