岸田政権(内閣府)は12月6日、「内閣府「日本学術会議の在り方についての方針」なるものを発表しました。その中には日本学術会議の「会員選考過程に関与する第三者委員会」の設置を含む法改正を、次期通常国会に提出する予定であることも記載されているということです。他者がある組織の人事に介入することは、そのまま組織そのものに介入することに他なりません。
菅政権時代に、学術会議委員の半数交代に当たり、学術会議が提出した候補者名簿から6名を除外したことで、学術会議への不当な介入としてあれだけ批判されたにもかかわらず、今度は法制度上(最終的に)政府が介入できるようにするわけですから、開いた口が塞がりません。
日本学術会議は声明:「内閣府『日本学術会議の在り方についての方針(12月6日)』について再考を求めます」を12月21日に出しました。そして27日には、国民に対して声明の趣旨についての説明文書を発表しました。
声明が抗議の趣旨を簡潔に示しているのに対して、説明文書はより丁寧にその趣旨を説明しています。文書は国民が対象なのですが、政府に対して噛んで含めるように説いているとも理解できます。
しんぶん赤旗が解説と説明文書について記事を出しました。
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政府の介入方針批判 学術会議が国民に説明文書
しんぶん赤旗 2022年12月29日
日本学術会議の運営や会員選考に介入しようとする政府方針に対し、「強い決意をもって」再考を求めている同会議は27日、梶田隆章会長名で、広く国民に向けて学術会議の考えに理解を求めるための説明文書を公表しました。政府の方針には、学術会議の性格を根本的に変え、独立性を侵害しかねない深刻な問題があると指摘し、「方針」を批判しています。
「方針」は、来年の通常国会への改正法案提出を予定。会員選考への第三者委員会の関与など新たな仕組みを提起しています。
これに対して説明文書は、法改正を必要とする具体的な理由(立法事実)が示されないまま既定路線とされていることに強い危惧を表明。
第三者委員会の権限や委員の構成などが示されておらず、
▽学問の独立性を保つために世界のアカデミーが採用する現行の会員選考方式を放棄することになりかねない
▽首相による透明性を欠いた任命拒否に道が開かれ、繰り返されかねない
▽すでに進んでいる、現行法のもとでの会員選考が覆されることになり、それ自体、会員選考への重大な介入となる
―と指摘しています。
政府と「問題意識や時間軸」を共有することを強く求める「方針」に対し、学術には政治や経済とは異なる役割があることを強調し、「方針」を批判しています。
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学術会議の説明文書 要旨
日本学術会議が27日に公表した説明文書の要旨は以下の通り。(全文は日本学術会議のホームページで読めます)
本会議は政府方針について6点の懸念事項を指摘しており、それについて詳しく説明する。
①「方針」も内開府の説明も、法改正を必要とする具体的な理由(立法事実)に触れていない。法改正を行う場合、合理的根拠となる立法事実の提示が必要で政府は説明責任を負う。立法事実が示されないまま、法改正が既定とされることに強い危惧をいだく。
②現在の会員が主体となって、「優れた研究または業績のある科学者」の中から新会員を選ぶ選考方法(コオプテーション方式)は世界のアカデミーに共通したもので、本会議が独立して職務を行う大前提である。「方針」で示された会員選考に関する第三者委員会の設置は、その権限や拘束力によっては会員選考における本会議の独立性を損なう。
独立性が重要なのは、学術が政治や経済などと異なる学術固有の価値基準で行動することで、政策決定や学術の発展、人類の福祉に貢献することを目的とするからである。独立性が損なわれれば結果的に国民や人類の福利に影響する。
コオプテーションの本旨に立ち返り第三者委員会の設置方針自体が見直されるべきだ。内閣府は「方針」策定にあたり国費で各国のナショナル・アカデミーのあり方を調査している。調査結果を公表し、諸外国の事例が参照されるべきである。
③政府は理由も示さず6人の会員の任命拒否を続けている。透明性を欠いた任命拒否が繰り返されないことは、本会議の独立性にとり根幹となる条件である。「方針」では会員選考過程で第三者委員会の意見の尊重義務が想定されている。そうなれば、それを理由に任命権者(首相)が任命を拒否する道が開かれ任命拒否が「正統化」され繰り返されることに強い危惧を抱く。
仮に会員定数を上回る候補者から首相が任命することになれば、首相の政治的判断で選別することとなる。
④本会議がすでに、現行法の下で説明責任を果たしつつ、新たな方式による会員選考を進めているにもかかわらず、「方針」が現会員の任期を延長し改定法の下で新会員選考を行うとしていることに驚きを禁じ得ない。
本会議は現行法の下で会員選考を行う責務を負っているが、法改正されれば、避考結果が覆されることになる。それ自体が、会員選考への重大な介入になりうるもので、本会議の職務の遂行に深刻な影響を与える。
政府の判断で一方的に任期を変更することはご都合主義との非難を免れない。
⑤現行の3部制に代えて4部制が唐突に提案された。これは学問体系に即した内発的論理によらない政治的・行政的判断による組織編成の提案である。本会議の構成を変える可能性自体は否定されないが、学術コミュニティーを代表する機関として、どのような組織構成をとるかは自律的に判断するもので政府や外部諸団体が決めることではない。本会議の独立性の根幹にかかわり、政治や行政側から一方的に組織改変を行うような法改正は独立性を大きく損なう。
⑥「方針」では、「政府等と問題意識や時間軸を共用」することが再三言及されているが、それには建設的な対話ができる環境が必要である。
学術には一国に限定されない普遍的な価値と真理の追求という独自の役割があり、一国の利害に左右されず知の探究を通じて人類全体に奉仕する意味が含まれる。
政策決定における重要な学術的知見は、政府と問題意識を共有しないところからも得られる。中長期的観点から物事を考える学術と短期的な判断を迫られる政治的意思決定の間で時間軸を共有できない場面があるのは当然である。政府とは異なる「問題意識や時間軸」で課題を提起し社会に問うことも学術の役割であると強調したい。