2022年12月20日火曜日

【連載】安保3文書 危険な大転換(1)(2)

 しんぶん赤旗が「安保3文書 危険な大転換」とする連載を始めました。
 岸田政権は16日、「平和安全法制(戦争法)によって、法的・理論的には整った。今回の3文書で、実践面からも安全保障体制を強化する」と述べました。
 それは「安保3文書」は、集団的自衛権の行使を可能とした15年の安保法制を実践面で強化し、「戦争国家づくり」の総仕上げを図るものであるという意味で、日本が今後5年間で、具体的にどれだけ軍備を拡張し(間に合わないものは米国からトマホーク500発などを大量に購入)米国の統制下で外国との戦争ができるようになるかについて、具体化するものです。
 米国が中国を敵国と想定していることは明らかで、日本政府もそれを十二分に承知した上で、(それは秘匿しながら)そのときのために軍議拡張に勤しんでいるということです。しかし「台湾有事」はそれに乗じて中国を叩きたい米国の願望ですが、中国自身にはその意思はないと言われています(台湾が安易に台湾独立を叫べば中国は激怒するでしょうが、直ちに台湾有事に向かうことはないでしょう。直近の議会選挙の結果を見ても台湾はそういう状況にはありません)。
 根本的な問題としてそもそも日本は外国と戦争できる体力を有しているのかについては、弁護士の田中淳哉氏は下記の論文
「攻められたらどうするのか」という素朴な疑問について考えるうえで踏まえておくべき基本的な事柄(前編)
「攻められたらどうするのか」という素朴な疑問について考えるうえで踏まえておくべき基本的な事柄(後編)
どうすれば「戦争の時代」を防げるか~人類が憲法9条を手にした意味
のなかで、
 (資源小国・貿易立国)
  ・日本の食料自給率 39%(カロリーベース)
  ・日本の貿易相手国 輸出先1位 中国22%  輸入先1位 中国25・8%
            繊維製品の輸入先 中国63%
  ・輸出入はほぼ100%海上輸送
 (無防備な原発)
  ・日本海海岸に原発を多数設置
を挙げて、資源小国・貿易立国の日本にはそんな「体力」や「条件」はないと明言しています。
 日本はかつて資源小国でありながら太平洋戦争を引き起こして資源大国の米国に惨敗しました。いままたそれと同じことを繰り返そうとしているわけです。「軍備を整えれば事足りる(それ自体憲法違反)」という考え方はあまりにも視野が狭小で幼稚というべきです。
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【連載】安保3文書 危険な大転換(1) 日本初 ミサイル戦争も
                      しんぶん赤旗 2022年12月18日
 戦後の安全保障政策を大転換する安保3文書の閣議決定(16日)。岸田文雄首相は「1年以上、丁寧なプロセスを経た」と豪語しますが、大半は密室での議論であり、その内容は民にほとんど知らされていません。3文書の問題点を明らかにしていきます。

 最上位の戦略文書である 「国家安全保障戦略」は、今回の3文書を「戦後のわが国の安全保障政策を実践面から大きく転換するものである」と宣言しています。これに関して岸田首相は16日の者会見で、「平和安全法制によって、法的・理論的には整った。今回の3文書で、実践面からも安全保障体制を強化する」と述べています。集団的自衛権の行使を可能とした2015年の安保法制を実践面で強化し、「戦争国家づくり」の総仕上げを図る考えです。

敵基地攻撃能力行使に踏み込む
 最大の「転換」は、歴代政権が違憲としてきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の行使に踏み込んだことです。敵基地攻撃能力とは何か。安保戦略は、「自衛の措置」として、「相手の領域で有効な反撃を加えるスタンド・オフ防衛能力」だと定義し、他国領域を攻撃する能力だとしています。「防衛力整備計画」では、具体的な「スタンド・オフ防衛能力」配備計画()を示しています。12式地対艦誘導弾の能力向上型(射程を1000km以上に延伸)を地上、艦艇、航空機に配備。地上・艦艇発射型は27年度までの運用能力獲得を目指しています。運用部隊は当面、全国に11個中隊を配備する計画です。

            敵基地攻撃能力のポイント

 

 ●理由  ミサイル防衛だけでは他国のミサイル脅威に対流できない

 

 ●定義  相手領域で有効な反撃を加えるスタンド・オフ防衛能力

 

 ●要件  安保法制の新「武力行使の3要件」に基づく=日本が攻撃を受けていなくて

 

     も、集団的自衛権の行使で攻撃可能

 

 ●対象  「相手の領域」=具体的な目標は明記せず。指揮統制機能も含む(=与党合
      意)

 

 ●着手  日本が武力攻撃を受けていなくても、相手国が「着手」すれば攻撃。「着手」

 

     したかどうかは総合的に判断(=与党合意)

 

           スタンドオフミサイル関連の主な計画

【国産】
12式地対艦誘導弾(能力向上型)の量産
高遠滑空弾の開発・量産
高速滑空弾(能力開発型)の開発・量産
極超音速誘導弾の開発
【輸入】
JSM(F35A戦闘機搭載)の取得
JASSM(F15戦闘機搭載)の取得
トマホ←ク(潜水艦に搭載?)

