高市氏の「大立ち回り」には今や迫力はなく、当人も次々と戦線を縮小していますが、行政文書が「捏造」乃至「不正確」だという点は死守しています。
それにしても安倍首相(当時)の意を受けたとはいえ、総務相として15年5月の総務委員会で「一つの番組でも放送法に抵触する場合がある」と答弁して政府の「統一見解」を誘導し、16年2月には放送局の電波停止にまで踏み込む発言をしたことは紛れもない事実です。
その一方で、高市氏が当初「解釈変更」について、「メディアが猛反発をするのでは」などと躊躇したのはむしろ「正常な反応」であり、逆に文書の作成者には高市氏を擁護する意図があったのではという印象すら受けます。
国会では些末な事柄に終始していて埒が明かない…というよりも彼女の不満の内容が一向に理解できません。一体どう書かれていれば高市氏は満足したのか、その辺を聞きたいものです。
NEWSポストセブンが、高市氏の更迭は霞が関が岸田首相に突きつけた「踏み絵」という趣旨の記事を出しました。
高市氏は昨年来 何故か増税反対路線を鮮明にしているため財務省にとっては大いに邪魔な存在=排除したい対象であり、官邸がその路線に乗って動いたのが今回の行政文書の暴露だという見方をしています。
ここで「官邸」とは木原誠二・官房副長官を中心とするメンバーのことで、どうも岸田氏は員数に入っていないようです。正に首相の「孤立」であって前代未聞のことです。
⇒(3月11日)「岸田《人間不信》政権」のヤバすぎる実態(現代ビジネス)
岸田氏は元々財務省派と見られてきました。そうであれば高市氏を更迭するのは雑作のないことで、13日の週開け早々に実行するのではと見られていましたが、そうした展開にはなっていません。記事は、「岸田首相は増税に二の足を踏むようになった。財務省にすれば、それは話が違うということに…」と述べています。
岸田氏が彼女を更迭出来ないのは安倍派への配慮と思われますが、それでは財務省から見放される可能性もあり、そうなればいずれ退陣に追い込まれます。
いまや岸田氏は「前門の虎 後門の狼」状態というわけです。
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「総務省文書問題」高市早苗氏を追放したい霞が関 「更迭」は岸田首相に突きつけられた“踏み絵”
NEWSポストセブン 2023年3月20日
放送法に関する総務省の行政文書を巡り、高市早苗・経済安保相が連日国会で集中砲火を浴びている。だが、この問題は、高市氏1人で終わらない。岸田政権が吹っ飛ぶ“地雷”がいくつも埋まっているのだ。
官邸と霞が関が仕組んだ
総務省文書問題で高市氏は絶体絶命に見えるが、本当に追い込まれているのは高市氏を切れない岸田文雄・首相のほうだ。
誰が高市追い落としに動いているかを辿ると、その理由が見えてくる。安倍政権時代の放送圧力に絡む総務省内部文書の内容が国会で最初に追及された際、当時総務大臣だった高市氏は「捏造だ」と全否定し、事実なら大臣も議員も辞めると啖呵を切った。ところが、松本剛明・総務相が文書は本物だと認めて公表に踏み切り、そこから高市氏は不利な状況に陥った。官邸官僚の1人が明かす。
「役所が大臣レクの内容を記したメモを含めて行政文書を全部公表するのは異例な対応だった。たとえ国会で取り上げられた文書でも、役所が正式に公表する場合は発言部分に黒塗りを入れるが、今回はそれも一切しなかった。公表を決めたのは松本総務相だけの判断ではなく、官邸がゴーサインを出した。とくに官邸を仕切る木原誠二・官房副長官は防衛増税で公然と政権を批判した高市氏に思うところがあるようで、庇う必要は全くないという姿勢だ」
現職大臣が、官邸から撃たれたのだ。
