2022年12月14日水曜日

日本が創作した中国の脅威/日本経済再生策の核心(植草一秀氏)

 植草一秀氏の2つの記事を紹介します。
「日本が創作した中国の脅威」では、当面5年間に43兆円を注ぎ込んで軍事費を世界三位の11兆円/年に上げるに当たり、政府は明言こそしないものの中国を仮想敵国と見做しています。
 その原点は、菅直人内閣時代に前原誠司国交相と連携して起こした尖閣列島近海での中国漁船と日本の巡視船との衝突事件でした。それは1隻の巡視船が中国漁船を追い回してもう1隻の巡視船に衝突させたもので、衝突された巡視船上から撮られたその瞬間の動画が当時繰り返しTV等で報じられました。
 それを視ると中国漁船が急角度で左に旋回して衝突したように見えますが、漁船があんな風に急カーブを切ることは不可能なので、巡視船が漁船の左側から正面に回り込んで衝突させたことが録画されていたのでした。その後取った日本の態度はまさに「自責」を「他責」にすり替えるものでした。
 植草氏はその前後の状況を歴史的に説明しながら、『中国の脅威』は『日本が創作』したと述べています。
☆「日本経済再生策の核心」では、この30年間で日本だけがただ1国 経済成長から取り残されましたが、その中でも特にアベノミクスの10年間では、10年~12年の民主党政権時代の成長率の半分に留まっていることをまず明らかにしました。
 そして安倍首相が雇用が拡大したと自画自賛したことについては、増えた労働者の大半は非正規労働者だったので、雇用は拡大したものの1人当たりの所得は一層下がるという結果を招いたとしました(この間労働者への分配率は悪化)
 実際、日本の労働者の実質賃金は減少し続け、先進5ヵ国で最低の水準に落ち込み、韓国にも抜かれました。
 植草氏は第2次安倍内閣発足後の日本経済は「暗闇経済」と表現できると述べています。
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日本が創作した中国の脅威
                      しんぶん赤旗 2022年12月10日
軍事費に43兆円も注ぎ込むより、諸外国と友好関係を築く方が安上がりだし賢明だ。
しかも、そもそも軍備増強は平和をもたらさない。
かつて日本の防衛費にはGDP比1%の上限が設定されていた。これがGDP比2%に引き上げられる。
増額せずとも日本の軍事費は2020年の国別ランキングで第9位に位置している。
十分な軍事大国だ。

日本国憲法は
「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」としたうえで
「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と規定している。

最近、日本政府は「反撃能力」と言葉を変えたが、相手国が攻撃を開始する前に、相手国基地を攻撃することを指している。どう考えても「先制攻撃」であって「反撃」ではない
戦争を放棄している日本が軍事大国としての地位を押し上げよう懸命だ。
軍事費を増大させて平和になるのか。
逆である。軍事費増大が緊張を高める要因になる。

日中関係悪化の契機になった中国漁船衝突事件。
何度も繰り返すが、この事件が発生した背景と経緯を知る必要がある。
何度でも繰り返し、すべての日本国民が情報を共有するべきだ。
2010年6月8日に発足した菅直人内閣は内閣発足のその日に
「尖閣諸島に関する我が国の立場は、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しないというものである。」とする政府答弁書を閣議決定した。

この閣議決定の正当性を検証しなければならない。
日本政府は1972年の日中国交正常化、1978年の日中平和友好条約締結時に尖閣諸島の領有権問題について中国政府と協議し、問題解決を「棚上げ」することで合意した。
このことを端的に記述しているのが読売新聞の1979年5月31日付社説。
読売新聞は社説に次のように記述した。
「尖閣諸島の領有権問題は1972年の国交正常化の時も、昨年夏の日中平和友好条約の調印の際にも問題になったが、いわゆる「触れないでおこう」方式で処理されてきた。
つまり、日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が存在することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた
それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした「約束ごと」であることは間違いない。」

この事実を踏まえれば2010年6月8日の菅直人内閣閣議決定は正当化できない。
日本政府が日中両国間の「れっきとした約束ごと」である「棚上げ合意」を踏みにじったことになる。
日本政府は6月8日閣議決定に基づき、尖閣海域の中国漁船取締り方式を「日中漁業協定基準」から「国内法基準」に変更した。その結果として漁船衝突事件が「発生」した。
「発生した」というより「創作された」と表現する方が妥当だ。

従来は海保巡視船が中国漁船を追い払うだけだったが、9月7日は海保巡視船が1隻の中国漁船を接触するほど追い上げ、あげく漁船と他の巡視船がぶつかり、接触から3時間も漁船を追い回した末に漁船と乗組員を確保し、船長を逮捕した。
中国漁船衝突の映像がインターネット上で流布されたが、当初から計画されていたプロセスの一部であったと思われる。

