あの安倍晋三元首相でさえも実際に改憲の発議をすることには一定の躊躇を示したようですが、岸田首相には何故かそうしたものが全く見られません。そもそも首相が改憲を叫ぶことは憲法違反の所業であるにもかかわらずにです。一般常識が通用しない人間のようです。
岸田首相は2月26日の自民党大会で、最大限に安倍元首相を礼賛したうえで改憲については、「時代は憲法の早期改正を求めている」「憲法改正4項目はいずれも先送りできない課題ばかり」「野党の力も借り、国会での議論を一層、積極的に行う」と述べました。
何故首相になるまでは改憲に抑制的だった筈の人間がこんなに変わってしまったのでしょうか。もしも「初めて改憲を行った首相」という虚名を欲してのことであれば、これ以上浅はかで貧しいことはありません。「戦後最大の右翼反動」の汚名を残すだけのことです。
日刊ゲンダイに「それでもバカとは戦え」を連載している適菜 収氏が、「主語をごまかす岸田首相はおごりを捨てよ!『時代は憲法の早期改正を求めている』の支離滅裂」とする記事を出しました。
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「それでもバカとは戦え」適菜収
主語をごまかす岸田首相はおごりを捨てよ!「時代は憲法の早期改正を求めている」の支離滅裂
日刊ゲンダイ 2023/03/04
上司には全力で媚びへつらい、上司からの命令をそのまま部下に押し付けるだけで、あたかも自分がなにかを成し遂げたかのような気分になっている中間管理職の男をイラストにしたら岸田文雄のような顔になるのではないか。
2月26日、東京都内のホテルで自民党大会が開催され、約1200人が参加した。会場では安倍晋三の映像が流され、岸田は演説で安倍を礼賛。
<本日の党大会と昨年の党大会を比べるとき、失ったものの大きさを実感せざるを得ません>
<安倍元総裁の下、「日本を取り戻す」。そう固く誓って、当時の民主党政権から、政権の座を奪還したのは今から10年前のことです。そこから、この10年。安倍元総理の強力なリーダーシップの下、多くの仲間とともに、日本の未来を切り拓くために、死力を尽くしてきました>
<今こそ、安倍元総理、そして菅前総理が築いてこられた「前進の10年」の成果の礎の上に、「次の10年」を創るため、新たな一歩を踏み出すときです>
安倍派に媚びを売り、10年前の民主党政権に難癖をつけることでネトウヨにアピールし、しまいには「時代は憲法の早期改正を求めている」と支離滅裂なことを言い出した。
時代って何?
「日本会議が求めている」「統一教会(現・世界平和統一家庭連合)が求めている」「アメリカが求めている」と言うなら日本語としては意味が通る。要するにヘタレだから主語をごまかす。アメリカに武器を押し付けられても、主体的な判断により購入したかのように振る舞う姿が絶望的に気持ち悪い。
「前進の10年」どころか後退を続けてきたこの10年。臭いものにはすべて蓋。岸田は防衛力強化の財源論や自民党と統一教会のずぶずぶの関係など都合が悪いことには一切触れなかった。
岸田は「政権奪還の原点」に立ち戻ると言う。
<それは、おごりを捨て、虚心坦懐に、徹底的に国民の声に向き合うことです。改めて、「政治は国民のもの」──この立党の精神に立ち返り、真摯に、地域の声、国民の声に耳を澄ませていこうではありませんか>
それなら言う。憲法改正は国会(立法府)が発議して国民が承認するものだ。行政府の長である岸田はおごりを捨てよ。
適菜収 作家
近著に「ニッポンを蝕む全体主義」「日本人は豚になる」「思想の免疫力」(評論家・中野剛志氏との対談)など、著書45冊以上。「適菜収のメールマガジン」も始動。詳細は適菜収のメールマガジンへ。本紙連載が書籍化「それでもバカとは戦え」好評発売中