2023年3月31日金曜日

南シナ海での米軍の中国威嚇軍事作戦はすでに色褪せている

 米国が世界中の海で行っている公海航行自由原則 維持のための作戦(FONOP)」として行っている軍艦の巡航は一応正当な行為かも知れませんが、決して穏やかなものとは言えず、特に西沙諸島周辺は中国が領海と主張しているところなので当然軍事的威圧ということになります。

 南沙諸島、西沙諸島周辺を含む幅広い区域が中国の領海であるという主張には無理がありますが、14年に中国が南沙諸島の近傍に建設を始めた人工島は既に7島に達しました。さすがの米国も拱手傍観するしかなかったという実態があります。
 軍事社会学者の北村 淳氏が、「茶番劇の対中威嚇軍事作戦、すでに色褪せている南シナ海での米軍『FONOP』」というやや辛辣な記事を出しました。
 事ごとに中国に因縁をつけて批判の対象にしている米国ですが、開き直った中国は別に脅威を感じることもなく、南沙諸島人工島や西沙諸島の軍備を増強し続けています
 それは国際法違反であるにしても、国際法違反という点では米国も決して引けを取らないので、絶対的基準であるとも言えません。まして片方の不正には目を瞑り、他方の不正をひたすら責めるというのは通用しません。
 岸田首相も「米国に従ってさえいれば間違いない」という狭い考えに拘るのは国を誤る道であることに早く気付くべきです。
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茶番劇の対中威嚇軍事作戦、すでに色褪せている南シナ海での米軍「FONOP」
                          北村 淳 JBpress 2023.3.30
                             軍事社会学者
 2023年3月23日(中国時間)、中国軍当局は「西沙諸島周辺の中国領海に違法に侵入し周辺海域の安全と安定を脅かした米海軍駆逐艦を中国海軍艦艇と航空機が追跡し、警告を発し追い払った」と発表した。
 これに対して米軍当局は「米海軍艦艇と航空機は常に国際法を遵守しており、今回の事案に関しても通常の任務を遂行していたに過ぎず、中国軍に追い払われた事実などない」と反論した。

FONOPを世界中の海で実施
 中国側が西沙諸島海域から追い払ったと主張しているアメリカ軍艦は、横須賀を本拠地にしているアメリカ海軍第7艦隊所属のミサイル駆逐艦ミリアスである。
 米海軍当局によると、ミリアスは海上自衛隊ミサイル駆逐艦と訓練を実施した後、南シナ海での「FONOP」(「公海航行自由原則維持のための作戦」)に向かい、まずは西沙諸島に向かった。西沙諸島は中国とベトナムと台湾が領有権紛争中であるが、現在は完全に中国が実効支配を続けている。ミリアスは西沙諸島周辺海域で中国側との接触があった後、予定通りに西沙諸島を離れ(中国側によると追い払われ)、現在、南シナ海でのFONOPを継続中という状況だ。
 アメリカが軍艦(まれに航空機)を派遣して実施しているFONOPは、南シナ海においてだけではなく、中国に対してだけでもない。世界中の海で、海洋法の原則に著しく反する主張に対して警告を発するために実施している。
 例えば日本に対しても、対馬周辺海域の領海基線の設定方法に関して警告を発するため毎年1回、アメリカ軍艦によるFONOPが実施されている。この他にも多くの国々に対して、国際海洋法上疑義(あくまでアメリカによる)のある状態に警告を発するために実施し続けている外交的示威活動がFONOPである。

