統一協会問題を念頭においた被害者救済法は参議院本会議で10日、原案の配慮義務に「十分な」という一語を付加した内容で可決・成立しました。岸田首相は10日夜の会見で、立法関係者の労を多としたうえで、被害者への支援を迅速に進めていく考えを示しました
共産党の山添拓議員は9日の参院消費者問題特別委で、法案の限界として、被害者がマインドコントロール下にある場合、本人が取り消し権を行使できず、家族が代わりに取り消し権を行使することもまた行政措置の対象とすることも難しいと指摘しました。
同委員会の参考人質疑で全国弁連の阿部克臣弁護士は、法案は「統一協会の被害について言えばほとんど役に立たない」と指摘し、寄付勧誘での禁止行為について「岸田首相は今国会でいくつかの文言についてかなり広い解釈を明らかにしたが、そのような解釈を取るのであれば端的に条文に書き込んでもらいたい」と述べました。また共産党の修正案については「かなり役立つ条文になっていると評価しました。しんぶん赤旗が伝えました。
それとは別に、かつて霊視商法の明覚時(本覚寺)の解散命令を勝ち取った弁護士の澤藤統一郎氏は、「「救済新法」ー もっと実効性ある立法も可能なのに」という記事を出しましたので、併せて紹介します。
澤藤氏は、新法案は消費者契約上の「困惑類型」を統一協会への寄附に関して使えるようにしたもので、6項目の「禁止行為」は、消費者契約上の「困惑類型」とほぼ重なるとして、その「禁止規定適用範囲」は、消費者契約法上の「取消対象の困惑類型」範囲を出るものではなく、けっして「画期的な法案」でも「ギリギリまでできるところを詰め切った法案」というほどのことでもないと述べています。
そうであればこの先も「統一協会側の自制。自粛」以外には何ごとも起きないということになってしまいます。自民党と立法関係者は2年後には是非とも実効性のある法律になるように、今から見直しの準備を進めておいて欲しいと思います。
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洗脳下での対応困難 救済法案 山添氏「実効性ある修正を」
しんぶん赤旗 2022年12月10日
日本共産党の山添拓議員は9日の参院消費者問題特別委員会で、統一協会の被害者救済法案について、被害者がマインドコントロール(洗脳)下にある場合、本人が取り消し権を行使できず、家族が代わりに取り消し権を行使することも行政措置の対象とすることも難しいと指摘し、実効性ある法案修正を求めました。
山添氏は、この間の政府の説明をあげ、法案が禁じる寄付勧誘行為の対象となるかは、被害者が寄付当時「困惑」していたと事後に考えるかにかかっていると指摘。「被害者が洗脳下にあり、困惑したと思っていない段階では行政勧告はできないのでは」とただしました。消費者庁の植田広信審議官は、事後に困惑に気づいた信者の事例が「1件であれば」行政勧告はできないと答弁。山添氏は「多くの信者が洗脳から脱していない状態では行政が介入できない」と指摘しました。
さらに「本人が洗脳から抜け出せない場合、取り消し権を行使できるのか」とただしたのに対し、消費者庁の黒田岳士次長は「(洗脳から)覚めないまま一生ハッピーなら取り消し自体が起きない」などと述べました。
山添氏は、本人が洗脳下にある場合、家族が代わりに寄付の取り消しなどを行う債権者代位権を行使できるのかと追及。黒田次長は、本人も自覚していない困惑状態にあることを家族が立証できれば「理論上は代位権の行使ができる」としつつ「立証は難しい」と述べました。
山添氏は現状の法案では洗脳下の被害救済に最も必要な場面で機能しない法案になってしまうとして、実効性ある、誰が見ても被害救済に使える法案への修正を求めました。
「寄付禁止」の解釈を条文に 共産党修正案かなり役立つ
救済法案 田村智子氏に参考人 参院消費者特委
しんぶん赤旗 2022年12月10日
参院消費者問題特別委員会は9日、統一協会の被害者救済法案について参考人質疑を行いました。
全国霊感商法対策弁護士連絡会の阿部克臣弁護士は、同法案では禁止行為や取り消し権などの対象となる行為の範囲が狭く、「統一協会被害について言えば、ほとんど役に立たない」と指摘。寄付勧誘に関する禁止行為について、「岸田首相は今国会でいくつかの文言についてかなり広い解釈を明らかにしたが、そのような解釈を取るのであれば端的に条文に書き込んでもらいたい」と述べました。
元2世信者の小川さゆりさん(仮名)は「同法案が本当に裁判で実効性を伴うのか検証してもらいたい」と指摘。統一協会の解散についても議論を続け、早急な対応をするよう求めました。被害者らが現役信者から攻撃され、体調を崩しながらも訴え続けてきた理由は「被害拡大の張本人の与党側が本当に動いてくれるか信じられなかったからだ」と強調。「被害者がそこまでやるしかなかったという事実を忘れないでもらいたい」と訴えました。
日本共産党の田村智子議員は、マインドコントロール(洗脳)下の寄付の勧誘を禁止規定にすることなどを盛り込んだ共産党の修正案の受け止めについて質問。阿部氏は「かなり広い行為を禁止規定としている。取り消しの範囲が広く、その期間も10年ではなく20年。被害救済にかなり役立つ条文になっている」と語りました。