政権内部には、高市氏を何としても“追放”したい勢力がある。岸田政権は発足以来、安倍路線を徐々に転換し、財政再建・増税路線を進めた。それに反発してきたのが高市氏だ。
岸田首相が麻生太郎・副総裁を最高顧問に据えて自民党内に総裁直属の財政健全化推進本部を設置すると、政調会長だった高市氏は直属の財政政策検討本部を作って対抗。また、昨年7月の参院選前には、経済政策の補正予算編成をめぐって高市氏は麻生氏や茂木敏充・幹事長と大バトルを演じ、与党協議から外された。岸田首相はそんな高市氏を昨年8月の内閣改造で入閣させて閣内に封じ込めたつもりだったが、抑えきれなかった。
昨年末の防衛財源をめぐって、高市氏が「罷免覚悟」で岸田首相の増税方針に公然と反対したことは記憶に新しい。自民党ベテラン議員は、「今国会で高市問題がにわかに浮上したのは仕組まれたからだ」と見る。
「官邸では木原官房副長官をはじめ財務官僚出身の総理の側近たちが、増税に反旗を翻した高市さんを邪魔だと思っている。文書問題で高市さんに不利な材料を出している松本総務相の親分は財務省のドンの麻生さん。松本氏自身も父の十郎氏(元防衛庁長官)が大蔵官僚出身だったから財務省にパイプがある。背後で、財務省と総務省という財政当局が、増税反対派の高市氏を追い落とそうと糸を引いている」
切らねば官僚を敵に回す
政治評論家の有馬晴海氏は、高市更迭は霞が関が岸田首相に突きつけた踏み絵だと見ている。
「岸田政権を支えてきたのは財務省です。財務省は岸田首相に年金生活世帯への5000円上乗せや生活困難世帯に対する物価対策の5万円支給の予算を認めたかわりに、防衛財源として所得税などの増税を決めさせ、少子化対策では消費税増税を進めさせようとした。ところが、ここに来て岸田首相は増税に二の足を踏むようになった。財務省にすれば、話が違う。
そこで、今回の文書問題を口実に首相に高市氏を更迭させ、安倍路線から完全に決別するように迫っている」
踏み絵は財政再建だけではない。
安倍政権時代の森友学園問題では、「私や妻が関係していたら総理も議員も辞める」と発言した当時の安倍晋三・首相を守るため財務省が泥をかぶり、大きな犠牲を払った。
政治ジャーナリスト・野上忠興氏は、高市氏を更迭しなければ、霞が関全体の反発を招くと言う。
「霞が関から見れば、安倍政治の手法は政治主導と言いながら人事で官僚を支配し、政権に不祥事があれば官僚に泥をかぶらせて切り捨てた。霞が関の官僚は、岸田総理はそんな政治を転換すると期待して支持している。しかし、ここで岸田首相がわざわざ安倍氏と同じ言い方で疑惑を否定した高市氏を擁護すれば、首相自身が総務省の文書の内容が間違いだと認めて役人に責任を負わせることになる。そうなれば、官僚は“岸田も安倍と同じだ”と見放して霞が関全体が敵に回るだろう」
霞が関を敵に回せば、政権はもたない。憲政史上最長の長期政権を誇った安倍氏でさえ、『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)の中で、財務省や自民党財政再建派議員たちからの増税圧力をかわすためには、解散・総選挙を打つしかなかったと語っていたほどだ。
安倍政権には岩盤保守層という強固な基盤があったが、岸田政権の基盤は霞が関だけだ。麻生氏や茂木氏、木原氏ら側近も岸田首相に霞が関の支持があることを前提に政権を支えている。野上氏は、官僚の支持を失えば岸田政権は終わりに向かうと予測する。
「岸田首相には霞が関に対抗する力はない。だから官僚を敵に回した途端に政権の屋台骨が揺らぎ、瓦解に向かう。それが見えた段階で、首相を支えている麻生氏や茂木氏、官邸の側近も政権に見切りをつけてポスト岸田に動き出すだろう」
側近からも霞が関からも高市氏を切れと迫られ、追い詰められているのはまさに岸田首相なのだ。
※週刊ポスト2023年3月31日号