2022年12月31日土曜日

戦慄の令和の粛軍事件-失脚させられた「元海将」の謎を解く(世に倦む日々)

 26日に突然、海上自衛隊の井上高志氏が「特定秘密」漏洩の疑いで摘発され、懲戒処分を受け書類送検されたことが報じられました。漏洩先は井上氏の先輩にあたる「元海将」とされ具体的な氏名は明らかにされていませんが、ネットでは香田洋二氏の名前があがっているということです。

 漏洩された内容は、海自が収集した情報といった特定秘密のほか、自衛隊の運用状況、自衛隊の訓練に関する情報といった秘密で、その中には米国に関連するものもあるということです。
 注目すべきことはこの事案は20年3月に起きていて、3月中には防衛省に通報があったにもかかわらず2年半の期間放置された後に、この度処分が行われ公表されたという点です。
 世に倦む日々氏がこの問題について彼一流の推理力を発揮して考察しました。
 同氏は今回の事案を背後で操ったのは米国であり、海自を退職後も隠然たる影響力を有している香田洋二氏を排除することで、米国が海自を自由自在にコントロールできるようになり、台湾有事の手足として誰からも妨害されず使うことができるようにすることが目的だったと見ています説得力のある興味深い記事です。
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戦慄の令和の粛軍事件 - 失脚させられた「元海将」の謎を解く
                      世に倦む日日 2022年12月29日
12月26日、海自の情報業務群司令だった一佐の井上高志が、「特定秘密」漏洩の疑いで摘発され、懲戒処分の上で書類送検されるという事件が発生した。特定秘密保護法違反が初めて適用された衝撃のニュースである。漏洩先の相手は海自OBの「元海将」とだけ伝えられていて、海自とマスコミは名前を公表していない。ネットでは香田洋二ではないかという噂が広まっている。「元海将」の経歴情報や「講演のために必要だった」という説明から、香田洋二ではないかと憶測するのは自然なところだ。私も同じ見方である。「元海将」と井上一佐は元の上司部下の関係で、「元海将」の依頼に応じて、横須賀の艦隊司令部庁舎内で安保情勢のブリ―フィングをした際、「特定秘密」を漏洩した。

マスコミ報道は、「元海将」には「特定秘密」を聴き出そうという意図はなく、特定秘密保護法に抵触するという意識はなかったように報じているが、私は、それは嘘だと考える。井上一佐の方にはそれが「特定秘密」だという自覚があった。自覚はあったが、相手が「元海将」であり、元上司へのブリーフィングであり、海自艦隊司令部から依頼された任務(面談)であったため、問題にはなるまいと思って機密情報を伝えたのである。井上一佐本人にとっては、漏洩ではなく報告の意識だっただろう。マスコミは、井上一佐と「元海将」の関係が日本的な親分子分の間柄で、だから法令順守を逸脱する不覚をとったという俗っぽい「解説」をしている。だが、それは違うだろう。真実の正確な説明ではない。

「元海将」が香田洋二であった場合、その存在は、海自の現役隊員にとって事実上のオーナー格であり、海幕長や統幕長よりも「偉い」指導的立場の棟梁だ。読売新聞社の幹部にとっての渡辺恒雄とか、京セラ社幹部にとっての稲盛和男のような超越的存在で、たとえ組織の現役の上官でなくても、要求や依頼があれば、積極的に応じてサービスを提供するのは当然の義務なのである。憲法9条と自衛隊法の海自から日米同盟の攻撃型の海自へ、その転換と改造と拡張を果たし、中国との戦争で主力となる強大な艦隊と戦力を作ったのは、他ならぬこのオレだという自負が香田洋二にはある。海自の現役幹部たちはみな香田洋二に育てられた元部下で、香田洋二の指導と監督の下でネイバル・オフィサーに育った者たちだ。

そしてまた実際に、香田洋二の地位と実力というのは、海自にとって領導者の存在であり、装備や編成や作戦の構想計画も、人事も、香田洋二に負うところが大きい(大きかった)のである。海自の頭脳だったのだ。海自OBで大物は何人かいる。伊藤俊幸とか河野克俊がいる。階級的には河野克俊の方が上だ。だが、河野克俊は軍人というより政治家で、安倍晋三とアメリカに気に入られている評論家に過ぎない。現場に実務的に影響力がある香田洋二とは比較にならない。香田洋二は軍人であり、海軍の中身を知っている。人脈的心情的に、現役士官のコミットは、香田洋二に対しての方が河野克俊に対してよりもはるかに強いだろう。頭脳であり事実上のトップだったから、香田洋二には「特定秘密」化された情報が必要だったのだ。作戦の立案設計のために。

だから、「元海将」の側にそれが「特定秘密」だという認識はなかったという説明は作り話である。艦隊司令部の情報司令からブリーフィングを受ける者が、何が「特定秘密」で何が「特定秘密」でないかを知らないわけがない。どういう情報の分類になっているか、機密の整理箱を知らないわけがない。現場を知っているから香田洋二にはディレクターとしての力があるのである。香田洋二は、横須賀に「特定秘密」を聴き出しに来たのだ。そして元部下の井上高志は、リスクを認識しつつその要求に応じたのだ。相手が事実上の「軍令部長」だから。井上高志も、香田洋二に育てられた弟子の一人だろう。中日ドラゴンズの星野仙一と中村武志の関係だろう。井上高志は、海自に初めて作られた情報業務群の初代司令で、おそらく香田洋二が差配した人事だと思われる。

