政府は16日、「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定しました。これは歴代の政権が違憲としてきた「敵基地攻撃能力の保有」を明記したもので、憲法9条の下で辛うじて自衛隊が合憲と見做される「専守防衛」という大原則を投げ捨てるものです(それは「反撃能力」と言い換えてみたところで勿論変わりません)。
これはしんぶん赤旗(共産党)が一貫して主張してきたものですが、何故他紙や他党は「憲法違反」とキチンと指摘しないのでしょうか。その点を放置したままで「防衛費増税」問題で大もめしているのは、むしろ政府にとって幸いなことかもしれません。
増税を巡っては政府と自民党反対派の間で、増税の実施時期を明確にしないことで折り合ったということです。双方とも来春の地方選を意識したのでしょうが、そういう問題ではありません。また、岸田首相は「増税案を今年示さなければ説明責任を果たしたことにならない」と主張したようですが、「説明責任」の対象はそれ以前のところにあります。
しんぶん赤旗の記事「『専守防衛』投げすて 安保政策大転換 日米共同で『敵基地攻撃』あらゆる分野で軍事優先」を紹介します。
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「専守防衛」投げすて 安保政策大転換 日米共同で「敵基地攻撃」
あらゆる分野で軍事優先
しんぶん赤旗 2022年12月17日
岸田内閣、安保3文書を閣議決定
政府は16日、「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定しました。歴代政権が違憲としてきた敵基地攻撃能力(「反撃能力」)の保有を明記。日本が攻撃されていないもとでも、米国からの要請があれば「存立危機事態」(集団的自衛権の行使)での敵基地攻撃も可能とし、「日米が協力して対処していく」(国家安保戦略)と盛り込みました。敵基地攻撃を実行するため、米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークなど大量のミサイル配備計画も明記。戦後安保政策の根幹である「専守防衛」を国民的議論もなく放棄する安保3文書の具体化を許さない世論と運動が急務となっています。
安保3文書は、
▽最上位の戦略文書である「国家安全保障戦略」
▽「防衛目標」を達成するための手段を示す「国家防衛戦略」
(「防衛計画の大綱」から改称)
▽軍事費の総額や装備品数量を示す「防衛力整備計画」
(「中期防衛力整備計画」から改称)
― で構成。米国の戦略文書と同じ名称とすることで日米の戦略面での一体化を図るのが狙いです。
「反撃能力」について、国家安保戦略は「相手の領域において、わが国が有効な反撃を加えることを可能とする。スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」だと定義。「防衛力整備計画」などに、イラクやアフガニスタンでの先制攻撃に使われたトマホークの購入や、12式地対艦ミサイルの射程延長、高速滑空弾や極超音速ミサイルの開発など、敵の射程圏外から攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル」導入計画を明記し、2027年度までの運用開始を狙っています。これらは歴代政権が「自衛のための必要最小限度」を超えるため保有を禁じてきた「攻撃的兵器」にあたります。「スタンド・オフ・ミサイル」搭載可能な潜水艦の取得も盛り込まれており、米軍などと同様、潜水艦から巡航ミサイルを発射し、敵基地攻撃を行うことを可能とします。
さらに、敵基地攻撃と「ミサイル防衛」を一体化する「統合防空ミサイル防衛」の導入も明記。敵基地攻撃は、集団的自衛権行使に道を開いた安保法制に基づく「武力行使の3要件」のもとで行うとしています。
国家安保戦略では軍事費の規模について「国内総生産(GDP)の2%に達するよう措置を講ずる」として、整備計画には、23年度から5年間で軍事費を43兆円に増額すると明記。現行計画の1・5倍超という歴史的な大軍拡です。実行されれば世界第3位の軍事大国となり、「軍事大国とならない」との防衛の基本方針に真っ向から反します。
中国の軍事動向について、国家安保戦略では「最大の戦略的な挑戦」と明記しました。
弾薬など殺傷兵器の輸出を可能にすることを念頭に「防衛装備移転三原則」や運用指針の見直しも検討。軍需産業の基盤強化や、軍事分野での官民学の連携強化、空港・港湾の軍事利用、海上保安庁と海上自衛隊の連携強化などあらゆる分野で「軍事優先」とする方向性を示しました。
国民負担増で軍事費倍増 与党が「税制改正」大綱を決定
しんぶん赤旗 2022年12月17日
自民・公明両党は16日、2023年度「税制改正」大綱を決定しました。岸田文雄政権が5年以内に実現を狙う軍事費2倍化の財源については、復興特別所得税の期限を延長し、増収分を充てることを明記。東日本大震災からの復興予算を流用し、国民負担で軍事費を増額します。今回の大綱は、軍拡財源確保に向けた税制の骨格を示し、増税は「24年以降の適切な時期」に実施するとし、時期を国民に知らせることすらしません。
岸田政権は軍拡のために、27年度に増税で1兆円強を確保するとしています。大綱は、法人税、所得税、たばこ税の増税を明記しました。法人税は税率に手を付けず、税額に一律の税率を上乗せする付加税方式を採用、法人税額の4~4・5%を上乗せします。ただし、課税標準となる法人税額から500万円を控除します。
所得税は、東日本大震災の復興財源となっている復興所得税の一部を流用します。復興特別所得税は現在、所得税額に2・1%を上乗せして課税しています。そのうち1%を軍拡財源とし、37年に迎える終了期限を「復興財源の総額を確実に確保するために必要な」期間、延長します。
たばこ税は、1本当たり3円を段階的に引き上げます。
政府が来年10月に導入を狙うインボイス(適格請求書)制度では、「激変緩和措置」を設けました。免税業者が課税業者に転換した場合、納税額を売り上げにかかる消費税の20%とします。また、売上高1億円以下の事業者は、1万円未満の仕入れにインボイスがなくても仕入れにかかった消費税を納税額から控除できるようにします。ただし、前者は3年間、後者は6年間と期間限定。売上高1000万円以下の零細な免税業者に負担を押し付ける本質は不変です。また、原則3月31日までとされていた登録期限は、9月末まで無条件に受け付けることになりました。
合計所得が30億円を超えるような超富裕層への課税強化が盛り込まれました。年間所得が1億円を超えると所得税負担率が下がる「1億円の壁」の是正をめざすとしています。合計所得金額から3・3億円を控除した額の22・5%より通常の所得税額が低い場合、差額分を申告納税します。所得50億円程度の人は負担が2~3%程度増えるとしています。ただ、所得1億円を超える申告納税者だけで1・9万人いるのに、対象は200~300人程度となる見通し。25年分の所得から適用するとしています。