劣化ウラン弾の危険性については27日付の長周新聞が記事を出しましたが、「世に倦む日々」も28日付で「劣化ウラン弾の健康被害を『私は知らない』と言った小泉悠 - マスコミの卑劣な正当化工作」という記事を出しました。
劣化ウラン弾の放射能による健康被害と化学的毒性による健康被害が述べられていて、特に米国が2回の戦争でふんだんに使用したためにイラクで起きた被害は、「地獄絵」であると述べています。
それなのに日本政府や政府系機関関係者は、口を揃えて劣化ウラン弾による被害は知らないし、ないはずだと述べメディアも報じません。米国ではイラクでの劣化ウラン弾による放射線被害はタブーになっているようなのでそれを忖度してのことなのでしょう。米国の意向が絡む問題では、日本でも「真実は真実」という当たり前が通用しないようになっています。
尤も2007年に劣化ウラン弾の使用禁止を決議したEU議会も、何故か英国がウクライナにそれを供与することに対して沈黙を守っています。西側諸国の米英国に対する忖度もまた見事なものです。「世に倦む日々」の記事を紹介します。
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劣化ウラン弾の健康被害を「私は知らない」と言った小泉悠 - マスコミの卑劣な正当化工作
世に倦む日日 2023年3月28日
英国政府がウクライナに劣化ウラン弾を供与すると発表。3月22日のTBS報道1930と翌23日の報ステに小泉悠が登場して解説し、劣化ウラン弾は多くの国が使用している通常兵器だと発言した。劣化ウラン弾の健康被害について「噂はされているが私は知らない」と言い、「ロシア軍も今回の戦争で使っていると思う」と言った。きわめて無責任な発言であり、批判するツイートを上げたところ、大きな反響があり、小泉悠に対する非難轟々のネット世論が盛り上がっている。劣化ウラン弾の毒性や非人道性を否定あるいは過小評価し、その使用や供与を正当化する言説工作は、高橋杉雄もNHKやフジで精力的に行っている。が、NHKは23日のオンエアではその部分を流さなかった(ネット記事では削除していない)。
劣化ウラン弾というと、何と言ってもイラクの子どもたちの被曝被害の地獄図であり、見るに堪えない残酷で胸が痛む写真群が想起される。20日に放送されたNHK国際報道でも、油井秀樹がイラク現地を取材、右腕に大きな骨肉腫ができ、がんが肺にも転移し、ステージ4の状態となった9歳の女の子が抗がん剤治療を受ける姿を放送していた。イラク政府環境省の医系技官が出演し、米軍の劣化ウラン弾によって地域が汚染され、がんが大量発生していると説明した。20年前、イラク戦争が始まった当時、森住卓の『イラクの子どもたち』の写真集が評判となり、多くの者がこの問題に注目、日本のマスコミでも何度も取り上げられた。劣化ウラン弾の健康被害は常識の範疇である。小泉悠の「噂はあるが私は知らない」は言語道断で許せないものだ。
森住卓の写真集は、湾岸戦争(1990年)時に米軍がイラクで使用した劣化ウラン弾の影響による発がん被害を告発した作品で、私はてっきり、批判を浴びたアメリカはイラク戦争(2003年)では劣化ウラン弾の使用を停止したものとばかり思い込んでいた。ところが、国際社会からの糾弾や警告にもかかわらず、その後もずっと使用を続けていたのだと知って愕然とさせられる。英語版Wiki を見ると、劣化ウラン弾についての詳細な情報が載っていて、問題のほぼ全体像を窺い知ることができる。簡単に言えば、劣化ウラン弾の毒性については科学的に証明済みで明解なのだ。だが、その人体への影響については、NATOが認めてないのであり、軍がこの武器を必需と考えていて、そのため健康被害の認識が公的に確立せず、禁止に至ってないのである。認めればアメリカの戦争犯罪が浮上するという問題もあるのだろう。
この問題で重要な事実を紹介したいが、まずEU議会は、劣化ウラン弾の使用の即時停止を求める決議を採択している。検索したら簡単に原文が見つかった。2008年の「劣化ウラン兵器に関する欧州議会決議」において "Urges Member States to avoid to the greatest possible extent the use of depleted uranium weapons ...." と明記している。この決議に先立つ5年前の2003年に「不発弾(地雷とクラスター爆弾)と劣化ウラン弾の悪影響に関する欧州議会決議」を上げていて、EU議会とその周辺がこの問題に真剣に取り組んだ経緯が了解できる。このEU議会決議事実は、劣化ウラン弾をめぐる政治的価値判断において決定的となる要素だが、日本語版Wiki には記載がない。英語版にはある。日本語版を編集した者が親米右翼で、故意に省略(隠蔽)したのだろう。卑劣だ。
