勝つことしか想定しない軍備拡大路線の末路が太平洋戦争での筆舌に尽くしがたい惨禍であり無条件降伏でした。終戦後75年以上日本が平和を維持する中で、国土を復興させ経済を発展させることが出来たのは、新憲法によって武力を持たずに戦争を放棄し、どの国に対しても敵対しないことを宣言したからで、その意義はこの間十分に証明されてきました。
安倍政権になってからその形は大きく歪められましたが、それを修正するどころか、「かつて来た道」に決定的に踏み出そうとしているのが岸田政権で、敵基地攻撃能力の保有とそのための軍事費2倍化を進めようとしています。
岸田首相はその口実としてウクライナ戦争を例示して「ウクライナは明日の東アジア」と訴えています。しかしそれは間違った見方であり、特定の国を敵視して同盟を強化し「カ対力」で対応すれば取り返しのつかない失敗に陥るということが、ウクライナ問題の最大の教訓です
しんぶん赤旗に「平和は『包摂的』外交でこそ 『ウクライナは明日の東アジア』 首相は言うが 米要求の軍拡は不必要」という記事が載りました。日本の安全を守るためには「本当に軍事費を2倍化する必要があるのか。立ち止まって考える必要」があります。
併せて東京新聞に掲載された柳沢協二氏のインタビュー記事「『敵基地攻撃、際限のない撃ち合いに』柳沢協二・元官房副長官補が語る 『国民に被害及ぶ恐れ』伝える必要」を紹介します。岸田政権の勝つことだけを想定して進める軍備拡張政策はまさに「お花畑思考」というべきものです。
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徹底検証 大軍拡 平和と暮らし破壊
平和は「包摂的」外交でこそ 「ウクライナは明日の東アジア」首相は言うが
米要求の軍拡は不必要
しんぶん赤旗 2022年11月30日
「幅広い税目による負担を」(政府有識者会議提言)ー。空前の大軍拡に、国民の税金が投入されようとしています。介護制度など社会保障の大改悪を強行する一方、軍事費を2倍化する必要があるのか。立ち止まって考える必要があります。
「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」。6月29日、日本の首相として初めてNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席した岸田文雄首相は、ロシアによるウクライナ侵略のような「力による現状変更」が東アジアにも波及するとして、「日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」と公約しました。念頭にあるのは中国です。
中国が急速に軍事力を強化し、覇権主義的な傾向を強めているのは事実です。だからと言って、日本が軍事力、とりわけ敵基地攻撃能力を強化すれば、相手も軍拡で応じ、際限のない軍拡競争につながります。軍事費は2倍化では済まず、国民生活のあらゆる分野が犠牲にされます。
そもそも、欧州と東アジアの安全保障環境を同列視すること自体、誤っています。
欧州ではソ連崩壊後、ロシアも合めた欧州安全保障協力機構(OSCE)が発展しましたが、その機能は生かされず、NATOは東方拡大を続け、ロシアも対抗して核兵器をはじめとした『抑止」を強める「力対力」の対応に陥っていきました。2014年のロシアによるクリミア侵略でNATOとの亀裂は決定的となり、現在のウクライナ侵略につながっていったのです。
一方、東アジアでは1950年代以降、朝鮮戦争やベトナム戦争など大規模紛争が多発していましたが、67年に発足した東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした、多層的な平和の枠組みが発展。その核心は紛争の平和的解決、武力による威嚇や武力行使の放棄、そして特定の国を排除せず、あらゆる国の参加を呼び掛ける「包摂的」であるということです。
トルコ・イスタンブールで開かれたアジア政党国際会議(ICAPP)第11回総会(18、19日)で採択された宣言にも、ブロック政治」を回避し、「競争よりも協力を強調する」ことが盛り込まれるなど、「包摂的」な平和構築の枠組みが確実に強まっています。
同盟強化の逆流