「救済新法」ー もっと実効性ある立法も可能なのに
澤藤統一郎の憲法日記 2022年12月9日
統一教会の被害予防と救済に向けた新法の法案が、昨日衆院を通過し会期末の明日には参院でも可決となる見通しである。この法案、与党(自・公)側は一刻も早くあげてケリを着けたい。野党(立・維)側は、一歩前進の与党譲歩を引き出したという実績を早期に誇りたい。両者の思惑が合致して、ことは性急に運ばれた。
最終的な法案修正は、党首会談での政治決着とも報道されていたが、現実には密室での不透明な協議で、配慮義務に「十分な」という一語を付加しただけの、この上ない微調整による灰色決着となった。はたして、これで実効性のある予防・救済の法律ができると言えるのだろうか。元2世信者や被害者・弁護団からは「生煮えの法案」と評判は芳しくない。
一歩前進ではあろうが、もっと審議を尽くして、もっと実効性ある法律にできただろうに、と残念である。現行の法体系が、統一教会の横暴から被害者を救済する立法を許さない、などということは考えられない。むしろ、新法案は短時間で安直に作られたものという印象を拭えない。
かつては私法を貫く大原則として、「取引の安全」が強調された。いったん成立した法律行為が軽々に取り消されたり無効とされたのでは、経済社会の混乱は避けられない。法律行為の積み重ねを極力尊重し、過去に遡っての取消や無効を軽々に認めるべきではないという考え方。
民法は、詐欺や強迫によってなされた意思表示の取消を認める。ということは、詐欺や強迫によるものでなければ、取消は認めないということでもある。契約当事者の形式的な平等を前提とする限り、売買でも貸借でも、婚姻でも離婚でも、あるいは高額の寄附であつても、自分の意思でした行為には責任を持たねばならないということが原則ではある。
しかし実質的に、当事者間の力量に大きな格差がある分野では、形式的平等前提の「取引の安全」墨守の不都合は明らかとなる。使用者に対する労働者の保護、大企業に対する小規模企業の保護、そして事業者に対する「消費者利益の保護」を手厚くして初めて、実質的な平等が実現し法的正義が貫かれる。
民法では「詐欺または強迫」に限られていた意思表示の取消要件は、消費者契約法では、大きくその範囲を拡げている。通常、これを「誤認類型」と「困惑類型」に分類する。
①消費者契約法上の誤認類型とは
・ 不実告知(消費者契約法第4条1項1号)
・ 断定的判断の提供(同条同項2号)
・ 不利益事実の不告知(同条2項)
②消費者契約法上の困惑類型とは
・ 不退去(同条3項1号)
・ 退去妨害(同条同項2号)
・ 社会生活上の経験不足の不当な利用
(不安をあおる告知 同条同項3号)
・ 社会生活上の経験不足の不当な利用
(恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用 同条同項4号)
・ 加齢等による判断力の低下の不当な利用 同条同項5号)
・ 霊感等による知見を用いた告知(同条同項6号)
新法案は、消費者契約上の「困惑類型」を、統一教会への寄附に関して使えるようにしたことが主眼となっている。具体的には、《①不退去、②退去妨害、③勧誘をすることを告げず退去困難な場所へ同行、④威迫する言動を交え相談の連絡を妨害、⑤恋愛感情等に乗じ関係の破綻を告知、⑥霊感等による知見を用いた告知》という6項目の「禁止行為」は、消費者契約上の「困惑類型」とほぼ重なる。
なお、両法における「霊感等による知見を用いた告知」についての規定を比較してみよう。
消費者契約法では、
「当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。」
救済新法(案)では、
「当該個人に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該個人又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、又はそのような不安を抱いていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、当該寄附をすることが必要不可欠である旨を告げること。」
以上のとおり、救済新法の「禁止規定適用範囲」は、消費者契約法上の「取消対象の困惑類型」範囲を出るものではない。その禁止規定違反に対する制裁は、寄附の取消だけでなく、行政の関与による勧告や,是正命令・法人名公表などもできるようにしてはいるが、けっして「画期的な法案」でも、「ギリギリまでできるところを詰め切った法案」というほどのことでもない。もっと審議を重ね、もっと加害被害の態様を見極めた法の成立が望ましかったといえよう。
被害者は多くの場合、洗脳(マインドコントロール)下で「困惑」せずに高額の寄付をしているという。とすれば、「自由な意思を抑圧しない」という配慮義務規定を禁止規定として、「困惑類型」と同等の法律効果を持たれることができれば、画期的立法になるだろうが、そのためには、もっと徹底した審議を尽くさなければならない。それが放棄されたことが残念なのだ。
結局は、施行後2年の見直し規定に期待したい。