「事件創出」の背景にこの年の11月に実施された沖縄県知事選が存在したと見られる。
2010年2月2日に来日したキャンベル米国務次官補、グレッグソン国防次官補と前原誠司沖縄担当相兼国交相が会談した。
その内容がウィキリークスに暴露された。
前原氏は両氏に「11月の知事選で基地反対派の伊波洋一氏が勝利すれば辺野古移設問題が膠着するのは確実」と述べたとされる。
日本政府による「棚上げ合意」の一方的破棄と、これに連動する尖閣漁船衝突事件創出は沖縄知事選結果を誘導するためのものであったとも考えられる

実際に11月実施沖縄県知事選では伊波洋一氏が自公支援の仲井眞弘多氏に敗北。
民主党は他の政権与党が支援する伊波氏を支援せず自主投票とした。
さらに、菅直人内閣を引き継いだ野田佳彦内閣は尖閣国有化を強行。
この行為によって日中関係が決定的に悪化した。

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日本経済再生策の核心
               植草一秀の「知られざる真実」 2022年12月11日
日本経済の衰退が止まらない。
2012年12月に第2次安倍内閣が発足した。安倍首相は「アベノミクス」を掲げて日本経済の成長を目指すとしたが、日本経済は成長しなかった。
日本の実質GDP成長率の推移は以下の通り。
  1960年代 10.5%
  1970年代  5.2%
  1980年代  4.9%
  1990年代  1.5%
  2000年代  0.6%
(いずれも各年実質成長率平均値)
2010年ⅠQ~2012年ⅣQ 1.6%   (*「Q」は「四半期」の略)
  2013年ⅠQ~2022年ⅢQ 0.8%
(いずれも各四半期実質年率成長率の単純平均値)
  2010年ⅠQ~2012年ⅣQは民主党政権の時代。
2013年ⅠQ~2022年ⅢQは第2次安倍内閣発足から現在まで。

第2次安倍内閣発足後の実質GDP成長率は民主党政権時代成長率の半分にとどまっている。
民主党政権時代の日本経済が好調だったわけではない。東日本大震災、フクシマ原発事故に見舞われ、日本経済は暗かった。
しかし、2012年12月の第2次安倍内閣発足後の日本経済はさらに一段と暗い。
民主党政権下の日本経済を「暗がり経済」と表現するなら、第2次安倍内閣発足後の日本経済は「暗闇経済」と表現できる。

安倍元首相は雇用が拡大したと自画自賛していたが、増えたのは雇用者の数だけだ。
働く人の頭数だけは増えた。しかし、増えた労働者の大半は非正規労働者だった
この期間にたしかに際立った好調を示したものがある。企業収益だ。
財務省発表の法人企業統計に基づくと、日本の法人企業当期純利益は2012年から2017年の5年間に2.4倍に激増した。大企業を中心に企業収益は激増したのである。
しかし、経済全体は成長しなかった。経済全体が成長しないのに、法人企業の利益だけが激増した。このことは、労働者の分配所得減少を意味する。労働への分配が減った。

安倍元首相が自画自賛した「雇用が増えた」ことは事実なのだが、これは、労働者全体の分配所得が減少したなかで、その減少した労働者の分配所得を分け合わなければならない人数が増えたことを意味する。
労働分配所得が減少したのに、それを分け合う労働者の数は増えた。
結果として生じたのは、労働者一人当たりの実質賃金激減である。
日本の労働者の実質賃金は減少し続け、先進5ヵ国で最低の水準に落ち込んでいる。
さらに、労働者の平均賃金はお隣の韓国にも抜かれてしまった。

したがって、労働者=消費者=生活者の立場から評価すれば、アベノミクスは完全に失敗だったと言える。
働く人の人数だけが増えたことは自画自賛の対象にはなり得ない。
バブル崩壊が始動した1990年以来、日本経済は30年以上にわたる長期停滞、長期低迷を続けている。

岸田文雄首相は本年5月5日にロンドンで講演し、
「日本経済はこれからも力強い成長を続ける」と述べたが、日本の信用を失う暴言だった。
日本経済は過去30年間成長していない。
「日本経済はこれまで停滞を続けたが、これからは力強く成長する」と述べたのなら、一定の評価を獲得できたかもしれない。
しかし、「これからも力強い成長を続ける」では信頼と信用を失うだけだ。
日本経済の再生を果たすために何が必要か。三つの革新が必要不可欠だ。
 第一に分配の是正。
貧困問題の是正である。
 第二に人口減への対応。
 第三は教育の抜本改革。
この三つの課題を克服しない限り、日本経済の再生はない。
岸田内閣の下で事態が改善する兆しはまったく見えていない。

                (後 略)