これと対極にあるのが、インド太平洋地域での覇権維持を目的とする米国の戦略です。先日公表されたバイデン政権の国家安全保障戦略では、中国との競争に打ち勝つために、 「QUAD」(日米豪インド)や「AUKUS」(米英豪)といった同盟国の連携強化を強調しています。
米国はロシアや中国に対抗するため、同盟国に大軍拡を要求。2014年、NATOはロシアによるクリミア侵略を受け、同年9月の首脳会議で、国防支出について、「24年までのGDP比2%達成」を目標に掲げました。この目標を一貫して主張してきたのが米国でした。
さらにトランプ米政権は17年、日本を合むすべての同盟国に「GDP比2%」を要求。21年に発足したバイデン政権は台湾有事などを念頭に、とりわけ日本を重視。大幅な軍事分担拡大を要求します。菅義偉前首相は同年4月16日の共同声明で、「自らの防衛力を強化する」と誓約。自民党は昨年10月の総選挙で、初めて軍事費の「GDP比2%以上」を公約しました。そして今月28日、首相はついに27年度までの「GDP2%」達成を指示。これが、大軍拡のそもそもの経緯なのです。
「競争より協力を}
しかし、特定の国を敵視して同盟を強化し「カ対力」で対応すれば取り返しのつかない失敗に陥ることが、ウクライナ問題の最大の教訓です。中国の暴走を許さないために必要なのは、「力による現状変更」に踏み込めば国際的に孤立し、「明日のロシア」になってしまうと自覚させること、そして、米中を含む「包摂的」な外交の枠組みです。
根源にある安保
22日に公表された「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」提言は、「我が国周辺の安全保障環境は一段と厳しさを増して」いると指摘。「5年以内の防衛力の抜本的強化」が必要だとして、大増税を掲げました。
中国や北朝鮮が東アジアの安全保障環境を悪化させているのは事実ですが、これらの国々が日本を敵国とみなし、武力攻撃する必然性はありません。
今年、北朝鮮は過去最多のペースで弾道ミサイルを発射し、一部は日本上空を通過しました。日本の排他的経済水域(EEZ)にも複数回落下しており、船舶に被害が及びかねない危険な行為です。
ただ、北朝鮮が開発に力を入れているのは米本土などに到達しうる大陸間弾道ミサイル(ICBM)であり、米国への攻撃能力確保が目的であるのは明らかです。ところが政府は安保法制に基づき、集団的自衛権を行使して、白本の上空を通過して米領に飛ぶミサイルの迎撃を検討しています。そうなれば、日本は北朝鮮への参戦国になり、攻撃対象になってしまいます。
また、日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、21年の日中貿易は双方輸入ベースで過去最高、さらに米中の貿易額も輸出入ともに過去最高になっています。日米中は経済的な相互依存を強めており、本来は戦争などしようがないのです。
しかし、中国が台湾の「武力統一」に着手し、米国が「台湾防衛」のために軍事介入する「台湾有事」の可能性は排除されません。米軍が日本の基地から出撃すれば、日米安保条約に基づいて基地を提供している日本は自動的に参戦国となり、全土が中国の攻撃対象になります。さらに、安保体制の下、自衛隊の参戦を拒否することは困難す。
最悪なのは、米国が中国との核戦争を避けるため主要部隊をグアムやハワイまで下げ、自衛隊に「代理戦争」をさせるシナリオです。「台湾有事は日本有事」という安倍音三元首相の主張は、これを正当化する論理です。安保条約は日本を守るどころか、東アジアで米国が絡む紛争に日本を巻き込んでしまうのです。
岸田文雄首相は、「国民の命と暮らしを守るため」だとして軍事力強化を正当化しています。これに対して柳沢協二・元内閣官房副長官補は28日、「戦争を回避せよ」と題した提言発表の場で「ウクライナのようにミサイルが降り注ぐような事態になれば確実に多くの人が死ぬ。そのことをー言も議論しないことは無責任だ」と批判。「国民の命を守るためには、戦争そのものを回避することが政治の責任だ」と訴えました。戦争に備えるための大軍拡は中止し、絶対に戦争をさせないための外交を主軸に置くことこそ、真の安全保障戦略です。
(竹下芭)
<崩れゆく専守防衛~検証・敵基地攻撃能力/特別編>
「敵基地攻撃、際限のない撃ち合いに」柳沢協二・元官房副長官補が語る 「国民に被害及ぶ恐れ」伝える必要