中国に対する軍事的威嚇が目的
 ただし、オバマ政権以来南シナ海で実施しているFONOPは、数多くの国々に対して実施しているFONOPと類似した名目を表面的には掲げているものの、実質的には中国に対する軍事的威嚇を目的とした軍事作戦ということができる。
 例えば今回の西沙諸島におけるFONOPでも、米海軍当局によると「西沙諸島における中国による領海基線の策定方法は国際海洋法の原則を逸脱するものである」という名目を掲げている。しかし、西沙諸島を長年にわたって実効支配している中国が西沙諸島の軍備をますます強化し、ほぼ完全に周辺海域の軍事的支配権を手中に収めている状況に対する威嚇という姿勢は誰の眼にも明らかである。
 そもそも、中国の南シナ海や東シナ海への海洋侵出政策の進展と中国海洋戦力の著しい強化状況に警戒感を強くしたアメリカ海軍の対中強硬派などは、「中国の覇権主義的海洋拡大に具体的な警告と牽制を加えなければ、これまで長年にわたってアメリカが南シナ海や東シナ海そして西太平洋で維持してきた軍事的優勢が中国の手に移ってしまう」との危機感をオバマ政権に対して発し続けてきた。ところが、対中融和路線を維持していたオバマ政権は、海軍などの対中警戒論には耳を貸そうとはしなかった
 すると、中国は2014年春ごろから南沙諸島で人工島を建設し始め(本コラム2014年6月26日)、あっという間に7つもの人工島を誕生させ(本コラム2015年3月12日)、2015年4月には軍用機の発着が可能な本格的航空施設まで姿を表し始めた(本コラム2015年4月23日)。
 さすがのオバマ政権も対中強硬派の警告を完全に無視するわけにはいかなくなり、2015年10月から南沙諸島と西沙諸島でのFONOPを開始した(本コラム2015年11月5日)。
 つまり、南シナ海でのFONOPは、明らかに中国による軍事的覇権の確立を牽制するための軍事的対抗措置としてスタートしたのである。

バイデン政権の強硬姿勢はポーズだけ
 米海軍対中強硬派によると、FONOPは執拗なほど繰り返して実施しなければ警告や威嚇の効果は望めず、少なくとも月に2回以上は展開する必要があるという。だがオバマ政権下においては、そうした主張は顧みられることなく、申し訳程度に実施されただけであった(本コラム2016年5月19日、同9月29日、同10月27日など)。
 トランプ政権も当初は北朝鮮の核開発を中国の力によって抑制しようと考えたため、中国に対して強硬姿勢を取らなかったが、やがて対中強硬路線をアメリカの国防政策の筆頭に掲げるようになってからは、南シナ海でのFONOPをオバマ時代よりも頻繁に実施するようになった。とはいっても、月2回にははるかに及ばず、年に10回ほどのペースで実施されたのであった(本コラム2017年2月23日、2018年3月29日、同5月10日など)。
 バイデン政権になると、中国による対米強硬姿勢が露骨になってきたのに加えて、バイデン大統領自身も身内の中国マネーとの関わりを有耶無耶(うやむや)にするために対中強硬姿勢をますます強化した。しかしながら、強硬姿勢はあくまで姿勢だけに留まっており、海軍などの対中強硬派から見れば口先のポーズに過ぎないということになる。
 実際に、極めて効果が薄いものの、最低限の対中牽制姿勢と“アメリカのやる気”を示すためにオバマ政権、トランプ政権が断続的に続けてきた南シナ海でのFONOPも、“より一層の対中強硬姿勢”を掲げるバイデン政権下では年に5回のペースでしか実施されていないのが現状である(本コラム2020年5月7日、同8月20日など)。

南シナ海における軍事バランスの現状
 このように米海軍による南シナ海でのFONOPは、中国側もアメリカ側も“茶番劇にすぎない”ということを百も承知のうえで続けられている。
 中国当局は、アメリカのFONOPに対して中国の主権に脅威を加えているとお決まりの抗議を繰り返しているものの、実際のところは何らの脅威も感じておらず、誰に気兼ねすることなく南沙諸島人工島や西沙諸島の軍備をますます増強し続けている
 要するに、アメリカによる対中FONOPは、第2次世界大戦で日本を打ち破って以降、東シナ海、南シナ海、西太平洋の軍事的覇権をアメリカが手にしてきたという、すでに過去のものとなりつつある“栄光の歴史”を維持し続けたいというアメリカの願望の表明のようなものにすぎない。
 中国海洋戦力とアメリカ海洋戦力の現状を冷静に比較分析すれば、南沙諸島や西沙諸島から中国軍事施設を撤去させて“更地”に戻させることなど、アメリカ自身も可能であるとは思っていない。そのような状態に戻させるには、核戦争への発展の恐れが高い米中戦争に勝利するしか手はない状態に立ち至っているというのが、南シナ海における軍事バランスの現状である。