その他】
火薬の整備
試験の新設
F15戦闘機の改修
・ミサイル発射型潜水艦の導入

 さらに、高速滑空弾や極超音速誘導弾といった高性能ミサイルの開発を進めます。
 ただ、これらは今後5年間で完成する見通しがないため、米国製の長距離巡航ミサイル・トマホーク(射程1600km)の大量購入を検討。F35、F15戦闘機から発射するミサイル(JSM、JASSM)の購入も進めています。
 ミサイルを格納する火薬庫や発射試験場を建設。発射地点を秘匿し、効果的な攻撃を行うため、スタンド・オフ・ミサイル発射可能な潜水艦まで導入しようとしています。

「攻撃着手」定義 首相説明できず
 これまで日本政府は、自国領域に攻撃が発生した場合にのみ、ごれを排除するために武力行使する「専守防衛」を基本原則としてきました。この「専守防衛」を大きく踏み越え、まさに日本は周辺国に「ミサイル戦争」を仕掛けようとしています
 しかし、攻撃を仕掛ける「相手の領域」が具体的にどこを指すのか示されておらず、事実上、全域が攻撃対象になります。自民党は相手国の「指揮統制機能」も含まれると解釈。そこには政府機関や軍司令部も当然含まれることになり、面戦争につながる危険があります。
 さらに、政府は実際に攻撃を受けていなくても、「着手」すれば攻撃可能という場です。
 ただ、何をもって「着手」と判断するのか首相は16会見で「着手」の定義を問われ、「いろいろな学説があり難しい問題だ」として説明できませんでした。
 相手国から見れば日本が国際法違反の先制攻撃を仕掛けたとみなされます。「反撃能力」は「国民の命暮らしを守るため」に保有するとしていまずが、逆に相手国の報復攻撃を引き起こし、国土の戦場化をもたらします。 (つづく)


安保3文書 危険な大転換(2) 敵基地攻撃も日米一体
                      しんぶん赤旗 2022年12月19日
 「わが国への武力攻撃が行われた場合」「武力行使の3要件に基づき」そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置」。安保3文書の最上位文書である「国家安全保障戦略」は敵基地攻撃(反撃能力)をこう定義し、「自衛の措置」だとして正当化しています。
 しかし、重大な点は、「武カ行使の3要件』には第2次安倍政権が強行した安保法制の下「わが国への武力攻撃が行われた場合」ではなくても、米軍の要請に基づいて集団的自衛権を行使する「存立危機事態」が含まれていることです。つまり、米軍とともに、あるいは米軍の肩代わりをして、他国を攻撃することが含まれています。
 岸田文雄首相自身16日の会見で、今回の3文書改定は「安保法制を実践面で強化する」と述べています。集団的自衛権を行使する態勢を強化するために敵基地攻撃能力を保有することこそ、核心部分です。
 「国民の命と暮らし」を守ることとは無縁であるばかりか、米国の戦争への参戦国となり、日本が報復攻撃を受け、多くの市民の生命・財産が失われる危険があるのです。

戦略擦り合わせ 協力を統合的に
 「日来両国がそれぞれの戦略を擦り合わせ、防衛協力を統合的に進めていく」戦略を整合させ、共に目標を優先付けることにより、同盟を絶えず現代化し、共同の能力を強化する」。安保3文書の一つである「国家防衛戦略」は、戦略面での日米一体化を強調しています。実は、この点が安保3文書改定の最大の目標といっても過言ではありません。
 敵基地攻撃能力についても、「日米が協力して対処していく」(国家安保戦略)、「情報収集を含め、日米共同でその(敵基地攻撃)能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する」(国家防衛戦略)などとして、米国の統制下で行われる可能性を示しています。

攻撃される前に破壊する「作戦」
 敵基地攻撃がより深く米戦略に組み込まれる危険があるのが、敵基地攻撃と防空・ミサイル防衛をさせた「統合防空ミサイル防衛」(AMD)の導入です。IAMDは米国が中国・ロシアの高性能ミサイルに対抗していくため、盟国を動員して地球規模で構築する「防空」網ですが、米統合参謀本部のドクトン(教義)は、敵国の「ミサイル発射拠点、空港、指揮統制機能」などを、相手から攻撃を受ける前に破壊する「攻勢作戦」を行うことが含まれるとしています。日本も、そうした敵基地攻撃の一翼を担う危険もあります。
 米軍と自衛隊は毎年、ミサイル防衛に関する共同訓練を行っていますが、今後、こうした訓練がどう変容していくのか注視する必要があります。 (つづく)