東京新聞 2022年11月30日
戦後の安全保障政策の大転換となる敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を巡る議論が政府・与党で続いている。柳沢協二・元内閣官房副長官補は、保有した敵基地攻撃能力で実際に相手国を攻撃すれば、日本本土を攻撃する大義名分を与え、際限のない撃ち合いに発展する危険性を指摘した。(川田篤志)
政府は議論を進める理由として、相手国のミサイル攻撃を防ぐ対処力を向上させるためと説明している。柳沢氏は「中国や北朝鮮は相当数のミサイル施設があり、全て一気につぶせなければ、日本が報復される」と反論。仮に日本が敵基地攻撃能力を持っても、軍事大国となった中国を抑止できるか、疑問を呈した。
さらに、相手国の国土をたたけば、むしろ日本を攻撃する理由を与え、ミサイルの応酬により国民に甚大な被害が出ることを危惧した。
憲法に基づく日本の安全保障の基本方針「専守防衛」について「国土防衛に徹し、相手の本土に被害を与えるような脅威にならないと伝え、相手に日本を攻撃する口実を与えない防衛戦略だ」と解説。敵基地攻撃能力を持てば「専守防衛は完全に崩れ、有名無実化する」と話した。
各社の世論調査で保有に理解を示す意見が多いことについては「国民自身に被害が及ぶ恐れがあると、政治家が伝えなければいけない」と強調。「敵基地攻撃能力を持って実際に戦争になれば、日本の国土にも確実にミサイルが撃たれる。国民に都合の悪い事実を伝えていない」と批判した。
▶柳沢氏との一問一答は以下の通り
―敵基地攻撃能力を保有することの問題点は。
「最大の問題は、日本を狙う攻撃の着手を事前に認定できても、たたけば結果として日本が先に相手の本土を攻撃する構図になることだ。国際法上は先制攻撃ではないとの理屈でも、相手に日本本土を攻撃する大義名分を与えてしまう。確実に戦争を拡大させ、際限のないミサイルの撃ち合いに発展する」
―政府は迎撃ミサイル防衛には限界があり、反撃能力が必要だと説明する。
「中国や北朝鮮は相当数のミサイル施設があり、一気につぶせなければ日本が報復される。相手を脅して攻撃を思いとどまらせる『抑止力』についても、軍事大国の中国に対し、ちょっとした敵基地攻撃能力を持っても抑止できるとは思えず、反撃を受けた場合の民間人防護の議論もない。論理として完結していない」
―専守防衛を維持しつつ保有することは可能か。
「専守防衛とは日本は国土防衛に徹し、相手の本土に被害を与えるような脅威にならないと伝え、日本を攻撃する口実を与えない防衛戦略だ。敵基地攻撃能力を持てば、それが完全に崩れて専守防衛は有名無実化する」
―日本が取るべき道は。
「力には力で対抗する抑止の発想では、最終的に核武装まで行き着いてしまい、その論理は正しい答えではない。日本は国土が狭く、食料やエネルギーなどを全て自給できず、海外とつながらなければ生きていけない。少子化も進み、戦争を得意とする国ではない。武力強化ではなく、戦争を防ぐ新たな国際ルール作りに向け、もっと外交で汗をかかなければいけない」
―世論調査では保有に理解を示す意見も多い。
「ロシアによるウクライナ侵攻や台湾を巡る米中の緊張状態、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、安保環境は間違いなく厳しさを増している。国民に戦争への不安が広がるのは当たり前とも言えるが、敵基地攻撃という戦争に備える政策を選ぶのなら、国民にも被害が及ぶ恐れがあると政治家が伝えなければいけない。相手への攻撃ばかり注目されているが、日本も確実にミサイルを撃たれる。国民全体が戦争に耐え抜く思いになっているか疑問で、国民に都合の悪い事実を伝えていない」
―ウクライナから日本が学ぶことは。
「ウクライナがなぜロシア本土に反撃しないかというと、攻撃すれば核も含めたより強力な反撃をされる口実を与えかねないからだ。軍事大国を相手にした戦争では、相手と同じことをしてはいけない」
やなぎさわ・きょうじ 1946年生まれ。東大法学部卒。70年に防衛庁(現防衛省)に入庁し、運用局長や防衛研究所長などを歴任。2004年~09年に内閣官房副長官補として安全保障政策などを担当。共著に「非戦の安全保障論」(集英社)など。