小泉悠や高橋杉雄は、また東野篤子は、このEU議会決議案の存在を知らないのだろうか。EU議会が決議を上げるのとほぼ同時に、ベルギーが世界で最初に劣化ウラン弾禁止国となった。こうした欧州の動きを推進する主力となった団体が「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(International Coalition to Ban Uranium Weapons)で、2003年に設立されて以降、 IPPNW (核戦争防止国際医師会議)やIALANA(国際反核法律家協会)などに支援されて活発に運動を展開し、世論やマスコミに働きかけるエバンジェリズム(⇒福音伝道)を行ってきた。そのICBUWが、3月20日、英国政府の発表と同時に、劣化ウラン弾のウクライナ供与を非難する声明を発している。日本のマスコミは全く紹介してないが、これこそ被爆国日本の報道で伝えるべき情報だろうし、その紹介こそが放送法の政治的公平の担保だろう。
ICBUWの声明から少し遅れたが、24日には広島の被爆者7団体が会見して声明を発表し、「劣化ウラン弾は非人道兵器であり、被爆者として許すことが出来ない」と抗議した。県被団協理事長の佐久間邦彦は、「劣化ウラン弾は即刻廃止すべきで、イギリスの行為は許されない」と言っている。広島の被爆者の発信は意味が重い。世界的に影響力がある。ぜひ、アルジャジーラなどの報道機関が世界に配信し、反対の世論を大きくしてもらいたいと思う。それからまた、広島市はHPの中で劣化ウラン弾について説明していて、「劣化ウラン弾が目標物に当たると爆発し、霧のようになった劣化ウランの細かい粒子が空中に飛散します。これを吸い込むと、化学的毒性により腎臓などを損傷するとともに癌などの放射線障害を引き起こします」とある。常識ではあるが、このHPの存在も大きい。小泉悠や高橋杉雄のコメント内容とは全く違う。
小泉悠や高橋杉雄の話を聞いて想起するのは、NHKスペシャルで2年前に放送された『原爆初動調査 隠された真実』である。この番組は素晴らしかった。終戦直後の広島と長崎でアメリカと日本の科学者が原爆の放射線が人体に及ぼす影響を調査、住民が暮す集落に自然界の百倍以上の残留放射線を計測しながら、アメリカ軍は「人体への影響は無視できる」と報告書で結論した。NHKは原爆初動調査の資料を入手、秘密報告書の中には「この地に残る放射性物質に人がさらされ続けると、危険を伴う可能性がある。動物の場合、全身に被ばくした後に白血病が進行する可能性がある。人間がどうなるか特に興味深い」と書かれていた。が、当時、アメリカ政府はこの事実を隠蔽、調査に携わった科学者たちに圧力をかけ、放射線被曝の人体への影響も、残留放射線の事実もないものにした。
番組は、文書やデータをすべて破棄しろと軍の上官に指示された調査研究員の証言を明らかにしていた。圧力をかけたトップはマンハッタン計画の責任者のグローブズである。理由は、占領した日本に米軍兵士を駐留させる上で、山通放射線と放射線被曝の事実が明らかになると、アメリカの議会と世論から反発が上がるからだった。アメリカは、原爆の放射線が人体に恐ろしい悪影響を及ぼす事実を知りながら、それを隠し、被害の実態を調べる科学的調査を続けて狡猾にデータを採取している。広島と長崎の被爆者をモルモットにした。1947年に始まったABCC調査も同じで、治療は行わず、身体的遺伝的影響を調べるために被爆者と新生児を広範に調査した。冷戦下の核戦略に利用するためだった。日本人はモルモット代わりにされ、原爆の威力を検証する実験台にされた。
アメリカはまだ同じことをしている。劣化ウラン弾について「人体に影響はない」と言い、劣化ウラン兵器の使用を正当化している。驚くのは、議会で禁止決議を上げたEUが、劣化ウラン弾のウクライナへの供与を黙認し、何も抵抗を示さないことだ。それ以上に驚き憤るのは、被爆国日本の専門家が、テレビで「人体への影響は分からない」だの「人体への影響はほとんどない」などと堂々と言い、劣化ウラン弾のウクライナへの供与と実戦使用を正当化している点である。そして、それを公共のテレビ放送で言わせている番組キャスターとテレビ局だ。ネットに上がっている22日の報道1930の動画をよく確認してもらいたい。松原耕二が劣化ウラン弾の健康被害に関するクリティカルな部分について小泉悠にコメントを向け、「にゃあるほど」と含みのあるトーンで相槌を打っている。
小泉悠に対して、恰も、上手に正当化と合理化の表現をしろよと背中を押しているかの如く聞こえる。視聴者に対して、これまでTBSは劣化ウラン弾について非人道兵器として批判する報道をしてきましたが、これからは意味転換して「無害な」通常兵器の扱いで報道しますよと、そう示唆している。