井上高志は、防衛大ではなく東北学院大の出身だ。防衛大閥で固められそうな幹部クラスの構成の中で、この初代司令への抜擢は異例の人事と言える。香田洋二が目をかけた優秀な逸材だったからと考えられ、また、その抜擢の恩義もあり、井上高志の香田洋二への忠誠心は特に強かったと推測される。以下は想像だが、今回の3文書で新設されることになった「統合司令部」に、おそらく、井上高志は海自の中心将校の一人として入る予定だったのではないか。すなわち、現在は艦隊情報群と名称を変えた海自の司令中枢のエースであり、海自「参謀」のリーダー格である。そしてまた、事実上の海自トップである香田洋二から指示を受け、薫陶を受け、次の戦争で海自艦隊を具体的に動かす意思決定役の重職だ。秋山真之とか島村速雄の立場である。

だから、私は今回の出来事を粛軍事件と見る。目的は香田洋二と井上高志の排除である。それでは、誰が香田洋二を失脚させたのか。考えるまでもなく米軍CIAという答えになる。27日付の朝日新聞1面記事に重大な事実が書かれている。

発表によると、井上1佐は2020年3月19日、神奈川県横須賀市の司令部庁舎で、自衛艦隊司令官を務めた海自OBの元将校に、周辺情報について海自が収集した情報といった特定秘密のほか、自衛隊の運用状況、自衛隊の訓練に関する情報といった秘密を故意に伝えた疑いがある。(略)元海将は「講演する機会があ正確な情報を把握するためだった。秘密の提供は求めていない」と話しているという。防衛省関係者によると、漏洩した特定秘密は装備品の性能や部隊の能力に関するものではないが、米国に関連するものだった。

この最後の部分、要するに米軍の配備や展開、作戦計画に関する情報が「特定秘密」で、これを井上高志が漏らし、香田洋二が得ていたことになる。確かに、これは自衛隊の実務中枢にアクセスしないと、香田洋二の顔だけでは外からは取れない情報だ。そしてまた、「陰の軍令部長」たる香田洋二には喉から手が出るほど欲しい情報。問題は、3月19日にこの漏洩が行われた直後、3月中に防衛省に通報があり、事案が発覚している点である。すぐに露顕してしまっている。そして、今回、井上高志が捜査で自供し書類送検までされたということは、その時点で漏洩の証拠を誰かに掴まれたことを意味する。おそらく、香田洋二が誰か(複数)にペラペラ喋ったのだろう。で、聞いた者が「それは特定秘密のはずなのに」となり、防衛省に密告したのだろう。

密告から今回の書類送検まで、約2年の時間が経っている。何があったのかを松本清張な思考回路と分析視角で推理しないといけない。上にも書いたとおり、香田洋二は海自のオーナー格で、現場組織に絶大な影響力があり、この程度の問題を誰かに密告されたところで、普通は握り潰されて済まされるところだ。香田洋二もそう考えていて、まさかこんな事件に発展するとは思ってなかったに違いない。また防衛省と官邸は、2年間も机の引き出しに溜めていたわけで、その気になればいつでも摘発できたのである。この謎解きは、やはり、ネットで喋々されているとおり、最近の香田洋二の発言に関わっていると思われる。「43兆円の防衛費は身の丈を超えている」とか、「砂糖の山にたかるアリ」という政府批判の発言が、黙過・容認されざるところとなったのだろう。

長い間、自衛隊の予算を増やせと言い、軍備拡張を唱えてきた右翼の香田洋二にも、現在の防衛政策の内容は不満なのであり、構想と計画が違うのだ。異議を唱えているのであり、オレの提言方向にしろと文句を言っているのである。今、台湾有事に向けての具体的計画が着々と決められている。武器の配備、艦隊の展開、部隊の運用が工程表に落とし込まれている。たぶん、その中身が香田洋二の考え方と違うのであり、香田洋二にすれば、オレの海自を勝手に動かすな、間違った作戦を組むなと言いたいのだろう。もっと言えば、オレを外すなと言いたいのかもしれない。香田洋二を外して誰が作戦を立案しているかと言えば、その主体は米軍CIAしかない。つまり、海自の戦力をフリーハンドで使いたい米軍にとって、外からあれこれ指図して口を出す香田洋二が邪魔になったのではないか

もともと、特定秘密保護法の制定はアメリカが日本に要求してきたもので、米軍の情報が日本から外に漏れることを防ぐことが目的の第一だった。平和憲法体制下にあった日本にはこの制度はなかった。アメリカはそれを心配し、マスコミでの世論工作の絨毯爆撃の末に安倍晋三の政権下で強行成立させたのだが、その定着にずっとナーバスでいたのだろう。日本の場合、こんな感じで、組織の実権者・最高実力者が組織の外にいて「うしろみ」(=丸山真男の『政事の構造』)の機能を果たす。リモートコントロールする。権力の根源は情報だから、外から「うしろみ」が情報にアクセスに来る。「うしろみ」がアメリカの方針に忠実に従う者ならよいが、独立に意思を持ち、別の戦略を口出しするようになると、アメリカはそれを排除しなくてはいけない

今回、こうして香田洋二を排除することで、アメリカは海自を自由自在にコントロールでき、台湾有事の手足として誰からも妨害されず使うことができるようになった。今回の事件は、アメリカによる自衛隊の粛軍であり見せしめだ。台湾有事を前にしての軍の粛清と権力の統制一元化だ。無論、それに手を貸した日本の軍国指導者たちがいる。